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第50話 星の輝き、絆と決意の灯火

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回のお話ではノヴァが抱えていた重圧と不安に、仲間たちとの絆を通して答えを見つけていきます。

一人で背負うのではなく共に歩むからこそ強くなれる――その気づきが彼を成長させていくのです。

そして舞台は、新たな学年へ。物語の節目となる一話を、どうぞお楽しみください。

 王立魔術学院の図書館の片隅で、ノヴァは珍しく沈んだ表情で資料を読み込んでいた。入学して一年。彼にとって初めての学年末を迎えようとしていたが、その顔にはここ数日まともに睡眠を取っていないかのような疲労の色が浮かんでいる。学院に潜む「闇」の片鱗に触れて以来彼の心には重い鉛がのしかかっていた。


(この図書館を日ごろ使用しているものは限定的だ……図書館の使用者でも体調不良者が意外と多いいことも……)


 事件の全貌は未だ掴めない。しかしその危険性だけは嫌というほど理解できた。何よりも原因不明の体調不良に苦しむ生徒たちの顔がノヴァの脳裏に焼き付いて離れない。


(僕には彼らを救う力があるはずだ。前世の知識とこの世界の魔法……全てを組み合わせれば、どんな困難も乗り越えられるはずだった……)


 ノヴァは拳を握りしめた。これまでの彼は異世界から来た「チート」な存在として、自分一人で全てを解決できるという根拠のない驕りを心のどこかに抱いていた。しかし今回の事件はその思い上がりに冷水を浴びせるものだった。


 学院は広く生徒の数は膨大だ。自分の手が届かない場所で、無関係な生徒たちが傷つけられている現実。そしてその背後にある深い闇。自分一人の力では全てを網羅し、守り切ることなど不可能だという恐れが、ノヴァの心を苛んでいた。使命感と日常との間で揺れる心。彼の胸にはかつてないほどの葛藤が渦巻いていた。


 そんなノヴァの異変に、真っ先に気づいたのは、彼とこの学院で一年同室に過ごした仲間ユーリだった。いつもの明るい笑顔が消え眉間にしわを寄せ、魔法書と睨めっこしているノヴァの姿は彼にとって異様に見えた。


「おい、ノヴァ。お前、最近顔色悪いぞ? なんか気にしてることがあるなら俺に言えよ仲間だろ?」


 ユーリはノヴァの隣にどっかりと腰を下ろすと、心配そうな顔で覗き込んだ。


「大丈夫だよ、ユーリ。少し考え事をしていただけだよ」


 ノヴァは取り繕うように答えるが、その声にはいつもの覇気がない。ユーリはそんなノヴァの態度に不満げに首を振った。


「嘘つけ! お前、いつもならどんな難しい課題だって、面白そうにニヤニヤしながら解いてるじゃねぇか! なんかいつもと違うんだよ。俺にも言えないようなことか?」


 ユーリの言葉はまるでノヴァの心を見透かしているかのようだった。ノヴァは言葉に詰まる。その時静かに近づいてきたセシリアが、遠慮がちにノヴァの袖を引いた。


「ノヴァさん……私も心配しています。もし何かお力になれることがあれば……私も自信があるわけではありませんけれど、ユーリさんと一緒に、支えさせてください……」


 セシリアの透き通るような瞳が、ノヴァをまっすぐに見つめている。彼女の言葉には確かな仲間意識が宿っていた。そしてさらに意外な人物が彼らのもとに現れた。


「やはりここにいたか、ノヴァ」


 現れたのはレオンハルトだった。彼もまたノヴァを気にしていたのだ。


「レオンハルト……」


 ノヴァが驚いて見上げると、レオンハルトはいつもの冷静な表情ながらも、どこか心配そうな色を浮かべていた。


「この学院の事件について、単独で抱え込むつもりではないだろうな。君の顔色を見るに少々思い詰めているようだ」


 レオンハルトの言葉はまるでノヴァの心の奥底を見抜いているかのようだった。ユーリ、セシリア、そしてレオンハルト。三人の仲間が、自分を気遣ってくれている。ノヴァはこれまで「異世界人」として、どこか彼らとは一線を引いていた自分に気づかされた。彼らは単なるこの世界の住民ではない。自分を信じ共に立ち向かおうとしてくれる、かけがえのない仲間なのだと。


