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第59話 真実と、壁を越える剣

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

今回は、ノヴァたちの前に未知の「異世界の存在」が姿を現します。

そして戦いの果てに、師匠アルスの過去と、ヴァルター男爵を操る黒幕の影が明らかに――。

大きな真実と新たな決意の回を、どうぞお楽しみください。

 石碑に向き直るノヴァと仲間たちのまえで、石碑を中心にして空間にひびが入っていく。まるでガラスを叩き割るかのような甲高い音が響き、不気味な黒いモヤが立ち上った。


 やがて一番大きな石碑だけでなく、4つの石碑があった場所にもひびが広がり、不気味な黒いモヤが立ち上っていった。


「なっ……なんだ、あれは……!」


 ユーリが驚愕のあまり叫び、不思議な光が収まると、4体の異形な姿を持つ生物が石碑から現れた。角を持つ熊のような獣人、鱗に覆われ二本足で立つ巨体の鰐、漆黒の翼を持つ黒き騎士、そして虚空を漂う黒き体に裂けた口を持つ影。彼らはこの世界には存在しないまさに「異世界の存在」だった。


「……魔族!」


 古の絵本から出てきたような異形種の存在を見てセレスティアが呟く。彼らの放つ魔力は、この世界の魔力とは全く違う性質のものだった。ノヴァは前世の記憶からファンタジー世界の魔物をイメージする。


「みんな気を付けて! こいつらにはおそらくこの世界の魔法は通じない! セレスティア、火魔法を試してみてくれ!」


 セレスティアが放った火炎の魔法は闇の魔力に対抗し、かろうじてその形を数秒程度保っていた。しかし虚空に飲み込まれ、最初から存在しなかったかのように無効化された。


 魔術が効かないことに、皆が絶望しかけたその時だった。


「ユーリ、セシリア、カイルは治癒と支援に回ってくれ! セレスティアは僕のサポートを!」


 ノヴァは懐から取り出した剣を構える。その構えにユーリがニヤリと笑った。


「ははっ、その構えは……まさか、本気でやる気か? 剣聖から習った、剣術の極みの奥義を」


「ユーリ、君も知っているだろう。剣技には魔力に頼らない気の力を使って戦う方法があることを。こいつらに魔法が通じないのは厄介だが気の力なら通じるはずだ!」


 ノヴァは剣に魔力ではなく気の力を込める。彼の剣から放たれた斬撃はまるで圧縮された風の刃のように空間を切り裂き、最も近い鱗に覆われた巨体の魔族の腕を骨ごと切り落とした。鈍い断裂音が響き魔族の咆哮が洞窟に木霊する。


「……通じた!すごい!」


 セシリアが目を輝かせる。ノヴァはまるで舞うように4体の魔族の間を駆け抜ける。彼は巨体の魔族の攻撃を紙一重でかわすと、その背後から現れた漆黒の翼を持つ騎士の剣を自らの剣で受け流した。火花が散り鋼が軋む音が鳴り響く。


 彼の剣技は時に水の流れのような滑らかさで、時に嵐のように激しく、次々と魔族を退けていった。その動きはもはや剣術というよりも、洗練された舞踏のようだった。


「レオンハルト、君もこい!ここ最近の練習で君も気の扱い方は身につけたはずだ、もてる技術のすべてを振り絞って対応するんだ!」


 ノヴァの指示にレオンハルトも剣を構える。彼の剣技はノヴァの指導によって磨かれ、もはや以前の比ではなかった。ノヴァが剣で魔族の注意を引きつけ、その隙にセレスティアが目くらまし代わりに炎属性の魔術を放つ。


 炎の矢、炎の槍、火の弾丸。それらがノヴァの剣と完璧に連携し、魔族の動きを封じていく。そしてそのすきをついて複合魔術でスピードと力を増したレオンハルトの気を込めた剣が漆黒の翼を持つ騎士の背中を切りつける。


「ハハッ!いいぞレオンハルト!君の剣技と性格、その組み合わせはまさに芸術だ!」


「ノヴァに言われるとはな!だが悪くない!」


 ノヴァたちの猛攻に、4体の魔族は次々と消滅していった。彼らが消滅すると残っていた闇の魔力も霧のように消え去った。


「ノヴァ、こいつらは一体……?」


 ユーリの問いに、ノヴァは剣の柄を握りしめたまま、真剣な表情で答える。


「この異形種はこの世界の生物とは根本的に違う。負の感情を糧にする力……おそらくはこの世界には存在しない異世界の力だ」


 その言葉に皆が息をのむ。彼らが退けた異形種は闇の魔力によってかろうじてこの世界に存在できていた、ただの道具に過ぎなかったのだ。


「この闇の魔力は、僕たちが使う魔力と根本的に違う。まるで負の感情や絶望そのものを燃料にしているみたいだ。だからこそ僕たちの魔法が効かない。魔力も生き物と同じように、その世界の理でなければ存在できないはずだ」


 ノヴァは、自分の前世で空想上の考察であるがラノベ本などで得た知識を総動員して、この現象を分析していた。彼の言葉は仲間たちにとってあまりにも突飛なものだったが、目の前の現実がそれを証明していた。


「つまりこの地下施設は、異世界と繋がっている可能性があるってことか?」


「ああ。そしてそれを可能にしたのがこの石碑と魔法陣だ。」


 ノヴァは最後に残った1つの石碑に触れた。その瞬間彼の意識は遠い過去へと引き戻される。


 そこには若き日の師匠アルスがいた。彼はノヴァが探していた『魔力枯渇の魔法陣』ではなく魔力循環による永久機関の研究を行っていた。その研究は魔力資源の枯渇に悩む世界を今より一段高みに上げる画期的なものだった。


