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第10話 剣と魔法の交差

【お知らせ】

昨日投稿分の順番を修正しました。

この話は第9話の続きとなります。

読み飛ばしてしまった方は、先に第9話をご覧ください。


今日も読んでいただき感謝です!


今回は、ノヴァが弟の誕生を経てさらに成長し、魔法だけでなく剣術の道にも挑戦を始めます。

彼の父ロランドは自警団の団長としての顔も持ち、その剣技は並外れたもの。

ノヴァは魔法と剣術、異なる二つの力を融合させる可能性に心を躍らせながら、日々の訓練に励みます。

子どもながらに背負う使命感と、家族を守る強い意志を感じ取っていただければ幸いです。

弟の誕生はノヴァの心に新たな光を灯した。間もなく3歳になるノヴァにとって、これまでの知識を求めるだけの探求は、大切な家族そして村の人々を守るという確固たる使命が加わったことで、明確な意味を持ったのだ。


光、火、水、風の四属性を操れるようになった今、ノヴァの視線は、これまで習得してきた魔法とは異なる、もう1つの力へと向けられていた。


 ちょうどその頃、彼の父親は弟が生まれて以来、普段よりもさらに慌ただしくしていた。宿屋『星導庵』の店主としての顔だけでなく、村の自警団団長としての職務が、父親を頻繁に宿から呼び出していたんだ。


早朝、まだ空が白み始めたばかりの時間に、父親はしばしば宿の裏庭で剣を振るっていた。その姿が、ノヴァの意識を強く引き寄せた。


 そんなある日の朝、ノヴァは目を覚まし、ふと窓の外を見た。薄明かりの中、宿の裏庭に一人の人影があった。それは、紛れもなく彼の父親、ロランドだった。


 普段のおどけた様子とはまるで違い、その顔は真剣そのものだ。腰に差した剣を抜き放つと、その身のこなしは信じられないほど滑らかで、まるで水のように流れる。


剣の切っ先が風を切り、流れるような軌跡を描くたび微かな「ヒュッ」という音が空気に響く。素振りにも淀みがなく、次の動きへ繋がっていく。


予測不能な動きはまるで風に舞う木の葉のようで、その一撃一撃には、見た目以上の重みが込められているように見えた。


 ノヴァは息をのんだ。父親が剣を使う事は知っていたが、これほど間近でその動きを見たのは初めてだ。


彼は前世で大学時代の全日本学生剣道選手権大会で全国大会まで勝ち進んだほどの腕前だ。だからこそ、ロランドの剣術が、どれほどの練度を持つものなのか、直感的に理解できた。


(これが、お父さんの剣……って、おいおい聞いてた話と全然違うじゃないか! いつもは「宿屋の看板」とか言ってビール腹さすってるくせに、剣を持つと急にスタイリッシュになるな。詐欺か? しかし、この世界で「守る」力を得るには、これほどの技も必要になるだろうな。もし、この世界の剣術を学べたら、魔法と剣術の異なる力を融合できるんじゃないか。ちょっと待て、まだ3歳にもなってないのに、スケールデカすぎだろ俺!)


 ノヴァは、ロランドが素振りを終え、汗を拭い始めたのを確認すると、迷わず庭へと降りていった。


「お父さん、その剣術、僕にも教えてくれない?」


 ロランドは驚いた顔でノヴァを見た。


「おお、ノヴァ坊か! 剣術だと? ノヴァ坊には難しいかもしれないな。それに、おまえは魔法使いになるんだろ? 剣と魔法じゃ、どちらか1つに集中しないとかえって中途半端になるぞ。」


 ロランドは笑いながら言ったが、ノヴァは真剣な眼差しで食い下がった。


「魔法も大切だけど、剣術も学びたいんだ。お父さんの剣はすごく綺麗で、それに……僕も、もっと強く、誰かを守れるようになりたいから。」


 ノヴァの言葉に、ロランドは少し考え込んだ。間もなく3歳になる子供らしからぬ、どこか達観したような目をする息子。


ノヴァの聡明さと、一度決めたら決して諦めない粘り強さを知っているからこそ、ロランドは真剣に息子の願いと向き合った。やがて、ロランドは笑顔を見せた。


「よし、分かった! おまえがそこまで言うなら、お父さんがこの剣術の真髄を教えてやろう! ただし、稽古は厳しいぞ。」


「やった! ありがとう、お父さん!」


 ノヴァは心の中でガッツポーズをした。これで魔法だけでなく、この世界での武術の訓練も始まる。前世の知識と経験が、必ずや役立つだろうと確信していた。


 (これで、お父さんの剣術を盗み見ならぬ「正々堂々とおねだりして学ぶ」という、最も効率の良い方法が確立されたわけだな。)


 彼はこの世界の剣と前世の剣道を比較し、その共通点や相違点を見つけることに、すでにワクワクしていた。


 その日から、ノヴァの日常に新たな訓練が加わった。早朝、まだ誰も起きていない時間帯に、ロランドとノヴァは宿の裏庭で稽古を始めた。


「いいかノヴァ、剣の道も魔法の道と同じで、まず『心』が大事だ。力任せに振るうのではない。相手の動きを感じ取り、風のように、水のように、自らも変化するのだ!」


 ロランドの教えは、ノヴァが魔法で学んだことと驚くほど共通していた。特に、「心」の重要性や「流れるような動き」という点は、水魔法や風魔法の習得に通じるものがあった。


 (うん、知ってる。口で言うのは簡単だけど、実際にやるのが難しいんだよな、これ。お子様ボディで「風のように舞う」って、無理ゲーだろ。まずは転ばない練習からだな。)


