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第39話 剣聖の教え、極致への道

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回のお話は、魔術学院への進学を決意したノヴァは、剣の修練にも一層力を入れていた。

ギュンター卿が語る“剣の極致”と“卒業の証”。それは、少年にとってあまりに遠く、あまりに高い山だった――。

 王都の王立魔術学院への入学まで、残すところ一年を切っていた。ノヴァは、魔術学院に進むという自らの決意を固め、そのための準備を着々と進めていた。


 魔術の研究はもちろんのこと、ギュンター卿との剣術の鍛錬にも、これまで以上に熱が入る。彼は選んだ道がたとえ魔法であっても、剣技が己を守る重要な柱であることに変わりはないと理解していた。


「はっ! せやぁっ!」


 道場にノヴァの気合のこもった声が響く。ギュンター卿の繰り出す鋭い剣閃を、ノヴァは紙一重でかわし、カウンターの一撃を繰り出す。その動きはもはや十歳の子供とは思えない、洗練されたものだった。


「ふむ……悪くない。だが、まだ甘いな、ノヴァ。」


 ギュンター卿は、ノヴァの剣を受け止めると、静かにそう告げた。ノヴァは少し息を切らしながらも、その言葉の真意を探ろうと、師を見つめた。


 ある日の夕食後、ギュンター卿はノヴァを自室に招いた。暖炉の火が静かに燃える中、ギュンター卿は珍しく、改まった口調で語り始めた。


「ノヴァ。お前が王都の魔術学院に進む決意をしたと聞いて安堵した。しかし道は1つではない。そしてお前が選んだ道は決して楽なものではないだろう。」


 ギュンター卿の言葉に、ノヴァは居住まいを正した。


「はい。覚悟はしております。」


「うむ。お前はこれまで私の教えを驚くべき速さで吸収してきた。魔力の操作と剣技はもはや私の教えられる範囲を大きく超え、あとはお前自身が道を切り開く段階に来ている。」


 ギュンター卿は静かにそう告げた。ノヴァはその言葉に、胸に熱いものがこみ上げるのを感じた。


「しかし、私には、まだお前に伝えたいことがある。それは、私の『卒業の証』のようなものだ。」


 ギュンター卿はそう言って、ノヴァの瞳を真っ直ぐ見つめた。


「お前は、既に上級(熟練の剣士)の域を超えようとしている。しかし剣の道には、その上にさらに深遠な領域が存在する。それが特級の位だ。」


 ギュンター卿は、そこで一度言葉を切ると、遠い目をして語り始めた。


「特級は、『剣客』『剣豪』『剣聖』と、さらに3つの段階に分かれる。『剣客』は、各流派の師範、あるいは『剣豪』以上のものが、その剣技の神髄を極め一挙手一投足が芸術の域に達していると認めた者だけがなれる。そして『剣豪』は、『剣豪(師範級)』の人間が三人以上、あるいは『剣聖』が認めた者だけがなれる。彼らの剣は魔法や気の力といったものを宿し、もはや物理的な武器を超越し奇跡を起こすかのようにも見え並み居る強敵を一刀両断するほどの力を持つ。」


 ノヴァは息を呑んでギュンター卿の言葉に耳を傾けた。彼の知る「剣術」とは全く異なる次元の話だ。


「そして、『剣聖』……それは、剣の極みの境地だ。現在、この世界に七人ほどしか存在しない。各流派の師範以上が複数名推薦し、三大流派のその時代の長が承認した上で、さらに国が功績大と認めた人間のみが、剣聖となれる。私もその一人だ。」


 ギュンター卿は静かに、しかし確固たる声でそう告げた。ノヴァは改めてギュンター卿の偉大さを思い知らされた。


 ギュンター卿は、さらに続けた。


「剣聖として、私は5つの極致に到達したと考えている。これらは剣技の真髄であり、剣士が目指すべき高みだ。お前にもその概念を伝えよう。」


 ギュンター卿は1つずつ、その極致について語り始めた。


「1つ目は、『魔力流動マナフロー』。魔法を練り上げ、体や剣に流す技術だ。これは、お前が既にある程度理解しているだろう。ただ流すだけではない。剣に込められた魔力が、斬撃そのものを変容させる。」


 ノヴァは納得して頷いた。彼の付与魔法の概念にも近いものだ。


「2つ目は、『気力集中オーラフォーカス』。気を練り上げ、体や剣に流す技術。魔力とは異なる、生命の根源たる力だ。これを剣に宿せば、岩をも砕き、鋼をも断つ力を生み出す。」


 ギュンター卿は、言葉に力を込めた。


「3つ目は、『虚無隠蔽シャドウステップ』。魔法も気もすべて抑え込み、あらゆる気配を断ち、陰の極みで動く技術。存在そのものを希薄にし、敵に悟られることなく、闇に紛れる。」


 ノヴァはその技術に、暗殺者のような気配を感じた。


「4つ目は、『双極融合デュアルハーモニー』。魔法と気の両方を同時に練り融合させ、爆発的な力を引き出す技術。これはお前の魔力と気の才能があればこそ、習得しうるものだ。天地の力を一身に宿し、破壊的な一撃を生み出す。」


 ノヴァは、その言葉に、自身の可能性が広がるのを感じた。


「そして5つ目は、『無心流転ゼンスター』。無の境地に達し、頭では考えずに物事の動きを自然に感じ、自然な動きで体を操る技術。これは剣士が極めるべき究極の境地だ。意識が思考に囚われず、体が敵の動きに、自然に、そして最速で反応する。まるで水が流れ風が吹くように、無理なく動く境地だ。」


