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第70話 ルーン文字が導く新たな冒険

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、研究に行き詰まるノヴァたちの前に現れた新たな道――古代のルーン文字が物語の鍵となります。仲間たちと共に模索する付与魔法の進化、その先に待つのは未知の地・ヴェルデン精霊郷。彼らの研究は次なる冒険へと繋がっていきます。どうぞお楽しみください。

 星辰魔導騎士団の拠点となった王立魔術学院の一室は、今やすっかりノヴァたちの研究室と化していた。付与魔法具の安定化と効率化を目指す彼らの机には、魔力親和性の高いミスリル鉱からありふれた木の枝まで、多種多様な素材が山と積まれているが研究の進捗はというと進んでおらず、重苦しい空気が漂っていた。魔法を刻むための羊皮紙は焦げ付き、宝石は輝きを失い、金属は歪んでしまう。


「くそう、また失敗だ!この羊皮紙、文字を3つ以上刻むと魔力が反発しやがる!」


 ユーリが頭を抱えて叫ぶ。彼の目の前にある羊皮紙は、焦げ付いた文字と、ぐにゃりと歪んだ魔法陣の痕を残していた。付与魔法は、魔導師の魔力制御能力を試す繊細な作業だ。1つの魔法を込めるだけでも高度な技を必要とするのに、複数の魔法を1つの道具に込めることは、まさに至難の業だった。ユーリは自らの豪快な精神とは真逆の、精密な作業に苛立ちを隠せない。


「焦げ付いてる時点で、魔力操作が雑なのよ、ユーリ。もっと繊細に、魔力に語りかけるように符丁しなさいよ!」


 セレスティアが冷めた声でユーリに指摘する。その手元では、光を放つ宝石に正確なルーン文字の符丁が刻まれていた。彼女は完璧主義者で、その才能は研究においても遺憾なく発揮されていた。ノヴァの理論を理解し、それを形にしようとする彼女の集中力は凄まじかった。


「セレスティア様の言う通りです、ユーリさん。この宝石には、もう1つ付与するスペースがありますね」


 セシリアが目を輝かせながらユーリの羊皮紙とセレスティアの宝石を交互に見比べる。彼女の表情はまるで解けない謎に挑む探検家のようだった。魔法の理論を深く愛し、その謎を解き明かすことに喜びを感じるセシリアにとって、この研究は最高の遊びだった。


「うっ、頭が痛い……。こんな細かい作業、俺には向いてないって。俺はもっと豪快にドカーン!ってやりたいんだよ、ドカーンって!」


「ユーリ、落ち着いて。ドカーンってやったら、この部屋ごとドカーンってなるから」


 カイルが優しく声をかけると、ユーリは力なくテーブルに突っ伏した。カイルは騎士団の良心であり、どんな時も冷静に仲間を見守っていた。ノヴァはそんな彼らのやり取りを微笑ましく見守りながらも、眉間に深い皺を寄せていた。


 彼が最も頭を悩ませていたのは、複数の魔法を付与した際の魔力制御の不安定さだった。ノヴァは、付与魔法同士の干渉を防ぐための新たな理論を必死に模索していた。


「ノヴァ、もうそろそろ限界じゃないか?ここのところ、寝てないだろう」


 レオンハルトがノヴァの顔を覗き込む。ノヴァの目の下には、うっすらとクマができていた。レオンハルトはノヴァの健康を誰よりも気にかけていた。騎士団長として、仲間たちに安全で確実な魔法具を提供することは、ノヴァにとって最優先事項だった。しかしその責任感ゆえに、彼は無茶を重ねていた。


「これまでの付与魔法は、せいぜい1つの道具に1つの魔法を付与するだけだった。だが複数の魔法を1つの道具に付与しようとすると、途端に難易度が跳ね上がる。付与した魔法同士が互いに干渉して、魔力制御が不安定になるんだ」


