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第7話 小さな賢者の新たな世界

いつも読んでくださってありがとうございます!

昨日分の投稿が深夜になってしまいました。

本日からはまた通常時間に戻りますので、よろしくお願いします!

第7話では、ノヴァが二歳の誕生日を迎え、知識と魔法への探求心をさらに深めていきます。

旅の魔法使いとの出会い、新たな魔法の常識との遭遇、そして――家族に訪れる嬉しい知らせ。

少しずつ広がっていく「世界」と「人との縁」に、ノヴァの内面も静かに変化していきます。

幼いながらも深く考え、学び、未来を見据える彼の姿を、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。

 ミルウェン王国、国境の村ステラ。その中心にある宿屋『星導庵』の二階から、ノヴァは好奇心に満ちた瞳で外を眺めていた。


この世界に生を受けてから二年。彼の視界は広がり、世界の奥行きを知るにつれて、その知的好奇心はますます深まっていた。言葉は流暢になり、大人の話にも臆することなく加わる。


周囲は彼を「天から愛された子」と評するが、ノヴァ自身は、前世の記憶があることから、己の異質さを明確に自覚していた。


 宿には様々な国の商人や旅人が行き交い、常に新しい情報が飛び交っていた。


ノヴァは客たちの噂話に耳をそばだて、この地域の領主であるヴァルター男爵の評判が芳しくないことを知る。


「なぁ、聞いたか? ヴァルター男爵様が、また新しい趣味のために、村の徴税を増やそうとしているらしいぞ」


「ああ、困ったもんだ。去年の不作の時も、何の支援もなかったくせに……。あれでは、村の皆が疲弊するばかりだ」


 ヴァルター男爵は、直接的な悪政を敷いているわけではないが、領民の生活には無関心で、自身の贅沢のために村から搾取を続けているという。


このステラ村が国境近くにあるという事実と、領主の無関心さ。ノヴァは、もしこの村に何かあったとして、噂の男爵がどれだけ力になるか、漠然とした不安を感じ始めていた。


 ある晴れた日の午後、宿の食堂でノヴァは旅の魔法使いのアルスと出会った。アルスは最近宿に長期滞在している老人で、いつも分厚い古文書を読み耽っている。


ノヴァが宿にある数少ない歴史書を読み漁っていると、アルスが興味深そうに声をかけてきた。


「ほぅ、そこの坊主。随分と難しい本を読んでいるな」


 アルスの視線は、ノヴァが抱える『ミルウェン王国の古代史』に注がれていた。


「これは、この世界の魔術の起源について書かれているようで、とても興味深いです」


 ノヴァが淀みない口調で答えると、アルスは驚いて目を見開いた。


「なに? その歳で、これほどの文章を読み解くのか? 驚きじゃのぉ、しかも魔術の起源に興味があるとは……少し普通の童ではないのぉ。よし少し教えてやろう!」


 アルスはノヴァの隣に腰を下ろすと、まるで古い友人と話すかのように語り始めた。


「この世界ではな、魔法は大きく生活魔法と術式魔法に分けられとる。皆が明かりを灯したり、火をつけたりする魔法は生活魔法と言われておる。日々の暮らしを便利にするためのものだ。一方普通の人間にはあまり詳しく知られていないが、人同士の戦いや魔物との戦いに用いられる術式魔法は、より複雑で習得も危険を伴うものじゃ。ここまではわかるかのぉ?」


 ノヴァはうなずき返事をすると熱心に耳を傾けた。アルスは続けて、この世界の魔法の常識を語る。


「宜しい。魔法の使い手は通常2〜3属性が限界といわれておる。4属性使える者は『稀な才能』と称され、全属性を操れる者は1万人に1人いるかいないかという、まさに伝説級の存在とされている。そして、一般的に習得しやすい順は光・火・土・風・水の順だとされておるが。水属性は使い手が少なく、希少とされている。それは癒しの力を使うゆえ魔法を使える様になるには人を思いやる優しい心が必要だと言われている。」


 話を聞くにアルスは魔塔とやらに所属しているわけではないらしい。がその言葉の端々から魔塔がこの国の魔法の中枢を担っており、強力な術式魔法はそこで研究・管理されていること、そして全属性を使える魔法使いを特に重視していることなどが窺えた。


(魔塔か。爺さんの教えてくれる情報は俺がこれまでに得た情報と矛盾はしない。そして、今まで読んだ中にはない水属性の情報。この爺さん、魔塔との直接の接点はないと言っていたが、その知識はかなりのもののようだ。)


 アルスとの出会いが、自身の魔法の探求を大きく加速させることを直感したノヴァは、アルスとの交流を深めようと決意する。


「もっと魔法のことを知りたいです。アルスさんの都合のいい時で結構ですので、いろいろ話を聞かせてください」


「ホホホ、坊主。名は何というのかのぉ。」


 どうやら老人は前向きに考えてくれる様だ。


「ノヴァと言います。この旅館の店主の息子です。」


「いつまでもと言うのは無理じゃが、ここに逗留する間は暇があればまた話すとしようかの?」


 そう言うと老人は自分の部屋へ戻って行った。


(この爺さん、魔塔の関係者じゃないって言ってたけど、こんなに詳しいって……何者なんだ?)


