第78話 継承者の使命
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今回は、ノヴァの血に宿る「天理の力」と王家の血筋に秘められた真実が明かされます。
かつてこの世界を救った転生者・加藤の手記――そこに記されたのは、命を懸けて紡がれた“理と心”の物語。
そして今、ノヴァたちは精霊郷で己の使命と向き合い、新たな修行へと踏み出します。
王女の血筋に秘められた真実に、レオンハルトとカイルは言葉を失った。その背後に、これほど深遠な歴史が隠されていたとは想像もしていなかったのだ。
「レオンハルト、カイルさん。もしかして、王女と面識が?」
ノヴァが尋ねると、二人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべてからレオンハルトが説明した。
「ああ。侯爵家の嫡男として、王女様とは幼い頃から交流があるからな。とても聡明で優しい方だ」
カイルが穏やかな声で言った。
「そうですね。それに王女様は神に愛されている、と噂されていました。花を植えるだけですぐに咲かせられるとか、動物と心を通わせる力があるとか……。まさか、それがノヴァさんの血筋と同じものだったなんて……」
レオンハルトは驚きを隠せない様子で呟いた。ノヴァは、自分の血筋が王家と深く結びついていることに衝撃を受けた。
「僕の母さん、エレノアにも自然と心を通わせる類まれな才があった。僕たちは母さんの能力を、ただ水の魔法に対する高い親和性だと思っていたけど……。もしかして母さんが持っていた心を通わせる才能は……」
ノヴァが静かに語ると、長老は微笑んだ。
「その通りだ。お前の母はこの地を訪れたリナリアの血を色濃く継いでいた。そしてお前は……加藤の『理』と、リナリアの『心』を両方とも受け継いでいる。それはこの世界を救うための、最も強力な組み合わせだ」
一行は長老に導かれ、精霊郷の大樹の近くへと進むと、そこには苔むした石碑と、その横に古びた石の箱が置かれていた。
「この箱は加藤がこの地に残したものだ。お前ならその中にあるものを読み解くことができるだろう」
長老の言葉に、ノヴァは胸の高鳴りを覚えながら箱を開けた。中には古びた羊皮紙の束と、一冊の手記が収められていた。それは以前入手した加藤の日記とは異なる記録が記された別の手記だった。
ノヴァは手記を手に取り、その内容を読み始める。そこには精霊郷へ来てからの事柄と、この世界に起きた災厄の真実が記されていた。
手記には、加藤が精霊郷でエルフ族や、精霊と心を通わせる人間族と協力し、『天理の術』を完成させていく過程が綴られていた。彼は「漢字」を魔術の概念に落とし込み、この時代の未発達な魔法を遥かに凌駕する技術を確立した。
『精霊たちは、この世界の元素そのものだ。彼らの心と対話し、力を借りる『天理の術』は使い手の心と自然、そして精霊が一体となることで、真の力が発揮される。魔術を唱える必要はなく、精霊に心で語り掛けることで、万物の事象に働きかけ、その魔法効率は現在の高度に発達した魔法と比較しても圧倒的に優れていた』
『リナリアと出会ってから、毎日が輝いていた。彼女は、理屈では説明できない精霊の心を理解し、そして俺の心にも寄り添ってくれた。共に過ごす日々は、故郷を離れた寂しさを忘れさせるほど、かけがえのないものだ。そして今、俺たちの間に小さな命が生まれた。この腕の中に抱く温もりは、この世界で得た何よりも尊い。俺は、この子とリナリアを守るためなら、どんなことだってできるだろう』
だが、幸福な日々は長くは続かなかった。
『この世の果てで異質な魔力が発生し、精霊たちの力を弱めている。精霊郷の大樹も変調を引き起こし“魔力の病”とでもいうべき状態になった。俺たちは皆で協力して原因と精霊郷の大樹の回復方法を模索した』
『どうやら原因は異質な魔力が根源だと掴んだ。異質な魔力は強大だった。あろうことか、その力はこの世界には存在しない魔物“魔族”を呼び寄せ、大いなる災厄がこの世界を襲った』
それから先の手記は、絶望的な戦いの様子を描写していた。加藤は、災厄の原因がこの世界の負の感情や悪意が実体化した『闇』ではないかと考察する。彼はこの闇を封印し消滅させるための付与魔術を構築し完成させるが、そのためには莫大な魔力が必要であり、自分の命を使うしかないことに気づき、苦悩していた。
『俺の命と引き換えに、この術を完成させる。リナリア……俺は、お前との約束を守れそうにない。俺の娘と、この世界をどうか守ってくれ』
手記の最後には、ノヴァに向けたメッセージが残されていた。
『いつか、俺と同じ故郷の転生者がこの手記を手にすることがあるだろう。俺の人生は愛する者と出会い、守るべきものを知ることができた、最高の人生だった。お前も転生後の人生を悔いのないように歩んでくれ』
ノヴァの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。彼の知らないところで、同郷の転生者であり、自らの先祖に当たる人間が命をかけてこの世界を守っていたのだ。
