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第62話 新星の事業と、辺境伯夫人の依頼

仕事の都合で投稿が遅れましたが、毎日更新は継続中です!

いつも読んでくださりありがとうございます。

今回は、ノヴァが辺境伯邸を訪れ、夫人から驚きの依頼を受けることになります。さらに思わぬ人物との再会を果たし、彼の事業が想像以上の規模に広がっていることが明らかに……。

新たな責任と未来の可能性を描く一話、どうぞお楽しみください。

 辺境伯領の領都に戻った翌朝、ノヴァは身なりを整え、ギュンター卿と共に辺境伯邸を訪れた。重厚な扉の向こうに広がる屋敷は、王都のそれとは異なる、質実剛健な雰囲気をまとっている。辺境伯の居室に通されると、そこには威厳に満ちた辺境伯エルネストと、その隣に立つ若き嫡男、ライナス・フォン・グロリアス公子が座していた。


「ノヴァ・ヴァルシュタインか。久しいな」


 辺境伯エルネストは、懐かしむような眼差しでノヴァを見つめた。ノヴァは深々と頭を下げ、故郷に戻れた喜びを伝えた。続いてライナス公子もノヴァに挨拶をする。ライナスはノヴァよりも11歳ほど年上だが、落ち着いた佇まいと知的な眼差しは、次代の領主としての器を感じさせた。


「君が学院で成し遂げたことは、ユリウスから聞いている。付与魔法……素晴らしい功績だ。稀代の天才といったところか」


 ライナスの言葉にノヴァは恐縮しつつも、素直に感謝を述べた。エルネストは、そんな息子の言葉に満足げに頷く。


「ライナスが褒めるのも珍しい。お前は自分の目で見て、納得したことしか認めんからな。ノヴァお前の事業は、この辺境伯領に新たな道を開いてくれるかもしれん。期待しているぞ」


 辺境伯とライナス公子への挨拶が終わり、ノヴァたちが部屋を辞去しようと扉から出た、その時だった。


「ノヴァ君、少しよろしいかしら?」


 優雅な声と共に、辺境伯夫人が部屋に入ってきた。彼女の顔には、柔らかな微笑みが浮かんでいる。夫人はノヴァの腕をそっと引くと、別室に案内した。


「実は、あなたにお願いしたいことがあって……」


 夫人はそう言って、ノヴァに化粧品が社交界でいかに熱狂的に受け入れられているかを熱心に語った。


「あなたが生み出した化粧品は、王都の貴族たちの間で大変な評判なのよ。特に肌が瑞々しくなる基礎化粧水は、もう手放せないと皆が口を揃えるわ。王都の社交界ではもはやノヴァ君の製品を手に入れることが、女性のステータスになりつつあるの。日々あらゆる筋から『もっと供給してほしい』『どうすれば手に入るの』と懇願されていて、私も嬉しい悲鳴を上げているわ」


 夫人の言葉にノヴァは自分の作ったものが人々の役に立っていることに、純粋な喜びを感じていた。


「そこでお願いがあるの。この製品をもっと多くの人に届けたい。そして新しい製品を開発してほしいのよ。特に女性が求める『美』を、あなたの知識と力で実現してほしいの」


 夫人の瞳は希望に満ちて輝いていた。ノヴァは彼女の言葉に心を動かされ、新たな製品の開発を快諾した。


 辺境伯邸から戻ったノヴァは、仲間たちがギュンター卿の厳しい指導のもと、汗を流しているのを横目に自室で開発に取り掛かった。


(前世の知識を活かすなら……美容液、だろうか。肌の再生を促すには、植物の力と、支援魔法を応用し組み合わせるのが最適だ。肌細胞に美容液は微細な分子レベルで作用し、細胞の自己修復機能を活性化させる。この原理を応用すればできるか……)


 ノヴァは、開発に協力してほしいと、セシリアに声をかけた。


「ノヴァさんのお役に立てるなら、わたくし、喜んで!」


 セシリアは目を輝かせながら応じた。ノヴァは彼女に植物が持つ生命力を最大限に引き出す支援魔法を応用した、新たな美容液の開発を説明した。


「セシリアの支援魔法は、魔力で物質を循環させる力に長けている。この力を使って、ハーブや花から抽出し、その他の成分を完璧なバランスで攪拌かくはんさせるんだ。支援魔法で成分同士をなめらかに結合させる。そうすることで肌が本来持つ再生力を引き出す成分ができるはずだ」


 ノヴァは、前世で学んだアロマテラピーや化学の知識をこの世界の魔法と融合させた。彼はまず辺境伯領の庭園に咲く、若返りの効果があると言われる希少な花、ルナーラから精油を抽出した。セシリアはその精油に魔力を流し込み、花が持つ「再生」と「生命力」を活性化させていく。


 セシリアは、魔力で精油を包み込み、他の成分と混ぜ合わせていく。彼女の繊細な魔法は、まるで一本一本の分子を優しくなでるかのように、完璧なバランスで成分を結合させていった。


