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第106話 星辰の凱旋――休息と再出発

いつもお読みいただきありがとうございます。第106話は、帝国軍撤退後の休息回となります。激戦を乗り越えた星辰魔導騎士団の面々が、それぞれの立場で「次に進むための時間」を過ごします。戦いの後に残る想いと、静かな決意を感じていただければ幸いです。

 帝国軍が撤退し、戦火が静まったカルヴァリア峡谷に、ようやく朝日が昇った。焼け焦げた大地と崩れた岩壁が、昨夜までの激戦の痕跡を物語っている。ノヴァは峡谷の高台に立ち、遠ざかる帝国軍の旗印を静かに見送った。

 

「終わった、のか……」

 

 ユーリが隣に近づき、疲労困憊といった様子で地面に腰を下ろした。

 

「ああ、終わった。いや、正確には一時的にな」

 

 ノヴァは視線を帝国軍の方角に向けたまま、静かに答える。

 

「ノヴァ、お前……また何か考え込んでるだろ」

 

 ユーリが顔を覗き込む。ノヴァは苦笑した。

 

「ああ。自惚れるわけじゃないけど今回の戦いで、自分の力が国家間の戦争を左右するレベルに達していることを痛感した。それは誇らしくもあり、恐ろしくもある」

 

「なんだよそれ、お前らしくねえな。俺たちは勝ったんだぜ?もっと素直に喜べよ」

 

「そうだな……勝利は喜ぶべきだ。だが、この力をどう使うべきか、その責任の重さを改めて感じているんだ」

 

 その時、レオンハルトがゆっくりと近づいてきた。彼の顔には疲労の色が濃くでていた。

 

「ノヴァ、グレンが捕縛された。丁重に扱われ王都に移送されているそうだ」

 

「グレンが……」

 

 ノヴァの脳裏に、グレンの必死の覚悟が蘇る。父の罪を償うため、部下を守るため、彼は命を賭して帝国の補給線を断った。

 

「彼は辺境伯にすべてのことは自分一人の罪として部下や配下の者たちの許しを願い出たそうだ」

 

 レオンハルトの言葉に、ノヴァは深く頷いた。

 

「それが、彼の選んだ道か……」

 

「ああ。辺境伯の話では一定の功績を認め、死罪は免れるだろうとのことだ。しばらく拘束されることになる。部下たちの大半も解放されるだろう」

 

 ノヴァは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。

 

「グレンは、本当は誇り高い貴族だったんだな」

 

「そうだな。彼もまた家族を守ろうとしていた。お前と同じように」

 

 ユーリがぽつりと呟く。ノヴァはその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。

 

「さあ、戻ろう。皆が待っている」

 

 三人は峡谷を降り、辺境伯の陣営へと戻った。そこでは、セレスティアが疲れ果てて座り込み、カイルが負傷兵の治療に追われ、セシリアが魔力枯渇で倒れているのをロバートとジェイソンが介抱していた。

 

「みんな、本当によく頑張った」

 

 ノヴァが声をかけると、セレスティアが顔を上げた。

 

「当然ですわ。私の完璧な魔術があったからこそ、勝利できたのですから」

 

 その言葉に、ユーリが笑い出す。

 

「おいおい、セレスティア。お前、最後の大魔法で魔力使い果たして倒れてただろ?」

 

「う、うるさいですわね!あれは戦術的な休息ですわ!」

 

 その様子に皆が笑い出した。緊張が解けようやく勝利の実感が湧いてくる。その夜、辺境伯エルネストの陣営で、国王ラファエルからの伝令が届いた。

 

「星辰魔導騎士団の諸君、そして辺境伯軍の勇士たちよ。諸君らの功績は、王国の歴史に深く刻まれるだろう。帝国軍は撤退し、しばらくの間侵攻の動きはないと見られる。諸君らには一ヶ月の休養を命じる。その後王都の再建を託したい」

 

 伝令の言葉に、兵士たちから歓声が上がった。ノヴァもまた、安堵の息を漏らした。

 

「一ヶ月か……久しぶりの休息だな」

 

「やった!ノヴァ、これで俺たち、ゆっくり休めるぜ!」

 

 ユーリが喜びを爆発させる。だがノヴァの視線は、遠く王都の方角を向いていた。


 王都アストルムに帰還した星辰魔導騎士団を、国王ラファエルが王宮で出迎えた。玉座の間には、宰相エルドリッジ公爵をはじめ、ヴァイスブルク侯爵、アルマ侯爵、そしてグロリアス辺境伯らが居並んでいた。

 

「ノヴァ・ヴァルシュタイン、星辰魔導騎士団団長。そして団員諸君。よくぞ帝国の侵攻を退けた。諸君らの功績はこの王国の歴史にその名は永遠に刻まれるだろう。」

 

 国王の言葉に、ノヴァは深々と頭を下げた。

 

「陛下、我々はただ王国と民を守るために戦っただけです」

 

「謙遜するな、ノヴァ。諸君らがいなければ、この国は帝国に蹂躙されていた。そして……」

 

 国王は、一瞬言葉を切った。

 

