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第48話 森の試練、神童と風の刃

いつもお読みいただきありがとうございます。ついに累計PVが3000を突破しました㊗。

ありがとうございます。このままゆっくり継続していきますのでよろしくお願いいたします。

さて今回は、

学院での初の大規模課題――舞台は危険な“嘆きの魔物の森”。

新入生と上級生が共に挑むその試練は、単なる学びにとどまらず、生死を懸けた実戦の場でもあった。

神童と呼ばれる少年が、仲間と共に何を掴むのか。その答えは、深き森の奥に待ち受けていた――。

 王立魔術学院にざわめきと緊張感が満ちていた。それは新入生と上級生が混合でチームを組み、初の共同課題が課される日だったからだ。課題の舞台は王都周辺に広がる”嘆きの魔物の森”。目的は森に生息する魔物の討伐、そして生態調査だった。


 この共同課題は、学院の毎年恒例の行事であり、その歴史は古い。約300年前、突如として王都近郊に出現したこの森は、多くの魔物を生み出し民を苦しめた。


 当時の賢者たちが封印を試みるも失敗し、最終的には王家と魔術師団が協力して、森の魔物を定期的に間引くことで均衡を保つ方針となった。以来王立魔術学院の生徒が実践訓練としてその任の一部を担うようになったのだ。


 しかしこの課題は「実戦」に他ならない。


「……今回の課題は、各自の総合的な能力が問われることになります。特にチームワークは重要です」


 学院長が壇上から厳しい声で告げる。その顔には、いつになく緊張の色が浮かんでいた。


「毎年のことではありますが、改めて警告しておきます。この課題で多くの負傷者が毎年出ています。中には生命を落とした者もいることを決して忘れないでください。油断は死に直結します。学院の教師陣も同行し、万全の体制で臨みますが、各々が命を守る意識を強く持つこと」


 学院長の言葉に、生徒たちの間に重い沈黙が広がる。特に新入生の中には、顔を青ざめさせる者もいた。命を懸けた課題それがこれから彼らに課されようとしていた。


 今回の共同課題のチーム編成は、学院側が慎重に検討したものだった。そしてノヴァとユーリは、当然のように同じチームに組まれていた。


「よっしゃ! ノヴァ、俺たち一緒のチームか! こりゃ心強いぜ!」


 ユーリが満面の笑みでノヴァの肩を叩く。ノヴァも小さく頷いた。


「ああ。ユーリがいてくれると助かる」


 しかし彼らのチームは、一筋縄ではいかないメンバー構成だった。チームリーダーは、貴族筆頭の成績を誇る、侯爵家の嫡男レオンハルト・フォン・ヴァイスブルク。彼はノヴァの才能を認めつつも、その異質なあり方に対して強い警戒心を抱いている。そしてその取り巻きである子爵家の次男ジークフリート・クルーガーは、公然とノヴァを「平民上がりの異端児」と揶揄し敵意を隠さない。


「ふん。よりによって辺境士爵の養子と、平民のお調子者と同じチームか。おまけに落ちこぼれ嬢までいるとはな」


 ジークフリートが嘲るように鼻で笑った。彼の視線の先には同じチームに組み込まれたセシリア・リンドバーグがいた。セシリアは身を縮こませ俯いている。ユーリがムッとして言い返す。


「おい、ジークフリート! てめぇ、何言ってやがる! セシリアは落ちこぼれじゃねぇし、ノヴァは神童様だぞ!」


「ああ? ユーリ・バルマン、貴様分をわきまえろ。貴様のような者が私に口答えするとはな」


 ジークフリートは露骨にユーリを見下した。レオンハルトは黙ってその様子を見ているだけだった。彼の表情は硬く何を考えているのか読み取れない。


「…まあまあ、二人とも落ち着いてください。せっかくの共同課題なのですから、仲良くやりましょう!」


 チームの一員である気さくな伯爵家の令嬢、リリアーネ・フォン・ローゼンバーグが慌てて仲裁に入った。しかしチーム内の軋轢は明らかだった。ノヴァはそんな彼らのやり取りを静かに見つめていた。


(これは一筋縄ではいかないな。特にジークフリート……彼の嫉妬は、厄介な火種になりかねない)


 ノヴァはジークフリートの露骨な敵意を感じ取っていた。しかし彼にとっては、この軋轢もまたこの世界の人間関係を学ぶ貴重な機会だった。


 ”嘆きの魔物の森”での共同課題が始まった。チームは教師の引率のもと、森の奥へと進んでいく。序盤は順調に小型の魔物を討伐し、生態データを収集していた。しかし、事件は不意に起こった。


「……っ、みんな待って! この魔力の気配は……っ!」


 ノヴァが不意に足を止め、周囲を警戒する。その瞬間地鳴りのような咆哮が森に響き渡った。


 ゴオオオオオオオオオオッ!


