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第11話 小さな冒険者たちと宿の日常

【お知らせ】

昨日の第9話と第10話の順番が逆になってしまい、ご不便をおかけしました。

修正版はすでに反映済みです。

お詫びとして、本日は2話連続更新します!

続きもぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。


第11話では、ノヴァの剣術の修行が進み、家族や村の仲間たちとの絆が深まっていきます。

新しい友達との出会いもあり、彼の日常が少しずつ広がる様子をお楽しみください。

 ノヴァがロランドから剣術の手ほどきを受け始めてから、半年が過ぎた。朝の稽古はすっかり日課となり、ノヴァの身体能力は目覚ましく向上していた。三歳になったばかりとは思えない、しなやかで力強い動きを身につけていた。


魔法の習得も怠りなく、四属性魔法の基礎はすでに完璧に掌握し、実戦への応用を模索し始めていた。しかし、彼の探求心は、この小さな村の中だけでは満たされなくなっていた。


「ノヴァ坊、今日は村の奥の畑まで見回りだ。おまえも来るか?」


 ロランドが、朝食の席でいつもより大きな声で言った。ノヴァは目を輝かせた。村の奥の畑は、普段ノヴァが一人で遊びに行く範囲よりも少し遠く、森の入り口に近かった。


 エレノアは、夫の言葉に少し眉をひそめた。

 

「あなた、ノヴァを畑まで連れて行くのは、まだ少し早いんじゃないかしら? 森も近いし、もし何かあったら……」

 

 ロランドは、そんな妻の心配を笑い飛ばすように、ニヤリと笑った。

 

「ハハッ、エレノア。心配いらないさ。ノヴァ坊のあの頭の回転の速さと、この半年の稽古を見てみろ。ちょっとした問題事なら、あいつの知識と実力なら大丈夫だ。それに俺がついてるんだから、心配するな。」

 

 エレノアはため息をついたものの、夫の言葉に納得したように頷いた。


(おお、きたきた! 最近、稽古と宿の周りだけじゃ刺激が足りなかったんだよな。これはもしかして、小さな冒険の始まりってやつか? 親父の仕事について行くだけで、ちょっとワクワクするなんて、俺もまだまだ子供だな!)


 ロランドとノヴァは、朝食を終えると宿を出発した。村の道は、土と石が混じった素朴な道で、道の脇には色とりどりの花が咲いている。鳥のさえずりが聞こえ、遠くには森の緑が広がっていた。


 畑に到着すると、ロランドは農夫たちと挨拶を交わし、畑の様子や最近の魔物の出没状況について情報交換を始めた。ノヴァはその間、広い畑の端っこで、小さな虫を追いかけたり珍しい草花を観察したりしていた。


 その時、近くの小川の向こうから、何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「やーい、ユーリ! その蛙、捕まえられないだろー!」


「うるさいな、ルナ! もうちょっとで捕まえられそうなのに!」


 声のする方を見ると、7歳くらいの男の子と、5歳くらいの女の子が小川のほとりで何かを探している。男の子は活発そうな顔つきで、女の子は三つ編みの髪が特徴的だった。ノヴァは好奇心に駆られ、そっと近づいていった。


「なにしてるの?」


 ノヴァが声をかけると、二人はびくりと肩を震わせて振り返った。


「うわっ、誰だ!?」男の子が身構える。

「急に声かけないでよ、びっくりしたじゃない!」女の子がプンプン怒っている。


 ノヴァはにこやかに自己紹介をした。


「僕はノヴァ。この宿屋『星導庵』の息子だよ。君たちは?」


 男の子が警戒しながらも答えた。


「俺はユーリ! この村に住んでるんだ! こっちは俺の妹のルナだ!」


「別に兄じゃないし! 私はルナ。あんた、ここで何してるの?」


 ノヴァは、ロランドが自警団の仕事で見回りに来ていること、そして自分もついてきたことを話した。ユーリは目を輝かせた。


「へー、お父さん、自警団なんだ! かっこいいな! 俺たち、今、珍しいカエルを探してるところなんだ! ね、ノヴァも手伝ってくれないか?」


(カエル探し!? なんだ、子供らしい遊びに誘われたぞ。前世ではもうとっくに卒業してた遊びだが……いや待てよ。この世界の生き物の生態を知るのは、薬草学や魔物学にも繋がるかもしれない。それに、子供の友達を作るのも重要だ。コミュニケーション能力は、最強の魔法使いになる上で必須科目だからな!)