「クライン公爵家の遺児、グレン・フォン・クラインについても報告を受けた。その功績は確かに認められる。しかしながら、父クライン公の罪はあまりにも重い。ゆえに彼は、当面のあいだ王都の監視下に置くものとする。ただし、死罪には処さぬ。」

 

「陛下の寛大なるご判断、感謝いたします」

 

 ノヴァが答えると、国王は柔らかく微笑んだ。

 

「さて、諸君には一ヶ月の休養を与える。その後、王都の再建に力を貸してほしい。内乱の傷跡は深く、まだ多くの課題が残されている」

 

「承知いたしました」

 

 謁見を終え、玉座の間を出ると、エルドリッジ公爵がノヴァに声をかけた。

 

「ノヴァ殿、少しよろしいか」

 

「はい、公爵閣下」

 

 公爵は、人気のない廊下へとノヴァを案内した。

 

「クライン公爵家の残党勢力、そして裏切った貴族たちの処理は私が主導することになる。彼らを完全に排除するのではなく再教育し、王国に再び忠誠を誓わせる。それが、この国の安定化への道だ」

 

「……公爵閣下は、血を流すことを避けようとされているのですね」

 

「そうだ。無駄な血は流したくない。だが、油断はできん。裏で糸を引いていた者たちが、まだ潜んでいる可能性もある」

 

 エルドリッジ公爵の鋭い視線がノヴァを捉えた。

 

「ノヴァ殿、君の力は強大だ。だが力だけでは国は守れん。政治、外交、民の心……それら全てが揃って初めて、国は安定する。君にはその全てを学んでほしい」

 

「肝に銘じます」

 

 ノヴァは深く頭を下げた。公爵は満足そうに頷き、去っていった。翌日、星辰魔導騎士団の面々は、それぞれの時間を過ごしていた。ユーリは久しぶりに妹のルナと再会し王都の街を案内していた。

 

「兄さん、本当にすごかったんでしょ?帝国軍を一人で何百人も倒したって噂、本当?」

 

「ば、バカ言うな!そんなわけねえだろ!せいぜい……五十人くらいだ」

 

「五十人でも十分すごいわよ!」

 

 ルナが目を輝かせる。ユーリは照れくさそうに頭を掻いた。

 

「まあ、ノヴァがいたからな。あいつがいなきゃ、俺たちはとっくに全滅してたぜ」

 

「ノヴァさん、本当にすごい人になったのね……」

 

 一方、セレスティアは王立魔術学院の研究室に籠もり、今回の戦いで使用した複合魔法の検証を行っていた。

 

「やはり、魔力の消費が激しすぎる……もっと効率的な術式を構築しなければ」

 

 彼女の傍らでは、カイルが治癒魔法の新しい応用を研究していた。

 

「セレスティア、無理はしないでね。君もかなり疲れているはずだ」

 

「大丈夫ですわ。これくらい、私にとっては朝飯前です」

 

 強がるセレスティアだが、その顔には疲労の色が濃い。カイルは苦笑しながら、彼女に温かいお茶を差し出した。

 

「ありがとう……」

 

 セレスティアは素直にお茶を受け取り、ほっと一息ついた。レオンハルトは、父ヴァイスブルク侯爵の屋敷で、今後の王国の政治について議論していた。

 

「父上、今回の内乱で明らかになったのは貴族間の亀裂です。これを修復しなければ、第二、第三のクライン公爵が現れるでしょう」

 

「その通りだレオンハルト。だが、それは容易なことではない。貴族たちのプライドと利害が複雑に絡み合っている」

 

「ならば、新しい秩序を作るしかありません。星辰魔導騎士団のような、実力で国を守る組織が、貴族社会に新しい風を吹き込むことができれば……」

 

 侯爵は息子の言葉に深く頷いた。

 

「お前も成長したな、レオンハルト。ノヴァという友を得てお前は変わった」

 

「はい。彼から学んだことは計り知れません」

 

 セシリアは久しぶりに実家に帰り、家族と共に穏やかな時間を過ごしていた。

 

「お姉ちゃん、本当に戦ったの?怖くなかった?」

 

 幼い弟が心配そうに尋ねる。セシリアは優しく微笑んだ。

 

「怖かったわ。でも、仲間がいたから乗り越えられたわ」

 

「仲間……騎士様たちのこと?」

 

「ええ。彼らがいたから、私は強くなれたの」

 

 そして、ノヴァは辺境伯邸で師ギュンター卿と剣術の鍛錬を再開していた。

 

「ノヴァよ、今回の戦いで、お前は『天地雷鳴剣』の真髄を掴みかけておる。だが、まだ完全ではない」

 

「はい。天理の術と剣術の融合……その可能性をこの戦いで確信しました」

 

「ならば、その道を極めよ。お前ならば、いずれ剣聖を超える『剣神』の域に達するやもしれん」

 

 ギュンター卿の言葉にノヴァは頭を振り今の気持ちを話す。

 

「師匠、俺は『剣神』などになるよりもこの力を民を守るために使いたいです。この国の未来を切り開くために」

 

