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第110話 外交と闇の進行

いつも読んでいただきありがとうございます。更新が滞り申し訳ありません。

少しずつでも更新していきますのでご了承ください。

さて、本編では新工場設立を軸にした本格的な外交戦が描かれ、大陸情勢が明確に二分されていきます。一方で帝国側では闇と古代文明の力が静かに進行し、戦争の質そのものが変わり始めます。剣ではなく、国家と国家の思惑が交錯する回となりますので、ぜひご覧ください。

 イザベラの報告と国王からの指示を受けた1週間後、ノヴァはエルドリッジ公爵の執務室へと呼ばれた。広々とした部屋には、アルマ侯爵とヴァイスブルク侯爵も同席しており、壁には大陸全体を描いた巨大な地図が掲げられている。

 

「ノヴァ殿、よくぞ参られた」

 

 エルドリッジ公爵が扇子を広げながら、穏やかに微笑む。

 

「陛下の御命により、『シャトー・ノヴァ』の新工場設立を外交の手札として活用する方針が決定いたしました。その詳細について、ご報告申し上げます」

 

 公爵は地図上の複数の国を指し示した。

 

「我々は、ヴァルグリア騎馬連邦、ネブラ公国連合、レイゼン氷海王国の三国に対し、集中的な外交攻勢をかけました。新工場からの優先供給と、技術協力を条件に、軍事・経済同盟の強化を提案したのです」

 

「結果は……?」

 

 ノヴァが問う。アルマ侯爵が柔和な笑みを浮かべた。

 

「三国とも、前向きな返答をいただきました。特にヴァルグリア騎馬連邦は、『治癒薬』の安定供給に強い関心を示し、対ザガリア防衛線への協力も約束してくれた」

 

「素晴らしい。では、聖王国は?」

 

 ヴァイスブルク侯爵が厳格な表情で答える。

 

「ルミナ・セレスティア聖王国からも、理解を示す返答があった。星辰信仰の総本山として、『平和的な経済発展による大陸の安定』を支持するとのことだ。ただし、直接的な軍事介入は避けるとも明言された」

 

「つまり、精神的な支持は得られたが、軍事的な援軍は期待できないということですね」

 

 ノヴァの分析に、公爵は頷く。

 

「その通りです。しかし、聖王国の支持は、他の中立国への影響力という点で大きな意味を持ちます」

 

 そこで、公爵の表情が曇った。

 

「だが、問題もあります。ザガリア砂海合議国とヘル=ディア灰燼領は、我々の外交攻勢を完全に拒絶しました。彼らは既に帝国と深い関係にあるようです」

 

「やはり……」

 

 ノヴァは唇を噛んだ。公爵は続ける。

 

「さらに、トゥラン=アル火環王国は、もとより中立を宣言しており、いかなる陣営にも加担しないとのことです」

 

「つまり、大陸は完全に二分されたわけですね」

 

「その通りです。そして……」

 

 エルドリッジ公爵は扇子を閉じ、鋭い眼差しでノヴァを見つめた。

 

「陛下は、この状況を『経済侵略構想』と呼んでおられました。ノヴァ殿、これは貴殿の前世の知識ですな?」

 

「……はい」

 

 ノヴァは静かに頷いた。

 

「前世の世界では、武力を使わず、経済的な依存関係を構築して相手国を支配下に置く戦略が存在しました。この世界にはまだ存在しない概念ですが、今の王国にとって最も効果的な手段だと考えます」

 

「なるほど。貴殿の知識は、まさに我が国の切り札ですね」

 

 アルマ侯爵が感心したように呟く。しかし、ヴァイスブルク侯爵が厳しく釘を刺した。

 

「だが、経済だけで戦争は終わらん。帝国は必ず軍事行動に出る。その時我々は戦わねばならん」

 

「おっしゃる通りです」

 

 ノヴァは真剣な表情で応じた。

 

「だからこそ、星辰魔導騎士団は王国防衛の最前線に立つ準備を進めています。訓練を強化し、連携力を高めています」

 

「頼もしい限りだ」

 

