第111話 闇の召喚と新たな同盟
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カルザン帝国が闇の召喚と古代装備によって本格的に牙を剥く一方、ミルウェン王国側でも新たな同盟と技術協力が動き出します。闇と光、破壊と防衛――大陸を二分する流れが明確になる重要回です。ぜひ最後までご覧ください。
カルザン帝国の魔導都市エクリプス。地下研究施設の最深部では、不気味な闇のオーラが渦巻いていた。
「師よ、準備が整いました」
黒いローブを纏った若い弟子の一人が、恭しく頭を下げる。ゼノン・クロフトは満足げに頷き、巨大な魔法陣の中央へと歩み出た。
「ふふふ……我が研究の集大成を、ついに見せる時が来た」
ゼノンは両手を天に掲げ低く重い詠唱を始める。魔法陣が不気味な光を放ち、空間が歪み始めた。その中から巨大な影が次々と姿を現していく。
「来たれ異界の戦士よ!我が意志に従い、この世界に君臨せよ!」
光が爆発的に広がり、その中から全身を黒い甲冑で覆った異形の魔族たちが現れた。その数、実に数百体。瞳は赤く輝き全身から禍々しい魔力が溢れ出ている。
「……我が主……」
魔族たちが低い声で呟く。ゼノンは狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「素晴らしい!これで、帝国内での我が地位は確固たるものとなる!さらに……」
ゼノンは別の魔法陣へと目を向けた。そこには、より強大な気配を放つ五体の魔族が膝をついている。彼らの纏う雰囲気は一般の魔族とは明らかに格が違う、魔族の中でも高位の存在だった。
「契約により命じる。貴様らは私の直属の配下となれ」
「……承知した」
五体の魔族が一斉に頭を下げる。その時、施設の扉が開き、重厚な足音が響いた。
「ゼノン殿、見事な力だな」
現れたのは、カルザン帝国軍第一軍団長、ドラクス・フォン・ヴァルトハイム将軍だった。
「これはこれは、ドラクス将軍……」
ゼノンが恭しく頭を下げる。ドラクスは豪快に笑った。
「数百の魔族か。これだけいれば、ミルウェン王国など一瞬で蹂躙できよう」
「恐れ入ります。そして、将軍。もう一つ、お見せしたいものがございます」
ゼノンは奥の部屋へと案内した。そこには先日、古代文明の遺跡から発掘された『魔導強化外骨格』のオリジナルが鎮座していた。
「これに、魔力を込めることに成功しております」
ゼノンが手をかざしすこし魔力を注ぎ込むと、外骨格の胸部に刻まれた古代文字が淡く光り始めた。やがてその装備全体が闇のオーラを纏い、不気味に脈動し始める。
「ほう……」
ドラクスは装備に近づき手を触れた。その瞬間、膨大な魔力が装備から溢れ出し周囲の空気が震えた。
「これは……素晴らしい!」
ドラクスの口元が、獰猛に歪む。
「この力があればノヴァとかいう小僧など恐るるに足りん!」
「はい。さらに量産型の製造も急ピッチで進めております」
ゼノンが告げると、ドラクスは満足げに頷いた。
「よし、すぐに工廠へ向かうぞ。製造状況を確認する」
二人が工廠に到着すると、疲れ切ってよろよろになった技術者たちが、休むことなく量産型『魔導強化外骨格』の製造に従事させられている。
「将軍!」
疲弊しきった顔で、開発製造の責任者ブレンが駆け寄ってきた。彼の目の下には深い隈があり、手は震えている。
「ブレン、報告せよ」
「は、はい……現在、量産型は三十基が完成し、さらに五十基が組み立て中です。しかし……」
ブレンは言いよどんだ。ドラクスが鋭い眼光で睨みつける。
「しかし、何だ?」
「あまりにも急ピッチな生産により、技術者たちが疲労により次々と倒れています。このままでは、品質の低下は避けられません。どうか、少しでも休息を……」
「ふん」
ドラクスは鼻で笑った。
「休息だと?戦争に休息などない。倒れた者は交代させ製造を続けろ。品質が落ちたところで数で押せば問題ない」
「し、しかし……」
「黙れ!貴様の仕事は私の命令通りに製造することだ。文句があるならその頭と胴を離し体を軽くしてやろうか?」
ブレンは震えながら頭を下げた。
「も、申し訳ございません……」
ドラクスは満足げに頷き工廠を後にした。その背中をブレンは絶望的な表情で見送るのだった。
場所は変わってミルウェン王国、王都アストルム。星辰魔導騎士団の研究室ではノヴァたちが剣聖ギデオンと向かい合っていた。
「ギデオンさん、体調はどうですか?」
ノヴァが心配そうに尋ねる。ギデオンは穏やかに微笑んだ。
「おかげさまで完全に回復した。ノヴァ殿、そして治癒士カイル殿には感謝している」
