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第76話 精霊郷の試練

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、ついにノヴァが仲間たちへ“真実”を語ります。彼の力の源、そして異世界から持ち込んだ科学の知識。その告白を経て、ノヴァは精霊郷の結界を越え、己の魂と向き合う試練へ――。過去と現在、二つの世界が重なり合う瞬間を、どうぞお楽しみください。

 精霊郷を覆う結界の前で、ノヴァは深呼吸をした。仲間たちに話すべきことがある。


「みんな、話したいことがあるんだ。僕はこの世界に生まれる前の記憶を持っている。皆も少しおかしいと思っていたんじゃないかと思うけど……その理由を、全部話すよ」


 ノヴァは、自分が異世界からの転生者であること、そして前世の記憶と知識をすべて持っていることを、改めて正直に打ち明けた。ユーリは子供の頃の遺跡探索で少し話を聞いていたが、ここまで細かくは聞いていなかったので興味津々だ。セシリアは驚きを隠せず、レオンハルトやカイルは静かに耳を傾ける。セレスティアは、ノヴァの並外れた才能がこの世界にない知識によるものだと知り、興奮した表情を見せた。


「へへっ、俺は子供の頃から知ってたけど、知らないやつが聞いたら変に思うだろうな。ま、俺も話さなかったしな……」


 ユーリが頭を掻きながら、ばつが悪そうに言った。ノヴァは微笑みながら、前世の故郷「日本」について語り始める。


「僕のいた世界には、魔法はなかった。でも代わりに『科学』というものがあったんだ。それはこの世界の魔法に似ていて、でも全く違うものだ」


「科学?」


 カイルが不思議そうに首を傾げる。


「うん。例えば、水とは何か? 水を熱すれば水蒸気になるが、その水蒸気はどうなるのか? そういう1つ1つを理解して理論化し、この世を構成している物質を解明していったんだ。僕の故郷には、子供から大人まで誰もが手のひらに収まるくらいの小さな板で、遠くにいる人と顔を見ながら話せる道具があった。文字を送ることも、いろんな情報を見つけることもできたんだ」


「それって、光の魔法で遠くの人の顔を映し出すようなものですか?」


 セシリアが目を丸くして尋ねる。


「そうだね。魔法で例えるなら、そんな感じだ。それに風魔法の伝達や光魔法を複合したイメージかな。他には、大きな鉄の塊が空を飛んで、人々を遠くへ運んだり……」


「それって、土魔法で本体を作り、風魔法で飛ばしているのかな? みんな魔法使いで、ダブルやトリプルの複合魔法が日常的に使われている感じ?」


 カイルが身を乗り出して叫んだ。ノヴァはそのリアクションに笑いを堪えながら、話を続ける。


「魔法使いはいないよ。それは全部、科学という『物理』と『論理』で動いていたんだ。なぜそんなものが飛ぶのか、なぜ遠くにいる人と話せるのか。その仕組みを徹底的に調べて理解し、道具を作った。僕が複合魔法を使えるのは、この科学的な考え方があるからなんだ」


「道理で俺に剣術を教えるときに、『物理』だとか『運動エネルギー』だとか、訳の分からない言葉で説明してきたわけだ」


 レオンハルトが納得したように頷く。


「そうなんです! レオンハルトの剣術は、慣性の法則や力のモーメントを応用しているんです!」


 ノヴァは興奮して説明し始めるが、レオンハルトは複雑な顔で頭を振った。


「ノヴァ、すまない。その話は……頭が痛くなるから、また今度にしてくれないか」


「うっ、そうですよね……」


 ノヴァはしょんぼり肩を落とすが、セレスティアが鋭い眼差しを向けてきた。


「じゃあ、あなたが使う特殊な付与魔法も、その『科学』とやらが関係しているのね?」


 ノヴァはセレスティアに向けて、頷きながら答える。


「そうだね。その概念は同じだけど、1つ違うのは、僕の前世で使っていた『漢字』に秘密があるんだ」


 ノヴァはルーン文字と漢字の違いについて、地面に文字を書きながら説明を始めた。


「この世界のルーン文字は、1つの文字に1つの意味が込められている。例えば、空を飛ぶことを表すルーン文字だと、『Sowilo』(ソウィロ)、『Ehwaz』(エーワズ)、『Raidho』(ライドー)の3つを組み合わせ、何文字も使って表現する。でも僕が使っていた『漢字』は、同じ魔法でもこの『飛行』という一文字で、複数の意味と概念を表現できる。漢字は込められる情報量が圧倒的に多い。そのため、少ない魔力で大きな効果を付与できるんだ」


 セレスティアは、目から鱗が落ちたというように、息をのんだ。セシリアは興奮した表情でノヴァに迫る。


「私に『漢字』を教えてちょうだい、ノヴァ。そうすれば、私はあなたに追いつけるわ!」


「セレスティア様の言う通りです。ノヴァさんが使う付与魔法は、この世界の魔法とは全く違う、未知の魔法だったんですね! ぜひ私も、その『科学』や『漢字』について学びたいです!」