「その調子だ、セシリア! 成分同士を掛け合わせ能力を高め合うんだ!」


 幾度となく失敗を繰り返したが、二人は協力のもとついに理想の美容液が完成した。


 完成した美容液は透き通った液体の中に、淡い光が揺らめいている。それはノヴァとセシリアの魔術の結晶だった。


「素晴らしい……。これなら辺境伯夫人もきっと喜んでくれるはずだ!」


 ノヴァはその美容液を小瓶に詰め、再び辺境伯邸へと向かった。


 辺境伯邸の客間には辺境伯と夫人、ライナス公子と筆頭執政官のユリウス、そしてもう一人見慣れた顔の女性。


「イザベラ……!?」


 ノヴァは驚きに目を見開いた。王都へ出立する際に別れて以来だがここで彼女と再会するとは思ってもみなかった。


「ノヴァ様、ご無沙汰をしております」


 イザベラは涼しい顔で微笑んだ。彼女はヴァルシュタイン邸にいた時と同じく、完璧なメイド服を身につけている。


「イザベラ、どうしてここに……?」


「あらノヴァ君、彼女はあなたの美容事業の責任者なのよ。ここに来るのも当然でしょう?例の話と製造に関する現在の状況報告のため来てもらっているわ」


 辺境伯夫人が嬉しそうに説明した。


「責任、者……?」


 ノヴァはイザベラに視線を向けた。イザベラは無表情のまま深く頭を下げた。


「お久しぶりでございます、ノヴァ様。現在、わたくしイザベラ・ラプラスは、シャトー・ノヴァのゼネラルマネージャーとして、ノヴァ様の美容事業を統括しております」


 ノヴァはイザベラの言葉に、内心で大きな衝撃を受けた。自分の事業がいつの間にか「シャトー・ノヴァ」という大層な名前を冠し、彼女がその総責任者になっていた。動揺を隠しノヴァは平静を装いながら、言葉を返す。


「そうか。それは……ありがとう、イザベラ」


(「シャトー・ノヴァ」て何!どうなってるの?何も聞いてないけど!)


「いえノヴァ様。これはすべてノヴァ様の偉大な才能がもたらした成果ですわ」


 イザベラはそう言って、辺境伯夫人に今日の報告を始めた。そしてそこで夫人がノヴァに新たな工場建設を依頼しようとしていることを、ノヴァは耳にする。しかしその建設規模はあまりに大がかりで、会議室で辺境伯邸の筆頭執政官ユリウスも悲鳴を上げ、辺境伯でさえ難色を示すほどの規模だった。


「夫人、それはいくらなんでも……。莫大すぎる。そこまでの規模になりますと辺境伯領の財政が破綻しかねません!」


 執政官ユリウスは、額に冷や汗をにじませながら訴えた。


「ユリウス落ち着きなさい。この事業はノヴァ君が立ち上げたものですが、化粧品産業はこれからの辺境伯領の経済基盤となる産業です。」


 夫人は事業の所有権がノヴァにあることを明確にし、その事業の重要性を強調した。


「ですが夫人のご要望通りとなりますと、工場を増築するというよりは新たな街を作り出すという規模、この規模ですと辺境伯領の年間予算の半分以上が消えてしまいます! ましてや大規模な生産ラインの構築となれば……」


 その時イザベラが静かに、しかし有無を言わさぬ口調で筆頭執政官に告げた。


「ユリウス様。ご心配なく。シャトー・ノヴァ単体でその費用をすべて賄うことが可能でございます」

 

(なんですとー!街を作れるほどのお金があるの?どれだけあるの?どのくらいまで規模が大きくなってるの?怖い!そんなに売れてるわけ?女性の美への執着がすごすぎる……)

 

 ノヴァはイザベラの言葉に、再び驚愕する。彼女は王都の貴族街で石鹸やシャンプー、リンス、基礎化粧水を専売契約している大商会、「金の羅針盤」との取引ですでに天文学的な利益を上げていたのだ。ノヴァは平静を装っていたが、内心ではイザベラの想像を絶する手腕と、自分の事業のあまりの規模に、ただただ驚くばかりだった。


 ノヴァはイザベラの報告を聞きながら、彼女の行動の真意を理解した。彼女はノヴァに心酔し、彼の才能と可能性を誰よりも信じている。ノヴァが魔法学院で勉学に集中できるよう、彼の事業を完璧に管理し拡大させていたのだ。


 イザベラは、ノヴァの美容事業以外にも、別の商会に新製品を卸すことで、さらに利益を増やしていた。彼女の経営力と営業力はまさに天才的だった。


「ノヴァ、君は……」


 ライナス公子はノヴァを見て驚きを隠せない。ユリウスと夫人のやりとりを聞いてノヴァの事業が単なる小遣い稼ぎではない本物の事業であることを知る。


「……素晴らしい。君の事業はこの辺境伯領に新たな道を開いてくれるかもしれん。期待しているぞ」


 辺境伯エルネストもその数字とイザベラの堂々たる態度に、ただただ感心するばかりだった。

 

(違います。僕の知らないところの話なのです。最初は軽い気持ちで母や妹のために作ったものがここまで大きくなってるとは……)

 

 ノヴァはこの日、自分がどれほどの大きな「火種」を置いてきてしまったのかを、改めて痛感するのだった。しかしそれは辺境伯領の未来を切り開く希望の火種でもあった。


 ノヴァは、内心呆然としながら辺境伯邸を後にした。ギュンター卿の修行そして辺境伯領の異変の調査。それに加えて巨大な事業という、新たな責任がのしかかってきた。しかしノヴァの表情は暗くない。むしろその瞳には、未来への希望の光が宿っていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

母と妹のために作った小さな化粧品が、気付けば「街を作れるほど」の規模へと膨らんでいた今回。ノヴァの知らないところで支え、育て続けていたイザベラの存在感も際立ちました。

師の修行と領地の異変、そして大事業──ノヴァに託された未来はますます大きく広がっていきます。次回もぜひ見守っていただければ嬉しいです。

本日分は19時ごろ更新予定です。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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