 公爵が満足げに頷く。その時、ノヴァの脳裏に、ゼノンの不気味な笑顔が浮かんだ。

 

「公爵、一つ懸念があります」

 

「何かな?」

 

「この戦いは、単なる国家間の争いではありません。ゼノンの闇魔法が、帝国の奥深くで暴れ回っている可能性があります。彼の動向を警戒すべきです」

 

 ノヴァの言葉に、三人の貴族は顔を見合わせた。公爵は静かに告げる。

 

「……承知した。諜報部に、ゼノンの動向を最優先で追わせましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 ノヴァは深く頭を下げた。その頃カルザン帝国の首都、魔導都市エクリプスでは、ゼノン・クロフトが巨大な地下研究施設の最深部に立っていた。周囲には、闇のオーラを纏った数十人の弟子たちが整然と並び、中央の魔法陣からは、異界の気配が漂っている。

 

「師よ、準備が整いました」

 

 黒いローブを纏った弟子の一人が、恭しく頭を下げる。ゼノンは満足げに頷いた。

 

「ふふふ……ついに、この時が来たか。我が研究の集大成、『闇の召喚魔法』の真価を見せる時だ」

 

 ゼノンは両手を天に掲げ、低く重い詠唱を始める。魔法陣が不気味な光を放ち、空間が歪み始めた。そして、その中から巨大な影が姿を現す。

 

「来たれ、異界の戦士よ!我が意志に従い、この世界に君臨せよ!」

 

 光が爆発的に広がり、その中から、全身を黒い甲冑で覆った異形の魔族が現れた。その姿は人型だが、瞳は赤く輝き、全身から禍々しい魔力が溢れ出ている。

 

「……我が主……」

 

 魔族が低い声で呟く。ゼノンは狂気に満ちた笑みを浮かべた。

 

「素晴らしい!これで、帝国内での我が地位は確固たるものとなる!」

 

 弟子たちが歓声を上げる。その時、施設の扉が開き重厚な足音が響いた。

 

「ゼノン殿、見事な力だな」

 

 現れたのは、カルザン帝国軍第一軍団長、ドラクス・フォン・ヴァルトハイム将軍だった。巨漢で顔には無数の傷跡が刻まれ、右目には眼帯を付けている。その圧倒的な存在感に、弟子たちは息を呑んだ。

 

「ドラクス将軍……」

 

 ゼノンが恭しく頭を下げる。ドラクスは豪快に笑った。

 

「陛下の命により、貴様の召喚した魔族を我が軍団に配備することになった。この力を持ってすれば、ミルウェン王国など一瞬で蹂躙できよう」

 

「恐れ入ります。私の魔族たちは、将軍の指揮下で必ずや戦果を上げるでしょう」

 

「ふむ、口だけでないことを祈るぞ」

 

 ドラクスは魔族を一瞥し、満足げに頷いた。

 

「よし、この力を用いて、まずは古代文明の遺跡探索を加速する。陛下の覇業のため全力を尽くせ」

 

「御意」

 

 ゼノンは深く頭を下げたが、その瞳には野心の炎が燃え盛っていた。その後、帝国軍は魔族の力を借りて、次々と古代遺跡の発掘を進めていった。そしてある日、帝国北東部の地下深くに眠る遺跡で、驚くべき発見があった。

 

「将軍!ご覧ください!」

 

 発掘隊の隊長が、興奮した様子で叫ぶ。ドラクス将軍とゼノンが遺跡の最深部へ向かうと、そこには巨大な金属製の人型装備が、まるで眠っているかのように鎮座していた。

 

「これは……」

 

 ドラクスの目が見開かれる。その装備は全身を覆う重厚な鎧のようでありながら、関節部分には精密な魔導機構が組み込まれており、まるで人間の動きを拡張するかのように設計されていた。

 

「これは古代文明の魔法装備……鎧か?」

 

 ゼノンが興奮を抑えきれずに呟く。ドラクスは装備に手を触れた。その瞬間、装備の胸部に刻まれた古代文字が淡く光り始めた。

 

