第12話 いたずらと成長の四歳
第12話「いたずらと成長の四歳」へようこそ。
ノヴァは4歳となり、剣術と魔法の腕を着実に磨きながら、日々の生活に少しずつ変化が訪れます。子どもらしい好奇心と遊び心が芽生え、仲間たちとの絆も深まっていきますが、その中で「力の使い方」についての大切な教訓を学んでいきます。
今回のお話では、剣と魔法の融合への第一歩と、子どもたちの無邪気ないたずらがもたらす成長の一幕をお楽しみください。
ノヴァが4歳を迎えた。この一年で彼の成長は目覚ましく、身体能力は格段に向上し、魔法の制御もさらに精密になった。特に、剣術の稽古は彼の日常に深く根付いていた。朝の日課としてロランドと木刀を交わす時間は、ノヴァにとって単なる訓練以上の意味を持っていた。
「いくぞ、ノヴァ!」
ロランドの声が宿の裏庭に響く。木刀が風を切り、ノヴァの小さな体をめがけて飛んでくる。ノヴァは前世の経験とこの世界の身体能力をフル活用し、流れるような動きでそれを捌く。しかし、やはり父の壁は厚い。一瞬の隙を突かれ、木刀がノヴァの胴に軽く触れる。
「はい、一本!」
ロランドは満足げに笑い、木刀を下ろした。ノヴァは悔しそうに息を吐く。
「くそー、また負けた!」
「ハハッ、まだまだだな、ノヴァ坊! その小細工の動きだけじゃ、俺の長年の経験には敵わんぞ!」
ロランドはノヴァの頭をガシガシと撫で回す。ノヴァは、その屈辱に内心で毒づく。
(小細工って言うな! これが俺の「風のような体捌き」なんだよ! いつもひょいひょいと避けてるだけに見えるかもしれないが、これだってちゃんと計算ずくなんだからな! ちくしょう、あと一歩が届かない! しかし、親父の剣はやっぱりすごい。あの自然体に見える動きの中に、どれだけの技術が詰まってるんだ……って、俺も親父の剣術を無意識のうちに解析してるあたり、やっぱり成長してるな!)
しかし、ノヴァはただ負けているだけではなかった。彼は最近、剣に魔力を込める練習を始めていた。まだごく微量だが、剣に風の魔力を纏わせることで、振りの速度をわずかに上げる試みだ。
「よし、もう一本! 今度は全力で来いよ、お父さん!」
ノヴァは気合を入れ、再び木刀を構える。ロランドも面白そうに構え直した。ノヴァは渾身の一撃を繰り出す寸前、木刀に風の魔力を込めた。瞬間、木刀の周囲に微かな風の渦が生まれ、その一振りがわずかに加速した。
「ぬっ!?」
ロランドの顔に驚きが走る。ノヴァの一撃は、これまでとは比べ物にならない速さでロランドの木刀をかすめた。一本にはならなかったが、その速度はロランドの予測を超えていた。
「おいおい、ノヴァ坊! 今のは……まさか、剣に魔力を込めたのか!?」
ロランドは目を丸くしてノヴァの木刀をまじまじと見つめた。その驚きように、ノヴァは内心でガッツポーズをする。
(ふっふっふ、見たかお父さん! これが魔法と剣術の融合の第一歩だ! まだほんの少しだが、この応用を極めれば、俺の剣はとんでもないことになるぞ! ……って、顔に出さない、顔に出さない。あくまで「たまたま」を装うんだ。)
ノヴァは得意げに胸を張った。
「えへへ、ちょっとだけね! なんか、剣を振ってたら、魔力がふわって集まってきたんだ!」
「なんだと!? まさか、そんな簡単に……お、おまえは本当に恐ろしいヤツだな!」
ロランドは感心したようにノヴァの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「よし、せっかくだから、お父さんの奥の手を少しだけ見せてやろうか。これはまだノヴァ坊には早いが、いつか必ず役に立つ。」
ロランドはそう言うと、真剣な面持ちで構え直した。彼の全身から、これまでとは違う、微かなオーラが立ち上る。ロランドの木刀が、まるで意思を持ったかのように、滑らかな軌跡を描き始める。それは、これまで見てきた剣術とは明らかに異なる、光の粒子が剣筋に沿って煌めくような動きだった。一瞬の間に、複数の残像が生まれ、どれが本物か判別できない。
(な、なんだ今の動き!? これは、お父さんが生活魔法の応用として、光の操作を剣術に組み込んでいるのか!? 光の屈折で視線を欺きさらに一撃、一撃に魔力を込めてわずかながら威力を高めている……! 本人も術式魔法の範疇にない、生活魔法の延長線上にある独自の技だと認識しているだろう。すげぇ、親父の剣は奥が深いぞ!)
