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第61話 辺境伯領での再会、そして不穏な影

いつも読んでくださりありがとうございます。

今回は学院を離れ、ノヴァが仲間たちを連れて故郷・辺境伯領へ帰還します。家族との再会や剣聖との再会が待つ中、安息の地に潜む影が姿を現し……。

温かさと不穏が交錯する一話をお楽しみください。

 大型の幌付き馬車が、ガタゴトと小気味よい音を立てながら、緑豊かな街道を進んでいた。窓の外には見慣れた王都の景色ではなく、雄大な自然が広がっている。馬車の中には、ノヴァと彼の仲間たち、ユーリ、カイル、セシリア、セレスティア、そしてレオンハルトが乗り込んでいた。


 彼らは今、ノヴァの故郷である辺境伯領へと向かう旅路についていた。2か月間の学院の休みに合わせて、師匠である剣聖の元で修行を積むためだ。


「はぁ〜、まさか俺が馬車に乗って旅する日が来るとはな。これも全部、ノヴァのせいだぜ」


 ユーリが大きなあくびをしながら窓から顔を出し、風に髪をなびかせた。その顔には疲労よりも冒険への期待が満ちている。


「ユーリさん、文句を言っている割には、随分と楽しそうですわね」


 セシリアが微笑みながらユーリにサンドイッチを差し出す。


「うっ、まじか! セシリア、お前料理までできるのか! 完璧かよ!」


「もう! そんなに褒めないでくださいまし! これはわたくしが故郷のメイドに教わったレシピですわ!」


 そんな和やかなやり取りを微笑ましく見守りながら、ノヴァは故郷への思いを馳せていた。


「みんな、本当にありがとう。僕のワガママで、こんな事件に付き合わせてしまって」


 ノヴァの言葉に、ユーリが頬いっぱいにサンドイッチを頬張りながら応える。


「何言ってんだよ、ノヴァ。俺はむしろ感謝してるぜ。学院の閉鎖的な生活にはもううんざりしてたんだ。それにこの世界の『闇』を止めるっていう、お前の純粋な誓い、最高にカッコよかったぜ」


「私に任せればあなたの願いは叶います。私の完璧な知性と天才的な才能があれば、どんな困難も乗り越えられますから」


 セレスティアがふんと鼻を鳴らす。その言葉には以前のような冷たさではなく、仲間への信頼が滲み出ていた。


「僕もノヴァと一緒に戦えて嬉しいよ。僕は治癒魔法しか使えないけど、みんなの力になれるように頑張るから」


 カイルが優しく微笑む。


「みんなありがとう。でもこの世界の闇は、僕が思っていた以上に根深いみたいだ。もしかしたら、僕たちが学院で遭遇した『虚ろな影』と、辺境伯領で起きているかもしれない異変は、同じものなのかもしれない」


 ノヴァは皆の顔を一人ひとり見つめながら、真剣な表情で語り目をつぶった。その言葉は領都で現実のものとなる。


 その日の夕方に馬車は辺境伯領の領都に到着した。故郷の匂いを嗅ぎノヴァの心は高揚した。門をくぐると見慣れた景色が広がり、ノヴァは懐かしさに胸を熱くした。


 ノヴァたちは領都の中心にあるノヴァの屋敷へと向かった。門をくぐると、執事のレオナルドとメイド3名がノヴァたちを待ち構えていた。その後ろには、ノヴァの母エレノア、弟のリアム、そして妹のエリスがたっていた。


「ノヴァ! お兄様!」

 「ノヴァ! お兄ちゃん!」


 ノヴァの姿を見つけると、リアムとエリスは弾けるような笑顔で駆け寄ってきた。


「リアム、エリス! 久しぶりだな!」


 ノヴァは二人の頭を撫でる。リアムはノヴァの胸に飛び込み、エリスはノヴァの腕にしがみついた。


「もう!お兄ちゃんたら、全然帰ってこないんだから!」


 エリスが涙声でノヴァを責める。


「ごめんごめん、エリス。でも、二人の元気な顔を見れて嬉しいよ」


 ノヴァが二人を優しく抱きしめる。その様子をエレノアは微笑ましく見つめていた。


 屋敷のリビングには、ノヴァの母、エレノアが用意してくれた豪華な食事が並んでいた。テーブルの上には、山盛りのローストチキン、色とりどりの野菜、そして焼きたてのパンが並んでいる。そのパンはほんのり温かく、湯気からは甘い香りが漂っている。


