表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/88

第15話 老騎士の目と、新たな出会い

昨日は更新をお休みしてしまい、楽しみにしてくださっていた方には申し訳ありません。

本日はその分を取り返すべく、朝と夜の2回更新いたします。

まずは朝の1話、お楽しみください!

物語も第15話となり、ここまで続けて来られたのは、皆さまの応援のおかげです。

今回は、老練の騎士ギュンターとノヴァの出会いを描きます。

不遇の中でも輝きを失わない男と、才能を開花させつつある少年。

二人の邂逅が、この先の物語にどのような影響をもたらすのか――ぜひお楽しみください。

 ノヴァが魔獣退治で手柄を立ててから数日が過ぎた。村には再び平穏が戻り、彼の小さな冒険はロランドとガルド、そしてエレノアの心にノヴァの秘めたる才能を改めて強く印象付けた。ノヴァ自身も、2つの魔石を眺めては、次なる成長への決意を新たにしていた。


 そんなある日、村に奇妙な一団がやってきた。先頭に立つのは、年季の入った鎧を身につけた一人の老騎士。その後ろには、剣や槍を携えた五人の若い従者(騎士見習い)が続く。彼らはヴァルター男爵の紋章を掲げていたが、その雰囲気は、いかにも高飛車な男爵の部下というよりは、どこか浮かない顔をしていた。


 老騎士は名をギュンター・ヴァルシュタインといった。彼はかつて、「鉄壁のギュンター」と称されるほどの実力者で、その武勇と高潔さは、近隣の村や町にまで知れ渡っていた。しかし、その高潔さがヴァルター男爵の目に障り、騎士見習いの従者たちと共に、辺境のこの村へと左遷されてきたのだ。


 ギュンターは、宿屋の前でロランドと挨拶を交わした。


「ステラ村の自警団長ロランド殿ですな。私はギュンターと申す。ヴァルター男爵の命により、この村の治安維持と、魔獣の討伐支援に参いった。」


「これはご丁寧に。まさか、ギュンター騎士殿自らお越しになられるとは。当村は喜んでお迎えいたします。」


 ロランドは、その老騎士がかつて名を馳せた「鉄壁のギュンター」であることをすぐに察した。ロランドは、ギュンターの顔に浮かぶ疲労と諦念のようなものを見て取り、内心で彼の左遷の経緯を推し量った。ロランドは、話を続ける。


「ヴァルター男爵領の中でも、この村は人口800人以上、町と呼んでもおかしくない村、しかもヴァルグリア連邦と国境をつなぐ重要な場所ですからな。ヴァルター男爵様もかなり気にしておられるご様子で、ぜひ私にこの重要な仕事を任せたいと直々の命令を受けまかり越した。」


 ギュンターは言葉とは裏腹に暗い表情を浮かべたが、すぐに背筋を伸ばし村長の居場所を尋ねる。村長の居場所を確認したのち礼を言い村長宅へ向かっていった。


 その日の午後、ノヴァはいつものように宿の裏庭でロランドと共に剣術の稽古に励んでいた。ロランドの放つ木刀の連撃を、ノヴァは木刀で受け流し、時に鋭い突きを繰り出す。その動きは、五歳児とは思えないほど流麗で、風を纏ったかのような速さがあった。


(よし、完璧な防御だ! 今だ、カウンター!)


 ノヴァが瞬発的な加速でロランドの懐に飛び込もうとしたその時、村長宅からもどり庭の隅に立つギュンターの鋭い視線を感じた。ギュンターは、稽古を始めた時からずっと、その老いた瞳でノヴァの動きを追っていたのだ。彼の隣に立つ従者たちも、ノヴァの動きに驚きを隠せない様子で、小声で囁き合っている。


 ノヴァは、ギュンターの視線に気づきながらも、稽古の手を止めなかった。むしろ、その視線が、彼の集中力を一層高めた。


 ギュンターは、ノヴァの動きを食い入るように見つめていた。その流れるような体捌き、木刀の正確な軌道、そして、時折剣に宿る微かな魔力の輝き。何より、彼の心を捉えたのは、その動きの裏にある、純粋でひたむきな努力の跡だった。


「……信じられん。あれは、五歳児の動きではない。」


 ギュンターは、思わず漏らした声でロランドに尋ねた。


「ロランド殿、あの少年は、貴殿の息子か?」


 ロランドは誇らしげに頷いた。


「ええ、私の息子、ノヴァです。ご覧の通り、なかなか腕白でしてな。」


「腕白、だと? あの動きは、生半可な訓練で身につくものではない。もしや、貴殿が直接指導されているのか?」


 ギュンターの問いに、ロランドは苦笑いを浮かべた。


「もちろんです。しかし、私が教えられるのは、ほんの基礎の基礎。あいつは、私の技をすぐに吸収し、自分なりのものにしてしまう。特に、剣に魔力を纏わせるなんて技は、私でもまだ完全に会得できていないというのに、先日ウルフの群れを相手に実戦で使ってみせるほどで……」