「ほう……これは使える」

 

 ドラクスは不敵に笑い、部下に命じた。

 

「この装備を、すぐに帝都の研究施設へ運べ!解析を最優先で進めるのだ!」

 

「はっ!」

 

 兵士たちが慌ただしく動き出す。ゼノンは装備を見つめながら、静かに告げた。

 

「将軍、この鎧には異質までの力を感じます。この力があれば、ミルウェン王国など恐るるに足りませんな」

 

「そうか!!面白い!」

 

 ドラクスは豪快に笑った。

 

「ノヴァとかいう小僧の付与魔法など、古代文明の力の前では児戯に等しい。我が軍団が奴らを完膚なきまでに叩き潰してやる」

 

 一方、ミルウェン王国の訓練場ではノヴァたち星辰魔導騎士団が、連携訓練に汗を流していた。

 

「ユーリ、もっと速く!」

 

「わかってるって!」

 

 ユーリが風の精霊を纏い、疾風の如く駆ける。その後方から、セレスティアが炎の魔法を放つ。

 

「『フランマ・マグナ』!」

 

 巨大な火球がユーリの軌道に沿って飛び、標的を正確に捉える。レオンハルトが氷の壁を展開し、爆発の衝撃を防ぐ。

 

「完璧な連携だ」

 

 ノヴァが満足げに頷く。カイルが治癒魔法で全員の疲労を癒し、セシリアが支援魔法で魔力を回復させる。

 

「みんな、素晴らしい動きだ。だがまだ足りない」

 

 ノヴァの言葉に、全員が真剣な表情を見せる。

 

「帝国は、必ず新たな力を手に入れてくる。ゼノンの闇魔法も、日に日に強大になっている。俺たちは、さらに強くならなければならない」

 

「ノヴァの言う通りだ」

 

 レオンハルトが同意する。

 

「俺たちは、王国の最後の砦だ。絶対に負けるわけにはいかない」

 

「おう!」

 

 ユーリが拳を掲げる。セレスティアが誇らしげに言った。

 

「私の炎は、どんな闇も焼き尽くしますわ!」

 

「僕も、みんなを守るために全力を尽くすよ」

 

 カイルが優しく微笑む。セシリアも決意を込めて頷いた。

 

「私も、支援魔法でみんなを支えます」

 

 ノヴァは仲間たちの顔を見渡し、静かに告げた。

 

「ありがとう、みんな。俺たちの絆こそが最強の武器だ。どんな敵が来ようとも必ず勝ち抜こう」

 

「おう!」

 

 全員が声を揃える。その時、訓練場の入り口に、剣聖ギュンターが立っていた。

 

「ほう、良い顔をしているな」

 

「師匠!」

 

 ノヴァが駆け寄る。ギュンターは満足げに頷いた。

 

「お前たちの成長は目覚ましい。だが慢心するな。戦いはこれからが本番だ」

 

「はい、肝に銘じます」

 

 ノヴァが深く頭を下げる。ギュンターは遠くの空を見つめながら、静かに呟いた。

 

「嵐が近づいておる。大きな、な……」

 

 カルザン帝国の魔導研究施設では、ドラクス将軍とゼノン、そして帝国の最高技術者たちが、発掘された古代文明期のものと思われる構体解析に没頭していた。巨大な装備は、特殊な魔法陣の上に置かれ、無数の魔力測定器がその周囲を取り囲んでいる。

 

「報告せよ」

 

 ドラクス将軍が威圧的に命じる。技術者の一人が、震える声で答えた。

 

「は、はい。この構体は、古代文明が開発した『魔導強化外骨格』と呼ばれるものと推測されます。使用者の魔力を増幅し、身体能力を飛躍的に向上させる機能が確認されました」

 

「ほう……具体的にはどれほどだ?」

 

「通常の人間が装着した場合、魔力出力は約三倍、筋力は五倍、さらに防御力も格段に上昇します。まさに、一人で軍団に匹敵する力を得られるかと」

 

 ドラクスの口元が、獰猛に歪む。

 

