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第69話 星辰の光芒、翳りゆく学院

いつもお読みいただき、ありがとうございます。王宮での式典を経て、ノヴァたちは星辰魔導騎士団の一員として学院を超えた存在となりました。注目を浴びる光の陰には、嫉妬や陰謀の影も忍び寄ります。今回の話では、自由と責任を得た彼らが、研究と実践を通して成長し、仲間との絆を深める模様を描きます。光と影が交錯する学院の日常をお楽しみください。

 王宮での式典以来、ノヴァたちの日常は大きく変貌した。王家の紋章を冠した星辰魔導騎士団の一員として、彼らはもはやただの学院の生徒ではなかった。特にノヴァはその身分と功績が注目を浴び、その一挙手一投足が周囲の好奇と嫉妬の目に晒されていた。


「あのノヴァ・ヴァルシュタインが、まさか騎士団の団長になるとはな。ただの平民の出だというのに」


「王家のお気に入りというだけで、実力もまだ未熟だという噂だ。辺境伯領での一件もまぐれに過ぎないだろう」


「それに比べて、僕たちこそが生まれながらにして王国を背負うべき存在だというのに……」


 彼らの陰口はノヴァの耳にも届く。しかしノヴァは表情を変えず、ただ静かに歩を進めた。

 

「……ノヴァ、大丈夫?」


 隣を歩くカイルが、心配そうに尋ねる。

 

「ああ、気にしていないさ。彼らの言葉が真実でないことは、僕が一番よく知っている」


 ノヴァは静かに答える。セレスティアもまた、苛立ちを隠せず口を開いた。


 「くだらない。口先だけで何かを成し遂げられるとでも思っているのかしら。実力で証明すればいいだけの話なのに」

 

 彼女の言葉には、周囲への軽蔑が混じっていた。


 その日の午後、ノヴァと団員は全員、学院長の執務室に呼び出された。扉を開けるとセレナ学院長が威厳に満ちた佇まいで彼らを迎えていた。

 

「全員、よく来てくれました。改めて君たちの功績を称えましょう。辺境伯領での君たちの活躍は王国の歴史に深く刻まれることでしょう」

 

 セレナの声は静かだがその中に確固たる意志が感じられた。

 

「そこで王家と学院との協議の結果、君たちに特別な権限を与えることになりました」

 

 セレナは1つの文書をノヴァに手渡す。それは『特別研究生指定証』と書かれた、学院の紋章が刻印された豪華な文書だった。

 

「この指定証を持つあなた達は、これまでの学院の授業や行事に縛られることなく、自由に学術研究や実地任務に専念することが許されます。これは君たちの持つ実力と、星辰魔導騎士団としての重要性を鑑みての処置です」


「ありがとうございます、学院長」


 ノヴァが代表して礼を述べた。

 

「ただし、この指定は君たちへの期待であると同時に、重い責任を伴うものです。君たちの行動は学院の、ひいては王家の名誉に関わります。心して任務に当たってください」


 執務室を出た後、ユーリが興奮した様子で言う。

 

「すごいな、ノヴァ!これで俺たちは自由に動けるってことか!」

 

「ああ。だが学院長が言った通り責任は重い。僕たちはこれまで以上に気を引き締める必要がある」

 

 レオンハルトがみんなに話しかける。その日の夕刻ノヴァはセレスティア、ユーリ、セシリアと共に、付与魔法具の研究を始めるため王立図書館に向かった。図書館の最奥にある禁書庫への扉を開ける。そこには数千年にわたる魔法の歴史が眠っていた。

 

「すごい……」

 

 ユーリが感嘆の声を上げる。膨大な数の古文書が、整然と書架に並んでいる。

 

「付与魔法具に関する古代の文献は、王立図書館にもほとんど残っていない。禁書庫なら何か見つかるかもしれないわ」

 

 セレスティアが目を輝かせながら言う。彼女はすでに付与魔法具の理論を記した古文書を探し始めていた。


 ノヴァは付与魔法の基礎を築いたとされる古代の賢者の名を記した書物を見つける。ノヴァは前世の知識と分厚い「知識」の本そして加藤雄介の日記を照らし合わせながら、その意味を少しずつ読み解いていく。

