第68話 星辰の魔導騎士団、黎明の誓い
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
今回は、王宮での謁見を経て、ノヴァと仲間たちが新たな使命を託されるお話です。
権力の思惑と不安を抱えつつも、仲間との絆が一歩を踏み出す力となります。
物語の新しい幕開けを、どうぞ見届けてください。
王宮の巨大な門をくぐったノヴァたちは、その壮麗な空間に足を踏み入れた。以前街の外から見上げた王宮は、ただ威圧的なだけの巨大な建築物だった。しかし辺境伯領で死闘を経験し、仲間とともに幾多の困難を乗り越えた今のノヴァの目には、その空気が全く違って感じられた。
石畳の一つひとつそびえ立つ柱の彫刻、頭上高くに広がるドームの天井。そのすべてがこの国を何百年も支え続けてきた人々の想いや、積み重ねられた歴史の重みを物語っているかのようだった。
「す、すごい……。ここが、国王陛下のいらっしゃる場所……」
ユーリが息をのんで呟く。彼の顔は緊張でこわばり手のひらには汗がにじんでいた。セシリアもまた普段の活発な表情をひそめ、おずおずと周囲を見回している。
「緊張しているようだが大丈夫だ。ここは国の中心だが辺境で戦った君たちなら、臆することはない」
レオンハルトが静かに声をかける。彼の言葉は彼自身がまったく緊張していないことを示していた。貴族として王宮に足を踏み入れることに慣れているのだろう。カイルもまた緊張した様子のノヴァたちに穏やかな笑みを向けた。
「僕たちも初めての時はすごく緊張したからわかるよ。でも大丈夫。レオンハルト先輩がついてるから」
謁見の控室に通されたノヴァたちは、豪華な調度品に囲まれた部屋で待機することになった。壁には歴史上の英雄の肖像画が飾られ、窓からは手入れの行き届いた王宮の庭園が見えた。ノヴァは内心では激しく緊張していたが、仲間たちの前では平静を装いこっそり深呼吸を繰り返した。
そのときノヴァの耳に引っ掛かる会話を聞きつけた。ノヴァのただならぬ聴覚はこの静かな部屋の外で交わされる微かな会話を捉えていた。
(……付与魔法の力は、我々が想定していた以上だ。あのような危険な力を市井の者に好き勝手させておくわけにはいかない)
(同感だ。しかし今回の功績は無視できない。しかもか剣豪の位もこの度得たというではないか国王陛下もその力を無視できないだろう)
その声は隣の控室から聞こえてくる。どうやら高位の貴族たちのようだ。彼らはノヴァの能力について議論している。ノヴァはさらに聴覚を研ぎ澄まし魔法の力を利用して空間の音の波長を操作した。すると遠くの部屋の会話までが鮮明に耳に飛び込んできた。
(――ノヴァという少年は、本当に信用できるのか?辺境伯領での報告はあまりにも出来過ぎている)
(魔物の大群をたった6人で壊滅させたなどにわかには信じられん。我々が長年手を焼いてきた魔物だぞ。それも1000や2000では聞かない数だったということではないか!)
(付与魔法……古代の失われた魔法か。もしあの力が我々王家を脅かすようなものだとしたら……)
そこにはノヴァたちの功績を称賛する声だけでなく、猜疑心や嫉妬の感情も混じり合っていた。王族や貴族たちはノヴァの力を手に入れたいと考える一方で、その力が制御不能になることを恐れている。王族らしき人物が話す声も聞こえる。
(しかしその力が平和のため、国の発展のために使われるなら、我々にとってこれほど心強いものはない。彼らを「星辰の代理者」として、王家の守護者として迎え入れるべきだ)
ノヴァは彼らが自分たちのことを「危険な力」でありながら「国の希望」として捉えていることに複雑な気持ちを抱いた。彼らが口にする言葉はすべてこの国の未来を考えてのものではあるが、同時に自分たちの才能を権力の中に取り込もうとする思惑も感じ取れた。
静かに耳を傾けていると控室の扉がノックされ、近衛騎士らしき人物が顔をのぞかせた。
「ノヴァ・ヴァルシュタイン殿、レオンハルト・フォン・ヴァイスブルク殿、カイル・アルマ殿、セレスティア・アグニア殿、ユーリ・ヴァレンタイン殿、セシリア・リンドバーグ殿。国王陛下が、謁見をお許しになりました。こちらへどうぞ」
騎士の言葉にノヴァは聴覚の強化を収めた。緊張した面持ちのユーリやセシリアを促し、一行は広間へと向かった。
広間は息をのむほどに広大で、天窓から差し込む光が、床に敷き詰められた星の模様を象った絨毯を照らしていた。広間の奥、一段高い玉座に、ミルウェン王国の国王が静かに腰かけていた。その顔は厳格でありながらも、どこか穏やかな威厳を湛えている。
ノヴァたちは侯爵から教わった作法に則り、国王の前に進み出た。
「頭を上げよ、若き英雄たちよ」
国王の声が広間に静かに響き渡る。ノヴァたちが顔を上げると国王は優しい眼差しで彼らを見つめた。