 ノヴァはそう言って、自身のノートに何やら書き込んでいく。そのノートは、前世の知識とこの世界の魔法理論が融合した、この世界にふたつとない代物だった。特に魔法の力を数式で表現するノヴァ独自の理論は、この世界の魔術師には理解不能なものだった。彼は魔法をもっと論理的に前世での科学のような解明をしようとしていた。それはこの世界の魔法の常識を覆す魔法学とも呼べる発想でもあった。


「ノヴァさん疲れたら少し休んでください。このままではあなたの魔力が暴走して、誰かが怪我をするかもしれませんよ」


 セシリアの言葉にノヴァははっと顔を上げた。彼は過去の失敗を思い出し深く反省する。彼の力の暴走は時に予期せぬ事態を引き起こし、多くの人を危険に晒してきた。その時研究室の扉が静かに開いた。


「おや、皆、随分と煮詰まっているようだね」


 そこに立っていたのは、王家付き宮廷魔導師にして、王立魔術学院副学院長、アルフレッド・グレイヴンだった。彼は穏やかな笑みを浮かべ、ノヴァたちの様子を眺める。その表情にはノヴァたちの研究に対する深い興味が隠されていた。


「副学院長、お久しぶりです」


 ノヴァが立ち上がり頭を下げる。アルフレッドは王国の魔術界を牽引する存在であり、ノヴァにとって尊敬すべき人物の一人だった。アルフレッドはノヴァの才能を早くから見抜いており、彼に期待を寄せていた。


「ノヴァ君、君たち騎士団がここを拠点に研究していることは知っていたよ。君たちが研究している『複数の付与魔法を1つの道具に込める術』はかつて私も研究したことがある。だが私ではどうしても、その本質にたどり着くことができなかった」


 アルフレッドはそう言ってノヴァのノートを覗き込む。彼の目はノヴァが書き記した数式や魔法陣を瞬時に理解していた。


「驚いたね。この発想は現代の魔導師には決して思いつけないものだ。君は一体どこでこの知識を?」


「それは秘密です!」


 ノヴァがとっさに言い切ると、アルフレッドは面白そうに笑った。


「秘密ね。なるほど、面白い。君の秘密が、私の研究をはるかに凌駕しているとはな。だが君たちの研究にも1つ欠けているものがあるようだ」


 突然の副学院長の言葉にノヴァが興味を覚える。


「それは君たちが今、手にしているその付与魔法具の起源だ。君たちが研究している付与魔法はあくまで現代の魔術だ。だが王宮の宝物殿には、古の付与魔法具らしきものが数点保管されている。そこには君たちの研究のヒントがあるかもしれないよ」


 アルフレッドの言葉にノヴァたちの目は輝いた。翌日から彼らはアストレア国王へ謁見を請い、宝物殿への立ち入りと、魔法具の鑑定を懇願した。国王はノヴァの功績とアルフレッドの推薦を重く見て快諾する。


「ノヴァ団長の功績と、アルフレッド魔導士の推薦があれば、断る理由はない。だが、万が一、危険な魔術が封印されている場合もある。君たちは身の安全を第一に考え行動することだ」


 国王の許可を得てノヴァたちは宝物殿へと向かう。宝物殿は、王都の地下深くに位置する厳重な空間だった。そこには、数百年、数千年の時を経たであろう古びた魔法具が数多く保管されていた。


「おお、これは!すごいなノヴァ古代ルーン文字だ!」


 宝物殿の地下に保管された古代の魔法具を前に、ユーリが興奮して叫んだ。ノヴァは、そのうちの1つ、古びた銀色の腕輪を手に取る。その腕輪には、見慣れない文字が彫り込まれていた。現在使用されるこの世界の文字とは明らかに異なる、神秘的な雰囲気を纏っていた。


「この文字……前世の知識で見たことがある。北欧神話のルーン文字?」


 ノヴァが腕輪に魔力を流し込むと、ルーン文字が青白い光を放ち、空中に浮かび上がる。そしてノヴァがルーン文字を唱えると、腕輪は眩い光を放ち、周囲の空間が微かに震えた。それは、太古の魔法が呼び覚まされた瞬間だった。


