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第64話 剣豪ノヴァ、誕生!

この物語を読んでいただき、ありがとうございます。

今回はノヴァがついに大きな節目を迎えます。

これまで積み重ねてきた努力と仲間との絆が、思わぬ形で実を結ぶことに……。

「剣豪ノヴァ」誕生の瞬間をどうぞお楽しみください!

「師匠、報告します。」


 辺境伯邸の修練場。ノヴァは、ヴァルター男爵の一件を報告するため、剣聖ギュンター卿の前に赴いた。顔は泥まみれ、着ている服には草の葉がついており、数日間にわたる調査の過酷さを物語っていた。


「ほう、随分とくたびれた顔をしておるな。しかし、その瞳には達成感が満ちておる。片付いたようだな」


 ギュンターは片目を閉じ満足そうに頷いた。ノヴァは同行したレオンハルトと共に、発見した5つの石碑とそれを破壊した経緯を詳細に語った。


「石碑は人々の負の感情を具現化したような、重く粘りつく闇の魔力を放っていました。僕一人ではどうにもならず……仲間たちの魔力と、僕の『気』を融合させることを思いついたんです」


 ノヴァはセシリアが作った美容液の小瓶を胸に抱いた時のインスピレーション、そして仲間たちと協力して闇を打ち破ったことを熱く語った。


「風、水、土、火、そしてレオンハルトの光と気の波動……僕の『気』と共鳴して、陽性の光に変換できたんです」


 その言葉を聞いた瞬間、ギュンターの表情が一瞬動いた。彼はノヴァの話に耳を傾けながら、思考を巡らせていた。


(気の力と、魔術の融合……ただの魔術師には不可能だ。ましてや、あれほど質の悪い闇の魔力に打ち勝つなど……)


 ギュンターはノヴァの無邪気な言葉の中に、とてつもない事実が隠されていることに気づいた。それは彼自身が編み出した剣の奥義、『不動重力斬ふどうじゅうりょくざん』の境地だった。


 己の存在を希薄にし、同時に全身の気を剣に凝縮させることで、見えない一撃でありながら重力をもねじ曲げるかのような重く、避けることのできない一撃を放つ。その一撃は、大地を砕き、敵を粉砕する。剣の極致に到達しうる至高の技。ノヴァが闇の魔力を打ち破った現象はこの奥義の理論と酷似していた。


 ギュンターは無言で立ち上がると、ノヴァの手を掴んで修練場の奥へと連れて行った。レオンハルトは何が起こっているのかわからずただ呆然と二人を見送った。


「えっ、師匠? どこへ……」


「いいから来い!」


 ギュンターのただならぬ雰囲気にノヴァは口を噤んで従った。修練場の中心に立つと、ギュンターはノヴァに一本の剣を手渡した。


「ノヴァよ。今お前が闇に打ち勝った時と同じ感覚で、この剣を振ってみろ。何も考えるな。ただ感覚に身を任せるのだ」


 ノヴァは戸惑いながらもギュンターの言葉に従った。ギュンターはただ静かにノヴァを見つめていた。ノヴァは目を閉じ闇の魔力に立ち向かった時のことを思い出す。仲間たちの5つの温かい魔力それらが1つになり、彼の『気』と共鳴していく感覚。その感覚が全身を駆け巡った時ノヴァはゆっくりと剣を振り下ろした。


 その瞬間修練場に轟音が響き渡った。


 ズウゥゥンッ!


 ノヴァの剣が振り下ろされた場所から、縦に亀裂が走り地面は大きくへこんだ。その一撃はまるで重力そのものがねじ曲げられたかのようだった。


 ノヴァは目を開け目の前の光景に絶句した。


「……え? 僕、今、何をしたんですか?」


 ギュンターは満足そうに頷きノヴァの肩を叩いた。


「ノヴァよ。お前は今、剣豪の位に達した。今の一撃こそが、本当の奥義『不動重力斬ふどうじゅうりょくざん』だ」


「剣豪……? 僕が?」


 ノヴァは信じられないといった顔でギュンターを見つめた。


「ああ。お前は無意識のうちに、奥義の1つであるこの技を習得した。お前はもはや剣客ではない。真の剣豪だ」


 ギュンターの言葉にノヴァの顔は喜びと困惑でいっぱいになった。


「いや、でも剣豪って……僕、まだ修行の真っ最中で……」


「お前の気持ちはわかるがお前はすでにその頂にたどり着いている。わしが決めたからには、文句は言わせん! 後日、剣豪就任の儀を取り仕切る。お前はただそこに立っておればよい」


 そう言ってギュンターは修練場を去っていった。ノヴァはぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。一部始終を遠くから見ていたレオンハルトが駆け寄ってきた。