「な、なんだ!? この魔力は……!?」


 レオンハルトが驚愕の声を上げる。森の奥から現れたのは、通常この地域には生息しないはずの大型魔獣「フォレスト・レックス」だった。体長5メートルを超える巨大なトカゲのような姿に、禍々しい魔力を纏っている。


「馬鹿な!? フォレスト・レックスだと!? なぜこんな場所に!」


 教師の一人が叫んだ。その顔は蒼白だ。フォレスト・レックスは、学院生が太刀打ちできるような魔物ではない。撤退の指示が出されるが、すでに魔獣は彼らに向かって突進してきていた。


「くそっ、間に合わない!」


 ジークフリートが焦って魔法を発動するが、大型魔獣の皮膚にはまるで効かない。レオンハルトも強力な魔法を放つが、その巨体にはかすり傷1つつけられない。


 その時、ノヴァが動いた。


「ユーリ、セシリア! 援護を!」


「おう!」


「は、はい!」


 ノヴァは一瞬で魔力を凝縮し、その両腕から火と風の複合魔法を放った。螺旋を描く炎の竜巻がフォレスト・レックスに直撃し、その突進を僅かに遅らせる。その隙にユーリが風魔法で素早くノヴァを魔獣の懐へ押し込んだ。


「ノヴァ!危ない!」


 ジークフリートが叫ぶが、ノヴァはまるで気にしていない。彼は懐に飛び込むと同時に、腰に下げていた短剣を抜き放った。その剣は魔力を帯びて淡く輝いている。


ヒュンッ! キィィィン!


 ノヴァの剣は、フォレスト・レックスの硬い鱗を避け、わずかな隙間を狙って突き刺さった。魔獣が苦痛に咆哮する。


「な、なんだあの剣技は……!? 見たことがない……!」


 レオンハルトが驚愕に目を見開いた。ノヴァはまるで剣士のように、流れるような動きで魔獣の急所を狙い続ける。しかしさすがに大型魔獣。一筋縄ではいかない。魔獣が尻尾で薙ぎ払いノヴァが大きく吹き飛ばされる。


「ノヴァ!!」


 ユーリが叫んだ。その時、セシリアが前に出た。


土壁アースウォール!」


 セシリアが咄嗟に土魔法で柔らかな壁を作り、ノヴァの体を衝撃から守る。ノヴァはすぐに体勢を立て直し魔獣を睨みつけた。


「ユーリ! 後続の足止めを! セシリアは防御を頼む! 僕は奴の動きを止める!」


「任せろ!」


「はいっ!」


 ユーリが次々と風魔法で後方から迫る小型魔物を吹き飛ばし、光魔法で目眩しをかける。セシリアは土壁を何重にも展開し、チームの盾となる。ノヴァは再び魔獣に向かって駆け出した。


 彼は光魔法を掌に集中させた。放たれた光はただの光弾ではなく、魔獣の神経系を麻痺させるように狙いを定めていた。<閃光弾>それは前世の知識と魔術の知識を応用した彼独自の術式だった。


「グアァァァァァァァ……ッ!?」


 フォレスト・レックスの動きが一瞬だけ鈍る。その隙をノヴァは見逃さなかった。彼は再び短剣を構え、全身の魔力を剣に集中させる。剣が眩い光を放ち、その刃が異常なほど鋭く長く伸びた。


 ノヴァは集中し無心になる。彼の視界から周囲の風景が消え、ただ「魔獣の頭部のわずかな隙」だけが鮮明に映る。


「……『閃光絶命剣』」


 彼の口から、かつてギュンター卿からその奥義を授かった際に聞いた技の名が静かに零れた。


スッ――


 再び光のような一閃が、魔獣との間合いを駆け抜けた。その一撃はあまりにも速く、レオンハルトやジークフリートはもちろん、引率の教師たちでも何が起こったのかすら理解できなかった。彼らが目を瞬かせた時には、光を帯びた剣は既にフォレスト・レックスの頭部の急所を寸分たがわず完璧に貫き、魔獣は断末魔の叫びと共にその巨体を大地に横たえていた。