「そうか……。うむ。それでこそ、わしの愛弟子だ」

 

 二人の剣が交わり、訓練場に金属音が響き渡った。 休養三日目の夜、星辰魔導騎士団の面々は、久しぶりに全員で酒場『翼ある竜亭』に集まった。店内は活気に満ち、冒険者や商人たちの笑い声が響いている。

 

「乾杯!帝国軍撃退を祝して!」

 

 ユーリが大きな声で音頭を取り、全員がジョッキを掲げた。

 

「乾杯!」

 

 ノヴァも久しぶりに、心から笑顔を浮かべた。戦場での緊張から解放され、仲間たちとの時間が何よりも心地よい。

 

「しかし、ノヴァ。お前、戦場であんな凄まじい剣技を見せておいて、まだ修行するのかよ?」

 

 ユーリが呆れたように言う。ノヴァは苦笑した。

 

「まだまだだ。師匠の『天地雷鳴剣』には遠く及ばない。それに、天理の術と剣術の融合も、まだ完璧じゃない」

 

「お前、本当に向上心の塊だな」

 

「それを言うなら、ユーリ。お前こそ、精霊憑依の制限時間を延ばす修行をしてるんだろ?」

 

 ノヴァの言葉に、ユーリは照れくさそうに頭を掻いた。

 

「ま、まあな。あの技、めちゃくちゃ強いけど、すぐに魔力切れになるからな。もっと長く使えるようになりたいんだ」

 

「フフ、ユーリさんも成長しましたわね」

 

 セレスティアが優雅にワインを傾けながら言う。

 

「セレスティアこそ、あの『フランマ・マグナ・インフィニータ』、本当に凄かったぞ。城門を一撃で破壊するなんて」

 

 レオンハルトが称賛すると、セレスティアは得意げに微笑んだ。

 

「当然ですわ。私の魔術は完璧ですから。ただ……」

 

 彼女は少し表情を曇らせた。

 

「魔力消費が激しすぎて、一回使うと戦闘不能になってしまうのが問題ですわ。もっと効率的な術式を研究しなければ」

 

「それなら、僕も協力するよ。治癒魔法の応用で、魔力回復を促進する方法を研究しているんだ」

 

 カイルが優しく言う。セレスティアは少し照れくさそうに頷いた。

 

「……ありがとうございます、カイル」

 

 セシリアが静かにお茶を飲みながら、皆を見守っている。彼女の表情は穏やかだが、その瞳には強い決意が宿っていた。

 

「セシリア、お前も何か考えてるだろ?」

 

 ノヴァが尋ねると、セシリアは微笑んだ。

 

「はい。支援魔法の精度をもっと上げたいんです。皆さんの力を最大限に引き出せるように」

 

「セシリアの支援魔法は、もう十分すごいぞ。お前がいなければ、俺たちはあそこまで戦えなかった」

 

 レオンハルトの言葉に、セシリアは嬉しそうに頷いた。

 

「ありがとうございます。でも、まだまだ上を目指します」

 

 ロバートとジェイソンも、今後の課題について語り合っていた。

 

「ジェイソン、お前の『閃光絶命剣』、本当に凄かったな。俺も、もっと剣術を磨かなければ」

 

「ロバート、お前の付与魔法具の運用は完璧だったぞ。あの音響集音クリスタルがなければ、敵の動きを把握できなかった」

 

 二人は互いを称え合い、さらなる高みを目指すことを誓った。その時、アルフレッドが静かに口を開いた。

 

「諸君、今回の戦いで我々は勝利した。だが、これで終わりではない。帝国は必ず再び侵攻してくるだろう。そして、王国内部にもまだ不穏な動きがある」

 

 アルフレッドの言葉に、場の空気が引き締まった。

 

「その通りだ。俺たちは、この一ヶ月の休養を活かして、それぞれの力をさらに高めなければならない」

 

 ノヴァが立ち上がり、全員を見渡した。

 

「そして、王都の再建。それは単なる建物の修復ではない。この国の未来を築くための、大きな一歩だ。俺たちはその先頭に立つ」

 

「おう!ノヴァについていくぜ!」

 

 ユーリが力強く答え、全員が頷いた。

 

「それじゃあ、改めて乾杯しよう。俺たち星辰魔導騎士団の、新たな旅立ちに!」

 

「乾杯!」

 

 再び全員がジョッキを掲げ、笑顔が溢れた。戦いは終わったが、彼らの物語はまだ始まったばかりだ。その夜、ノヴァは一人王都の城壁に立ち星空を見上げていた。無数の星々が、静かに輝いている。

 

「父さん、俺はこの国を守る。そして、この星空の下で生きる全ての人々を守る。それが、俺の使命だ」

 

 風が吹き、ノヴァのマントをなびかせた。彼の瞳には、強い決意の光が宿っていた。 星辰魔導騎士団の新たな物語が、今、静かに幕を開けようとしていた。

読了ありがとうございました。戦争は一段落しましたが、物語は決して終わりではありません。休息と再出発――それぞれが自らの課題と向き合い、次なる戦いへ備える章となりました。次回からは新章へ突入しますので、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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