 ノヴァはゆっくりと顔を上げ、三人の仲間を見つめた。


「……僕は少し思い上がっていたようだ。多少の問題は僕一人で何とかできると……」


 ノヴァが正直な気持ちを打ち明けると、ユーリは笑いながらノヴァの背中を叩いた。


「当たり前だろ! お前だって人間なんだから、全部一人でできるわけねぇだろ! 俺たちだっているんだぞ!?」


「はい……私たちは、ノヴァさんの実力を心から尊敬しています。でも、ノヴァさん一人で全てを背負う必要はありません……」


 セシリアも真っ直ぐな言葉を紡いだ。レオンハルトも静かに頷く。


「そうだ。君は確かに優れた才を持つ。だが人間には得意不得意がある。そして盲点というものもある。だからこそ人は互いに協力し、補い合うのだ」


 ユーリの軽快な言葉、セシリアの純粋な優しさ、そしてレオンハルトの理路整然とした助言。それらはノヴァの心に深く染み渡った。彼らは単なる「教え子」や「この世界の住人」ではない。互いに信頼し、支え合うことができる対等な友人なのだ。


「ありがとう……みんな」


 ノヴァは心からの感謝を込めて言った。彼の表情には再びいつもの冷静さと、そして温かな光が戻っていた。


 ユーリたちとの語らいを経てノヴァの心には新たな決意が宿った。学院に潜む闇を解き明かしこの世界を守る。その決意にはもはや「異世界人」としての使命感だけでなく、ユーリやセシリア、レオンハルト、学院の全ての生徒たち……自分に関わる全ての人々を守りたいという、個人的で温かい感情が強く含まれていた。


(僕一人で全てを抱え込む必要はない。だが守るためには僕自身がさらに精進し、僕の持つ知識や知見を惜しみなく仲間のために使う必要がある)


 ノヴァは、己の「自惚れ」を捨て去ることを誓った。これからは仲間の成長を促進するために、積極的に助言し訓練に付き合う。例えばセシリアの魔力制御の精度をさらに高めるための具体的な訓練法や、ユーリの属性魔法をより効率的に使うための魔力操作の修行など、彼が前世で培った物理学や化学、現代の知識とこの世界の魔術を融合させた、革新的な指導法を惜しみなく提供していく。レオンハルトとも互いの知識を共有し、より深い戦略を練り上げることも可能になるだろう。


 ノヴァは、図書館の窓から差し込む光を見上げた。その瞳にはかつての迷いはなく、強くそして温かな光が宿っていた。


 その後、ノヴァ、ユーリ、セシリア、レオンハルトの仲間たちは、以前にも増して連携を密にした。図書館を中心に異変がないか監視し、新たな情報を着実に掴んでいった。学年末の試験も無事に乗り越え、ノヴァは学院での1年を締めくくった。


 特にノヴァは精神的に大きく成長した。一人で抱え込まず仲間を信じ頼ることを覚えたのだ。ユーリとの絆は揺るぎないものとなり、セシリアも以前のような臆病さは消え、堂々と自分の意見を言えるようになった。レオンハルトとの間には、硬質な信頼関係が築かれ、互いを認め合う盟友となった。

 

 そして学院は学生たちが待ちに待った長期休暇に入った。王都の喧騒もいつにも増して活気を帯びている。そんな中ユーリから休暇中にルナから王都の剣術本部道場に短期の修行に来るという手紙を受け取っていたため、ノヴァは久しぶりの再会に期待を胸に膨らませていた。王都の宿舎で再会したルナは、以前と比べ女性らしくなり、顔は引き締まった顔つきをしていた。