 

「……これは、魔力に特定の『意志』を付与する術式か……?」

 

 ノヴァが呟いたその時、セレスティアが小さな声で叫んだ。

 

「ノヴァ、見て!これよ!これこそ、私が探していた文献だわ!」

 

 セレスティアが指差す先には古びた羊皮紙の巻物があった。それは『星辰の付与術』と題された、古の賢者によって書かれたとされる書物だった。


 一方、辺境伯領の弟リアムからの手紙に不穏な内容が記されていた。ノヴァは弟リアムに宛てて返事を書く。

 

『領内が不安定だと聞きました。何か手伝えることはありませんか?』


 手紙を書きながらノヴァは眉をひそめる。ヴァルター男爵の魔の手は以前にも増して悪辣になって領民の生活を苦しめているようだ。


「ヴァルター男爵自身の力ではない。以前師匠から聞いた怪しい人物が関わっているはずだ。そしてその男の動きには何か大きな闇の魔法の秘密が潜んでいるはずだ」


 ノヴァは自身の勘が囁く不吉な予感に静かに身を震わせる。その頃、学院の寮の一室で有力貴族の子息たちが集まっていた。彼らの中心にいたのは、クライン公爵家の嫡男、グレン・フォン・クラインだった。彼はノヴァが王家から特別扱いされることに強い不満を抱いていた。


「……ノヴァ・ヴァルシュタイン。あいつの存在は、我々貴族の地位を脅かすものだ。王家直属の騎士団団長などと、いい気になって。元平民のくせにいずれ失脚させてやる」

 

 彼らはノヴァを貶めるための策謀を巡らせていた。


「ヴァルター男爵の件、どうする?」

 

 グレンが尋ねる。

 

「男爵からは男爵領内に古代魔術の遺跡に扮した罠が出来上がったと連絡があった。そこにノヴァを誘き寄せ、我々の手のもので始末する。そうすればノヴァが持つ星辰魔導騎士団の地位も、真に優秀な我々が選ばれるだろう」


「しかし男爵は本当に信用できるのか? 相手は世界で7人しかいない剣聖の弟子だ。実力で剣豪に就任したとも聞いた。そう簡単には倒せないだろう?」

 

 誰かが不安げな声を漏らす。

 

「心配ない。剣聖もひとの子だったという事だ。剣聖が情に流され、実力に見合わない地位を与えたという事だろう。ヴァルター男爵に我々が用意した『あれ』を使わせれば、剣聖の弟子だろうと必ず倒せるはずだ。曲がった権威を本来の道に戻すのはもうすぐだ。」

 

 彼らの会話は静かに闇へと溶けていく。ノヴァは自分を狙う不穏な動きが、学院の中にまで及んでいることに、まだ気づいていなかった。


 翌日、ノヴァはレオンハルトとユーリを伴い、王都の外れにある王都騎士団の訓練場を訪れた。騎士団の訓練場は、学院のそれとは比べ物にならないほど広く、精鋭の騎士たちが鍛錬に励んでいた。

 

「星辰魔導騎士団は、王家の命令以外では独自に動く裁量を与えられている。普段は魔術の研究や付与魔法の研究だけでなく、騎士団の訓練場で実践的な訓練も積んでいかなければならない」


 レオンハルトが、侯爵家の嫡男らしい淡々とした口調で、騎士団の「責務」を説明する。


「レオンハルト、ユーリ。二人とも、模擬戦をやろう。僕が相手をする」


 ノヴァが提案すると、二人は驚きのあまり、思わず目を見開いた。


「ノヴァ、本気か?僕たち二人の魔術と剣術に、一人で対抗するつもりか?」


 レオンハルトが、砕けた口調ながらも真剣な眼差しでノヴァを見返す。


「ああ。魔法は単に魔力を込めて相手を倒すだけじゃない。自身の身体能力を強化したり、攻撃に属性を付与したりもできる。複合魔法も含め剣術と組み合わせた動きを実践で試してみたいんだ」


