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第17話 古の痕跡と秘密の部屋

昨日は2回更新にお付き合いいただき、ありがとうございました。

今日からはいつも通りの更新ペースでお送りします。


今回の第17話では、ステラ村での鍛錬を経て成長した三人が、古の遺跡に挑みます。

他の冒険者に探索されつくした場所で、彼らは“前世”と繋がる痕跡に出会うことになります。

ノヴァの記憶が揺れ動く瞬間、そして新たな扉が開かれる場面を、ぜひお楽しみください。

 およそ一年が過ぎた。ステラ村での鍛錬の日々は、三人に確かな成長をもたらしていた。ノヴァは6歳、ユーリは10歳、そしてルナは7歳半になっていた。

 

 ノヴァは、王龍剣術 聖光流の教えを貪欲に吸収し、その基礎は盤石なものとなった。彼は依然として水霊剣術 動麗流の型を基盤としつつも、聖光流の堅実な防御と強力な一撃の概念を取り入れ、自身の魔法と融合させる新たな戦闘スタイルを模索していた。そして魔法ではアルスが旅立って以降、ノヴァは自身の魔法研究を深め実力では上級(熟練)の上位に食い込み、剣術、魔法両方を合わせた実力は師である(剣聖) ギュンター卿にも迫る勢いになっていた。


 ユーリは、持ち前の魔力の親和性と、ノヴァが時折教える効率的な魔力制御やイメージの具現化のコツを参考に、自身の魔法の鍛錬に真摯に取り組んでいた。ノヴァの指導を受け今や風魔法だけなら中級(正規魔術師)、さらに光と火も初級(見習い魔術師)の上位まで磨き上げていた。

 ノヴァに比べると大したことのないように思われるが、この世界では通常は8歳から魔法を覚え始める。一般的には初級を終え中級まで至るのが才能ある人間で16歳くらいと考えれば異常な成長である。特に、風属性への親和性が高く、彼の放つ風の刃『プロケッラ』は、鋭く的確に目標を捉えることができるようになっていた。


 そして、ルナもまた、ギュンター卿の指導のもと、剣士としての才能を大きく伸ばしていた。元来の並外れた洞察力と集中力は、剣の理を理解する上で大きな助けとなり、その小さな体からは想像もできないほどの速度と精密な剣技を繰り出すようになっていた。彼女は魔法を使わないが、その一撃には確かな重みが宿り、ギュンター卿の従者たちも彼女の成長には目を見張るばかりだった。


 ある穏やかな秋の日、三人は北の森にある古い遺跡へと向かっていた。ここは村人にも知られた場所で、何度となく冒険者たちが探索してきたためすでにめぼしいものは何も見つからず、今では単なる古びた石の建造物として認識されていた。今回は、自分たちの成長を試す「力試し」も兼ねて、ユーリとルナを誘っていた。


「わーい! 遺跡探検だ!」


 ルナは元気いっぱいに駆けていく。その小さな手には、ギュンター卿から譲り受けた、彼女の身長に合わせた特製の木刀が握られていた。


「ルナ、はしゃぎすぎると転ぶぞ。それに、遺跡はただの遊び場じゃないんだからな。」


 ユーリが心配そうに声をかけるが、彼の顔もどこか楽しげだ。彼の腰には、魔法をノヴァより教えてもらい両親の前で披露したときに使い慣れた杖がしっかりと結び付けられていた。


 ノヴァは二人の少し後ろを歩きながら、周囲の気配に集中していた。森の木々は色づき始め、風が葉を揺らす音が心地よい。遺跡が近づくにつれて、空気の重みが変わるのを感じた。


 やがて、苔むした石の壁が見えてきた。かつては壮麗だったであろう建造物の残骸が、静かに森の中に佇んでいる。何度も訪れたことがあるはずの場所だが、今日のノヴァの目には、いつもとは違う景色が映っていた。


「ねえ、なんだか、ここの空気、変な感じがするね。」


 ルナが立ち止まり、遺跡の入り口を見上げた。その洞察力は、剣の腕だけでなく、周囲の微細な変化をも敏感に察知するようになっていた。


「ああ、ルナの言う通りだ。以前来た時よりも、何かが違う。魔力の流れが、複雑に絡み合っている……」


 ノヴァはそう呟くと、遺跡の石壁にそっと手を触れた。表面は冷たく、ざらざらとした感触だが、その奥から微かな魔力の脈動が伝わってくる。


「何かあるのか、ノヴァ?」


 ユーリが杖を構え、警戒するように周囲を見渡した。彼の感覚では、まだ異常を察知できていなかった。


「この壁の奥に、何か隠されている。通常の魔力の流れとは、少し違う……もっと、緻密で複雑な構造をしている。ユーリ、ルナ、少し離れていろ。」


 ノヴァは集中力を高め、壁に意識を集中した。彼の魔力が壁の中に染み込んでいくような感覚がする。すると、壁の一部が、わずかに光を放った。そこには、この世界のルーン文字とは異なる、見たことのない記号が刻まれていた。


(これは……漢字!?)


