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第43話 隠し子の噂と、神童の波乱

いつもお読みいただきありがとうございます。

さて今回は、王立魔術学院の試験日、ノヴァは緊張よりも期待を胸に会場へ向かいます。

しかし、思わぬ噂と周囲の視線、そして試験で示した圧倒的な実力が、彼を「ただの受験生」ではいられなくさせていきます――。

 王立魔術学院の試験当日。ノヴァはいつも通り朝食を済ませると、軽やかな足取りで辺境伯邸の玄関へ向かった。試験会場までは邸宅からさほど遠くない。王都の朝の空気を感じながら、歩いて向かうのも悪くないだろう。


「ふぅ、よし、出発だ!」


 ノヴァが扉に手をかけ扉を開けると落ち着いた声が聞こえた。


「ノヴァ坊ちゃま、どちらへ?」


 扉を開けるとと執事長グレイブスが、いつもの姿勢で立っていた。その後ろには、ノヴァが乗ってきたのと同じ、豪華な馬車が用意されている。


「ああ、グレイブスさん。試験会場まで、少し歩いていこうかと。気分転換にもなりますし。」


 ノヴァがそう答えると、グレイブスの表情にわずかに動揺の色がよぎった。


「そ、それは……困ります、坊ちゃま!」


 グレイブスは一歩前に進み出て、深々と頭を下げた。


「坊ちゃまは、辺境伯家の賓客としてこの邸におられます。辺境伯様からも辺境伯家の人間と同等の扱いをするよう厳重に命令されております。王都を徒歩で移動されるなどあってはなりません。辺境伯家の名誉にも関わりますゆえ、どうか、馬車でお出ましくださいませ!」


 ノヴァはまさか執事長にここまで懇願されるとは思わず、困惑した。しかしグレイブスの真剣な眼差しに、折れるしかなかった。


「は、はは……わかりました、グレイブスさん。では、馬車でお願いします。」


「かしこまりました! 光栄でございます!」


 グレイブスは、顔を輝かせ、馬車の扉を開け従者に指示した。


 馬車に乗り込むとグレイブスも同乗した。車内でグレイブスは王都の街並みや主要な建物の説明を始めた。


「こちらの通りは、王都でも有数の商人が店を構える場所でございます。あちらに見えますのは、国立図書館……」


 ノヴァはグレイブスの丁寧な説明に耳を傾けながら、窓の外に流れる景色を眺めていた。王都の様子は辺境伯領とは全く異なり刺激に満ちている。


 しばらく進むと古いが威厳があり、それでいて完璧に整備された巨大な建物へと近づいていく。それが王立魔術学院だとすぐに分かった。しかし学院への出入り口が、ノヴァの予想とは大きく異なっていた。馬車が向かうのは一般の生徒や歩行者が利用するであろう大手門ではなく、明らかに高位ものを迎えるために作られているであろう、より格式高い雰囲気の馬車乗り場だった。


 その通路にはノヴァが乗ってきたものと同じくらい豪華な馬車が、何台も集まっていた。いずれの馬車にもそれぞれ異なる高貴な紋章が描かれている。


(これは……貴族の人間が出入りする入り口じゃない!?)


 ノヴァは内心激しく動揺した。ギュンター卿の養子とはいえ、自分は元々平民だ。辺境伯家の馬車とはいえ、こんな特権的な出入り口を使うなど想像だにしていなかった。グレイブスは、ノヴァの心境を見透かしたかのように、静かに口を開いた。


「坊ちゃまはヴァルシュタイン士爵家の御子息であり、辺境伯家はそのヴァルシュタイン家を厚遇しておられますゆえ、この学院においても然るべき扱いを受けるのは当然のことなのです。」


 ノヴァはギュンター卿の養子として貴族の仲間入りをしたとはいえ、辺境伯家からここまで強力に厚遇されているとは知らなかった。平民だった頃の感覚が抜けきらない彼は、居心地の悪さを感じてしまう。


 馬車が通路を進むにつれて周囲の豪華な馬車から降りてくる少年少女たちが、興味深そうにノヴァの馬車を見つめていた。ノヴァの五感は常人よりはるかに高い。その研ぎ澄まされた聴覚が周囲のひそひそ話をとらえた。


「あら、あの馬車、辺境伯家の紋章じゃないかしら?」


「ええ、でもあんな子供見たことありませんわね。」


「もしかして、辺境伯様の隠し子なのかしら? 最近になって爵位を継がせるために連れてきたとか……?」


「あり得ますわ! だってあんな美形の子、辺境伯家のパーティーでは見かけたことないもの」


(いやいや、ありえないから! 辺境伯の隠し子!? 絶対ないから!うわあああああああああああ!!)


 ノヴァは内心で絶叫した。しばらく時間がたってからも彼の耳には「辺境伯の隠し子」という言葉が、まるでエコーがかかったように響き渡る。


「……ッ、これは……!」


 ノヴァはかなりの焦りを感じた。しかしギュンター卿との修行で培ったポーカーフェイスの成果がここで発揮される。彼は表面上は涼しい顔を保ち何も聞こえていないかのように振る舞った。グレイブスはノヴァの冷静な様子に満足げに頷いている。


(くそっ、この変態執事め俺の心中を察しろ!)


