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第21話 子供の剣、傭兵の誤算

読んでくださる皆様へ

『人生詰んだので、”家族”から始める異世界再出発。』を読んでいただき、ありがとうございます。

物語の世界では、日常の平和が一瞬で覆されることもあります。

第21話では、まだ幼い少年・ノヴァの未知なる力が明らかになり、傭兵団「黒鴉」の計画が大きく揺らぎます。

どうか、その緊張感と驚きを一緒に味わってください。

 俺はゼオン。ノルルア自由都市群でも中規模とされる、総勢800名を擁する傭兵団「黒鴉くろがらす」の斥候部隊長を務めている。この体格と顔に深く刻まれた刀傷から、初見で怯まない奴はまずいないだろう。

 

 俺の実力は、団内でも十指に入るほどだと自負している。今回は、ステラ村の襲撃に向けた下準備として、東の森の奥深くに隠された「古代魔術の結界石」の調査と村の戦力把握のために、部下を引き連れて潜入していた。


「隊長、準備は整いました。結界石は予定通りの位置に埋設しました。これで、村の魔力反応を一時的に遮断できます。」


 部下の一人が報告する。結界石は、俺たちの魔法が村に感知されることなく作戦を実行するための要だ。


「よし。村の様子は?」


「ええ、ざっと見ましたが、ただの平和な村です。駐屯する騎士は1名と従者が5名、自警団は数十名程度で、ろくな装備も持っていません。魔術師らしき者も見当たりませんでした。せいぜい、少し腕の立つ平民が数人いる程度でしょう。」


 部下の報告に、俺は小さく頷いた。やはりな。王都とは違い、このノルルア自由都市群の近くにある辺境の村など、たかが知れている。今回の依頼は、ステラ村を拠点に活動する商隊の積荷強奪だ。難易度は低いと踏んでいたが、どうやらその通りになりそうだ。


「だが、油断はするな。どんな獲物にも牙はある。万が一に備え、慎重に行動しろ。」


 俺は部下にそう言い含め、次の行動に移ろうとした。その時だった。森の奥から、複数の足音と、何かを警戒する気配が近づいてくるのを察知した。


「隊長、これは……自警団か?」


 部下たちが武器を構える。村の自警団など、烏合の衆に過ぎない。まさか、俺たちの存在を嗅ぎつけたというのか?


「いや、違う。この気配は……たった三人だ。だが、そのうちの一人は、尋常ではない気配を放っている。」


 俺の第六感が、背筋を凍らせるような不穏な予感を告げていた。斥候部隊として数多の戦場を駆け抜けてきた俺の勘は、滅多に外れない。そして、その気配の正体が現れた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。


 現れたのは、確かに自警団の団長らしき男と、その副官らしき男。そして、もう一人……それは、まだ幼い、7歳くらいの子供だった。しかし、その子供から放たれる魔力の奔流と、何よりも研ぎ澄まされた剣の気配に、俺の全身は警戒信号を発していた。


「見つけたぞ! 何をしている!」


 自警団団長らしき者の声が森に響き渡る。俺は内心で舌打ちをした。まさか、こんな辺鄙な村に、これほどの手練れがいるとは。部下の報告は、完全に誤っていた。


「残念ながら、おとなしく捕まるつもりはない。」


 俺はそう言い放ち、部下に合図を送る。予定を変更し、この場で村の戦力を確認し、撤退する。部下たちは一斉に襲いかかった。俺は、その子供――ノヴァというらしい――に照準を定めた。子供だからといって侮れる相手ではない。むしろ、この場で最も危険な存在だ。


 ノヴァは、腰に差したショートソードを構えた。その構えに一切の迷いはなく、洗練された動きは、一流の剣士と遜色ない。


「っ!」


 俺は一気に間合いを詰める。狙いは子供の体幹だ。しかし、子供は俺の動きを完璧に見切り、ショートソードを構え直した。俺の放った一撃は、ガキン、と硬い音を立てて受け止められた。ありえない。7歳の子供がこの俺の一撃を初見で正面から受け止めるとは。


 そのショートソードには、魔力による強化が付与されているのが見て取れる。だがそれだけではない。彼の剣筋には、熟練の技が込められている。俺は連撃を繰り出すが、子供は全て冷静に捌いていく。その動きには一切の無駄がない。


 まるで俺の次の動きを予見しているかのようだ。俺は焦り始めた。こんなところで時間を食えば、他の部下にも影響が出る。この子供は恐らくこの村の「核」となる戦力だ。生半可な気持ちで挑めば、こちらが潰される。


「撤退するぞ! これ以上は無駄だ!」


 俺は部下たちに撤退を命じた。部下たちは、一瞬驚いた顔をしたが、俺の言葉に迷いなく従い、自警団の団長らしき人物とその部下の隙を突き森の奥へと逃げ去っていく。俺もまた子供の攻撃をいなし、部下たちを追って森の奥へと姿を消した。


 逃げながら、俺は冷静に状況を分析していた。ステラ村は、これまで抱いていた認識を改める必要がある。あの子供、ノヴァ。あの歳にしてあの剣術と魔術。恐らくただの子供ではない。何らかの特別な才能を持っているか、あるいは、裏で強力な指導者がいるか……。