「これは……! 豪華ですばらしいご馳走ですね!」


 カイルが目を輝かせながら感嘆の声を漏らす。


「うおー!これは感動するぜ。 これ本当に全部一人で作ったのか、エレノアさん!」


「はい、そうですよ。皆さんが喜んでくれるかと思って、腕を振るいました。さあ、たくさん食べてね」


 エレノアは優しく微笑む。


「ノヴァ様、お初にお目にかかります。わたくし昨年より当家に仕え始めましたメイドのクロエ・デュボアと申します。よろしければクロエとお呼びください」


 新たなメイドが緊張した面持ちで挨拶をすると、ノヴァは優しく彼女挨拶を返した。


「クロエさん、はじめまして。素敵な女性で安心しました。今後とも家族そろってよろしくお願いいたします。」


「はい! よろしくお願いいたします。」


 ノヴァの言葉に、クロエは頬を赤らめはにかんだ。予測外の反応に驚くノヴァへユーリはひやかしの言葉を投げつける。


「おいおい、ノヴァ。お前も隅に置けないな!クロエさんノヴァには気を付けないとだめだよ?」


「 ユーリ!?初見で僕に変なイメージをつけるなよ!」


 二人のやり取りに皆は笑い声を上げた。


 食後ノヴァは皆を連れて訓練場へと向かった。そこには背筋を伸ばし、静かに佇む一人の老人がいた。ノヴァの師匠である剣聖のギュンター卿だ。


「師匠! お久しぶりです。ただいま戻りました。」


 ノヴァが深々と頭を下げる。


「うむ。ノヴァ、久しぶりだな。随分と大きくなった。そしてその顔つき。良い目をしている。おまえは自分の道を見つけたようだな」


 ギュンター卿は、ノヴァの成長を静かに喜んでいるようだった。


「師匠、今日は実はこちらに来たのはお願いがあってのことです。この二ヶ月間、僕たちに修行をつけていただけませんか?」


 ノヴァはこれまでのことを、ギュンター卿に説明する。ギュンター卿は説明を聞き終えると静かに返答する。


「わしは生涯を剣の道に費やしてきた。剣術はいささか教えることはできるが、魔法の方は知見は少しあるが専門外だ。」


「師匠、魔術の技術面ならば私が教えることができますが、魔術を使うための精神的な修練は正直私もまだまだです。しかしその修練は剣術の奥義の修練に近しきものがあると考えています。それにレオンハルトは剣の才能ならリアムと同等の才能を有しています。質実剛健な性格は王龍剣術 聖光流せいこうりゅうの気質に合っていると思います。」


「良いだろう。魔術の方は専門ではないが少しばかりの知識と知見はある。また剣の道にも通じるものもあるしな。まずはその者たちの腕前を見せてもらうぞ」


 安堵も束の間、ノヴァはギュンター卿の表情が少し暗いことに気づく。


 修行の前に、ギュンター卿はノヴァたちを庭へと連れていった。庭にはリアムとエリスが木刀を振るっていた。リアムはギュンター卿から教わった剣術を流れるように披露する。その剣筋はノヴァが見ても驚くほど洗練されていた。


