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第34話 付与魔法の萌芽、そして文字の神秘

この物語を読んでいただき、ありがとうございます。

セットを忘れ投稿が遅くなりました。

ノヴァは12歳を前に、自らの進むべき道を見据え、ある研究に没頭し始めます。

それは、常識を覆すほどの成果を秘めた探求――そして、彼の「守りたい」という想いが、新たな力の形となる瞬間が訪れます。

 ギュンター邸の一室で、ノヴァはギュンター卿から先日の会議結果を聞き、驚きを隠せずにいた。王都の三大学院への遊学の提案、それも12歳での飛級入学の可能性。通常は15歳から入学する最高学府への誘いに、ノヴァの胸は高鳴った。しかし同時にどの道を選ぶべきかという重い選択が、彼にのしかかっていた。


「……王立騎士学院、王立魔術学院、王立枢要院、ですか。」


 ノヴァはギュンター卿が差し出した案内書を眺めながら呟いた。どの学園も魅力的だ。剣の道を極めるか、魔法の研究に没頭するか、それとも官僚として国を動かすか。


「うむ。辺境伯様は、お前の才能を高く評価しておられる。だが、お前の進むべき道は、お前自身が決めるべきものだ。入学までにはまだ二年ある。この期間で、熟考するといい。」


 ギュンター卿の言葉に、ノヴァは深く頷いた。二年間。この貴重な時間をどう使うか。ノヴァの頭の中には、すでに1つの答えが浮かんでいた。


「ギュンター卿。僕、この二年間、付与魔法の研究に専念したいです。」


 ノヴァは、まっすぐギュンター卿の目を見据えて言った。


「ほう? 失われた概念とも言われる付与魔法か。お前がその才を持つことは知っているが、なぜ今それにこだわる?」


 ギュンター卿が問いかける。ノヴァは、父ロランドの形見の剣を握りしめた。


「はい。先日、父さんの剣に付与魔法が施されていることに気づきました。それは僕が知るどの魔法よりも深く、そして恒久的に対象の性質を変える力でした。そして盗賊討伐の際僕の力が暴走しかけた時に僕は改めて痛感したんです。僕の力はまだ未熟で制御しきれていない。もしエリスを傷つけてしまったら……。」


 ノヴァの声は、わずかに震えていた。


「僕が本当に『守る』ためには、力を持つだけでなく、それを完璧に制御し、最大限に活かす方法を見つけなければならない。付与魔法は、そのための鍵だと信じています。物を強化するだけでなく、生活を豊かにし人々を助けるための応用も無限にあるはずです。」


 ギュンター卿はノヴァの真剣な眼差しに静かに目を細めた。彼の言葉には以前のような知識への好奇心だけでなく、より深い責任感と大切なものを守りたいという強い意志が込められていた。


「……よかろう。お前の決意、しかと受け取った。失われた魔法の研究、全面的に許可する。必要な資材や場所は、私が手配しよう。」


 ギュンター卿の言葉に、ノヴァの顔に喜びの光が差した。


「ありがとうございます、ギュンター卿!」


 こうして、ノヴァの付与魔法研究の日々が始まった。彼の研究室となったのは、領都の鍛冶屋バルドの工房の一角だった。


「ノヴァ坊主、また来たのか! 今度は何をぶっ壊すつもりだ!?」


 バルドは、ノヴァの姿を見るなり、げんなりとした顔で叫んだ。工房の壁には、以前の実験で焦げ付いた跡や、冷気の残滓が白く染みついていた。


「失礼な! 今日は壊しませんよ、バルドさん! 今日は、もっとすごいものができるはずなんです!」


 ノヴァは目を輝かせながら、分厚い「知識」の本と加藤雄介の日記を広げた。


「見てください、バルドさん! この世界の一般的な付与魔法は、せいぜい一時的に光らせたりする『一時付与』ですよね? 物に恒久的な効果を与える『付与魔法』は、ルーン文字を刻むのが基本だとされています。でもこの日記には、もっと効率的な『符丁』の可能性が示唆されているんです!」


