第4羽♡きせかえ部室は夢の城♡
♡放課後♡
前に偶然来てしまった、きせかえマグネット部の部室と思われる空き教室。
私は、そこのドアの前で立ちすくんでいた。
入る?入らない?
やっぱりやめとく?
そうしているうちに突然、廊下のドアがバーンと開いて、ティアラ先輩が顔を出した。
「あっ、こないだの1年生ちゃーんっ!」
「わっ!」
「待ってたよ〜、よく来てくれました!
さぁ、夢の世界へようこそっ!」
あれよあれよという間に手を引かれ、部室の中へ。
「うそでしょ…。」
そして思わず、声がもれた。
空き教室のはずのその部屋は、完全に別世界だった。
窓には白のレースカーテン、ラメ入りシュガーピンクの壁紙、キラキラのシャンデリア、ミニドレッサー、アクセサリー屋さんのようなディスプレイ棚。
そして、黒板には…。
「ら、ララandルル……!」
あのゲームで使うカードが、大量にファイリングされて綺麗に黒板に貼り付けられていた。
現役当時そのままの、美しいままの姿で。
子どもの時1枚も手に入らなかったまま終わった、舞踏会ドレスのようなレアカードまで…。
「圧巻でしょ〜?
私【達】が当時持ってたものに加えて、ネットオークションとかカードショップとか買い漁ってね…。」
ティアラ先輩が誇らしげに胸を張る。
やばい。やばいやばい。なんなのこの空間。夢……?
ふわふわとした気持ちで周囲を見渡していると___。
「ティアラから聞いてたわ。
趣味の合いそうな1年生がいたって。」
落ち着いた声がして、奥のソファに腰掛けるもう一人のメンバーに気づいた。
ストレートのロングヘアは、まるで青い宝石のよう。
端正な顔立ちに、品のある微笑み。人形のように美しい人だ。
「こんにちは、私は瑠璃城サファイア。
ティアラと同じ二年生よ。よろしくね」
サファイア…先輩!?
「サファイアは私の幼馴染なの!
この子は落ち着いて見えるけど、私と同じくらい可愛いもの好きなんだよ。」
そうティアラ先輩に紹介されたサファイア先輩は、にこっと笑いながら、ティアラ先輩の隣に並ぶ。
二人並ぶと、それはまるで──
ララとルル……?
無意識に、あの二人を重ねていた。
「私たちのメインの活動は『きせかえマグネット』で遊ぶことだけどね、こういう“女児活”もしてるんだよ〜!」
「じょ、女児活!?」
なんかすごいワードきた!
「”女児活”っていうのはね、子どもの頃に好きだったものを、今の自分も楽しむことよ。ララandルルもそうでしょ?」
そう言いながら、サファイア先輩がテーブルに懐かしの携帯ゲーム機を2台置く。
「はい、こっちを使ってね。」
それは正真正銘、携帯ゲーム機版のララandルルだった。
「ほ、、本当に存在してたなんて、、!!」
小さな画面の中でララとルルが手を振る。
今じゃこれの中古品はプレミア価格で取引されているレア物だ。
持っていたのに手放した小学校高学年の時の私に言いたい、
なんであの時リサイクルショップに50円で売ってしまったんだ、と……!!!
「あはは、喜んでくれてよかった!
これおやつね。食べながらゲームしよ〜!」
紅茶と一緒に出されたのは、小さな細長い六角形の箱。
それを見て私は、またもや感動する。
「これは…ボンボンスター!」
懐かしすぎて、声が裏返りそうになる。
これは子ども向けお菓子売り場に売っているチョコレート菓子なのだが、重要なのはチョコレートの方ではなく、おまけのおもちゃである。
おまけとして付いてくるのは、キラッキラのペンダント。
どんなデザインのものが入っているかはランダムで、運が良ければ宝石付きのメッキのゴージャスなものが当たるが、そうでなければプラスチック製のもの(通称プラボン)が当たってがっかりすることもある。
私もお母さんにねだって買ってもらったはいいものの、お目当ての宝石ボンボンスターが出なくてちょっとがっかりした記憶までもが思い出される。
ただし近年のボンボンスターは、プラ素材のものであってもデザインが可愛かったり、小さな宝石が付いていたりと割とハズレ感は軽減されていると思われ…(以下略)
「さすが、分かるのね」
サファイア先輩が嬉しそうに微笑んだ。
「ティアラ、あなたがきせかえ魔法バトルの通信相手になってね。」
「はーい!じゃあ、1年生ちゃん、私と勝負だっ!
そうだ、名前聞いてなかったね。」
「えっと、早乙女リリィです。」
私はすっかりこの部室の魔法にかかってしまっていた。
♡つづく♡