 ノヴァは心の中でグレイブスに八つ当たりした。


 試験会場は、石造りの重厚な部屋だった。まず行われたのは筆記試験。ノヴァは与えられた問題用紙を見て拍子抜けした。


「え……これ、本当に王立魔術学院の入学試験?」


 彼の想像とは裏腹に問題は拍子抜けするほど簡単だった。特に数学などは前世の中学生レベルの問題がほとんどだ。ノヴァは自分が問題を間違えているのではないかと、むしろ疑問を感じるほどだった。


「すみません、この問題用紙はもしかして違う用紙でしょうか? あまりにも簡単すぎて……」


 ノヴァが思わず試験官に尋ねると試験官は用紙を確認すると真面目な感じで答える。


「間違いありませんよ。 これは正式な問題用紙です。」


(え、まじ? 俺が中学生の頃に解いてたレベルだぞ……?)


 ノヴァは内心で首を傾げながらも、与えられた問題を淡々と解き進めた。


 筆記試験が無事すべて終わると次は実技試験を行うようだ。肝心の魔法試験もノヴァにしてみれば、ごくごく普通のことばかりだった。

 属性適性の確認。


 (は!?5属性全部だと!しかも親和性もすべてにおいて高い水準だ!!あ、ありえない!ふつうは多くても3属性までだし、すべてに高い親和性を持つなど……あってはならない……!)


 魔力測定。


「な、なんだと!? 測定不能!? そんな馬鹿な! この測定器で測れないほどの反応を引き起こすとは!今までで初めてのことだ!!」


 試験官は顔面蒼白になりながら、何度も測定器を叩く。ノヴァはただポカンとしているだけだ。


「え、僕の魔力、そんなに多いのかな……?」


 魔力操作。


(よどみなく魔力を操作している。この域は学生のレベルではない!明らかに私より操作がスムーズだ……!教師陣の中にもここまでの操作をできる者はいないぞ!同じくらいといえばあるいは学院長か副学院長くらいか?)


 基礎魔法の発動。

 試験官が「ファイアボールを発動しなさい」と指示するとノヴァは何の躊躇もなく、掌からこぶし大の炎の塊を放つ。その炎は試験官が想定するよりもはるかに安定し熱量を帯びていた。

 

 「え、その、ファイアボールですよね?」


(スムーズに唱えてるし、威力強すぎ、これ中級以上の威力はあるんじゃない?下手すると私より魔力操作に長けてんじゃないの?)


 試験官は驚きと戸惑いを隠せない様子で、ノヴァを見つめた。ノヴァはただ素直に指示に従っただけなのでなぜ試験官がそこまで驚くのか理解できなかった。


「え? これ、指示通りではなかったですか?威力弱かったですか?」


 ノヴァの不安げな問いかけに、試験官は慌てて問題ないことを説明する。


 そんなこんなで、試験は無事に終了した。ノヴァ自身は手ごたえはあったものの、周囲の反応が大きすぎたためどこか現実感がなかった。


「これで、本当に受かってるのかな……?」


 馬車で辺境伯邸に戻る途中も、ノヴァは自問自答を繰り返していた。グレイブスはノヴァの表情を読み取ろうとするかのように、静かにその様子を見守っていた。


 それから一週間後。


 ノヴァが書斎で本を読んでいると執事長グレイブスが、興奮した様子で部屋に入ってきた。その手には厳重に封をされた手紙が握られている。


「ノヴァ坊ちゃま! ご覧くださいませ! 王立魔術学院からの、お手紙でございます!」


 グレイブスは珍しく声を上ずらせていた。ノヴァは彼から手紙を受け取りゆっくりと封を開けた。中には厳かな筆致で書かれた一枚の紙が入っている。


『王立魔術学院 合格通知書』


『並びに、特待生認定証』


 ノヴァの瞳がその文字を捉えた瞬間、喜びと安堵が入り混じった感情がこみ上げた。そして続く「特待生」の文字に彼は再び驚きを隠せなかった。


「やった……合格だ……! しかも特待生……!」


 ノヴァはその手紙をグレイブスに見せた。グレイブスは手紙の内容を確認すると、感極まった表情で深々と頭を下げた。


「おめでとうございます、ノヴァ坊ちゃま! 辺境伯様も、ギュンター士爵様も、さぞお喜びになられるでしょう!」


 手紙には今後の学院生活に関する案内も記されていた。驚くべきことに王立魔術学院は寮生活が基本となるらしい。


「寮生活か……学生生活は一人で生活するのか……。」


 ノヴァは少しだけ寂しさを感じたが、それ以上に新たな環境での生活に胸を躍らせた。これまでとは違う、同年代の仲間たちとの出会い、そしてより専門的な魔術の研究。想像するだけでワクワクが止まらない。


「グレイブスさん、これからの寮生活の準備もまた色々と手配をお願いしますね。」


「かしこまりました、坊ちゃま! 万全の準備を整えさせていただきます!」


 グレイブスは、いつもの完璧な執事の顔に戻り力強く頷いた。


 ノヴァは、王都の広大な空を見上げた。合格の喜びと特待生としての期待、そして未知の寮生活への小さな不安。しかしそれら全てを上回る、未来への確かな希望が、彼の心を満たしていた。彼の物語は、王都という新たな舞台で、より大きな波紋を広げていくだろう。

ついに迎えた学院試験。ノヴァはその実力を余すことなく発揮し、周囲を驚愕させました。

さらに特待生としての合格という快挙を手に入れ、いよいよ王都での新たな学生生活が始まります。

ですが同時に「隠し子の噂」など波乱の種も芽生え、これからの日々は平穏ばかりではなさそうです。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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