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第30話 辺境の嵐、若き剣の覚悟

この物語を読んでいただき、ありがとうございます。

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今回は、領内で不穏な動きが広がる中、若き後継者たちに試練の時が訪れる。守るために剣を取り、胸に誓いを刻む少年の決意。その背中を押す家族の想いと導きの剣――やがて嵐の兆しが、静かに迫りつつあった。

 領都ヴェイルの辺境伯家の会議室は、重苦しい空気に満ちていた。グロリアス辺境伯の眉間には深い皺が刻まれ、その瞳には普段の穏やかさとは異なる、静かな怒りの炎が宿っている。彼が手にしている報告書には、衝撃的な内容が記されていた。


「……大規模な盗賊団だと!! 400人規模で領内を荒らし、しかも手口が巧妙で村々が壊滅的な被害を受けているだと!」


 グロリアス辺境伯の声は低く響き、室内の空気をさらに重くする。彼の前には辺境伯家筆頭執政官、長男ライナス、領都軍騎士団長、辺境伯家魔法師団長、そして名誉剣術指南役であるギュンター卿が厳しい面持ちで並んでいた。


「はっ。報告に間違いございません、辺境伯様。斥候の報告では、その動きは傭兵団に近く組織立っ他動きを見せているとのこと。食料や金品だけでなく、若者や子供まで拉致されているとの情報も……」


 領都軍団長が苦渋の表情で報告を続ける。グロリアス辺境伯は拳をぎゅっと握りしめた。


「許せん……! 我が領民の平穏を脅かす愚か者ども。今回は徹底的に叩き潰す! 私が自ら出陣し彼奴らに鉄槌を下す!」


 エルネストの言葉に、室内の全員が息を呑んだ。辺境伯自らの出陣は、並大抵のことではない。


「お待ちください、辺境伯様!」


 筆頭執政官が一歩前に進み出る。


「辺境伯様には領都の守りがございます。もしものことがあれば、領内全体の統治に支障をきたします。どうかご再考を!」


 領都軍団長も続く。


「我々が辺境伯様の名代として、賊徒を討伐してご覧に入れましょう! どうかご無事にて領都にお残りください!」


 魔法師団長も、普段の冷静さを失い焦ったように進言する。


「魔法師団も全力を尽くします! しかし、辺境伯様が前線にお立ちになることは、あまりにも危険すぎます!」


 しかしグロリアス辺境伯の決意は固い。


「ならん! このままでは領民の不安は拭えん! 私が直接指揮を執り、賊徒どもを掃討しなければ示しがつかんのだ!」


 その時これまで黙って事態を見守っていた長男ライナスが、一歩踏み出した。彼の顔には父譲りの真剣な眼差しが宿っている。


「父上。どうか私に指揮を執らせてください。」


 グロリアス辺境伯は、ライナスの言葉に目を見開いた。


「ライナス? お前がだと?」


「はい。私はグロリアス家の嫡男として、父上の意志を継ぎ領民を守る責務がございます。この戦は私にとって当主としての器を試されるもの。どうか私に出陣の許可を。」


 ライナスの真剣な眼差しにエルネストはしばし沈黙した。彼自身の息子が、ここまで成長していたとは。その時ギュンター卿が静かに口を開いた。


「ライナス様のお言葉、ごもっともかと存じます辺境伯様。」


 全員の視線がギュンター卿に集まる。


「ライナス様には指揮官としての才覚がございます。そして私めがその補佐を務めさせていただきますので万に1つも抜かりはないかと。」


 ギュンター卿の言葉にエルネストの表情が和らいだ。ギュンター卿の経験と実力は彼が最も信頼する人物の一人だ。


「……うむ。ギュンター卿がそこまで言うのならば……よし。ライナス、お前に全軍の指揮を執らせる。ギュンター卿は副指揮官としてライナスを補佐せよ。くれぐれも油断はするな。」


 エルネストの言葉にライナスは深く頭を下げた。


「はっ! 父上のご期待に、必ずやお応えいたします!」


 こうして盗賊討伐の総指揮はライナスが執り、ギュンター卿が副指揮官として補佐することで決定した。


 ギュンター卿は、領都軍での剣術訓練を終えたノヴァを呼び出した。


「ノヴァ。お前を今回の討伐軍に引き連れていく。」


 ギュンター卿の言葉にノヴァの体が硬直した。対人戦闘。それは村が襲撃されて以来のことだ。あの時の地獄のような光景が脳裏をよぎる。


「え、僕がですか? でも僕はまだ……」


 ノヴァの声は、わずかに震えていた。


「何を怯えているノヴァ。お前の実力は比類なき高みにある。あとは実践を積むことが重要だ。それにこの戦はお前が『守る力』を真に使いこなすために必要な経験だ。」


 ギュンター卿の言葉は厳しくも温かい。ノヴァはエリスを守るために強くなると誓ったばかりだった。その誓いを果たすためには、避けては通れない道なのだと理解した。


「……はい、承知いたしました。」


 ノヴァはギュンター卿の言葉に決意を固めた。


 その日からノヴァはギュンター卿による特別な訓練を受けることになった。実践的な剣術の応用、集団戦での立ち回り方、そして自身の魔力をいかに制御し人との戦闘に活かすか。ギュンター卿はノヴァの全属性の極親和という異質な才能を、戦闘に応用する方法を徹底的に教え込んだ。