「ノヴァ、すごいな! 今の一撃、まるで本物の剣聖みたいだったぞ!」


「レオンハルト……僕、どうしよう。剣豪になっちゃったみたいだ……」


 ノヴァは困り果てたようにレオンハルトに問いかけた。


「何言ってるんだよ、めでたいことじゃないか! 僕たちもノヴァに追いつくようもっと頑張らないと!」


 レオンハルトはそう言って笑い、ノヴァの背中を叩いた。この日の午後ギュンターはノヴァを連れ辺境伯夫妻と筆頭執政官ユリウスを交え、ノヴァの剣豪就任の件を報告した。


「なんと! ノヴァが剣豪に……!」


 辺境伯は驚きを隠せない。ユリウスもまた信じられないといった顔でノヴァを見つめていた。


「あの子供が……しかし、剣聖様がそうおっしゃるなら、間違いはないでしょう。これは辺境伯領にとって大きな名誉です」


 ユリウスは先日の工場建設の件といい、ノヴァという存在が辺境伯領にどれほどの利益をもたらすか、改めて実感していた。二人は報告が終わると辺境伯邸から出て家に戻った。


「あ、あの……剣聖様。1つだけ、お話しておきたいことが」


 屋敷に戻ったノヴァは、意を決してヴァルター男爵の一件について、ギュンターに尋ねた。


「あの男爵、以前はそこまで大きな力を持っているわけではなかったと聞きました。しかし今回の行動はあまりにも計画的で、背後に何者かがいるような気がするんです」


 ノヴァの言葉に、ギュンターは真剣な表情に戻った。


「そのことだが……私も気になって調べてみた。ヴァルター男爵家に今までいなかった黒の魔術ローブを着た男が頻繁に屋敷に出入りしているようだ。どうやら王都の高位貴族から、優秀な人材を派遣してもらっているようだ。その者が今回の事件の黒幕かもしれん」


 ギュンターはそう言ってレオンハルトとノヴァに、今までの調査で分かったことを詳細に語った。


「そいつが、男爵に闇の魔術を教え、村人たちの負の感情を吸い取る方法を教えたのかもしれん。だがその目的はまだわからんがただの金儲けのためではないだろう」


 ギュンターの言葉にノヴァは深く頷いた。


「このまま放っておけば、さらに大きな事件に発展するかもしれませんね。僕たちも引き続き調査を続けます」


「ああ、頼んだぞ。だが、剣豪になったからといって、油断はするな。お前はまだ、未熟な部分が多い」


 ギュンターはそう言って、ノヴァをからかうように笑った。


 ノヴァが剣豪に昇格しても、仲間たちの修練は続いていた。特にユーリ、カイル、セシリア、セレスティアの4人は、ギュンター卿の剣聖としての知見を活かした、過酷な魔術の修練に悲鳴を上げていた。


「うぅ……もう無理……! 精神が限界……!」


「セシリア! ここで諦めたら、ノヴァに置いていかれるぞ!」


「ノヴァ様に置いていかれるのは嫌ですわ……!」


 カイルの叱咤激励に、セシリアとセレスティアは気力を振り絞って立ち上がった。


「でも、ノヴァはもう剣豪なのに、どうして僕たちだけこんなに辛い思いをしなきゃいけないんだよ!」


 ユーリが愚痴をこぼすと、カイルが呆れた顔で言った。


「馬鹿を言え。ノヴァは僕たちと同じくらい、いやそれ以上に頑張っているんだ。あの『不動重力斬』だって、昨日今日でできるようになったわけじゃない。今までの努力の積み重ねだ」


「うぐ……わかってるよ……」


 ユーリはぐうの音も出ない。そんな彼らの姿を遠くから見守っていたのはノヴァとリアムだった。


「兄さん、レオンハルトさん、僕たちもそろそろ修練を始めませんか?」


 リアムがそう言うとノヴァは微笑んで頷いた。


「ああ、そうだな。レオンハルト、今日も頼むぞ」


「任せてくれ! リアム、今日こそはお前の実力を超えてやる!」


 レオンハルトとノヴァの弟リアムは、同じくらいの剣術の実力を持っており、お互いに最高の練習相手となっていた。二人の剣がぶつかる度に、甲高い金属音が響き渡る。


 一方でギュンター卿は、ノヴァの修行仲間たちを指導しながらも、内心で笑いを堪えていた。


(ふふ……ノヴァの奴め、剣豪になったことを皆に秘密にしておればよかったものを……。これでは皆がノヴァに追いつこうと、必死に修練をするしかないではないか。いや、良いことだ……)


 ギュンターは、ノヴァの存在が仲間たちに与える影響の大きさを感じていた。それはただの才能ではなく、周りを巻き込み、高めていく光のような力だった。

読んでいただきありがとうございます!

ノヴァが剣豪に昇格しました。本人はまだ戸惑っていますが、仲間たちにとっては良い刺激になりそうですね。次回以降は、闇の黒幕の存在がさらに動きを見せてきます。ぜひ続きもお楽しみに!

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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