 しかしアルスが魔塔の研究機関の中でもとびぬけた天才であったことから、他の研究者たちの嫉妬を買いていた。


「アルス!お前の研究は、我々の存在を脅かすものだ!こんなものが完成したら、魔術師は必要なくなる!」


 嫉妬に狂った研究者たちは、アルスの研究を妨害しようと数々の嫌がらせを繰り返す。


「みんな、そうじゃない!これは魔術師を無用にする機械じゃなく人類がさらなる高みに至る画期的な研究なんだ!!」


 表面上仲の良かったはずの同僚もアルスを裏切るばかりか、何とアルスの気が付かないうちに魔法陣を勝手に書き換えてしまう。複雑な魔法陣に書き込まれたその術式は偶然異世界の扉を開いてしまう。扉を開いた瞬間その同僚はこの世にもともと存在しなかったかのように闇の光に飲み込まれ消滅してしまう。一緒になって魔法陣に手を出していた同僚も慌てて暴走を食い止めようと奮闘するも、間に合わず闇の光による大暴走が起こった。


「くそっ……アルスのやつめ。こんな実験を断りもなく進めていやがるとは……。」


 嫌がらせを行っていた研究者たちは、あまりの事態に狼狽し、その責任をアルスに押し付け研究室から逃げ出した。


 さらに記憶は続く。最終的にアルスを追放したのは、魔塔の当時の上層部だった。彼らは元々アルスの才能が自分たちの地位を脅かすことを恐れていた。そして若き研究者たちが暴走して起こしたこの事件を好機と捉え、全ての責任をアルスに押し付けた。


 アルスはすべての功績をはく奪され、そして危険思想を持つ魔術師として魔塔から追放されてしまったのだ。ノヴァはアルスの記憶から意識を戻すと改めて石碑に触れる。するとなぜかヴァルター男爵の記憶が流れ込んできた。彼はこの闇魔法の力を利用して、自身の権力を強化しようと企んでいた。


 ノヴァが見たヴァルター男爵は豪華な部屋で、顔の見えない高位貴族と向かい合っていた。その高位貴族はヴァルター男爵に話しかける。


「男爵。あなたのおかげで、計画は順調に進んでいますよ。まさかあの剣聖が自ら進んで引退してくれるとは嬉しいことです。いままであの手この手を使用し排除しようとしましたが、全部失敗に終わり厄介だと思ていました。あなたの機転でこのようにうまく事が運ぶとは、あなたのような優秀な人間が味方にいてくれて助かります」


「な、何を仰せですか!このヴァルター、あなたの御期待に応えるべく、日々全てを尽くしております!」


 ヴァルター男爵は男の言葉に顔を赤らめる。彼の自尊心はこの男に操られていることも理解できず、ただ褒められていると勘違いしていた。


「ええ、分かっていますとも。だからこそあなたには更なる権力と、富を与えましょう。この計画が成功すればあなたは王国でもっとも力を持つ男になれる。辺境伯ごとき物の数ではありません」


 男は嘲るように微笑むとヴァルター男爵の背中を軽く叩いた。ヴァルター男爵はその言葉で有頂天になり男の思惑通りに動いていく。


 高位貴族の老練な男は、ヴァルター男爵の陶酔した表情を冷ややかに見つめていた。まるで手懐けた犬を見るような目だった。


「男爵、あなたにはもう1つ、大事な仕事がある。先日学院で起きた騒動の件だ。優秀な学生たちが、我々の計画の障害となりうる……特に、例のノヴァという剣聖の薫陶を受けた少年は我々の目的を脅かす存在だ。あなたは彼らの動向を監視し必要とあれば……排除してください」


 男はそう告げると、冷酷な笑みを浮かべた。その言葉にヴァルター男爵は一瞬顔を強張らせたが、男が差し出した金貨の袋を見て再び卑屈な笑顔に戻った。こうしてヴァルター男爵の背後には、王国の高位貴族が関わっていることが明らかになる。


 ノヴァはヴァルター男爵の背後にいる巨大な闇と、師匠アルスの過去の悲劇を知り改めてこの闇を止める決意を固める。彼は仲間たちに今見た映像と会話の内容を説明し今後の計画を話し始める。


「みんな僕たちの敵はヴァルター男爵だけじゃない。その背後には、王国の高位貴族が関わっているみたいだ」


「なんだって!?」


 ユーリが驚きの声を上げるが、ノヴァは冷静に語り続けた。


「……この魔法陣は師匠が平和のために作った永久機関の研究だったみたいだ。それを他の研究者たちが嫉妬から書き換え、偶然今回の事態に繋がったんだ」


「なんてことだ……」


 レオンハルトはアルスの過去に言葉を失う。


「僕はこの闇を止める。そして師匠が本当に作りたかった永久機関を完成させてみせる。これが僕にできる師匠への恩返しだ」


 ノヴァの言葉に仲間たちは静かに頷く。彼らはノヴァと共にこの巨大な闇に立ち向かうことを決意した。ノヴァたちの決意は、闇の空間に希望の光を灯した。彼らの新たな戦いが、今、始まる。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ついに姿を現した異世界の魔族、そしてアルス師匠の研究に秘められていた悲劇。

さらにヴァルター男爵の背後に潜む「高位貴族」の存在が、物語を一気に広げていきます。

次回は、この決意を胸にノヴァたちがどのような一歩を踏み出すのかを描きます。

ぜひ引き続きお付き合いください。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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