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第63話 故郷に潜む闇と、希望の光

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、ノヴァが知らぬ間に大きく成長していた「シャトー・ノヴァ」の真実と、辺境伯領に潜む不穏な影が描かれます。

事業と修練、そして闇との対峙──彼らの未来を左右する新たな局面が始まります。

 辺境伯邸を後にしたノヴァは、今も頭の中でイザベラの言葉を反芻していた。シャトー・ノヴァ……。自分の知らぬ間に故郷の工房が、まさかこれほどの規模の事業になっていたとは。その日の夜ノヴァは自室にイザベラを呼び出した。部屋に明かりを灯し、二人きりになった静かな空間で、ノヴァは切り出した。


「イザベラ……シャトー・ノヴァとは、いったい何? そして君がどうしてその総責任者に?」


 ノヴァの問いにイザベラは静かに、そして誇らしげに答えた。彼女の瞳には揺るぎない忠誠心と、深い敬意が宿っている。


「シャトー・ノヴァは、ノヴァ様が立ち上げた美容事業のブランド名ですわ。そしてこの事業の責任者として私がすべてを統括しております。ノヴァ様が学院での研鑽に集中できるよう、雑務はすべて私にお任せくださいと養祖父様やお母様にもお伝えし、許可をいただきました」


 彼女はノヴァが王都にいる期間、いかにして事業を拡大させていったかを詳細に説明した。王都の貴族や富裕層からの需要は想像を絶するほど高く、ノヴァが作り出した石鹸やシャンプー、そして基礎化粧水は瞬く間に市場を席巻した。


「王都の大商会『金の羅針盤』はその需要にいち早く目をつけ、専売契約を持ちかけてきました。ノヴァ様の製品は一度使えば他のものには戻れないと、皆が口を揃えます。特に洗顔石鹸の泡立ちの良さと、洗い上がりの肌のなめらかさ、そして基礎化粧水の肌が瑞々しくなる感覚は、王都の貴族女性たちの間で革命とまで言われております」


 イザベラは王都に乗り込み、交渉を重ねた。彼女の卓越した交渉術と、ノヴァの製品への揺るぎない自信が大商会の心を動かした。シャトー・ノヴァ単独で製造から販売までのプロセスを完璧に管理する体制を築き上げたのだ。


「美容品の材料費や初期投資を気にせず製造ラインを立ち上げ王都で購入できたのは、この『金の羅針盤』との専売契約による先行投資金があったからですわ。もちろんすでにすべて投資金額は返金されております。ノヴァ様の偉大な才能が凡庸な者の手によって潰されることなどあってはなりません。」


 イザベラの言葉にノヴァはただただ驚くばかりだった。自分の何気ない行動が、イザベラの完璧なマネジメントによって、巨大な事業へと成長していたのだ。ノヴァは自分の前世での知識が、イザベラというもう一人の天才によって最大限に活かされていたことを理解し、彼女に深く感謝した。


 翌日、辺境伯夫妻と筆頭執政官ユリウスを交え、工場建設についての本格的な話し合いが始まった。建設費用の莫大さから、ユリウスはまだ不安を拭いきれない様子だった。


「夫人、誠に恐縮ながら……いくらなんでも、この金額は一商会が携わるにはあまりにも規模が多すぎます」


 ユリウスはそう言いながら額の汗を拭う。彼に提示された金額は、辺境伯領の年間予算の半分に迫るものだった。


「ご安心くださいユリウス様。その費用のすべてをは辺境伯領の財政から捻出していただく必要はありません。シャトー・ノヴァの現在の資産は、王都の高位貴族家が一年で費やす金額を軽く超えています。工場建設の費用はすべて自社で賄います」


 イザベラは自信に満ちた表情で語り、ユリウスに帳簿を提示した。ユリウスはその帳簿に記された天文学的な数字を見て絶句する。辺境伯でさえその数字に驚きを隠せない。


「これは……驚いた。ノヴァ、君は一体、何を生み出したのだ」


 辺境伯の言葉にノヴァは苦笑いしながらも、誇らしげに胸を張った。


「辺境伯様。この事業はこの地を豊かにする力を持っています。工場を建設し、多くの雇用を生み出します。そしてシャトー・ノヴァというブランドが世界に広まれば、このグロリアス辺境伯領の名前も、王都、ひいてはアステリア (Asteria)大陸で広く知られるようになります。これはただの事業ではなく、この辺境伯領に新たな活気と文化をもたらす大きな礎となると信じています」