ノヴァが驚愕していると、ロランドはすっと動きを止めた。
「どうだ? 少しは参考になったか?」
ロランドは涼しい顔で尋ねるが、ノヴァは興奮で息を飲んだ。
「うん! すごく! ありがとう、お父さん!」
剣術の稽古を終えると、ノヴァは宿の手伝いに精を出した。テーブル拭き、パンくず集め、簡単な荷物運び……4歳児にできる仕事は限られていたが、ノヴァは持ち前の賢さを活かして効率的にこなした。
「ノヴァ、今日もありがとうね。本当に助かるわ。」
エレノアが優しく微笑む。ノヴァは満足げに胸を張った。
(どうだ! 昨日までの「修行ニート」とは違うだろ! やればできる子、それが俺、ノヴァ様だ!)
4歳を迎えたノヴァの毎日。彼の生活今まで魔法の鍛錬や宿の仕事が中心だったが、今までと違う新たな欲望が芽生えていた。ある日の午後、ユーリとルナがいつものようにノヴァを宿へ迎えにやってきた。
「ノヴァ、遊ぼうぜ!」
「今日は何するの?」
ユーリは7歳、ルナは5歳。ノヴァより少し年上の彼らは、村の子供たちの間で「いたずら三銃士」と密かに呼ばれていた。
「今日はな、村の広場の水汲み場にある手押しポンプの水を、ちょっとだけ凍らせてみようぜ!」
ユーリがニヤリと笑った。
「そうそう! みんなびっくりするかな!」
ルナも目を輝かせながら話すがノヴァは一瞬ためらった。
(おいおい、それは立派な「村への迷惑行為」だぞ。前世の常識で言えば、公共物の一部機能を停止させる行為に当たるんじゃないか? でも、この世界の子供にとっては、ちょっとした冒険なんだろうな。それに……面白そうだ!)
ノヴァはニヤリと笑い返した。
「よし、任せてくれ! 僕の火魔法があれば、あっという間だ!」
三人は広場の水汲み場へと向かった。水汲み場には手押しポンプがあり、村人たちが水を汲みに来る場所だ。ユーリとルナが見張りに立ち、ノヴァがそっと手をかざす。
「凍れ、グラキエス・ゲル!」
ノヴァの魔力が手押しポンプの先端部分に集中し、あっという間に熱を奪われ吐水口から出る水が薄く凍り付いた。水が途中で氷の膜に覆われ、チョロチョロとしか出なくなった。
「うわー! すごいノヴァ!」
「本当に凍ったー!」
二人は興奮して飛び跳ねた。そこに、水を汲みに来た村の男がやってきた。男はポンプから水がチョロチョロとしか出ないのを見て、首を傾げる。
「あれ? どうしたこった、水が凍ってるのか? 妙だな、こんな陽気なのに。」
男の困惑した声に、三人は顔を見合わせ、一目散に逃げ出した。
「ハハハ! おじさん、困ってたな!」
ユーリが転がりながら笑う。
「ノヴァの魔法、すごいね! またやろうよ!」
ルナも無邪気に言う。
ノヴァも罪悪感より、仲間との共犯意識による高揚感で笑いが止まらなかった。
(これは……まさに「悪ガキ」の特権だな! 少しだけ、前世では味わえなかった純粋な子供時代を満喫している気分だ! でも、やりすぎると親父に怒られるから、ほどほどにしないとな……。)
もちろん、このいたずらはすぐにロランドの耳にも入った。その日の夕食後、ロランドは腕組みをしてノヴァの前に立った。
「ノヴァ坊。広場の水汲み場のポンプが凍っていたそうじゃないか。おまえの仕業か?」
ノヴァは目を泳がせながら、とぼけた。
「え、僕? 何のことかな? 知らないよ?」
「とぼけるな! おまえの氷魔法の精度は、他の子供には真似できん。それに、ユーリとルナがぺらぺらと話してくれたぞ。」
ロランドは呆れたように首を振る。ノヴァは観念した。
「ごめんなさい、お父さん。ちょっと、面白くて……。」
「面白くて、じゃない! 村の人に迷惑をかけるような魔法の使い方は許さん! これから、宿の雑用を倍にするからな!」
ロランドは厳しく言い渡した。ノヴァはしょんぼり肩を落とす。(うわー! 宿の雑用倍増かよ! 修行ニートを返上したばかりなのに、今度は「雑用係」か! でも、これも自業自得だよな……。)