 その日の夜も魔法の練習は密かに継続していた。光属性の「ルーメン」は完璧に制御できるようになり、壁に影絵を映し出す「投影プロイエクト」も自在に操れるようになっていた。


火属性の「ルクシオ」も、指先から安定した炎を出し、そして瞬時に消すこともできる。これで彼は光と火の二属性を自在に操れることを確認できたのだ。


(よし、これで2属性の魔法を使用できるようになった。次は……土属性だな。)


 しかし自分の周りには土魔法を使える人間は見当たらない。その日からノヴァは、土属性の魔法を習得する方法を探る。


 そんなある日の午後、ノヴァは台所で料理をしていた母親が、手のひらから水を出しその水を使って野菜を洗っているのを目撃し、ノヴァは目を丸くした。


 母の手のひらから、霧のように水があふれ出し、野菜にやさしく降り注いでいた。水はまるで意志を持つかのように、ちょうど良い量で止まる。


 アルスから水属性の魔法が稀少であると聞いたばかりだったため、ノヴァは目を輝かせた。


「ママ、いまのお水、どこから?」


 母親は笑顔で答える。「あら、ノヴァ。これは魔法よ。お母さんの得意な水魔法」


(なるほど、やはり母さんは水属性の使い手だったか。しかも、こんなに自然に……。アルスの話によれば、水属性は一般的に習得しにくい属性。それを生活魔法とはいえ日常的に使いこなしているとは、母さんも只者ではないな。)


 ノヴァの好奇心は尽きない。母親が火を使った後、その火を指先から出した水で、いとも簡単に消し去る様子も観察した。


「すごい! ママ、火、消した!」


 母親は微笑んでノヴァの頭を撫でた。


 「ええ、こうすれば、火事にならないでしょう?」


(水魔法は、俺が火魔法を消す方法として考えていた「水分子の投入」を、最も効率的に行える属性だ。いつか母さんに、水魔法のコツを教えてもらおう。そうすれば、火魔法の制御もさらに完璧になるはずだ。)


 新たな魔法習得への機会出現によりノヴァの好奇心はさらに膨らみ、知識と魔法の腕は誰にも知られることなく着実に向上していた。


アルスとの出会いは、彼の魔法への探求をより専門的なものにし、将来的な目標を明確にしつつあった。

 

 二度目の誕生日。宿の面々がノヴァのためにささやかながらも温かい祝いの席を設けてくれた。皆からのあたたかな気持ちが心に充満する。


そんな中、突然の知らせが舞い込んだ。


「奥さん、おめでただってよ!」


「もうすぐ、ノヴァ坊に弟か妹ができるんだね!」


 ノヴァは、その言葉を耳にすると驚きと戸惑いを覚え、そして少し妄想を膨らませ僅かに顔を赤らめた。そういえば最近母親の身体も、少しずつふっくらとしてきている。


出産までにはまだ数ヶ月あるようだが、家族の間に新しい風が吹くのを感じた。


 ロウソクの灯るケーキを前に、ノヴァは心の中で静かに誓いを立てた。


(この世界には、まだまだ知らないことがたくさんある。そして、俺はまだ、自分の足で自由に歩き、この世界の全てを探索できるほどの力と知識がない。必ずこの世界の全てを知り尽くしてやる。そして、その知識と力を、誰かのために使えるように……。)


 夜、両親が眠りについた後、ノヴァは月明かりの下、静かに決意を新たにした。彼の指先から、青白いルーメンの光が弱々しく輝き、彼の未来を静かに照らしていた。


(新たな家族が増えるのか……。まだ見ぬその存在が、俺の、この世界での生活をどう変えるのだろうか。そして、俺の魔法は、彼らのために、何ができるようになるだろうか?)


 小さな賢者の心に、新たな期待と、漠然とした責任感が芽生え始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ノヴァとアルスとの出会いは、今後の魔法編に大きな影響を与える重要な転機になりそうです。

そして物語は、ただ魔法や成長だけでなく、「家族」の温もりや絆も大切に描いていきたいと思っています。

次回は、いよいよ外の世界とノヴァの関係が、さらに動き出す予感……?

今後もどうぞ、よろしくお願いいたします!

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