「これは……!付与された魔法は、魔力の増幅と、周囲の魔力との親和性の向上だな」


 ノヴァは驚きを隠せない。その時アルフレッドがノヴァの元へやってきた。


「見事だ。まさかルーン文字を読み解けるとはな。私も手伝わせてもらえないか?」


 アルフレッドの申し出に、ノヴァは快諾する。ノヴァがルーン文字の原理を説明すると、アルフレッドは目を丸くした。


「なるほど、それは魔術理論の根幹を揺るがす発想だ。ルーン文字の概念を考える……。それはこの今の世に存在しない魔術理論だ」


 セレスティアとセシリアは、その様子を横で見ながら、図書館で手に入れた古代の文献と、魔法具のルーン文字が一致することを発見する。その文献は、かつて王家が収集した古代の書物であり、その存在を知る者はほとんどいなかった。


「ノヴァ、見て!この文献に書かれている古代文字、腕輪のルーン文字と同じよ!」


 セシリアが声を上げると、セレスティアが興奮気味に続ける。


「この文献は、付与魔法具の起源について書かれているわ。どうやら、その起源は、『ヴェルデン精霊郷』にあるらしいわ」


 ヴェルデン精霊郷。その名は魔術に携わる者の中で知らない者はいない場所。そこは精霊と人間が共生している、幻の郷だと伝えられていた。ルーン文字と精霊郷、その2つが繋がった時、ノヴァの研究は一気に進展する可能性を秘めていた。


「ヴェルデン精霊郷……。そこに行けば、俺たちの魔法の謎も解けるかもしれない。そして付与魔法の研究はいまより一気に進みそうだ」


 ノヴァはそう言って仲間たちを見つめる。


「みんな俺はヴェルデン精霊郷に行くことを決めた。この付与魔法の謎を解き明かすために」


 ノヴァの言葉に、ユーリは笑顔で答える。


「もちろん!ノヴァが行くなら、俺も行くに決まってるだろ!」


 セシリアは静かに頷き、カイルは微笑んでノヴァを支える。セレスティアは、ノヴァに最高のライバル心を燃やし、その瞳には強い光が宿っていた。


「ノヴァ、君の力はこの世界を大きく変えるだろう。だがその力は諸刃の剣だ。気をつけろ」


 レオンハルトの忠告に、ノヴァは静かに頷いた。


「安心してレオンハルト。僕の力は、王国に住むすべての人間の幸せと希望となるよう進めていくつもりさ」


 ノヴァは国王にヴェルデン精霊郷への旅の許可を求めた。国王は、ノヴァの決意とアルフレッドの進言を尊重し、快く許可を与える。


「うむ。ヴェルデン精霊郷へ調査か。あそこは王家ともつながりは深い場所だ、気をつけて行ってくるのだぞ」


 その頃、王都の片隅にある邸宅で、闇のローブをまとった男が不敵な笑みを浮かべていた。男の名はゼノン・クロフト。彼はノヴァたちの動向を密かに監視していた。ゼノンはかつて魔塔でアルスの研究を妨害し、彼を陥れた研究者の一人だった。しかし、大崩壊事件で闇の光を浴びたことで、強大な闇の力を手に入れていた。


「フフフ……。ヴェルデン精霊郷へ向かうとは、面白い。アルスが成し遂げられなかった研究を、私が完成させてやる。アルスの弟子であり王家の犬であるノヴァに、この闇の力を思い知らせてやる!」


 男はそう言って、手に持った黒い水晶を弄び、ノヴァたちの行く末を占うのだった。ノヴァたちの新たな旅は、グレンの深い闇に包まれた陰謀へと、否応なく巻き込まれていくのだった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

古代のルーン文字との邂逅は、ノヴァたちの研究に大きな転機をもたらしました。そして新たな目的地として浮かび上がるヴェルデン精霊郷。その希望と期待の裏で、闇に蠢くゼノンの存在も示され、旅はますます波乱を予感させます。次回もぜひお付き合いください。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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