 ノヴァの前世の剣道経験も相まって、彼の吸収速度は驚くほど速かった。基本の構えから足捌き、素振りそしてかたへと、ノヴァはみるみるうちに剣の動きを習得していった。


「ほう、筋が良いな! さすが俺の息子だ! その集中力は、まさに剣士の天性というやつだ!」


 ロランドは、息子の成長に目を細め、誇らしげに頷いた。


 (「天性」とか言ってるけど、前世の貯金がデカいだけだから、お父さん。今の俺の脳みそ、完全にインチキ野郎だぞ。まあ、親孝行だと思って喜んでくれ。)


 ノヴァは、ロランドの剣筋から、彼の光魔法の特性を微かに感じ取っていた。


ロランドの剣は、まるで光の軌跡を描くかのように鋭く、それでいて僅かな間合いの調整で相手の視線を逸らすような、目に見えない「明るさ」の操作が加わっているように見えた。


それは、ロランド自身が全く自覚していない、無意識のうちに発動している光魔法の恩恵だとノヴァは確信した。


(お父さんは、無意識のうちに光魔法を剣術に活かしてる。この剣術の「流れる」っていう表現も、水魔法だけじゃなくて、光魔法の性質にも通じるのかもしれない。これは、魔法と剣術を融合させるための大きなヒントになるぞ! もしかしたら、お父さんの剣技そのものが高度な術式魔法に近いのかもしれない……って、あれ? お父さんの剣術、まさか「魔法使いが作った奥義」とかじゃねーだろうな? それなら、俺が究極の魔法使いになる前に、先にそっち極めちゃうかも、いやまさかな!)


 ノヴァの探求心は、剣術の稽古を通じてさらに深まっていった。彼は、ロランドの剣の動きに自身の魔力を重ね合わせ、光や風の魔力を剣の軌跡に乗せることを試み始めた。


最初はぎこちなかったその試みも、日を追うごとに洗練されていく。彼の頭の中では剣道の「重心移動」や「体捌き」が、風魔法による空気抵抗の操作や光魔法による視覚撹乱といった魔法の応用と結びつき、新たな戦闘スタイルを模索していた。


 宿の仕事と自警団の任務に追われるロランドの姿は、村の日常風景となっていた。彼は村の境界線の見回り、不審者の警戒、時には近隣の森での小さな魔物との遭遇など、多岐にわたる任務をこなしていた。


彼の不在の間は、エレノアが宿を切り盛りし、ノヴァは魔法と剣術の訓練に励みながら、幼い弟の世話を手伝った。


 エレノアは、夫が自警団の仕事で忙しく、家を空けることが多くても、一切文句を言わなかった。彼女は、ロランドが村のために尽くしていることを理解し、彼を陰ながら支えることに喜びを感じているようだった。


その姿は、ノヴァに家族を支えることの尊さを教えてくれた。


 (いや、お母さん、もうちょっと文句言ってもいいんだぞ?)


 幼い弟のリアムはすくすくと成長し、ベッドを覗き込むと小さな手で彼の指を掴もうとする。そんなリアムの無邪気な笑顔を見るたびに、ノヴァの心に温かい感情が溢れてくる。


リアムが指を握り締める温もりが、彼が何をすべきかを明確に思い出させてくれた。


(俺は、この世界で最強の魔法使いになる。そして、この家族を、この村を、守り抜く。そのためには、魔法も剣術も、この世界の全てを学び尽くすんだ。そして、いつか、お父さんとお母さんの秘められた魔法の力も、引き出してあげられるようになるかもしれない……って、あれ? 最終目標が家族全員「覚醒」とかいう、まるでRPGの隠し要素みたいになってきたぞ。)


 ノヴァの心には、知識への飽くなき探求心と、守るべきものへの明確な責任感が、深く深く根を下ろしていた。彼は来るべき未来のために、静かに、しかし確実に、その力を磨き続けていく。


剣と魔法、2つの道を極め、彼はこの世界で自身の存在意義を見出し始めていた。


 ノヴァがロランドに剣術の指導を願い出てから、あっという間に数ヶ月が過ぎた。季節は巡り、ノヴァの誕生日が間近に迫っていた。


「ノヴァ、もうすぐ誕生日だね。何が欲しい?」


 ある日の夕食時、エレノアが優しく尋ねた。ロランドもにこにことノヴァを見守っている。


「うーん……そうだなぁ。新しい本もいいけど、お父さんの使ってる練習用の剣、僕にも持てるくらいの小さいのが欲しいな!」


 ノヴァは、目を輝かせながら答えた。ロランドは目を丸くし、それから豪快に笑った。


「なんだ、剣か! よし分かった! お父さんが特注で、おまえにぴったりの剣を作ってやろう! これでおまえの剣の腕ももっと上達するはずだ!」


 エレノアは少し心配そうな顔をしたものの、ノヴァの真剣なまなざしと、ロランドの嬉しそうな顔を見て、何も言わなかった。


ノヴァは、新しい剣を手に入れる日を心待ちにしながら、来るべき3歳の誕生日を想像し、胸を躍らせた。


 (誕生日プレゼントが「自分専用の武器」って、普通はもっとおもちゃとかだろ。俺、将来どんな道に進むんだろうな。平和な村で自警団団長……いや、それだけじゃ終わらなさそうだ。)


お読みいただきありがとうございました。

ノヴァの新たな挑戦は、魔法だけにとどまらず、剣術という武術の世界へも広がりを見せました。

父と子の絆が深まる中で、彼の視野はますます広がり、力も増していきます。

これからもノヴァの成長と、彼を取り巻く家族の物語をどうぞお楽しみに。

明日からは1話ずつの更新となりますので、また次回お会いしましょう。

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