しかし、ロランドは最後に優しくノヴァの頭を撫でた。
「だがな、ノヴァ。おまえの魔法の腕が上がっているのはよく分かった。もっと人の役に立つ様に、その力を使うんだ。そして友達との遊びも大事にしろ。ただし、迷惑にならないように、だ。」
ノヴァはロランドの言葉に、大きく頷いた。いたずらで怒られた経験も、彼にとっては大切な学びとなった。魔法の力を正しく使うこと、そして仲間との絆を深めること。4歳になったノヴァは、少しずつ、しかし確実に、この世界で自分らしい生き方を見つけていた。
宿の雑用が倍になったノヴァは、これまで以上に忙しい日々を送ることになった。朝はいつもより早く起き、食堂の掃除、客室の整頓、料理の準備の手伝い、そして夕食後の片付けまで、休む間もなく動き回る。魔法は練習するものの、遊びに出る時間はめっきり減ってしまった。
「ああ、腰が痛い……」
ノヴァは誰にともなく呟き、こっそり腰をさする。子供らしい体力はあっても、大人の仕事量をこなすのはやはり骨が折れた。
そんなノヴァを見かねたのか、ユーリとルナが時折宿を訪ねてきた。
「ノヴァ、遊べないのか?」
「宿の手伝いが大変なの?」
二人の顔には、寂しげな色が浮かんでいた。ノヴァは苦笑して首を横に振る。
「うん、お父さんに怒られちゃってね。しばらくは、この生活が続くんだ。」
ユーリとルナは「ごめんな」とばかりにしょんぼりするが、すぐに目を輝かせた。
「じゃあ、俺たちも手伝うよ!」
「そうだよ、みんなでやれば早く終わるもん!」
ノヴァは驚いて目を見開いた。
「え? でも、いいのか?」
「もちろんだろ! いたずらしたのは三人一緒だし!」
ユーリが胸を張る。
「そうそう! 友達だもん!」
ルナも力強く頷いた。
それから数日間、ユーリとルナは午後になると宿にやってきて、ノヴァの雑用を手伝ってくれた。ユーリは重い荷物を運ぶのを手伝い、ルナは布巾でテーブルを拭くのを手伝う。彼らもまだ子供だから、正直なところ、あまり効率は良くなかったが、三人でやれば大変な雑用も少しは楽になった。何より、仲間がいるということがノヴァの心を軽くした。
「ありがとう、二人とも。助かるよ。」
ノヴァは心から感謝を伝えた。ユーリは照れくさそうに笑い、ルナは得意げに胸を張った。
彼らの協力のおかげで、ノヴァは以前よりも早く雑用を終えることができるようになった。そして、わずかだが魔法の練習時間も確保できるようになった。この出来事を通して、ノヴァは「魔法の力」だけでなく「友達の力」の重要性も知った。
ある日の夕食時、ロランドはノヴァが以前より早く仕事を終えていることに気づいた。
「ノヴァ坊、最近は随分と仕事が早くなったな。一人でやっているのか?」
ノヴァは少し照れながら答えた。
「ううん、ユーリとルナも手伝ってくれるんだ。」
ロランドは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「そうか、良いことだ。友達と助け合うことを覚えたんだな。」
ロランドはそれ以上何も言わなかったが、ノヴァは、父が自分たちの行動を認めてくれていることを感じ取った。この一件以来、ノヴァは「いたずら三銃士」として名をはせることはなくなったが、ユーリとルナとの絆はより一層深まった。そして、彼は自分の持つ力が誰かのために、仲間との協力の中でこそ真価を発揮することを知る、大切な一歩を踏み出したのだった。
第12話をお読みいただき、ありがとうございます。
ノヴァの4歳は、単なる成長の節目だけでなく、力を持つ者としての責任と友情の大切さを知る時間でもありました。子どもらしいいたずら心と真剣な修行が交差する中で、彼が少しずつ「自分らしさ」を見つけていく様子を描けたことを嬉しく思います。
今後もノヴァの冒険と成長を見守っていただければ幸いです。どうぞ次回もよろしくお願いいたします。




