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第26話 新たな剣、新たな道

いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。

今回は、旅路を終えたノヴァたちが、ついに新しい生活を始める場面です。

剣聖ギュンター卿の導きのもと、それぞれが自分の道を歩み出します。

希望に満ちた始まりの時間を、どうぞ見届けてください。

 長く険しい旅路を経て、ノヴァ、エレノア、リアムを伴ったギュンターは、ついにグロリアス辺境伯が治める領都の門をくぐった。城壁都市を彩る活気ある人々の往来は、ステラ村の悲劇がもたらした陰鬱な記憶をわずかに和らげてくれる。


「わあ、すごい!師匠、見て!人がいっぱいだ!」


 ノヴァが目を輝かせ、興奮気味に声を上げた。リアムもまた、珍しそうにきょろきょろと辺りを見回している。エレノアも、その活気にわずかな安堵を覚えたようだった。


「ああ、ここは多くの人々が暮らす、大きな町だ。お前たちも、ここで安心して暮らせるだろう。」


 ギュンターはそう言いながら、柔らかな眼差しで彼らを見守った。


 城門を抜け、石畳の道を歩くと、様々な店の賑やかな声や、すれ違う人々の話し声が耳に飛び込んできた。ノヴァは目を丸くして、焼き菓子の甘い匂いや、色鮮やかな布地を眺めている。リアムもエレノアの腕の中で、指をさしては何かを話しかけている。


「さあ、まずは宿を取ろう。長旅で疲れただろうからな。」


 ギュンターの言葉に、ノヴァは元気よく頷いた。彼らはすぐに「陽だまり亭」という名の、こぢんまりとした宿を見つけた。木製の看板には、温かみのある太陽の絵が描かれている。宿の扉を開けると、暖炉の火がパチパチと音を立て、香ばしいパンの匂いが漂っていた。女将が温かい笑顔で出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ。旅のお疲れでしょう。どうぞ、こちらへ。」


 エレノアは、久しぶりに感じる人の温かさに、胸がじんとした。リアムも、女将の優しい声に安心して、にこにこと笑っている。


「ありがとう。助かる。」


 ギュンターは簡潔に礼を述べると、三人の部屋を頼んだ。質素だが清潔な部屋に通され、ノヴァはすぐに窓辺に駆け寄り、外の街並みを眺めた。夜には宿の食堂で温かいシチューを囲み、久しぶりに心から安らげる時間を過ごした。


 旅の塵を払い休息を取った翌朝、ギュンターは単身、辺境伯が居を構える城へと向かった。


 城門をくぐり広々とした中庭を抜け、威厳ある城の執務室へと案内されたギュンターの目に飛び込んできたのは、一人の壮年の騎士だった。グロリアス辺境伯、エルネスト・フォン・グロリアス――人柄、実力、見識、人望、全てを兼ね備えた彼の姿は、ギュンターの記憶にある先代ヴァルター男爵アルフォンス・フォン・アウグストを彷彿とさせた。


「これはギュンター卿ではないか!まさか貴殿とこうも早くに再会できるとは、夢にも思わなかったぞ!」


 辺境伯はギュンターの姿を認めると、すぐさま立ち上がり満面の笑みで彼を迎え入れた。その歓迎ぶりは、ギュンターが騎士としていかに高名であったかを物語っている。


「ご無沙汰しております、辺境伯閣下。この度ヴァルター男爵にお暇をいただき、このグロリアス領に参じました。」


 ギュンターの言葉に辺境伯の表情がわずかに曇る。


「ほう……ヴァルター男爵か。寄子とはいえあの男には常々手を焼いておる。先代のアルフォンス殿とは雲泥の差よ。貴殿のような高潔な騎士を辺境に追いやるとは、まさに愚の骨頂。貴殿にはさぞかし不本意な思いをさせたことだろう。このエルネスト、心より貴殿を労う。」


 辺境伯はヴァルター男爵の悪行を非難し、ギュンターを深く気遣う言葉をかけた。その真摯な態度に、ギュンターの心は温かくなった。


「閣下のお心遣い、痛み入ります。しかし私が引退を申し出たのは、自身の老いと体力的な衰えもございます。もはや以前のように剣を振るうことは叶いません。」


 ギュンターは謙遜し、自身の引退の理由を述べた。しかし辺境伯は食い下がった。


「何を言うか!貴殿は『剣聖』と謳われた御仁。その剣技、その知識は何物にも代えがたい宝だ。ならば我が辺境伯軍の騎士団長に就任してはくれぬか?これまでの功績を考えれば、これ以上の適任者はいない。」


 辺境伯は熱のこもった眼差しでギュンターを見つめる。その隣に控えていたグロリアス辺境伯騎士団長もギュンターに深々と頭を下げた。


「剣聖ギュンター卿ほどのお方であれば、私がこの地位にいることなどおこがましい限り。ぜひ私の代わりに騎士団長に就任していただきたく存じます。貴殿の指揮の下ならば我が騎士団はさらに強固なものとなるでしょう。」