「良かった。しかし無理は禁物です。まだ闇魔法の影響が残っているかもしれない」
カイルが優しく告げる。しかしギデオンの表情は真剣なものへと変わった。
「そうもいっていられない。ノヴァ殿、折り入って話がある」
「何でしょう?」
「私は、ノルレア自由都市群へ戻り、祖国で帝国に対して対抗したいと考えている」
その言葉に、部屋の空気が張り詰めた。レオンハルトが眉をひそめる。
「ギデオン殿それは危険すぎる。あなた一人で帝国の大軍を相手にするのは無謀だ」
「一人ではない。ゼオンとリリア、そしておそらく私を信じてくれる待っている仲間たちがいる」
ギデオンが静かに告げると、部屋の扉が開きゼオンとリリアが姿を現した。
「団長、準備は整っています」
ゼオンが淡々と告げる。リリアも頷いた。
「私たちは団長と共に戦います。それが私たちの贖罪です」
ノヴァは唇を噛んだ。ギデオンの決意は固く、止めることはできないと悟った。
「……わかりました。ならばせめて弱者が強者に対抗する知識を教えましょう」
ノヴァは深呼吸し、前世の記憶を辿り始めた。
「とある小国が圧倒的な軍事力を持つ大国に対し、ゲリラ戦術で勝利を収めた」
「ゲリラ戦術……?」
ギデオンが興味深そうに身を乗り出す。ノヴァは続けた。
「まず、正面からの戦闘は避けること。敵の補給線を断ち、士気を削ぐことに専念する。森や街の路地裏を利用し、奇襲と撤退を繰り返す。敵が大軍で押し寄せても姿を消してしまえばいい」
「なるほど……」
「次に、民衆を味方につけること。帝国の占領に不満を抱いている者は多いいはずだ。彼らに仲間意識を持たせ情報を提供してもらう。市民の支持があり、姿を極力敵に見せないことで敵は常に不安に怯えることになる」
ユーリが感心したように呟く。
「すげぇ……ノヴァ、マジで鬼畜だな」
「最後に敵の心理を利用すること。帝国軍はいつ攻撃されるかわからない恐怖に晒される。夜襲を繰り返し、補給物資を燃やし、指揮官を狙撃する。敵が疑心暗鬼に陥れば後は勝手に崩壊していく」
ノヴァは真剣な表情でギデオンを見つめた。
「ただし、決して無理はしないでください。生き延びることが最優先。あなたが死ねばすべてが終わる」
ギデオンは深く頭を下げた。
「ありがとう、ノヴァ殿。この知識必ず活かす」
セレスティアが不満そうに腕を組む。
「はぁ……本当に行ってしまうのね。無茶はしないでちょうだい」
「ああ、約束する」
ギデオンが微笑む。カイルが小さな袋を差し出した。
「これは、治癒薬と解毒薬です。必ず持っていってください」
「感謝する」
ギデオンは袋を受け取りゼオンとリリアと共に部屋を後にしようとした。その時ノヴァが声をかける。
「ギデオン、必ず生きて帰ってきてください。俺たちはあなたを仲間だと思っていますので」
ギデオンは振り返り、力強く頷いた。
「必ず」
三人が去った後、部屋には重い沈黙が漂った。レオンハルトが口を開く。
「ノヴァ、我々も動くべきだ。帝国の侵攻に備えなければならない」
「ああ、わかっている。だが今の王国の戦力では、帝国の大軍を押し返すのは難しい」
その時、部屋の扉が再び開き執事が現れた。
「ノヴァ様、王宮からの使者が参られました。国王陛下が緊急会議への出席を命じておられます」
「わかった。すぐに向かう」
ノヴァたちが王宮に到着すると、国王ラファエル、宰相エルドリッジ公爵、そしてヴァイスブルク侯爵とアルマ侯爵が既に集まっていた。
「ノヴァよくぞ参った」
国王が厳かに告げる。
「カルザン帝国の脅威に対抗するため、我々はネブラ公国連合へ支援を要請した。そして先ほど彼らから正式な回答があった」
エルドリッジ公爵が扇子を広げながら告げる。
「ネブラ公国連合はミルウェン王国への支援を表明しました。技術都市『アイアンレイン』から最新の魔導兵器と技術者が派遣されます」
「本当ですか!」
レオンハルトが驚きの声を上げる。国王が頷いた。
「ああ。彼らは明日、王都に到着する。ノヴァそしてレオンハルト。君たちにはネブラの技術者たちと連携し、新たな防衛ラインの構築を急いでもらいたい」
「承知しました」
ノヴァとレオンハルトが一斉に頭を下げる。アルマ侯爵が穏やかに告げた。
「ノヴァ殿の付与魔法とネブラの魔導兵器が融合すれば、王国の戦力は飛躍的に向上するでしょう。希望が見えてきました」
ヴァイスブルク侯爵が厳格な表情で続ける。
「ただし、時間は限られている。帝国は必ず再び侵攻してくる。一刻も早く防衛体制を整えねばならん」
「はい。全力を尽くします」
ノヴァが決意を込めて告げた。会議が終わりノヴァたちが王宮を後にする頃には、夕暮れの空が血のように赤く染まっていた。
