第14話 五歳の決意、生活魔法と魔獣の群れ
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五歳になったノヴァは、剣も魔法も生活の知恵も一気に成長中。
宿屋の雑用から学ぶ「生活魔法」の真髄、そして村を脅かす魔獣との遭遇。
小さな手が握る剣と魔法は、大切なものを守れるのか——。
今回は、少年が初めて自分の力を証明する瞬間を描きます。
ノヴァは四歳から五歳にかけて、目覚ましい成長を遂げた。ロランドが教える水霊剣術 動麗流は優雅で素早い動きが特徴で主に片手剣やレイピアようだが、剣先での精密な刺突と、相手の攻撃を紙一重でかわす流れるような足捌き。「水のように滑らかな動き」が練度を象徴し、敵を翻弄する。
剣術稽古は益々熱を帯び、小さな体には不釣り合いなほどの鋭い動きを身につけつつあった。魔法の探求も怠らず、四属性魔法の基礎に加え、より複雑な制御や応用にも挑戦していた。そして何より、宿の手伝いを通して、魔法を日常に活かす「生活魔法」の奥深さを学び始めていた。
そしてノヴァは手伝いもただ力任せにしていたわけではない、彼は雑用の中にも魔法の活用法を見出そうとしていた。例えば、食堂のテーブルを拭く際には、目に見えない微細なウェントゥス・レウィス(軽風)を布巾に纏わせ、埃を効率的に除去する。皿洗いでは、アクア・プーラ(清浄水)で汚れを浮かせ、わずかな力で洗い流す。
(なるほど、魔法は戦闘だけじゃない。こういう日常の些細なことにも応用できるのか。これはまさに「生活魔法」の真髄ってやつだな! まだまだ工夫の余地がありそうだ。)
ノヴァは、宿の仕事をしながらも、自身の魔法の応用力を着実に高めていった。特に、複数の魔法を同時に、かつ精密に制御する訓練に力を入れていた。例えば掃除をしながら、ほんの少しのイグニス・パルウス(小火)で換気を促し、アクア・プーラ(清浄水)で床の汚れを浮かせる、といった具合だ。
そんなある日の午後、ノヴァは使い古された雑巾を前に考え込んでいた。
(この染み、なかなか落ちないな……もっと強力な水魔法を使うか? いや、布が傷むかもしれない……)
ふと、アルスが以前話していたことを思い出した。「魔法はイメージじゃ。ただ力を込めるだけでなく、どういう効果を与えたいのか、明確にイメージすることが大切じゃ。」
ノヴァは目を閉じ、染み込んだ汚れを優しく浮かび上がらせる水のイメージを強く描いた。そしてそっと魔力を雑巾に流し込むと、驚いたことに、これまでびくともしなかった染みがみるみるうちに薄れていったのだ。
「すごい! イメージするだけで、こんなに効果が変わるなんて!」
ノヴァは生活魔法の奥深さに改めて感銘を受けていた。
その日の夕暮れ、ノヴァはロランドと共に、村の入り口付近の見回りに出かけた。ロランドの隣には、がっしりとした体格の自警団副団長、ガルドも同行している。最近、森の魔獣が稀に畑を荒らすことがあったため、警戒を強めていたのだ。
「ノヴァ坊、今日は村の南側の森を捜索するぞ!お前は俺の前衛偵察として、しっかり周囲を警戒するんだぞ。お前の剣術はすでに中級の上位ぐらいにはなっていると見込んでいるからな。」
ロランドはノヴァの頭をポンと叩いた。ノヴァは内心でニヤリとする。
(前衛偵察か! なるほど、俺の特性にぴったりの役割だな! よし、期待に応えてやるぞ!)
ノヴァは魔法の感知能力を研ぎ澄ませ、森の奥へと意識を向けた。辺りは静寂に包まれていたが、彼の研ぎ澄まされた感覚は、微かな異変を捉えた。
その時、森の奥から低い唸り声が複数聞こえてきた。ロランドとガルドは即座に剣に手をかける。
「ロランド団長、何か来るぞ! 数が多い!」
ガルドが警戒しながら言う。唸り声は徐々に近づき、やがて茂みの中から、凶悪な牙と鋭い爪を持つウルフが八匹の群れとなって姿を現した。通常のウルフよりも1回り大きく、明らかに畑を荒らすためではなく、獲物を狙ってきているのが分かる。
「ちっ、ウルフの群れか! しかも、この時期にこんな大所帯で!」
ロランドが舌打ちする。ウルフたちは一斉に低い唸り声を上げ、村の畑に向かって飛びかかろうとする。
「俺たちが食い止める! ノヴァ坊は後方支援だ!」
ロランドとガルドが群れに立ち向かう。しかし、ウルフたちは素早く、二人を翻弄するように動き回る。畑に侵入しようとする個体も現れた。
(このままじゃ突破される! 俺も動かないと!)