「いいかノヴァ、魔法は破壊力だけを求めるものではない。特にお前のように複数の属性を操れるものは相手の動きを鈍らせる、視界を遮る、足場を崩す……あらゆることに応用が利く。魔法の持つ力にとらわれず戦況を読み、常に最善の一手を選べ。」


 ギュンター卿の指導は厳しかったがノヴァは必死に食らいついた。彼の脳内では、前世の軍事知識と異世界の魔法が融合し、新たな戦術が次々と構築されていく。


 領都軍はライナスを指揮官、ギュンター卿を副指揮官として、総勢1500人規模の討伐軍を編成した。辺境伯はこの大規模な盗賊団の背後に、ノルレア自由都市群の影があることをすでに察知していた。そのため今回は徹底的な掃討と、その背後にある勢力への牽制を目的としていた。


 斥候の報告によると、盗賊団は山間部に拠点を構え、ゲリラ戦を展開しているという。彼らの手口は巧妙で、領地の地理を熟知しているかのようだった。


「どうやら、ただの盗賊ではなさそうだな。手慣れた傭兵か、あるいは元兵士が混じっている。警戒を怠るな。」


 ライナスは地図を広げながら、眉をひそめていた。ギュンター卿は、静かに頷く。


「おそらく、背後には彼らを操る者がいるでしょう。狙いは単なる金品だけではないかと。」


 ノヴァは二人の会話を聞きながら、胸の奥で渦巻く不安を感じていた。対人間の戦い。あのステラ村での悪夢が、再び蘇ろうとしている。


 討伐軍の出発前夜、ギュンター邸は緊張感に包まれていた。メイドのフローラ、リリア、イザベラは、ノヴァの荷造りを手伝っていた。


「ノヴァ様、剣はしっかり手入れしましたか?」


 フローラが心配そうに尋ねる。


「ええ、もちろん! ばっちりです!」


 ノヴァは努めて明るく答えるが、その顔は心なしかこわばっている。


「ノヴァ兄様、これお守りです!僕はついていけないのが残念です!!身代わりに母と一緒にこれを作りました。」


 リアムが手作りの小さな護符をノヴァに手渡す。ノヴァはその可愛らしい護符を大事に受け取った。


「ありがとう、リアム。これがあれば怖いものなしだ!」


 エレノアは決意したかお持ちで言葉を紡ぐ。


「この剣を持っていきなさい。お父様の加護が必ずあるわ。」


 それは父親が大事にしていた片刃の業物の剣であった。この国で一般的に使用される剣と違い湾曲した形は取り扱いが難しく、またしなやかで切れ味が鋭い。

 

「これは……お父さんの剣!」


 ノヴァは剣を受け取るとその場でしばらく立ち尽くした。この世界に生まれてからの思い出が頭を巡る。手にした剣がノヴァに語り掛けてくるようだった。エレノアは改めて姿勢を正し頭を下げる。

 

 「どうかご無事で。無茶だけはせずに無事変えてってきて来るのですよ。」


 その雰囲気に反応してか1歳のエリスも反応する。


「アー! ウンアエー!」

 

 ノヴァは彼女たちの温かい気遣いに、胸が熱くなった。しかしその夜はほとんど眠ることができなかった。明日の戦場での光景が何度も脳裏をよぎる。

 

「ルーメン!」

 

 ノヴァは光の魔法を唱え身を起こし気を紛らわすために父の形見の剣を手に取り、さやから刃を出すと刃の輝きを見つめる。刃を見つめると父親のローランドが語り掛けてくるような感覚を覚える。


(生きろ!自分の大切なものを守れ!!)


 確かにそれはノヴァの耳に届いたような気がした。しばらく剣を見つめていると刀に魔力を感じ、ノヴァは魔力を確認すると刃に付与魔法を感じることができた。


「これは付与魔法の魔力!」


 しばらく剣を調べてみると刀にはCeleritas (ケレリタース) とVis (ウィース) のルーン語が刻まれていた。


「これは物理的な攻撃力を恒久的に強化。切れ味の増加、対象の潜在能力を引き出し、使う者との調和も促進する効果がある。早い動きや、身のこなしを軽くする効果があるようだ。」


 今まで母親のエレノアが保管していたため気が付かなかったが、この剣は付与できる限界まで付与魔法がかけられている。


「これはすごい!すぐにはできないけどこれを研究すればさらに付与魔術の理解につながる」


 新たな発見にノヴァは興奮と高揚に不安が減少され、気持ちが落ち着いた。後日研究をすることを心に誓い、そのままベットへ横になるとそのまま眠りにつくことができた。


 翌朝、出陣の号令が下された。領都の広場には、1500人の兵士たちが整列し、その威容は圧巻だった。ライナスとギュンター卿が先頭に立ち、その後ろにノヴァも加わる。彼らの顔には、それぞれ異なる決意が宿っていた。

父の剣に秘められた力と家族の想いに励まされ、ノヴァは恐れを超えて進む決意を固めた。ライナスは当主としての責務を胸に、ギュンター卿と共に盗賊団討伐へ。戦いの火蓋が切られる時、彼らは何を得て、何を失うのか。物語はさらに大きな嵐へと歩みを進めていく。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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