第13話 それぞれの才能と、旅立ちの兆し
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
今回は、仲間の新たな才能と、師との別れ、そしてノヴァの心に芽生える新たな決意を描きました。
物語はまだまだ序盤ですが、この小さな日常と大きな夢が、やがてどんな未来につながるのか――ぜひ見守っていただけると嬉しいです。
では、第13話をどうぞ。
宿の雑用倍は続いている。ノヴァ、ユーリ、ルナの三人が宿の裏庭で荷物を運んでいる時、ノヴァはユーリの持つ風への才能に気づいた。ユーリが重い木箱を持ち上げようとした瞬間、彼の周囲の空気がわずかに揺らぎ、木箱が思ったよりも簡単に持ち上がったのだ。それは、ノヴァが風魔法で補助する際に感じる微細な魔力の流れと酷似していた。
(あれ? 今の……もしかしてユーリ、無意識に風魔法を使ってる? いや、生活魔法の域にも達してない、もっと根源的な……わかった風の親和性がすごく高いのか!)
ノヴァは驚きを隠せない。ユーリは自覚がないようだが、彼の体内には確かに風の魔力の流れがある。これは、ノヴァが持つ「超絶」とは異なる、しかし特定の属性に特化した「高親和」の兆候だった。ノヴァはアルスが以前教えてくれた知識を思い出した。
魔法の各系統に対する親和性。
無親和:特定の属性に対して全く親和性がない状態。
低親和:その属性に対してわずかな親和性がある状態。
中親和:その属性に対して平均的な親和性がある状態。
高親和:その属性に対して非常に強い親和性がある状態。
極親和:特定の属性の魔法を極限まで扱える、最高の親和性を示す段階。
ノヴァは好奇心に駆られ、ユーリに声をかけた。
「ユーリ、ちょっとさ、指先をピンと伸ばしてみて。」
「ん? なんだよ急に?」
言われるがままにユーリが指先を伸ばすと、ノヴァは自分の手のひらから微量の風の魔力を放ち、ユーリの指先をそっと撫でた。
「あのさ、風が流れるようなイメージをしてみて。指先から、そよそよと風が吹くように。」
ユーリは半信半疑ながらも、ノヴァの言葉通りにやってみた。すると、どうだろう。ユーリの指先から、本当にごく微弱ながら、かすかな風が吹き出したのだ。それは、生活魔法の「風」を発動するよりもさらに原始的で、しかし確実に、風の現象を引き起こしていた。
「うわっ! なんだこれ! 風が出た!?」
ユーリは驚いて手を引っ込める。ルナも目を丸くしている。
「すごい! ユーリも魔法使えるの!?」
ノヴァは内心でガッツポーズをした。やはり自分の見立ては正しかった。ユーリは風の才能に恵まれている。
「ユーリ、君には風の才能があるみたいだ。もっと練習すれば、色々なことができるようになるかもしれないぞ。」
それから、ノヴァはユーリに、簡単な風魔法の基礎を教え始めた。魔力の流し方、イメージの仕方、そして小さな風を起こすための集中法。ユーリはノヴァの教えを驚くべき速さで吸収し、数日後には指先からハッキリとした風を起こせるようになっていた。
「これって、もしかして、おれも魔法使いになれるのか!?」
目を輝かせるユーリの姿に、ノヴァは、彼らが将来、自分にとってかけがえのない仲間になることを確信した。
そんなある日の朝、ノヴァがいつものように食堂で朝食を摂っていると、アルスが大きな荷物を抱えて現れた。
「おお、ノヴァ坊! 今朝は早いな!」
アルスはいつものように朗らかな笑顔でノヴァに声をかけたが、その荷物を見てノヴァは嫌な予感がした。
「アルスさん、その荷物……もしかして、どこかへ行っちゃうの?」
ノヴァの問いに、アルスは寂しげに目を伏せた。
「うむ、そうじゃな。旅の老いぼれじゃから、そろそろ次の場所へ行かねばならん時が来たようじゃ。」
ノヴァはショックを受けた。アルスは、この世界で初めてノヴァに魔法を教えてくれた恩師だ。彼がいなくなるのは、あまりにも寂しい。
「そんな……行っちゃうの?」
ノヴァの顔に悲しみが浮かぶ。アルスはノヴァの頭を優しく撫でた。