「おいおい、リアム! お前いつの間にそんなに強くなったんだ! 俺と勝負しろよ!」


 ユーリがリアムに挑発的な言葉を投げかける。


「ユーリさん久しぶりなのに挑発的ですね。じゃあ一手勝負しましょうか?」


 リアムは楽しそうに笑いながら、ユーリに木刀を差し出す。そんな二人を見つめていたギューンター卿にユーリは話しかけた。


「師匠! お久しぶりです! 覚えてますか? 昔、師匠にこっぴどく叱られたこと覚えていますよ。」


 ギュンター卿は懐かしそうに目を細めた。


「ああ、覚えておる。お前は昔から剣の才能はなかったが、その明るさだけは昔から変わっておらんな」


 ユーリはガクッと肩を落とす。


「師匠、そんなはっきり言わなくてもいいじゃないですか!」


 二人のやり取りに皆は笑い声を上げた。ノヴァはその光景を微笑ましく見守っていた。


 その日の夜、ノヴァはギュンター卿の部屋に招かれた。


「ノヴァ、お前たちに訓練をつけることは了承した。だがその前に話しておかねばならないことがある」


 ギュンター卿は静かに語り始めた。


「この辺境伯領で奇妙な異変が起きている。村人たちがまるで魂を抜き取られたかのように、虚ろな目になるのだ。完全に虚ろな目になり意識がなくなった村人は、二度と元に戻らない。そして徐々にその数は増えている」


 ノヴァの心臓が、ドクンと大きく鳴った。その異変は学院で見た『虚ろな影』と酷似していた。


 ノヴァは安息の地だと思っていた故郷にも、闇が及んでいることを知り驚愕する。故郷を、愛する家族を守らねばならないと使命感に襲われた。


「師匠、それは……」


「この異変が王都で起きた事件と繋がっている可能性は低い。だがもしものことを考えて、お前たちに話しておかねばならないと思った」


 ギュンター卿の言葉にノヴァは石碑を触れた時に見た光景を思い出した。確かにあの時の会話でヴァルター男爵は謎の人物と話していた。


『……まさかあの剣聖が自ら進んで引退してくれるとは嬉しいことです。いままであの手この手を使用し排除しようとしましたが、全部失敗に終わり厄介だと思ていました。あなたの機転でこのようにうまく事が運ぶとは、……』


 やはり『闇』にかかわるものと剣聖との間に確執があるということだ。このままこの異変を放っておくことはできない。しかし訓練を放棄することもできない。


「ノヴァ、大丈夫だ。俺たちもいる」


 部屋の外で話を聞いていたユーリが、扉を開けて入ってきた。その背後には、カイル、セシリア、セレスティア、レオンハルトが立っている。


「ノヴァ、君一人で背負い込む必要はない。僕たちも一緒に戦う」


 レオンハルトが静かに言った。


「私の完璧な推理でその異変の根源を突き止めてみせるわ。あなたみたいに無鉄砲な正義感だけじゃ、何も解決しないから」


 セレスティアがふんと鼻を鳴らす。


「ノヴァ様、わたくし支援魔法で皆様をサポートしますわ! どんな困難だって乗り越えられます!」


 セシリアが力強く言った。


「僕の治癒魔法も、きっと役に立つはずだ。みんなで力を合わせれば、きっと大丈夫だよ」


 カイルが優しく微笑む。


 ノヴァは、仲間たちの言葉に涙を堪えきれなかった。


「みんな、ありがとう。僕のワガママに、こんなにも付き合ってくれて」


 ギュンター卿は、そんな彼らの様子を静かに見つめていた。そして、深く頷いた。


「ノヴァ、良い友を得たな。2か月の期間しかないが、訓練を私の元で励むが良い。出来る限りのことは伝えよう。ただしこの辺境伯領の異変の調査も並行して協力してくれ。」


 ノヴァたちは、新たな決意を胸に、訓練と調査に臨むことを決めた。辺境伯領の美しい景色に不穏な影が忍び寄る。しかしノヴァと仲間たちの心には互いを信頼し、困難に立ち向かうという強い光が宿っていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

久しぶりの家族との再会や、剣聖ギュンター卿との師弟の絆が描かれた今回ですが、その裏では辺境伯領にも「虚ろな影」に似た異変が広がっていることが判明しました。

仲間たちと共に修練と調査に挑むノヴァ。ここからさらに物語は動き出します。次回もぜひお楽しみに!

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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