 ノヴァは、内なるツッコミを心に秘めつつ、二人のカエル探しを手伝うことにした。三人で小川のほとりを探し回り、時には泥だらけになりながら、珍しい斑点を持つカエルを見つけ出した。


「わーい! ノヴァすごい! おかげで捕まえられたよ!」ユーリが歓声を上げた。

「意外とやるじゃない。ありがとね、ノヴァ。」ルナも素直に礼を言った。


 カエル探しを通して、三人の距離はぐっと縮まった。ユーリは元気いっぱいの腕白少年で、村の隅々まで知っていた。ルナはしっかり者、二人とも少し口は悪いが気のいい兄弟のようだ。ノヴァは彼らと過ごす中で、この村の子供たちの日常や遊び方を学んでいった。彼らはノヴァの知性や落ち着きに驚きつつも、すぐに打ち解けた。


「ノヴァ、明日も一緒に遊ぼうぜ!」

「宿屋に戻るの? 退屈じゃない?」


 ユーリとルナの言葉に、ノヴァは軽く首を傾げた。


 その日の夕食時、ノヴァはふと食卓に並べられた料理を見ていたが、ある事実に気が付いた。テーブルには、エレノアお手製のパンとシチュー、そしてロランドが森で仕留めてきたらしい鳥肉のローストが並んでいる。美味そうだ。


(あれ? そういえば、俺、この宿屋の息子なのに、ほとんど手伝いしてなくね? 魔法の修行と剣術の稽古ばっかりで、料理の手伝いとか、皿洗いとか、宿の掃除とか、まるで記憶にないぞ。親父とお袋は毎日忙しそうにしてるのに、俺は何をしていたんだ? は……!? まさに、お客様状態!?まさか!?生まれた時からずっとだと…………!? なんてクソ息子だ俺は!)


 ノヴァは内心で激しくツッコミを入れた。これまでの彼は、前世の知識を活かし、この世界での魔法や剣術の習得に夢中だった。その探求心は、家族の生活を支えるという現実的な側面をすっかり忘れさせていたのだ。


「ノヴァ、どうしたの? ぼーっとして。」


 エレノアが心配そうにノヴァの顔を覗き込んだ。


「あ、いや、なんでもないよ、お母さん。ただ、このシチュー、すごく美味しそうだなと思って!」


 ノヴァはごまかしながら、心の中では決意を固めていた。(いかん! このままではただの「修行ニート」だ! 全属性魔法使いになるのはいいが、家族を支えられないんじゃ意味がない! 今日から、俺は宿屋の息子として、仕事も頑張るぞ! まずは皿洗いからか? いや3歳児に任せられる仕事って何だ? おしぼり配り? 宿のアイドル?)


 その晩、ノヴァは風呂上がりに、ロランドとエレノアが今日の客の予約や、仕入れの相談をしているのをこっそり聞いていた。二人のやり取りは手慣れており、宿の経営がいかに大変かを物語っていた。


(よし、決めた! 俺は明日から、積極的に宿の手伝いをしよう。賢い子供を演じれば、きっと色々な仕事を任せてくれるはずだ。まずは、どんな仕事があるか偵察だな!)


 翌朝、日課であるロランドとの剣術稽古をした後、火照った体を庭の井戸水で流し、そっと台所を覗いた。エレノアが朝食の準備で忙しく動き回っている。


「お母さん、何かお手伝いできることある?」


 ノヴァの突然の申し出に、エレノアは目を丸くした。


「あら、ノヴァ、珍しいわね。どうしたの?」


「うんとね、僕ももう大きいから、お母さんの手伝いをしたいんだ! 大切な家族のためだもん!」


 ノヴァは満面の笑みで言った。内心では、完璧な子供を演じきった自分に拍手を送っていた。


 (よし、これで完璧! さすが俺、天才子役の才能まで開花しそうだな! さて、どんな仕事が来るかな? 重い荷物運び? それは無理だろ。)


 エレノアはしばらくノヴァを見つめた後、優しく微笑んだ。


「そう? じゃあ、まずはテーブルを拭くのを手伝ってくれるかしら? あと、このパンくずも掃き集めてくれる?」


 ノヴァは「任せて!」と元気よく返事をした。そして、小さな体で一生懸命にテーブルを拭き、床に落ちたパンくずを掃き集めた。前世の自分がこんなことになるとは夢にも思わなかったが、家族のために働くことで不思議な充実感を感じていた。


 その日の午後、ユーリとルナが宿へ遊びに来た。ノヴァは、彼らと一緒に裏庭でかくれんぼをしたり、小石を積んで小さな城を作ったりした。彼らとの時間は、ノヴァに子供らしい無邪気な喜びを与えてくれた。


(これが、普通の子供の生活か。魔法の探求も楽しいけど、こういう何気ない日常も悪くないな。友達と遊ぶのも、宿の手伝いをするのも、全部「守る」ための力になるんだ。そうか、俺が守りたいのは、何も大きな世界だけじゃない。この小さな村で、この家族と友達と、平凡だけど温かい日常なんだ。)


 ノヴァの心に、守るべきものの具体的な姿が明確になっていった。彼の中に、知識と力だけでなく、人間的な温かさも育ち始めていた。

第11話をお読みいただき、ありがとうございます。

ノヴァが新しい友達と出会い、日常の中で少しずつ成長していく様子を描きました。

魔法や剣術だけでなく、こうした日常の小さな出来事も、彼の力となり、心を豊かにしていくことを感じていただけたら嬉しいです。

これからもノヴァとその家族、村の仲間たちの物語をどうぞ応援よろしくお願いします。

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