狩るか。狩られるか。
ーーーピコンッ!
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《対象:瘴気存在》
《分類:低級“ゴルル”》
《行動:接近・捕食》
《対処:撃退または逃走》
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【撃退を推奨します】
森の空気が、重く、ぬるりと肌にまとわりつく。
川のせせらぎも、風のざわめきも、鳥の声も……まるで何層もの膜ごしに聞こえてくる。
ーーグルルル…
湿った、ねっとりとした喉鳴り。
背後から滲むように響くそれに、リクはゆっくりと振り返った。
そこにいたのは、犬とも熊ともつかない、異形の六足獣。
毛並みは剥げ、瘴気に侵された目がぎらりと鈍く光る。
「……低級……ゴルル、これで……低級……」
顎を伝った汗が、ぽたり、と泥まみれの地面に落ちた。
ナタを握る手がじわりと震える。
それでも、膝は折れない。心もまだ、折れていない。
ーーザリ…ザリ…
リクが踏み出す。
乾いた枯葉が微かに鳴るたび、喉の奥がヒリついた。
ゴルルもまた、身を伏せ、爪を土に食い込ませる。
ーーガギィィィン!!
ナタと牙が激突する。
金属と骨の擦れた音が耳を裂き、散った火花が闇に弾けた。
風が、水面を、枝葉を震わせる。
それらすべてが、リクには遠い世界の出来事に思えた。
ゴルルが目を細め、ぬるりと涎を垂らす。
それは、確かにリクという"獲物"を狙う捕食者の目だった。
……リクは、知らず一歩、後ずさる。
ーーザザ…
そのわずかな音を合図に、ゴルルが跳んだ。
【前へ】
「うおおおお……!」
ーーザシャァッ!
ナタを振り抜く。
切り裂く風圧が頬を叩き、同時にゴルルの爪が唸りを上げて襲いかかる。
ーーガガンッッ!!!
フライパンが跳ね上がり、激しい衝撃がリクの腕を突き抜けた。
骨にびりびりと痛みが走る。膝がかくりと揺らぐ。
それでも、リクは崩れない。
「……俺だって……やられたくないんだよ!」
ーーバシュッ!
気合いとともにナタを振るう。
しかし、ゴルルは鋭く身をかわし、泥を撒き散す。
ーーズザァッ!
冷たい泥が肌に張り付き、草の青臭い匂いが鼻腔を満たす。
呼吸が、喉を焼くほどに苦しい。
目をそらさない。逃げたら、終わる。
「一発……一発入れば……!」
リクの指が、ナタの柄をぎゅっと握り直す。
迫る牙の気配に、無意識に身体が反応した。
ーーザシュッ!!
低く、腰から全身の力を込めた横なぎ。
ナタの刃が、ゴルルの肩に浅く食い込んだ。
ーーギャアアア゛!!
甲高い悲鳴。
黒く濁った瘴気の煙が、傷口から噴き上がる。
「……入ったッ!」
だが、次の瞬間、鋭い痛みが肩を引き裂いた。
ゴルルの爪がリクをかすめ、熱い血がにじむ。
「っぐ……くそおお……!」
足に力を込め、踏み込む。
全身を貫く痛みを無理やり押し殺しながら。
【冷静に距離を保って下さい】
「あと一発……!」
ーーギンッ!
ゴルルが地を蹴った。
牙を剥き、一直線にリクへ――
ーーザッ!
リクも飛び込む。
互いの息づかいすら飲み込む、刹那の交錯。
ナタを、振り抜く。
ーーガッ……ザンッ!!
金属が鈍く軋み、骨を裂く感触が手のひらに突き上げた。
衝撃と共に、ゴルルの体が大地に叩きつけられる。
ーードサァ…
空気が、しん、と静まり返る。
リクの肩が上下する。
血と泥と汗が入り混じり、顔に張り付く。
「……やっ、た……」
ほんの、紙一重の勝利。
もし、あれ以上の相手だったら――
ーーヒュゥゥゥ……
ゴルルの体から、黒く霞んだ瘴気が立ち昇る。
ぼんやりと揺れるそれを、リクはただ見つめた。
《瘴気を吸収します》
《瘴気 +9》《魔素 +5》《魔力 +4》
【生存確率:12%】
「……まだそんなもんなのかよ……」
ふっと息を吐き、リクはナタを腰に戻す。
泥まみれの、川魚、山菜、キノコ……そして、全身の痛みと引き換えに。勝利を噛み締めた
「……でも、これでメシは食える……な」
木々の隙間から、日の光が差し込む。
川の音も、風のざわめきも、今はすぐ近くに感じた。
ーーザクッ…ザクッ…
一歩、また一歩。
足元に伝わる土の感触が、確かだった。
「……ただいまって言っても、誰もいねぇけどな……」
それでも、リクの唇には、微かな笑みが浮かんでいた。
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《ステータス》
名前:浅葱リク
種族:異世界人
瘴気:29→38(+9)
魔素:06→11(+5)
魔力:05→9(+4)
《スキル》
理の理
《装備》
物干し竿
錆びたナタ
フライパン
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