「辺境伯領での君たちの活躍、誠に大儀であった。特にノヴァ・ヴァルシュタイン。君が持つ付与魔法の力はただの魔法ではない。それはこの国の根源をなす『星の理』と深く結びついた特別な力だ」
国王は立ち上がりゆっくりと玉座から降りてきた。その一歩一歩が重々しい。
「よって私はここに、王家直属の新たな組織を創設することを決定した。『星辰魔導騎士団』――王国の未来を導く、星の光を宿した騎士団だ。そしてその団長には、ノヴァ・ヴァルシュタイン君を任命する」
その言葉に、ノヴァの心臓は大きく跳ねた。
(星辰魔導騎士団……。そして、俺が団長……)
それはまさに「利用」されるということだった。自分の力が王家という巨大な組織に管理され、国の都合で使われる。自由を失うことへの不安がノヴァの心に波となって押し寄せた。故郷を失ったあの日のように、大切な何かをまた失ってしまうのではないかという恐怖が胸を締めつける。
しかし、ノヴァは王宮で耳にした言葉を思い出した。
(王家を脅かすようなものだとしたら……)
もしこの力が王家によって危険視され、管理されなければ自分たちや、この力がやがて争いの火種になるかもしれない。王国を守るために故郷を失ったノヴァにとって、この国を守ることは失われた故郷を守ることと同義だった。この力を国に捧げることが最も多くの人々を救い、この世界を平和に導く最善の選択なのだと。
ノヴァは国王を見据え迷いのない声で答えた。
「国王陛下、その重責、謹んでお受けいたします。この力が王国と人々の平和のために役立つことを心より願っております」
国王は満足そうに頷きノヴァの肩に手を置いた。
「よくぞ決意してくれた、ノヴァ・ヴァルシュタイン。君の使命はこの国の未来を創ることだ」
寮に戻ったノヴァたちは、静かな自室に集まった。謁見の緊張から解き放たれ皆が安堵の息を漏らす。
「まさか、王家直属の騎士団になるなんて……」
セシリアが信じられないといった表情で呟く。ユーリもまた呆然としたまま椅子に座っていた。
「私たちの付与魔法の研究も王家から正式に認められたということですわね。これで団員としての身分も保証されますわ」
セレスティアが冷静にしかし興奮を隠せない様子で話す。そんな仲間たちを前にノヴァはゆっくりと口を開いた。
「みんな、俺は『星辰魔導騎士団』の団長に任命された。そしてこの騎士団の使命は、王国の平和を守り付与魔法の力を発展させることだ」
ノヴァの言葉にレオンハルトとカイルが立ち上がった。
「もちろんだ。俺はノヴァの右腕として、騎士団を支えよう。王宮は思惑が渦巻く場所だが、俺がすべて引き受ける。お前はただ団長として、その力を振るえばいい」
レオンハルトの言葉は力強くノヴァを安心させた。
「僕もノヴァを助けるよ。父さんから聞いたけど、この騎士団は、魔法師団と騎士団を組み合わせた新しい部署なんだって。僕の知識で役に立つことがあれば、なんでも言ってくれ!」
カイルもまたノヴァの新たな決意を力強く後押しした。その言葉に、セレスティアとユーリも顔を上げる。
「あら、天才であるわたくしがいなければ、この騎士団は成り立たないでしょう。付与魔法の理論もわたくしが構築して差し上げますわ!研究室も自由に使えるって言っていたし、この力をさらに上の段階へと引き上げてみせますわ!」
セレスティアが茶化すように言うとユーリもそれに続いた。
「俺だって、ノヴァの力を一番知っているんだからその力が正しい道を進めるように協力するぜ。戦闘でも何でもノヴァたちを助けられるように、もっと強くなって見せるさ!」
仲間たちの言葉にノヴァの胸に温かいものが込み上げてきた。管理されることへの不安はまだ残っていたが、一人ではない。彼らは王家がどうであれ、自分たちでこの道を進んでいくのだ。
窓の外を見ると、王都の夜空にはやはり星が見えなかった。しかしノヴァの心の中には、故郷の村の空よりも、辺境伯領の空よりも、もっと明るく輝く希望の星々が確かに灯っていた。それは仲間たちの存在そのものだった。
「みんな、ありがとう……!俺たち6人で、星辰魔導騎士団として、この国の未来を創ろう」
ノヴァの言葉に、全員が力強く頷いた。王都の夜は静かに更けていく。彼らの新たな旅は、今、始まったばかりだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「星辰魔導騎士団」の誕生――それは栄誉であると同時に、大きな責任と試練の始まりでもあります。
不安と希望の狭間で、ノヴァは仲間と共に国の未来を担う決意を固めました。
次回からは、新たな日常と新たな使命が交錯する日々を描いていきます。どうぞお楽しみに。
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