「加藤……あんた、”男”だぜ!」
ユーリが感動して大粒の涙を流しながら叫んだ。
「馬鹿!ここは感傷に浸る場面でしょうが!」
セレスティアがツッコミを入れるが、その目も少し潤んでいるように見えた。
「俺たちが倒した魔族も、過去に加藤さんたちが戦った相手だったんだ……」
カイルは歴史の重みに言葉を失っていた。手記を読み終えたノヴァは、長老を見つめる。長老はノヴァの胸に去来する想いを読み取ったかのように、静かに口を開いた。
「お前は加藤が命をかけて守ったこの世界を、今度は自分も守りたいと願っているようだな。その思い、しかと受け取った。お前は天理の術を継ぐ者として、その力を身につける使命がある」
ノヴァの決意に、長老は静かに頷いた。
「お前の覚悟、しかと受け取った。お前には加藤が残した『天理の術』の知識がすでに刻み込まれている。しかし、それを真に使いこなすには精霊の理を理解し、お前の魂と一体化させる必要がある。精神世界で修行するのだ。そこで10年ほど修練すれば精霊の理を理解できる」
「10年……!」
ノヴァは息をのんだ。いろいろな問題が彼の頭をよぎる。レオンハルトもさすがに顔をしかめて意見する。
「ノヴァ、今すぐ10年もの時間は割けないぞ。王国の“闇”の問題もあるし、ヴァルター男爵やクライン公爵家の件もある」
「長老様、さすがに今すぐは……」
ノヴァの言葉を遮るように長老は続けた。
「案ずるな。わしと同化し精神世界で修行する。お前の感覚では10年じゃが、現実世界では5日間くらいじゃな」
5日程度であれば問題はないとノヴァは思い、レオンハルトを見ると、レオンハルトは深くうなずいた。ノヴァの心に迷いはなかった。
「お願いします!」
ノヴァが長老に手を差し伸べると、長老の身体が光の粒子となり、ノヴァの身体へと吸い込まれていく。その瞬間、ノヴァは意識を失い、精神世界へと旅立った。残ったエルフの長老の一人がレオンハルトたちに話しかける。
「残られた方々にも、それぞれ精霊の声を聴く力があるようだ。我々は神霊の長老のような同化は無理じゃが、それでも属性同調で、ある程度は数年分の修行をつけることができるが、どうするかね?」
「俺たちも力を授けてもらえるのか?」
「ユーリ!馬鹿ね、修行をつけてくれるって言っているのよ!」
ユーリの不用意な発言に、セレスティアがツッコミを入れる。
「修行をしていただけるのはありがたい。よろしくお願いする」
レオンハルトが全員の意見をまとめて返事をし、長老たちからの申し入れに全員が快諾した。それぞれの特性に合わせてエルフの師匠に導かれ、精霊との融和の修練を始めた。
「ユーリ、お前の風は精霊たちにとって最も無邪気な風。まずは日々の鍛錬で体力を積み重ね、風と同じように縦横無尽に動き回れるようにならなければな!」
ユーリを指導することになったエルフは、光・風・火の精霊術を得意とする筋肉質な男性だった。
「セシリア、お前の繊細な魔力感知は、精霊の声を聞くのに最適です。心を澄ませ、彼らのささやきに耳を傾けなさい」
セシリアを指導することになったエルフは、火と土の精霊術を得意とする穏やかな顔立ちの女性だった。
「セレスティア、お前は炎の精霊に愛されているわ。だがその炎を制御し、愛し、導く術を身につけなさい。そうすればお前の魔力は、この世界の全てを温める光となるでしょう」
セレスティアを指導することになったエルフは、火の精霊術を得意とする燃えるような真っ赤な髪と瞳を持つ女性だった。
「カイル、お前の水と光は、精霊たちを癒す最高の魔法だ。その優しさを、彼らに伝えなさい」
カイルを指導することになったエルフは、水と光の精霊術を得意とする青い髪の優しげな男性だった。
「レオンハルト、お前は戦士と精霊術の両方の素質を持っている。その魂は、剣を振るうことで精霊たちに最も近づく。お前はこの地の理を護る者となるだろう」
レオンハルトはエルフの老人に導かれ、古びた剣を手に精霊と対峙した。精霊は光・風・水・土と入れ替わり、それぞれの理や動きをレオンハルトに伝えてくる。
「剣を振るうたびに、お前は精霊たちの存在を肌で感じている。お前の剣はこの世界のあらゆる理と繋がっているのだ」
レオンハルトは老人の言葉に静かに頷き、剣に宿る精霊の力を感じながら己の技を磨き始めた。
精霊郷の奥深くで、ノヴァと仲間たちは、それぞれの使命を果たすべく、修練の時間を過ごすのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
加藤とリナリアの絆、そして彼が命を賭して残した“天理の術”。
それを継ぐ者として、ノヴァは精神世界での修行へ――仲間たちもまた、それぞれの精霊と向き合い始めます。血と魂が繋がる“継承”の物語が、今、次なる段階へ。
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