「良いものを見つけたな。これがあれば、ミルウェンの小僧どもなど、一蹴できる」

 

 別の技術者が、恐る恐る口を開く。

 

「し、しかし問題もございます。この装備を稼働させるには、膨大な魔力が必要です。通常の魔術師では、装着しても数分で魔力が枯渇してしまいます」

 

「ふん」

 

 ドラクスが鼻で笑う。その横でゼノンが静かに告げた。

 

「将軍、私の闇の魔力と魔族の力を注げば、この装備は長時間稼働可能です。将軍ご自身が装着されれば、無敵の力を得られるでしょう」

 

「気に入った。だが、量産はできんのか?」

 

 技術者たちが顔を見合わせ、一人が慎重に答えた。

 

「オリジナルの完全再現は不可能です。しかし、劣化版であれば製造可能かと。ただし、性能と耐久性は半分以下になります。魔力増幅は一・五倍程度、筋力は二倍強、そして防御力も大幅に低下します。さらに、長時間の使用には耐えられません」

 

「それでも構わん!」

 

 ドラクスが即座に答えた。

 

「数で押せば、劣化版でも十分に脅威となる。量産を急げ。我が第一軍団の精鋭部隊に配備するのだ!」

 

「は、はい!」

 

 技術者たちが慌ただしく動き出す。ドラクスは装備に近づき、その冷たい金属に手を触れた。

 

「このオリジナルは、この俺が纏う。そして、ミルウェン王国を蹂躙してやる」

 

 ゼノンが恭しく頭を下げる。

 

「将軍の武勇があれば、ノヴァなど敵ではございません」

 

「当然だ」

 

 ドラクスは豪快に笑った。

 

「貴様の闇魔法と魔族、そして量産型『魔導強化外骨格』の物量。これだけ揃えば、ミルウェン王国など一月も持たん。星辰魔導騎士団とやらも、俺の前では塵に等しい」

 

 その言葉は、まるで雷鳴のように、部屋中に響き渡った。一方、ミルウェン王国では、ノヴァが研究室で新たな付与魔法具の開発に取り組んでいた。机の上には、複数の試作品が並んでいる。

 

「兄上、これは?」

 

 リアムが興味深そうに尋ねる。ノヴァは一つの小さな盾を手に取った。

 

「これは、『反射の盾』だ。相手の魔法を跳ね返す効果を付与している。まだ試作段階だが、ゼノンの闇魔法に対抗できるかもしれない」

 

「すごい……」

 

 リアムが感嘆の声を上げる。その時、アルスが研究室に入ってきた。

 

「ノヴァ、少し話があるのだが」

 

「師匠、どうされました?」

 

「妙な気配を感じ取っているのだ。東の方角から、強大な闇の力が近づいている」

 

 ノヴァの表情が険しくなる。

 

「ゼノンですか……」

 

「おそらくな。だが、それだけではない。もっと別の、古い力も混ざっている。そして……」

 

 アルスは深刻な表情で続けた。

 

「巨大な殺気だ。戦場を駆け抜けてきた、歴戦の戦士の気配がする」

 

「帝国の将軍クラスが動いているということですか」

 

 ノヴァは眉をひそめた。アルスは深く頷く。

 

「古代文明の力かもしれん。もしそうなら、事態は予想以上に深刻だ」

 

「……わかりました。警戒を強めます」

 

 ノヴァは決意を込めて頷いた。

 

「俺たちは、どんな力が相手でも、必ず王国を守り抜きます」

 

「その意気だ」

 

 アルスが優しく微笑む。しかし、その瞳には深い憂いの色が浮かんでいた。夕暮れの空が血のように赤く染まっていた。その空の下、二つの陣営はそれぞれの力を蓄え来るべき決戦の時を待っていた。そして、運命の歯車は静かに、しかし確実に回り始めていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。外交による包囲網が形を成す一方で、帝国は闇魔法と古代装備という異質な力へと踏み込みました。力の方向性が大きく分かれ、いよいよ衝突は避けられない段階へと入ります。次話では両陣営の準備がさらに具体化していきます。執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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