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狩るか。狩られるか。


ーーーピコンッ!


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


《対象:瘴気存在》

《分類:低級“ゴルル”》

《行動:接近・捕食》

《対処:撃退または逃走》


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


【撃退を推奨します】


森の空気が、重く、ぬるりと肌にまとわりつく。

川のせせらぎも、風のざわめきも、鳥の声も……まるで何層もの膜ごしに聞こえてくる。


ーーグルルル…


湿った、ねっとりとした喉鳴り。

背後から滲むように響くそれに、リクはゆっくりと振り返った。


そこにいたのは、犬とも熊ともつかない、異形の六足獣。

毛並みは剥げ、瘴気に侵された目がぎらりと鈍く光る。


「……低級……ゴルル、これで……低級……」


顎を伝った汗が、ぽたり、と泥まみれの地面に落ちた。

ナタを握る手がじわりと震える。

それでも、膝は折れない。心もまだ、折れていない。


ーーザリ…ザリ…


リクが踏み出す。

乾いた枯葉が微かに鳴るたび、喉の奥がヒリついた。


ゴルルもまた、身を伏せ、爪を土に食い込ませる。


ーーガギィィィン!!


ナタと牙が激突する。

金属と骨の擦れた音が耳を裂き、散った火花が闇に弾けた。


風が、水面を、枝葉を震わせる。

それらすべてが、リクには遠い世界の出来事に思えた。


ゴルルが目を細め、ぬるりと涎を垂らす。

それは、確かにリクという"獲物"を狙う捕食者の目だった。


……リクは、知らず一歩、後ずさる。


ーーザザ…


そのわずかな音を合図に、ゴルルが跳んだ。


【前へ】


「うおおおお……!」


ーーザシャァッ!


ナタを振り抜く。

切り裂く風圧が頬を叩き、同時にゴルルの爪が唸りを上げて襲いかかる。


ーーガガンッッ!!!


フライパンが跳ね上がり、激しい衝撃がリクの腕を突き抜けた。

骨にびりびりと痛みが走る。膝がかくりと揺らぐ。

それでも、リクは崩れない。


「……俺だって……やられたくないんだよ!」


ーーバシュッ!


気合いとともにナタを振るう。

しかし、ゴルルは鋭く身をかわし、泥を撒き散す。


ーーズザァッ!


冷たい泥が肌に張り付き、草の青臭い匂いが鼻腔を満たす。


呼吸が、喉を焼くほどに苦しい。

目をそらさない。逃げたら、終わる。


「一発……一発入れば……!」


リクの指が、ナタの柄をぎゅっと握り直す。

迫る牙の気配に、無意識に身体が反応した。


ーーザシュッ!!


低く、腰から全身の力を込めた横なぎ。

ナタの刃が、ゴルルの肩に浅く食い込んだ。


ーーギャアアア゛!!


甲高い悲鳴。

黒く濁った瘴気の煙が、傷口から噴き上がる。


「……入ったッ!」


だが、次の瞬間、鋭い痛みが肩を引き裂いた。

ゴルルの爪がリクをかすめ、熱い血がにじむ。


「っぐ……くそおお……!」


足に力を込め、踏み込む。

全身を貫く痛みを無理やり押し殺しながら。


【冷静に距離を保って下さい】


「あと一発……!」


ーーギンッ!


ゴルルが地を蹴った。

牙を剥き、一直線にリクへ――


ーーザッ!


リクも飛び込む。

互いの息づかいすら飲み込む、刹那の交錯。


ナタを、振り抜く。


ーーガッ……ザンッ!!


金属が鈍く軋み、骨を裂く感触が手のひらに突き上げた。

衝撃と共に、ゴルルの体が大地に叩きつけられる。


ーードサァ…


空気が、しん、と静まり返る。


リクの肩が上下する。

血と泥と汗が入り混じり、顔に張り付く。


「……やっ、た……」


ほんの、紙一重の勝利。

もし、あれ以上の相手だったら――


ーーヒュゥゥゥ……


ゴルルの体から、黒く霞んだ瘴気が立ち昇る。

ぼんやりと揺れるそれを、リクはただ見つめた。


《瘴気を吸収します》

《瘴気 +9》《魔素 +5》《魔力 +4》


【生存確率:12%】


「……まだそんなもんなのかよ……」



ふっと息を吐き、リクはナタを腰に戻す。

泥まみれの、川魚、山菜、キノコ……そして、全身の痛みと引き換えに。勝利を噛み締めた


「……でも、これでメシは食える……な」


木々の隙間から、日の光が差し込む。

川の音も、風のざわめきも、今はすぐ近くに感じた。


ーーザクッ…ザクッ…


一歩、また一歩。

足元に伝わる土の感触が、確かだった。


「……ただいまって言っても、誰もいねぇけどな……」


それでも、リクの唇には、微かな笑みが浮かんでいた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

《ステータス》

名前:浅葱リク

種族:異世界人

瘴気:29→38(+9)

魔素:06→11(+5)

魔力:05→9(+4)


《スキル》

理の(ことわり)


《装備》

物干し竿

錆びたナタ

フライパン

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