 騎士団長は心からギュンターにその地位を譲ろうとしているようだった。剣聖として高名なギュンターに対し敬意と尊敬の念を抱いているのが見て取れる。


 話し合いの末ギュンターは騎士団長の座を辞退するも、辺境伯の熱意と騎士団長の懇願に押され「特別指南役」という役職を引き受けることになった。あくまでも食客として協力するという意向を示し、辺境伯も渋々ながらその条件をのんだ。


「ならばせめてこれを受け取っていただきたい!」


 辺境伯はそう言うと傍らに控えていた従者に命じ、一枚の証書と豪華な装飾の施された剣を持ってきた。


「貴殿のこれまでの功績、そして今後我が辺境伯領に尽くしてくれることに感謝し、ここにギュンター・ヴァルシュタイン殿に『グロリアス辺境伯騎士爵』の爵位を授ける。そしてこれは騎士爵の証としての剣だ。受け取っていただきたい。」


 辺境伯はギュンターに騎士爵を授け、その証としての剣を手渡した。


「そして貴殿が身寄りの者たちと暮らせるように、領都の城の近くに屋敷を授けよう。どうか存分に力を貸していただきたい。」


 ギュンターは辺境伯の厚意に深く頭を下げた。辺境伯の温かい人柄と寛大な措置に、彼の心は感謝で満たされた。これでノヴァたちにもようやく安住の地を与えることができる。彼らはこの地で新たな生活を始めることになるのだ。


 ギュンター卿が賜った屋敷は城からほど近い、静かな通りに面していた。質素ながらも清潔で、これまでの旅の疲れを癒すには十分な広さがある。ひとまずノヴァたち家族は、この屋敷に居候することとなった。


「わぁ……お城みたい!」


 ノヴァは屋敷の広さに目を輝かせ、リアムはまだ幼いため状況がよく分かっていないが、新しい環境に興味津々といった様子で周囲を見回している。エレノアは安堵の表情で屋敷を見渡し、身の安全が確保されたことに心から感謝した。


 その日の夜、夕食を終えた後、ギュンター卿はノヴァに語りかけた。


「ノヴァ、明日からお前の訓練の段階をさらに引き上げる。これまではロランドの遺志を継ぐための基礎訓練が主だったが今後はより実戦に即した過酷な訓練となるだろう。ついてこられるか?」


 ノヴァはギュンター卿の真剣な眼差しに、静かに頷いた。


「はい、師匠。必ず。」


 彼の返答には迷いも恐れもない。オークとの戦いで知った自身の限界、そしてそれを乗り越えた経験が、彼の成長への渇望をさらに高めていた。


 翌日からノヴァの新しい訓練が始まった。ギュンター卿は辺境伯騎士団の特別指南役として、ノヴァを自身の従士とすることで、城の訓練場での修業を許可させた。ノヴァは騎士団の騎士たちを相手に、実践的な剣の訓練を行うことになった。


 最初は七歳の子供が騎士相手に訓練をするという異様な光景に、騎士たちは戸惑いを隠せなかった。しかしノヴァがショートソードを握り騎士相手に繰り出す剣筋を見て、彼らはすぐに度肝を抜かれることになる。体格差をものともしない素早い動き、的確に相手の隙を突く剣捌き、そして何よりもその集中力と胆力は、とても七歳の子供のものとは思えなかった。


「まさかあのギュンター卿の弟子がこれほどの腕前とは……」

 

「しかもたった七歳だと?信じられん……」


 騎士たちはノヴァの腕前に驚嘆し、その才能に舌を巻いた。彼らはすぐにノヴァを一人前の剣士として認め、真剣に彼と向き合った。ノヴァは、様々な流派の騎士たちとの手合わせを通して、自身の剣術に磨きをかけ、新たな技術を吸収していった。


 一方エレノアは、ギュンター卿の厚意に甘えて居候するだけではと気を使い、屋敷の家事や雑務を行おうとした。しかしギュンター卿は身重の身を案じて、彼女を引き留めた。


「エレノア、今はリアムそしてお腹の子供のためにも、体を休めることに専念してくれ。家事のことは心配せずとも使用人を雇う手はずを整えている。お前はただ安心してこの屋敷で過ごしてほしい。」


 ギュンターの優しい言葉に、エレノアは感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。彼女は、この屋敷が、これまでの苦難を乗り越え、ようやく手に入れた安住の地であると実感した。


 リアムもまたギュンター卿の師事で初歩の剣術と学問を始めた。ノヴァほどではないが、リアムの剣筋は堅実で、1つ1つの動作を丁寧にこなす。ギュンターは、リアムの真面目さと着実な成長に感心し、彼にもまた剣の才能が秘められていることを感じていた。


 新たな屋敷での生活が始まり、ノヴァは騎士たちとの訓練に没頭し、エレノアは穏やかな日々を過ごし、リアムもまた自身の道を見つけ始める。彼らの新しい生活は、希望に満ちていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

領都での生活は、失われたものを埋めるだけでなく、新たな未来への扉でもあります。

ノヴァの剣はさらに磨かれ、家族の絆も強く結ばれました。

次回は、ノヴァの成長を新たな仲間の誕生を描きます。

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