 ノヴァはまるで新しい定理を試す学者のように、断定的な口調で答えた。彼の瞳には、「理論」を「真理」へと昇華させようとする、揺るぎない「構造」への探求心が見て取れた。合図と共に、二対一の模擬戦が始まった。


 まず動いたのはユーリだ。彼は地面を蹴ると同時に風魔法を発動させ、超高速でノヴァの側面へ回り込む。彼の得意とする風魔法が、鋭い風の刃となってノヴァの死角から連射された。


 次いで、レオンハルトが動く。手にした剣で鋭い斬撃を繰り出し、ノヴァの退路を完全に封鎖した。


 ノヴァは、二人の完璧な連携を前に、微動だにしない。


「連携は理解した。だが、効率が悪い」


 ノヴァは無詠唱で複合魔法を発動させる。彼の全身の軽鎧と皮膚の下に、土魔法による防御強化と風魔法による加速、そして光魔法による反応速度の向上が一瞬で付与された。次の瞬間、ノヴァは一瞬で姿を消した。


 ユーリの風の刃とレオンハルトの斬撃が交差する一点の空間を、ノヴァは信じられないほどの体術をもって、紙一重で回避していたのだ。彼の動きは常人のそれを遥かに超えた域にあり、ノヴァは、レオンハルトの剣先が通り過ぎた直後の空間を捉え、レオンハルトの脇腹へと高速のカウンターを叩き込む。


 レオンハルトは、防御系の天才の本領を発揮し、瞬時に氷の結界を生成して直撃を回避。しかし、その反動で訓練場の壁際まで吹き飛ばされる。


「くっ……!」


 その隙に、ユーリがノヴァの頭上から火属性の魔法を放つ。


「うおっ、まじか!避けられるかよ!」


 ノヴァは空中で身を捩り、両足に風属性の魔力を集中させ、空中制動を行う。彼の剣からは、水の魔力が防御結界として展開し火炎弾を相殺した。


「すごい……身体能力の強化と属性の付与を、同時に、無詠唱で持続させている……」


 ユーリが、感嘆の声を漏らし、飛び退いた。彼の風魔法の速度が、ノヴァの複合魔法による身体能力に追いついていないことを悟ったのだ。


「これはノヴァ自身の実力か?それとも複合魔法の恩恵か?とにかくこの動きは僕たちの想像をはるかに超えている」


 吹き飛ばされたレオンハルトも、立ち上がりながら、ノヴァの異質な能力に驚きを隠せない様子だった。模擬戦の後、三人は訓練場の隅で休憩していた。ノヴァは満足げな表情で語る。


「複合魔法は、使い方次第で無限の可能性を秘めている。今回の検証で、四属性の複合までなら、瞬間的な付与が可能だと結論付けられた」


「四属性でその動きかよ……やべぇ」ユーリは、ぐったりと地面に座り込んだ。


「でも、まだ完璧じゃない。五属性を恒久的に付与し、さらに高次の複合魔法を習得しないと……」


 ノヴァは、タオルで汗を拭きながらも、その瞳には既に次の研究対象が捉えられていた。彼らの戦いは、常に未来を見据えていた。

 

 ノヴァは、自身の課題を冷静に分析していた。その夜、グレンたちは、ノヴァを罠にかけるための準備を着々と進めていた。

 

「ヴァルター男爵は、もうすぐ王都に到着する。彼は我々の計画に不可欠な存在だ」

 

 グレンは、部下に指示を出す。

 

「ノヴァを誘い出すための罠は、すべて仕掛けた。あとは、奴が引っかかるのを待つだけだ」

 

 ノヴァは、新たな決意を胸に、付与魔法の研究に没頭する。学院での日常は、光と影が交錯する場所へと変わりつつあった。ノヴァたちの輝かしい功績の裏で、不穏な影が忍び寄り、新たな戦いの序章が静かに幕を開けていた。

今回の話では、ノヴァたちの模擬戦を通じて複合魔法の可能性と成長の一端を描きました。自由と責任を手にした彼らの前には、新たな陰謀や試練が待っています。学院の日常の輝きと影、そして仲間との連携が、今後の戦いの布石となるでしょう。読者の皆さまも、ノヴァたちの挑戦と学びの物語を、引き続き見守っていただければ幸いです。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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