 ノヴァは思わず息を呑んだ。前世の知識が蘇り文字を認識する。この遺跡は、転生前の世界に繋がりがあるのかもしれない。


 「ユーリ、この光っている部分に、風の魔法を集中して流し込んでみてくれ。ただし、優しく、繊細にだ。詠唱は『ヴェントス』でいい。」


 ノヴァの指示に、ユーリは戸惑いながらも従った。彼が杖を構え、詠唱を始める。独学とノヴァの助言によって磨かれた、ユーリの風属性への高親和性が、この繊細な魔力操作を可能にする。


「風よ、我が意志に応えよ。微風よ、静かに導け……『ヴェントス』」


 ユーリの指先から、目に見えない微風が放たれ、光る記号へと吸い込まれていく。すると、記号の光が強まり、壁から謎の文字が浮かび上がった。しかし、それは漢字が記された上に、この世界のルーン文字が上書きされているように見えた。


「遺跡の石壁から妙な気配を感じる。何か力の流れがおかしい。」

 ルナは持ち前の観察力と日々鍛えられた感覚から通常ではあり得ない力の流れを感じていた。


「さすがルナだ。その通り、複雑な術式が組まれている。だが、この魔法は、ただの情報を読み取るだけじゃない。ある『条件』を満たさないと、その先へは進めないようになっている。」


 ノヴァは漢字の部分にそっと触れた。彼の極親和の魔力が壁に流れ込む。すると、漢字が記された魔術の痕跡が、まるで水を吸い込むかのように輝きを放った。


「この漢字が……扉を開ける鍵だな。」


 ノヴァは確信した。この遺跡には、前世の日本、あるいは自分と関わりのある何かが眠っている。彼はもう一度、漢字の記された壁に意識を集中し、その文字を読む。


「《開放》」


 すると、壁の一部が音を立てて内側へスライドし始めた。


 現れたのは、暗く狭い通路だった。カビの匂いと、長い間閉ざされていた空気が漂う。ノヴァはすぐに、その空気が淀んでいることに気づいた。


「ユーリ、通路の空気を入れ替えてくれ。『アウラ』で十分だ。それから、周りを照らすために『ルーメン』を付与した石をいくつか用意してくれ。」


 ノヴァの指示に、ユーリは手慣れた様子で杖を構え、詠唱を始める。独学とノヴァの助言によって磨かれた彼の魔法の腕が、スムーズな動作に現れている。


「空気よ、流れよ……『アウラ』」


 ユーリの魔法で、通路の淀んだ空気がゆっくりと動き始め、新鮮な空気が流れ込んでくる。同時に、ユーリは懐から小石を取り出し、光のルーンを刻む。


「輝きよ、宿れ! 『ルーメン』」


 ユーリが魔力を込めると、小石は淡い光を放ち始めた。彼はそれをいくつか作り、ノヴァとルナに手渡す。彼らの連携は、この一年で格段に向上していた。


 ノヴァは木刀を構え、慎重に通路の奥へと足を踏み入れた。その小さな背中には、少年とは思えないほどの決意と、未来への期待が宿っていた。ルナはノヴァの背後で、ユーリは警戒しながら周囲に視線を走らせる。彼らの新たな冒険が、今、始まったばかりだった。

 

 通路の先は、小さな石室に繋がっていた。部屋の中央には、2段になった石台があり、上に一冊の分厚い本が置かれ下の段には手帳の様なものが収められていた。


 ノヴァはゆっくりと分厚い本を手に取った。見た目は何の変哲もない古書だが、ノヴァの胸が高鳴るのを感じた。表紙には、この世界では誰も理解できないであろう文字が記されている。


「これは……日本語?」


 ノヴァの口から、無意識のうちに懐かしい言語が漏れた。ユーリとルナは、ノヴァの言葉の意味が分からず、首を傾げる。


「ノヴァ、なんて書いてあるの?」


 ルナが好奇心に満ちた目で尋ねる。


 ノヴァは震える手でその本を開いた。ページをめくるたび、前世の記憶が鮮明に蘇る。そこには、地球の歴史、科学技術、そして日本という国の文化が、克明に記されていた。この世界ではありえない情報が、この一冊に詰まっている。


「これは……俺しか読めない文字だ。本のタイトルは(知識)この本には、俺の知っている世界についてのことが書かれている……」


 ノヴァはそう言って、本を強く抱きしめた。この古びた一冊が、彼の「異世界転生者」としての謎を解き明かす、最初の鍵となるかもしれない。そして、彼の目の前には、まだ見ぬ未来への扉が、今、開かれようとしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


今回の遺跡探索は、ただの力試しではなく、ノヴァの過去とこの世界の謎が交差する重要な転機となりました。

“漢字”や“日本語”という異質な存在が、彼の前世とどう繋がっていくのか——

次回以降、少しずつその真相に迫っていきます。


三人の絆と成長、そして世界の秘密。

これからも彼らの冒険を見守っていただけたら嬉しいです。


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