 静寂が訪れる森に、生徒たちの驚愕と安堵の声が響き渡った。


「……倒した……のか?」


 ジークフリートが呆然と呟く。レオンハルトはノヴァのあまりにも規格外な戦いぶりに、言葉を失っていた。


「ノヴァ! 無事か!?」


 ユーリが真っ先に駆け寄りノヴァの肩を掴む。セシリアもホッとした表情でノヴァを見つめていた。


 引率の教師たちは、信じられないものを見るかのようにノヴァに近づいた。


「ノヴァ・ヴァルシュタインくん……まさか、君がフォレスト・レックスを一人で倒すとは……」


 教師の言葉は震えていた。ノヴァは涼しい顔で答える。


「いえ、ユーリとセシリアの援護があったからこそです。それにチームの皆さんのおかげで、集中できました」


 ノヴァは自分だけの功績ではないことを強調した。その言葉にチームのメンバーの表情が変化した。特にジークフリートは悔しさとそして認めざるを得ない圧倒的な実力に、複雑な表情を浮かべていた。


「……まさか、あのフォレスト・レックスを……」


 レオンハルトが、ノヴァに一歩近づいた。


「ノヴァ・ヴァルシュタイン。貴殿の実力……見事だった。そして我々の不手際を謝罪する。貴殿とユーリ、セシリア殿の判断と連携がなければ我々は危なかった」


 レオンハルトは貴族のプライドをかなぐり捨てて、ノヴァとユーリ、セシリアに頭を下げた。ジークフリートはその様子に歯ぎしりしたが何も言えなかった。今回の課題でノヴァとユーリそしてセシリアの実力は、疑いようのないものとしてチームメンバー全員に認識されたのだ。


 共同課題を通して、ノヴァとユーリ、セシリアのコンビネーションはより強固なものとなった。特にノヴァとユーリは、互いの動きを完璧に読み言葉なしに連携を取れるほどになっていた。ユーリの持ち前の身体能力と風・火・光魔法によるサポートは、ノヴァの圧倒的な知識と多属性魔法、そして剣技を最大限に引き出した。


 課題の成功とフォレスト・レックス討伐という功績は、学院内に瞬く間に広まった。ノヴァの存在感はもはや単なる「特待生」や「神童」という枠には収まらないものとなっていた。


「おい、聞いたか? ノヴァ・ヴァルシュタインのチーム、フォレスト・レックスを討伐したらしいぞ!」


「マジかよ! あんな危険な魔獣を……!?」


「なんでも、ユーリ・バルマンとセシリア・リンドバーグも大活躍だったとか!」


 学院中、彼らの話題で持ちきりだった。食堂での昼食時、ノヴァ、ユーリ、セシリアのテーブルには以前よりも明らかに尊敬の眼差しが向けられるようになっていた。ジークフリートは遠巻きに彼らを見て、未だ不機嫌そうな顔をしていたが、レオンハルトは時折ノヴァのほうに視線を送り何かを考えているようだった。


「なあノヴァ、俺たちマジで強くなったよな!」


 ユーリが得意げに胸を張る。セシリアも以前とは見違えるような自信に満ちた笑顔で頷いた。


「はい……ノヴァさんとユーリさんのおかげです。本当にありがとうございます!」


 ノヴァは二人の成長と、彼らの変化に満足げな笑みを浮かべた。


(このメンバーなら、どんな困難も乗り越えられるだろう……)


 学院内でのノヴァ、ユーリ、セシリアの存在感は、「頼れる実力者」として確固たるものへと変わり始めていた。彼らの活躍は学院の未来を、そしてこの世界の魔法の常識をも、静かに、しかし確実に変えていくことになるだろう。魔物の森での試練は彼らの新たな物語の、確かな一歩となったのだ。

今回、ノヴァはついに「剣聖の教え」を実戦の中で発揮し、仲間と共に不可能とされた魔獣を討ち果たしました。ユーリとセシリアの成長も目覚ましく、三人の絆はより強固に。学院内での評価も確固たるものへと変わり始めましたね。森の試練を経た彼らは、もはや“新入生”という枠を超えつつあります。この先、学院でどのような執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

波紋を広げていくのか、ご期待ください。

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