「父さん、ガルドさん。あの人たちただの冒険者や盗賊じゃない。訓練された、何らかの組織の人間だ。それに……あの動き、どこかで見たような……」


 ノヴァという子供の声が、森に響いた気がした。俺の動きに何か既視感を覚えたというのか?まさか、俺たちの組織の武術を知っているとでもいうのか?ありえない。


 ノルルア自由都市群の一角、雑多な路地裏に隠された傭兵団「黒鴉」の拠点。薄暗い一室で、団の幹部たちが集まっていた。中央に座るのは、団長であるギデオン。その両隣には、重装歩兵部隊長バッシュと、魔術部隊長リリアが座っている。彼らは皆ゼオンに劣らぬ実力を持つ猛者たちだ。


「ゼオン、報告を聞こう。」


 ギデオンが低い声で促す。俺は、東の森での出来事を詳細に報告した。結界石の埋設状況、そして自警団との遭遇、特にノヴァの圧倒的な実力について。


「……信じられませんな。7歳の子供が、ゼオン殿の一撃を受け止め、捌いたと? そんな馬鹿な話があるか。」


 バッシュが疑わしげな表情で眉をひそめた。彼の部隊は力と正面突破を旨とするため、ゼオンの報告はにわかには信じがたいようだった。


「事実だ。あの子の剣は、並の剣士のそれとは一線を画していた。まるで、何十年も剣を握ってきたような……いや、それ以上の脅威を感じた。そして魔力もだ。ショートソードに付与した強化魔法は、俺の武器を弾くほどだった。」


 俺は冷静に、しかし断固たる口調で答える。俺の言葉に、リリアが興味深そうに身を乗り出した。


「魔力の一時付与ですか。しかもその年齢で。それは尋常ではありませんね。おそらくかなりの魔術の才を持つか、あるいは……特別な力でも持っているのかもしれません。」


 リリアの言葉に、ギデオンは顎に手を当てて考え込んだ。


「なるほど……。今回の標的は、ステラ村の商隊だったが、村自体にそれほどの戦力があるとなると、作戦を練り直す必要があるな。」


 ギデオンは腕組みをした。


「ゼオン、その子供について、何か気になることはあるか?」


 ギデオンの問いに、俺は少し間を置いてから答えた。


「はい。あの子の動き……特に、俺の攻撃を捌く時の体の捌き方に、既視感を覚えました。まるでどこかで見たことがあるような……。しかし、どこで見たのか、どうしても思い出せない。」


 俺は頭を振る。この疑問は、森を撤退して以来、ずっと俺の頭の中を渦巻いていた。


「まさか、我々の秘術をどこかで習得したとでも?」


 バッシュが鼻を鳴らす。


「それはありえないでしょう。我らの技は門外不出。仮に漏れたとしても、あんな幼い子供が習得できるものではない。」


 リリアも首を横に振る。


「だがあの動きは確かに……。それに、あの子がショートソードを構えた時、わずかに異質な気配を感じました。まるで、この世界の魔力とは異なる、別の種類のエネルギーが混じっているような……。」


 ゼオンの言葉に、ギデオンは静かに目を閉じた。そして、ゆっくりと目を開き、重々しい声で言った。


「ゼオン、その既視感について、もう1つ可能性がある。あの動きは……ミルウェン王国が誇る『剣聖』ギュンター・ヴァルシュタイン卿の剣に、どこか似てはいなかったか?」


 ギデオンの言葉に、ゼオンはハッと息を呑んだ。そう、それだ!あの淀みなく流れるような動き、最小限の力で最大限の効果を引き出す捌き方、そして、その一撃に込められた圧倒的な重み。それらはまさに、数年前に一度だけ遠目で見たことがある、剣聖ギュンター・ヴァルシュタイン卿の剣そのものだった。しかしまさかこんな辺境の村で、剣聖の薫陶を受けた者がいるとは。ましてや、7歳の子供が。


「団長、その通りです! 確かに、ギュンター卿の剣に似ていました……。しかし、なぜ、こんな子供が……」


 ゼオンは混乱した。ギュンター卿が、辺境の村の子供を弟子にするなど、通常では考えられないことだ。


「そして、魔力の異質さ……。その子供が剣聖から魔法も教わっているとすれば、その異質な魔力の源も説明がつくかもしれんな。」


 ギデオンは、静かに結論を告げた。


「ステラ村の件は、一旦中止とする。そしてゼオン。お前にはもう一度あの村、そしてあの子供について、詳しく調査してもらいたい。決して接触するな。ただ観察しろ。リリア、お前は魔術的な観点から、その子供の魔力について分析を進めろ。」


「了解しました、団長。」


 俺とリリアは同時に答えた。ステラ村の襲撃は一時中断。だが、それは単なる延期ではない。あの子供、ノヴァの存在が、俺たちの計画に大きな変更を余儀なくさせたのだ。俺の胸には拭い去れない不吉な予感が渦巻いていた。このことは傭兵団「黒鴉」の運命を大きく左右するかもしれない。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

第21話では、まだ幼いノヴァの驚異的な力が初めて描かれ、傭兵団「黒鴉」にも波乱が訪れました。

彼の存在は、物語の世界に新たな緊張感と可能性をもたらします。読後、ノヴァの力の正体や、彼を取り巻く謎を想像して楽しんでいただければ幸いです。次回以降、ノヴァと傭兵団、そして黒鴉団長ギデオンたちの思惑がどう交錯するのか――目が離せません。

読者の皆様と一緒に、ノヴァの成長と冒険を見守れることを楽しみにしています。

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