 ギュンター卿はそう言って、静かに目を閉じた。ノヴァはその5つの極致の言葉を、心に深く刻み込んだ。


「そしてこれら5つの極致を組み合わせ、私が編み出した3つの奥義がある。お前にはこれらを『卒業の証』として習得する課題を与えよう。」


 ギュンター卿は、再び目を開き、ノヴァを真っ直ぐ見つめた。


「1つ目の奥義は、『閃光絶命剣せんこうぜつめいけん』。これは魔力流動と無心流転を組み合わせた奥義だ。一瞬の間に剣に膨大な魔力を集中させ、無心で放つ一撃はまるで光が迸るかのように速く、敵の命脈を寸断する。速すぎて相手には剣を振ったことすら認識できないだろう。」


 ギュンター卿はそう言って、一瞬だけ剣の柄に手を置く動作をした。ノヴァには、その瞬間、一筋の光が走ったように見えた。


「2つ目の奥義は、『不動重力斬ふどうじゅうりょくざん』。これは気力集中と魔力を組み合わせた奥義だ。己の存在を希薄にし同時に全身の気と魔力を剣に凝縮させることで、見えない一撃でありながら、重力をもねじ曲げるかのような重く、避けることのできない一撃を放つ。その一撃は大地を砕き敵を粉砕するだろう。」


 ギュンター卿の言葉に、ノヴァはまるで彼の剣から重い圧力を感じたかのように、息苦しさを覚えた。


「そして3つ目の奥義は、『天地雷鳴剣てんちらいめいけん』。これは双極融合と無心流転、そして魔力流動と気力集中すべてを統合した究極の奥義だ。天地の魔力と気を一身に宿し無心の境地で放つ一撃は、雷鳴と共に大地を割き天を衝く。それは神が放つ一撃にも等しい。」


 ギュンター卿はそう語ると、静かに剣を鞘に納めた。その場に重い沈黙が満ちた。ノヴァは全身から冷や汗が流れるのを感じた。その奥義は彼がこれまで見てきたどんな剣術や魔法よりも強烈なイメージを伴っていた。


「……どうだノヴァ。私の『卒業の証』は、重いか?」


 ギュンター卿が静かにノヴァに問いかけた。ノヴァはゴクリと唾を飲み込む。


「は、はい……あまりに、あまりに途方もない課題です……。」


 ノヴァは正直な感想を漏らした。しかし彼の瞳には絶望の色はなかった。むしろこれまで知らなかった剣の極致、そして師が到達した境地への純粋な憧れと挑戦への喜びが宿っていた。


「ハッハッハ! そうだろうな。しかしお前ならば、必ずや到達しうる。いや、私をも超える可能性を秘めていると信じている。」


 ギュンター卿は、ノヴァの頭に手を置き、優しく撫でた。


「この1年、魔術学院への準備と並行して、この極致と奥義の習得を目指してみろ。特に『双極融合』はお前の魔力と気の資質があれば、最も早く習得できるかもしれない。そして『無心流転』は武術だけでなく、魔術にも通じる重要な境地だ。」


 ノヴァは師の言葉を心に刻み込んだ。それは、単なる技術の伝授ではなかった。師が己の人生を賭して到達した、精神的な境地への導きでもあったのだ。


 その日からノヴァは、魔術学院への入学準備に加え、ギュンター卿から与えられた「極致と奥義の習得」という、途方もない課題に挑む日々を送るようになった。


 日中は付与魔法の研究と、領都の上下水計画の進行状況の確認、そして商会の手伝いとして美容製品の生産指導を行う。夜はギュンター卿との剣術の鍛錬に打ち込み、3つの奥義の概念を身体に叩き込んでいく。


「魔力流動……もっと剣と同化させるイメージで……! 気力集中……生命の力を刃に凝縮させる!」


 ノヴァは道場で一人、目を閉じ剣を構える。彼の周囲には微かに魔力と気の流れが渦巻いている。


 特に第五の極致である『無心流転ゼンスター』は、彼にとって最も難しく同時に最も興味深い課題だった。意識を手放し体が自然に動く境地。それは彼の「知識」が邪魔をする、全く新しい感覚だった。


「クソッ! また余計なことを考えてしまった!」


 ノヴァは思わず舌打ちする。しかし彼は諦めない。繰り返し、繰り返し、無になることを試みた。


 時折ギュンター卿は、そんなノヴァの様子を静かに見守っていた。彼の瞳にはノヴァがいつか自分を超える存在となるだろうという、確かな予感が宿っていた。


 王都への学園入学までの残された期間ノヴァは剣と魔法、そして「知識」を融合させる新たな領域へと足を踏み入れていた。彼の身体は刻々と変化し、その魔力と気の流れは以前にも増して精密に制御できるようになっていく。


 やがて、ノヴァは、3つの奥義の片鱗を掴み始めた。特に、「閃光絶命剣」と「不動重力斬」はまだ不完全ながらも、彼の体から放たれる一撃にかつてないほどの威力を与え始めていた。そして、「天地雷鳴剣」は未だ遠い幻のような存在ではあったが、その到達点を目指すことで、彼の剣と魔法の練度は飛躍的に向上した。


 彼は自分の持つ才能と、ギュンター卿の教え、そして前世の知識が、この世界の常識を遥かに超えた力を生み出すことを確信した。

剣の道も、魔法の道も、そしてその先にある未知の境地も。

ノヴァはただ迷わず、ただひたすらに進むだけ。

残された一年は、彼をさらに強く、そして速く成長させていく。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。


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