「明日から、また忙しくなるな」
ユーリが大きく伸びをする。セレスティアが呆れたように言った。
「当たり前でしょう。戦争が目前なのよ」
ノヴァは遠くの空を見つめながら、静かに呟いた。
「ギデオン、無事でいてくれ……」
翌日、王都の迎賓館にはネブラ公国連合からの使節団が到着していた。彼らを率いるのは技術都市「アイアンレイン」の首席技師、エリック・フォージマスターだった。
「ミルウェン王国の皆様、お初にお目にかかります」
エリックは五十代半ばの男性で、灰色の髪と鋭い目つきが印象的だった。その後ろには十数名の技術者たちが控えている。
「ようこそ、ネブラ公国連合の皆様」
レオンハルトが丁寧に頭を下げる。エリックは興味深そうにノヴァを見つめた。
「君が、噂の天才、ノヴァ・ヴァルシュタインか」
「はい。お見知りおきを」
ノヴァが礼儀正しく応じる。エリックは満足げに頷いた。
「素晴らしい。我々が持参した魔導兵器と君の付与魔法が融合すれば帝国など恐るるに足りん」
「魔導兵器……どのようなものですか?」
セレスティアが興味津々で尋ねる。エリックは部下に合図し、大きな箱を運ばせた。
「これが、我々の最新技術『魔力増幅砲台』だ」
箱が開かれると、そこには精巧な魔導機械が収められていた。複数の魔石が組み込まれ、複雑な魔法陣が刻まれている。
「この砲台は、魔石に蓄えられた魔力を増幅し、強力な魔法攻撃を放つことができる。ただし現状では魔石の消耗が激しく、連続使用には限界がある」
「なるほど……」
ノヴァは砲台を観察し、その構造を理解し始めた。
「この魔石に、恒久的な付与魔法を施せば、魔力の消耗を抑えられるかもしれない」
「ほう!それは可能なのか?」
エリックが目を輝かせる。ノヴァは頷いた。
「試してみる価値はある。ただし魔石の質と大きさによって、付与できる効果に限界がある」
「わかった。では我々の持参した最高品質の魔石を使おう」
エリックが部下に指示を出す。その時ユーリが呑気に言った。
「なぁ、この砲台って、どれくらいの威力なんだ?」
「試してみるか?」
エリックがいたずらっぽく笑う。一同は王都の郊外にある訓練場へと移動した。
「では、実演しよう」
エリックが砲台を設置し魔力を注入する。砲台が淡く光り始めやがて眩い光球が形成された。
「発射!」
轟音と共に光球が標的に向かって放たれた。その一撃は、標的の岩山を粉々に砕、周囲の地面をクレーター状にえぐった。
「うおっ!すげぇ!」
ユーリが驚きの声を上げる。セレスティアも目を見開いた。
「これは……私の『フランマ・マグナ』に匹敵する威力ですわ!」
「そうだ。だが、問題は魔石の消耗だ。今の一撃で魔石の魔力は半分以上失われた」
エリックが砲台の魔石を取り外しノヴァに手渡す。
「これに君の付与魔法を施してくれ」
「わかりました。少し時間をください」
ノヴァは魔石を手に取り、その「核」を探り始めた。彼の瞳が淡く光り魔石の内部構造が見えてくる。
「この魔石は……なるほど質が高い。恒久的な魔力回復の付与が可能だ」
ノヴァは少し考えると魔石に魔力を注ぎ込み、漢字「省」と「環」の2文字を刻み始めた。魔石が淡く光り、やがてその光は安定した輝きへと変わった。
「完成した。これで魔石は消費魔力を軽減し、そして自動的に周囲の魔力を吸収し回復するようになる」
「本当か!」
エリックが驚愕の表情で魔石を受け取る。彼は魔石を砲台に戻し再び魔力を放つ。
「信じられん……魔力がほとんど減っていない!しかもゲージが回復していく!」
「これで、連続使用が可能になった」
レオンハルトが満足げに頷く。エリックは感激の面持ちでノヴァの手を握った。
「君は天才だ!この技術があれば、『魔力増幅砲台』はより高性能なものになる!」
「まだ始まったばかりです。これからもっと多くの魔導兵器に付与魔法を施さなければなりません」
ノヴァが真剣な表情で告げる。カイルが優しく微笑んだ。
「みんなで力を合わせれば、必ず成功するよ」
「ああ、その通りだ」
ノヴァは仲間たちの顔を見渡し決意を新たにした。
「帝国が何を企んでいようと俺たちは王国を守り抜く」
夕日が王都を照らし彼らの影が長く伸びていた。遠く東の空には不穏な黒雲が漂い始めていた。帝国の脅威はすぐそこまで迫っていた。
読了ありがとうございました。帝国は魔族と量産兵器という「数と恐怖」を選び、王国は同盟と技術による「防衛」を選択しました。ギデオンの旅立ちとゲリラ戦の示唆、そしてネブラ公国連合との協力は、今後の戦争の形を大きく変えていきます。次話からは、両陣営の準備がいよいよ具体化していきますので、引き続きお付き合いいただければ幸いです。