 ロランドは、ノヴァが先日ウルフを仕留めた時のことを簡潔に話した。ギュンターは、その話を聞いてさらに驚きを隠せない。


「なるほど……剣と魔法を両方使いこなすとは……。しかも、あの若さで実戦経験まであるとはな。ただの腕白坊主ではない、天賦の才というやつか。」


 ギュンターは、ノヴァの練習風景から目を離さなかった。彼の表情には、かつて高潔な騎士として名を馳せた男の、純粋な驚きと、そして少しの羨望のようなものが浮かんでいた。


 ノヴァが稽古を終え、汗を拭いながらロランドの元へ駆け寄ると、ギュンターは優しい笑顔でノヴァに話しかけた。


「少年、見事な剣筋だった。まさか、これほどの使い手がこの村にいるとはな。」


 ノヴァは、ギュンターから褒められたことに少し照れながらも、しっかりと頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 ギュンターはノヴァの頭をそっと撫でた。その手は、長年の鍛錬で硬くなった騎士の手だが、どこか温かかった。


「その剣、いつか真の力を発揮する時が来るだろう。その日まで、どうか精進を怠らぬよう。」


 ギュンターの言葉に、ノヴァは深く頷いた。老騎士の眼差しは、彼の未来を静かに見つめているようだった。ギュンターは、自身の左遷という不遇な状況にもかかわらず、ノヴァの才能に心から感銘を受けていた。彼の中で、この村での日々に、新たな光が差し込んだ瞬間だった。


 ロランドは、ギュンターとノヴァのやり取りを見て、満足げに微笑んだ。彼の息子が、また一人、確かな理解者を得たことを感じ取っていた。


 その日の昼飯時、ノヴァは宿の食堂で、ユーリとルナがテーブルを囲んでいるのを見つけた。彼らはちょうど、エレノアが運んできた熱々のシチューに目を輝かせているところだった。


「わー、今日のシチュー、すごくいい匂い!」


 ユーリが声を上げると、ルナも小さく頷いた。エレノアは彼らの頭を優しく撫で、ノヴァにも声をかけた。


「ノヴァ、あなたも早く座りなさい。皆で食べましょう。」


 ノヴァは二人の隣に座ると、今日の出来事を話し始めた。


「今日ね、村にすごい騎士さんが来たんだよ! お父さんと稽古してる時、ずっと見てたんだ!」


 ノヴァが興奮気味に話すと、ルナが目を輝かせた。


「騎士様!? かっこいいなー! やっぱり剣とか持ってるの!?」


「うん! あと、騎士見習いのお兄さんたちもいて、みんなでゾロゾロ来てたんだ。ヴァルター男爵の紋章がついてたよ。」


 ユーリは少し心配そうに尋ねた。


「ヴァルター男爵の部下ってことは、あんまりいい人じゃないんじゃないの……? お父さん、前に男爵様のこと、あんまり好きじゃないって言ってたよ?」


 ノヴァは首を傾げた。


「うーん、でも、あの騎士さんはなんだか優しかったよ。目つきは鋭かったけど、俺のこと褒めてくれたし。それに、お父さんとも普通に話してたし。」


 ユーリが笑って言った。


「ノヴァが褒められるなんて、珍しいな! よっぽどすごい剣術を見せたんだな!」


「失礼な! 俺はいつもすごいんだぞ!」


 ノヴァはむっとしたが、すぐに笑顔になった。


「でもさ、騎士様が村に来たってことは、また魔獣が増えるのかな? それなら、俺たちももっと強くなんなきゃな!」


 ノヴァの言葉に、ユーリとルナも真剣な顔で頷いた。彼らもまた、ノヴァとの交流を通じて、少しずつこの世界の現実と、自分たちの役割について考え始めていた。村に派遣されてきた老騎士ギュンターとノヴァたちの間に、これからどのような交流が生まれるのか、それはまだ誰も知らなかった。

読んでくださってありがとうございます。

このあと夜19時にも続きの話を投稿予定です。

1日2回更新は滅多にないので、ぜひ夜も読みに来てくださいね。

ギュンターという新しい登場人物は、ノヴァの成長において重要な存在となるはずです。

剣を通じた師弟の絆、そして彼が抱える過去や信念にも、少しずつ迫っていきます。

次回も、ノヴァたちの日常と冒険の両面をお届けしますので、引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