「ノヴァ!」


「ルナ! 久しぶりだな!」


 互いの顔を見るなり二人は満面の笑みを浮かべた。

 

「王都での修行、どうだ?」


 ノヴァが尋ねるとルナは目を輝かせた。


「うん! すごく厳しいけど、新しい技もたくさん教えてもらってる! いつかノヴァやユーリと一緒に冒険に行って強い魔物を倒しに行きたい!」


 そこに用事を済まし顔を出したユーリが合流した。


「おーい! ノヴァ、ルナ! なんだよ、二人でイチャイチャしてんのかー?」


 ユーリの登場にルナは顔を赤くしてプンスカ怒る。


「ユーリ兄! 変なこと言うなよ!」


「アハハ! 悪い悪い! でもルナもすっかり剣士の顔になったな! 俺も負けてらんねぇぜ!」


「ユーリ兄も、もっとちゃんと魔法の練習してよ! ノヴァがいつもユーリ兄の面倒見てるって言ってたんだから!」


「うっ…そ、そんなことねぇし! ていうか、人のこと言ってる場合かよ! オレがいないとルナはすぐ迷子になるくせに!」


 ユーリとルナの賑やかなやり取りに、ノヴァは思わず笑みがこぼれた。彼らの変わらない明るさに、凝り固まっていた心が解きほぐされていくのを感じた。


 数日後、ノヴァはルナと共に王都の剣術本部道場へと赴いた。そこはかつて剣聖ギュンター卿がノヴァを連れ稽古をつけてくれた場所だ。ノヴァはルナとの手合わせを通して自身の剣技を磨く機会を得た。


「ルナ、遠慮はいらないよ。全力でかかってきて。」


「うん! ノヴァも手加減しないでよ!」


 二人は木剣で対峙する。ルナの剣筋は以前よりも格段に鋭くそして重くなっていた。ノヴァは剣術を極めるルナの才能に目を細める。時にノヴァが教える側に回り、ルナの剣技の弱点を的確に指摘し、改善策を提示した。ルナはノヴァとの現在の力差を再確認しさらに修練への情熱を燃やしていた。


 王都の道場で剣を交え、王都の街を三人で散策し、束の間の休息を楽しんだノヴァ。セシリアは実家で、レオンハルトも侯爵家嫡男として多忙な日々を送っていたが、彼らは皆学院での出来事を振り返り、新学年に向けて英気を養っていた。


 長期休暇が終わり学院に活気が戻ってきた頃。それぞれの学年が1つずつ進級し、ノヴァは2年生へと、ユーリ、セシリア、そしてレオンハルトは3年生へと進級した。学院生活は新たな局面を迎えようとしていた。


「なあ、次のクラス替えどうなるかなぁ!」


 ユーリがはしゃぎながら、隣を歩くセシリアとレオンハルトに話しかける。


「そう言えばノヴァたち2年生に最近ちょっと話題の奴らがいるぜ? なんでも、一人は『炎の魔女』の2つ名を持つ天才肌の女の子で、もう一人は治癒ができる水魔法の使い手らしいぜ!」


 ノヴァが2年生に進級することで新しい出会いが待っている。そしてその出会いが、学院の闇に立ち向かう彼らの物語を、さらに大きく動かすことになるだろう。


 学院の門をくぐり新たな学年へと進む彼らの後ろ姿はもはや単なる学生ではない。学院の闇に立ち向かい未来を切り開く力強く頼もしい存在として彼らの物語は続いていく。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

ノヴァは仲間たちの言葉を受け入れ、ついに「一人で戦う」から「共に進む」へと心を切り替えました。

そして学院生活は新たな学年へ。これから新しい仲間との出会いも待っています。

彼らの物語は、ますます大きく動き出していきますので、次回もぜひ見届けていただければ嬉しいです。執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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