 セシリアが、今にもノートを取り出してメモを始めそうな勢いでノヴァに迫る。


「ノヴァの強さの秘密は、この世界の魔術師が知り得ない『理屈』にある。それは、この世界の常識に縛られていないからだ」


 レオンハルトが、ノヴァの真の強さを見抜いたように言った。


「君が誰であろうと、君は我々の団長だ。そして、我々の大切な仲間だ。これからも、君のそばにいる」


 レオンハルトの言葉に、カイルが優しく頷く。


「そうですよ、ノヴァ。僕たちは強さの秘密を知っても、何も変わりません。むしろもっと心強いです!」


「へへっ、ま、なんだかよく分かんないけど、ノヴァがすごい奴だってことは前から知ってたからな! 俺はただノヴァと一緒に冒険ができるのが嬉しいだけだぜ!」


 ユーリが太陽のような笑顔でノヴァの背中を叩いた。仲間たちの温かい言葉に、ノヴァは感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。


「ありがとう、みんな。僕は今からもう一度この結果以内に入り精霊の試練を受けることになる。この試練を乗り越えれば、きっと付与魔法の謎も、僕の力もすべてが明らかになるはずだ」


 ノヴァは再び結界に手をかざす。今は一人ではない。背後には彼を信じ、支えるかけがえのない仲間たちがいる。彼らの存在が、ノヴァの心に新たな力を漲らせる。


 「僕は、この試練には必ず打ち勝ってみんなのもとに帰ってくるよ!」

 

 ノヴァは力強く宣言し、結界の中へと消えていった。結界をくぐり抜けたノヴァは、そこが森ではなく、無数の光の筋が流れる幻想的な空間であることに気づく。


「これは……?」


 戸惑うノヴァの前に、声が響いた。


「ここは、お前の魂の深淵。そして、お前の使命を司る『天理の術』を解放する場所だ」


 空間を埋め尽くす光の筋が、ノヴァの前世の記憶を具現化する。日本の風景、家族との思い出、そして科学の知識が、まるでホログラムのようにノヴァの周りを巡る。神霊はノヴァに問いかけた。


「お前の故郷の知識と、この世界の魔法を融合させよ。この空間に流れる『光の筋』を、お前の故郷の『電気信号』として捉え、制御してみせよ」


 ノヴァは、声の言葉をヒントに、光魔法と風魔法を応用する。光魔法で光の筋に干渉し、風魔法でその流れを操作する。


「光の波長を調整し、風で微細な振動を……!」


 ノヴァは、まるで前世のコンピューターの配線をつなげるかのように、光の筋を操り、複雑な図形や数式を空間に描き出した。これは彼の持つ「科学的思考」を魔法に適用する能力を試す最初の試練だった。


 次の瞬間、空間の色が変わり、ノヴァの前世の記憶がより鮮明な幻影となって現れた。それは彼が前世で経験した最も辛い記憶――心より信頼していた家族に裏切られた瞬間だった。


「この悲しみを、お前の力で克服せよ」


 精霊の声が響く。ノヴァは精神干渉魔法を自らに使い、このトラウマの幻影に立ち向かう。彼は幻影がただの幻覚であることを理解し、その悲しみを冷静に分析した。


「感情は脳の中を走る単なる信号にすぎない……! 光魔法で幻影を書き換え、風魔法で悲しみの感情を鎮める……!」


 ノヴァは、自分自身に複合魔法の精神干渉魔法を施し、悲しみを克服して幻影を消し去ることに成功する。これは彼の精神的な強さと、感情を客観的に捉える能力を試す試練だった。


 試練を乗り越えたノヴァの前に、加藤雄介の魂が光となって現れた。


(……よくぞ、ここまでたどり着いた)


 加藤は、自身の身体がこの世界の魔力に耐えきれず命を落としたこと、そして彼の研究の集大成である『天理の術』が未完成である理由をノヴァに伝える。


(私の術はこの世界の魔法に存在する『魔力干渉』を前提としていなかった。だがお前は違う。お前は故郷の知識を『この世界の魔力』に適用できる。それがお前の天賦の才能だ)


 加藤の魂は、ノヴァの身体に吸い込まれていく。その瞬間、ノヴァの身体には加藤が残した『天理の術』の知識と、彼の使命が刻み込まれた。ノヴァは意識を取り戻し、仲間たちの元に戻る。彼の身体は純粋な魔力で満ち溢れ、その輝きは以前とは比べ物にならないほど強かった。


「これが……僕の本当の力……!」


 ノヴァの身体から、純粋な魔力の波動が放たれる。その波動はまるで銀河のように輝き、結界全体を覆っていく。試練の中でノヴァは、自身の血筋に眠る「天理の術」を継承する一族の力が目覚め始めたことを感じていた。


「 今までにない魔力の流れを感じる。その力は……。前世の知識とこの世界の魔法が完全に融合した……『天理の術』だ」


 ノヴァがそう呟くと、精霊郷を覆っていた結界の一部が光の粒子となって消滅する。精霊郷への道が開かれたのだ。ノヴァは、新たな力を手にし、仲間たちと共に、精霊郷の奥へと足を踏み入れた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

精霊の試練を通じ、ノヴァは前世の自分・加藤雄介の魂と再会し、「天理の術」を継承しました。

科学と魔法、理と感情――相反する二つを統べる力を得たノヴァ。

それは彼が“真の意味でこの世界に生きる者”となった証でもあります。次回、精霊郷の奥で待つ新たな出会いと啓示をお楽しみに。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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