 ノヴァは自分のビジョンを熱く語った。辺境伯はノヴァの言葉に深く頷きユリウスもその熱意と事業の規模に納得し、工場建設を正式に許可した。辺境伯夫妻はノヴァの事業が辺境伯領の財政を助けてくれることに深く感謝しイザベラを称賛した。


 工場建設の計画が順調に進む中、ノヴァたちは本来の目的である剣聖の元での修練と、辺境伯領で起きている異変の調査を本格的に開始した。


「よし! みんな、まずはこの辺境伯領で起きている『虚ろな影』の元凶を探すぞ!」


 レオンハルトの号令でチームは行動を開始した。彼らは学院での経験を活かし、魔力探知の付与魔術具を身につける。


「ノヴァ様この辺りには学院で感じた『虚ろな影』とは異なる、より質の悪い魔力が渦巻いています」


 セシリアが真剣な表情で言った。彼女の感知力は修行で格段に向上していた。彼女が感じる魔力は、冷たく、重く、まるで泥のように粘りつくような感覚だった。


「ああ。ヴァルター男爵は、闇の魔力を何らかの方法で変化させている。学院で使われた魔法陣とは、異なる性質を持っているようだ」


 ノヴァは魔力感知の眼鏡をかけ、周囲の魔力の流れを視覚的に捉えていた。その魔力の流れはまるで黒い靄が流れる川のように見えた。彼はヴァルター男爵の人柄を知るギュンター卿の助言を借り、異変が起きている場所を絞り込んでいく。


 数日後、ノヴァたちは辺境伯領の古い森の奥深くにある、小さな神殿の跡地へとたどり着いた。そこには不気味な光を放つ5つの石碑が、不規則に配置されていた。その石碑からは村人たちの生気を吸い取るかのような、禍々しい闇の魔力が放出されている。それは悲しみや怒り、絶望といった人々の負の感情を具現化したかのような、重く、粘りつくような闇だった。


「見つけたぞ、これが元凶だ!」


 ノヴァは石碑に向かって走り出した。しかし石碑は彼らが近づくと、不気味な光を放ち始めた。


「待て、ノヴァ! 危ない!」


 レオンハルトが叫ぶ。その時、石碑から放たれる闇の魔力が、ノヴァたちを包み込んだ。それは単なる魔力ではなく、人々の負の感情を具現化したかのような、重く、粘りつくような闇だった。


 ノヴァはその強大な闇の力に、一瞬意識を失いかける。身体が重く、心が沈んでいく。まるで底なしの沼に引きずり込まれるような感覚だった。しかし、その時彼はポケットの中にある、セシリアが作った美容液の小瓶を思い出した。


(この美容液は人々の美と、再生を願う気持ちから生まれたものだ。そして、セシリアがその純粋な気持ちを込めて作ってくれた……!)


 美容液の小瓶を握りしめると、温かい光が彼の心に灯る。それは闇に抗う希望の光だった。ノヴァは美容液に宿る再生の力、そしてセシリアの純粋な思いが、この闇を打ち破る鍵だと直感した。


 ノヴァは仲間たちに向かって叫んだ。


「みんな力を貸してくれ! 皆の魔力を僕に向け放ってくれ気の力を融合し陽性の光に変換させこの闇を打ち破ってみせる!」


 ノヴァの言葉に、ユーリ、カイル、セシリア、セレスティア、そしてレオンハルトは、それぞれの得意な系統の魔力を放った。ユーリのさわやかな風、カイルの癒しの水、セシリアの優しい土、セレスティアの浄化の火、そしてレオンハルトは清浄な光と気の波動。彼らの魔力と気は、ノヴァの体に流れ込むとノバが高めていた気と共鳴し、5つの石碑から放たれる闇の魔力を打ち破った。


 闇の魔力が消え去ると石碑は光を失い、ただの岩に戻った。彼らはこの地の異変の元凶を除去することに成功した。しかしこれは、始まりに過ぎない。この闇の裏には、ヴァルター男爵、そしてさらに大きな陰謀が潜んでいる。


 ノヴァたちは領都で起きたこの出来事を通して、互いの絆をさらに深め、来るべき大きな戦いに向けた重要な一歩を踏み出した。彼らはそれぞれの才能と力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられることを確信した。ノヴァの瞳には未来への希望の光が宿っていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

イザベラが切り拓いた事業の広がりと、仲間たちと共に闇を打ち破った一幕。ノヴァの歩む道は、希望と困難が交錯するものだと改めて示されました。

次回も、彼らの成長と試練をどうぞ見守っていただければ嬉しいです。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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