ノヴァは決意を固めた。彼は冷静に状況を見極め、最も手薄な方向から畑に侵入しようとするウルフの一匹に狙いを定めた。そのウルフは、ロランドの視線から外れた一瞬の隙を突いて、畑へと駆け出そうとしていた。
ノヴァは迷わず駆け出した。ウルフが畑の境界線に到達する寸前、彼はまるで風になったかのような動きで、四歳の時にロランドから贈られたショートソードを、これまでの稽古で培った剣術の全てを込めて、ウルフの側頭部に叩き込んだ!
「はぁっ!」
小柄な体から放たれたとは思えない鋭い一撃。ウルフはけたたましい鳴き声を上げ、頭がざっくりと切られ地面に倒れ伏した。ノヴァが体術と剣術だけで魔獣を仕留めたことに、ロランドとガルドは目を剥いた。
「おいおい、ノヴァ坊! 今のは……!」
ロランドが驚きの声を上げるが、ノヴァは返事をせずに次のターゲットに意識を集中させる。別のウルフが、ガルドの隙を突いて横から襲いかかろうとしていた。
(よし、今度は魔法だ!)
ノヴァは即座に魔力を練り上げた。地面に倒れたウルフを横目に、ガルドに迫るウルフへその手に圧縮した風の刃を放つ!
「ウェントゥス・テルム(風の刃)!」
鋭い風の刃は、空気を切り裂き、ウルフの足を正確に捉えた。ウルフはバランスを崩し倒れ込む。しかし、完全に仕留めきれていない。ノヴァは畳み掛けるように、今度は小さな火の玉を生成し、倒れたウルフの眉間に向かって放った。
「ピラ・イグニス(火の玉)!」
火の玉はウルフの頭部に命中し、魔獣は短い悲鳴を上げて絶命した。
ノヴァが二匹のウルフを仕留めている間に、ロランドとガルドも残りのウルフたちを退治し終えていた。あたりには、魔獣の死骸が横たわり、静寂が戻っていた。
ロランドとガルドは呆然とした顔でノヴァを見つめる。
「ノヴァ坊……お前、本当に五歳なのか……?」
ガルドが絞り出すように言う。ロランドは深いため息をつき、それからノヴァに近づいた。
「まさか、剣と魔法でそれぞれ一体ずつ仕留めるとはな。しかも、危なげなく……」
ロランドは倒れたウルフに目をやった。
「よし、魔石を回収するぞ。」
ロランドは懐から小刀を取り出すと、ウルフの頭部に切れ込みを入れ、ゴロリと転がる魔石を取り出した。それは、魔獣の魔力の源であり、換金することもできる貴重な素材だ。ノヴァが仕留めた二匹からも、同様に魔石が回収された。
「ノヴァ坊が仕留めた分は、お前の取り分にしてやる。よくやったな。」
ロランドはそう言って、ノヴァの小さな手に2つの魔石を乗せた。ひんやりとした感触と、微かに魔力を帯びたその石に、ノヴァは目を輝かせた。
(やった! 魔石ゲット! これでお小遣い稼ぎもできるし、素材としても使える。冒険者としての一歩を踏み出した気分だ!)
その日の夜、ノヴァは寝る前に改めて自分の手のひらを見つめた。まだ小さく頼りない手だが、この手で魔法を操り、剣を振るい、大切なものを守ることができた。
五歳になったばかりの小さな魔法使いは、静かに、しかし確かに、自身の成長を感じていた。そして、いつかアルスのような偉大な魔法使いになり、もっと多くの人々を守れるように、これからも鍛錬を続けていくことを心に誓ったのだった。手の中の魔石は、彼にとって忘れられない勲章となった。
今回はノヴァが「生活魔法」と「実戦」の両方で成果を出す回でした。
魔法は戦闘だけじゃない、というテーマを描きたかったんです。
魔獣との戦いは危険だけれど、彼にとっては自分の成長を確かめる最高の機会。
手の中の魔石は、ただの素材ではなく、努力の証であり、自信の始まり。
これから彼がどこまで強く、そして優しくなれるのか、見守っていただければ嬉しいです。