 ノヴァは、日記の一節を指差し内容を読み上げた。


「『……やはり、ルーン文字をただ唱えるだけでは駄目だ。その魔法が持つ『根源的な意味』を理解し、それを対象に『刻み込む』意識がなければ、魔力はただのエネルギーとして霧散する。特に、付与魔法は対象の存在そのものに干渉するもの。詠唱は補助に過ぎず、魔力の『形』と『込められた意志』が重要だ。』」


 バルドは、首を傾げた。


「ふむ、内容は文字が読めないからわからんが、理屈は分かるような、分からんような……。坊主はよく読めるな?結局どうすりゃいいんだ?」


 ノヴァはニヤリと笑った。


「そこで、この日記に記されていた、古来の文字の出番です! バルドさん、この『火』という文字! これ1つで炎の熱や燃焼、光といった様々な概念を内包している。これを符丁として使えばもっと効率的に、そして強力に付与できるはずなんです!」


 ノヴァは砂の上に指で漢字の「火」を書いて見せた。バルドは、その奇妙な形に目を丸くする。


「な、なんだこのミミズが這ったような文字は!? これで魔法が強くなるっていうのか!?」


「はい! この文字は、1つの形に多くの意味を詰め込める、非常に効率的な記号なんです! これを魔力で『刻印』するんです!」


 ノヴァは、興奮気味に語る。バルドは、ノヴァの突飛な発想に頭を抱えた。


「おいおい、ノヴァ坊主。お前、本当に正気か? そんな見たこともねえ文字を使って、しかも『付与魔法』だと? 俺の常識がぶっ壊れるぞ!」


「大丈夫です! 成功すれば、バルドさんの工房も、もっとすごいものを作れるようになりますよ!」


 ノヴァの言葉にバルドは半信半疑ながらも、どこか期待に満ちた表情を浮かべた。


 ノヴァは、バルドの工房で、連日連夜、日記に記された漢字を用いた付与魔法の実験に没頭した。最初はやはり失敗の連続だった。魔力が霧散し対象の素材が変質したり、時には小さな爆発を起こしたりもした。


「うわあああ! また焦げたぞノヴァ坊主! 今度は俺の眉毛が犠牲になったじゃねえか!」


 バルドの悲鳴が工房に響き渡る。ノヴァは、煙を上げながら苦笑した。


「すみません、バルドさん! もう少しでいけるはずなんです!」


 ノヴァは試行錯誤を繰り返した。古来の文字の「形」を魔力で生成し、それを対象の「核」に「押し込む」イメージを、極めて精密に練り上げていく。加藤雄介の残した知識が、この「情報書き込み」の概念を理解する上で大いに役立った。


 しかしノヴァの付与魔法の研究は、まだ始まったばかりだった。漢字を用いた付与は、確かに効果と安定性を飛躍的に向上させたが、それでも限界はあった。複雑な効果を同時に付与しようとすると、魔力消費が激しくなったり、効果が不安定になったりする。


「うーむ、もっと複雑な効果を付与するには、どうすればいいんだろう……。」


 ノヴァは頭を抱えた。漢字の持つ情報圧縮能力にも、やはり限界があるのだ。ノヴァは、様々な古来の文字の組み合わせや、付与する対象の素材を変えて実験を繰り返したが、思うような成果は得られなかった。彼の脳裏に日記の記述が蘇る。


「『……付与魔法は、対象の存在そのものに干渉するもの。詠唱は補助に過ぎず、魔力の『形』と『込められた意志』が重要だ。』」


 ノヴァは、この「込められた意志」の真の意味を、まだ完全に理解できていないのではないかと感じていた。単に漢字を刻むだけでは、不十分なのかもしれない。彼の心は深い探求の闇に包まれ、その天才的な発想力も、一時的に停滞したかのようだった。