「いつか別れは来るものじゃ。だが、ノヴァ坊はもう一人前の魔法使いじゃ。これからは、己の力で道を切り開いていくのじゃぞ。」
アルスはそう言うと、何かを思い出したように目を輝かせた。
「うむ、そうじゃ! お主への餞別代わりに、わしがこれまでの旅で極めてきた、とっておきの高等魔術を見せてやろう!」
アルスはそう言うと、食堂の中央に立つ。そして、ゆっくりと両手を掲げ、目を閉じた。彼の全身から放たれる魔力が、食堂の空気を震わせる。
「万象を統べし、古の力よ、今、ここに集え! 『レスタウラティオ・マグナ』!」
アルスが呪文を唱えると、彼の両手の間に、淡い光を放つ透明な球体が現れた。その球体は、中に虹色の光が渦巻き、まるで小宇宙のようだった。ノヴァは息をのんだ。これまで見たことのない、圧倒的な魔力の凝縮。そして、その光が食堂全体を包み込むと、長年使い込まれて古びていたテーブルや椅子が、瞬く間に新品のように輝きを取り戻したのだ。
壁のひび割れが消え、床の傷が癒え、まるで時が巻き戻されたかのように、宿屋全体が活力を取り戻していく。
「これは……!?」
ノヴァは驚きを隠せない。アルスの魔術は、単なる修復魔法ではない。まるで、対象の「生命力」そのものを活性化させているかのようだった。
「これは『万物活性化』の魔術じゃ。対象の時を巻き戻し、本来あるべき姿へと回帰させる。寿命をも延ばすことができる、癒しの極致じゃな。」
アルスは疲労した様子もなく、にこやかに言った。ノヴァは、その圧倒的な力に打ちのめされると同時に、言いようのない感動を覚えた。
(これが、アルスさんの魔法……! 俺の知る魔法とは、次元が違う! 俺もいつか、こんな魔法が使えるようになりたい! 家族を、村を、そして世界を、この魔法で癒し、守り抜くんだ!)
ノヴァの心に、新たな目標が生まれた。それは、ただ強くなるだけでなく、アルスのような「癒し」の極致を目指すという、より深い決意だった。
「アルスさん! 僕、絶対、アルスさんみたいに、すごい魔法使いになるから! この魔術、いつか僕も使えるようになるから!」
ノヴァは目を輝かせながら、アルスに誓った。アルスはノヴァの真剣な眼差しを見て、満足そうに頷いた。
「うむ! 期待しておるぞ、ノヴァ坊! その目なら、必ずや辿り着けるじゃろう!」
そうして、アルスはノヴァに最後の言葉を残し、静かに宿を出て行った。彼の背中は、どこか寂しげでありながらも、確かな旅人の風格を漂わせていた。
アルスの去った後、ノヴァはいつものように宿の雑用をこなした。しかし、彼の心は、アルスの見せた高等魔術と、新たなる目標で満たされていた。雑用をしながらも、どうすればあの魔術に近づけるのか、常に思考を巡らせる。
夕方、ユーリとルナが宿にやってきた。ノヴァは、彼らと一緒に裏庭でかくれんぼをしたり、小石を積んで小さな城を作ったりした。彼らとの時間は、ノヴァに子供らしい無邪気な喜びを与えてくれた。
(これが、普通の子供の生活か。魔法の探求も楽しいけど、こういう何気ない日常も悪くないな。友達と遊ぶのも、宿の手伝いをするのも、全部「守る」ための力になるんだ。そうか、俺が守りたいのは、何も大きな世界だけじゃない。この小さな村で、この家族と友達と、平凡だけど温かい日常なんだ。)
ノヴァの心に、守るべきものの具体的な姿が明確になっていった。彼の中に、知識と力だけでなく、人間的な温かさも育ち始めていた。
ノヴァはロランドとの剣術稽古、魔法の修行、そして宿の手伝いをこなしながら、来るべき未来のために、静かにしかし確実にその力を磨き続けていく。彼の冒険は、まだ始まったばかりだ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回、ユーリの才能が明らかになり、アルスとの別れという大きな節目を迎えました。
ノヴァの守りたいものは、ただ「強くなる」ためではなく、「大切な日常を守るため」という形で、少しずつ輪郭を持ちはじめています。
次回からは、この成長がどのように試されるのか……また新しい展開を楽しみにしていてください。