 ノヴァは、自室で「知識」の本を広げ、加藤雄介が残した漢字の成り立ちや、その文化的・思想的な背景について読み漁った。これらの文字は、単なる記号ではない。それは、当時の人々の思想や感情、そして歴史が凝縮されたものだ。


(そうだ……これらの文字は、単語の意味だけでなく、その背景にある『概念』や『想い』も内包しているんだ。)


 ノヴァは、ハッとした。彼はこれまで漢字を単なる「情報圧縮ツール」として捉えていたが、それは表面的な理解に過ぎなかったのだ。これらの文字はそれ自体が「魂」を持つかのように、深い意味と力を宿している。


(付与魔法は、対象の『存在そのもの』に干渉する。つまり刻むのは単なる文字ではなく、その文字が持つ『根源的な概念』を、僕の『意志』と共に、対象の『魂』に刻み込むんだ!)


 ノヴァの脳裏に、新たな閃きが走った。それは、加藤雄介が残した知識とこの世界の魔法、そして彼自身の「守る」という強い意志が、完全に融合した瞬間だった。


 数日後、ノヴァは再びバルドの工房に現れた。彼の顔には、以前のような迷いはなく、確かな自信が宿っていた。


「バルドさん! 今度は絶対に成功します! そしてもっとすごいものができますよ!」


 ノヴァはそう言うと、一本の木刀を手に取った。そして意識を集中し魔力を木刀の「核」へと流し込む。同時に心の中で「斬れる」という概念を意味する漢字「斬」をその根源的な意味と、自らの「守る」という強い意志と共に木刀の核へと深く、深く「刻印」していく。


ザン!」


 その瞬間木刀が激しく震え、眩いばかりの光を放った。光が収まると、木刀の表面には、微かにしかし確かに、漢字の「斬」が浮かび上がっていた。それは単なる模様ではない。まるで、木刀そのものが、その概念を吸収し、変質したかのようだった。


 ノヴァは、その木刀を手に取った。その軽さ、そして鋭さ。まるで、本物の刀剣のような感覚だ。彼は、試しに工房の隅にあった古びた鉄板に木刀を振り下ろした。


 キンッ!


 乾いた音と共に、鉄板はまるで豆腐のように、真っ2つに斬り裂かれた。バルドは、その光景に目を丸くし、口をあんぐりと開けたまま立ち尽くした。


「な……なんだと!? 木刀で鉄板が斬れただと!? しかもこの切れ味……まるで、魔剣じゃねえか――っ!!!」


 バルドの絶叫が工房に響き渡る。ノヴァの顔には、達成感と、そして新たな探求への喜びが満ちていた。


「成功しました、バルドさん! これが新たな付与魔法です!」


 その報告を聞きつけたギュンター卿が、工房に駆けつけた。ギュンター卿は斬り裂かれた鉄板と、ノヴァが持つ木刀を見てその瞳を大きく見開いた。


「これは……! まさか、木刀で鉄を斬り裂くとは……。ノヴァ、お前は、本当に魔法の常識を覆したな。」


 ギュンター卿の声には驚嘆と、そして深い感銘が込められていた。ノヴァの新たな付与魔法は、従来の付与魔法の限界を遥かに超え、その効果と安定性は飛躍的に向上したのだ。


 ノヴァの新たな付与魔法の完成は、魔法研究に大きな衝撃を与えた。バルドはノヴァの熱意に完全に巻き込まれ、彼の研究に全面的に協力することを誓った。工房はノヴァの新たな実験の場となり、次々と驚くべき付与魔法が誕生していく。


 ギュンター卿は、ノヴァの成長に静かに目を細めていた。彼の弟子は、道を自分の力で切り開こうとしている。そしてその道は、この世界の未来を大きく変える可能性を秘めている。

失われた概念とされてきた付与魔法に、ノヴァは独自の解釈で一歩を踏み出しました。

彼の閃きと執念が生み出した新たな成果は、この世界の常識を揺るがすものであり、これからの彼の選択に大きな影響を与えるでしょう。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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