掃除とご飯と世界は回る
階段を降りて薄暗くひやっとする1階に戻る。ここを拠点とするなら点検を含めた掃除をする事にした。
まずは1階の窓を全て解放し換気から始める。
ーーギィ……ギギ……
窓の鍵を外し、ゆっくりと開く。錆びた蝶番が悲鳴を上げた。冷たい風が部屋に吹き込む
ーーヒュゥゥゥウ……
「う……さむ……でも、これで空気は入れ替わる」
真上に輝く太陽を見て、この寒さは冬が近いのかなと考える。布ローブをきつく巻き直しながら、リクは換気で舞い上がる埃に目を細めた。
ーーザッ……ザッ……カサカサッ
ほうきが無いので近くの森から枝を拝借し、ほうきの代わりにする。煤と埃の混じった空気が窓から抜けていく。日が差し込むと積もった埃が銀の粒のように宙を舞った。
「……見た目より広いなぁ……これは掃除…大変だわ」
額の汗を拭いながら、手を止めることなくバタバタと動き続ける。
部屋の隅に集められてるベンチやテーブル。使えそうな物と使えないを分けていく。
ーーガタ…ゴトッ
「この机、ちょっと傾いてるけど、使えなくは無い……これは…薪用かな」
ーーガタガタ……バキバキッ
ひとまず掃き掃除と1階の家具や廃材の仕分けが終わると、リクは腰に手を当て深く息をついた。昨日から飲まず食わずで疲労はかなりある。顔色が悪い。
暖炉を掃除しガタがつく椅子とテーブルを置く。
「ふぅ……次は……夜が来る前に。家の前…」
玄関を開けて背丈ほどある草を見て少し現実逃避したくなる。芝生のように密集してる草は相当ハードな草刈りになりそうだ。
何か道具はないかと外にあるボロ小屋を見に行く事にする
「錆びた鍬。錆びたナタ。錆びた平鎌。使えるかこれww……」
ーーギリ…ガ…ザク……
刈れないわけでないが、かなり力を使う。なかなか骨が折れる作業。
森までの道は諦めて、井戸までの道を切り開く事にする。森までの道はこれから少しづつやろう。現実逃避ではない。戦略的撤退。
ーーギリ…ガ…ザク……ザク…ザク
唐突に立ち眩みがくる
「う…」
周囲が煙く、いつの間にか瘴気が充満し始めていた。
ーードサ…ガタガタガタガタ
地面に倒れ込み。身体が痙攣する。
(しまっ……た。瘴…気……く…そ……)
這いつくばりながら家に避難しようとする。建物の中なら瘴気は防げるかもしれない。
(だめ…だ。力が……)
疲労と空腹も重なりリクは意識を失う。
ーーピコンッ!!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
《瘴気を感知しました》
《スキル:理性発動中》
《使用者の意識消失を確認》
《オートモードに切り替えます》
┊︎
《切り替え完了》
┊︎
┊︎
《瘴気:吸収》
《瘴気+12》《魔素+3》《魔力+3》
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ーーザワザワァ……
風に合わせて背丈ほどある草がダンスを踊る。
陽は少し真上から若干傾いている。リクは意識を失い、夢を見た。
異世界に召喚される前の世界。満員電車に揺られ出勤し仕事をして、残業して、帰宅する。誰とも関わらない、いや関われない。社会不適合者の自分。よく言われたの理性がない、だっけ。
会社帰りはよくコンビニでビールとファミ〇キを買う。これが唯一の幸せ。
「……んが!ファミ〇キ!!!!」
リクは海老反りに身体を起こしヨダレを垂らす
「あ……ゆめ…………」
あれ。そういや、倒れたんだっけ……と思い出し。しかし身体は何故か、力が入り気力も戻っている。
身体に着いた土埃を払い起き上がる。太陽は真上ではなく、傾きはじめている。
井戸までの道は、今日はここまでにして、とにかく何か食べ物を見つけないといけないと思い。
腹を擦りながら、森に山菜か何か食材になる何かがないか、探しに行く事にする。急がないと夕暮れになる。
「…水もいるか」
ボロ小屋にバケツらしきものを探してはみたが、そんな都合の良いものはなかった。
「あっ!フライパン!!」
リクはフライパンを左手に。錆びた包丁を腰に。錆びたナタを右手に。背丈ある草をかきわけ森へと向う。
ーーバサッバサッ
幸いにも川の音は直ぐに聞こえ、苦もなく見つかった。透き通る川には、チラホラ魚らしき影が見える。食べられるのだろうか?そう思いつつ、リクはその辺にある石を片っ端から投げる、が当たりもしない。
「くそ……なんか……方法を……」
川の音だけが静かに響く、リクは川を睨み考える。そして行動を始める。
ーーバシャ…バシャ
川の深さは足首が浸かる程度の深さで、川底は大小様々な石でゴツゴツしていた
川下に周りしゃがみ込んで、黙々と石を積む。
ーーゴロン…ガチ…ドボン…
水の中で石がぶつかる鈍い音が、足元にズンズンと伝わる。
石や砂利など拾っては運び、段々と川下に土手を築いていく。
指先は冷えてかじかみ、石の角で何度も擦りむけた。リクは一言もしゃべらず黙々と、作業をする
1時間、いや2時間かけて、やっと水の流れが土手にぶつかり、追い込む窪地にわずかな渦を巻く。
「よし…準備完了」
リクは川上へそっと歩いて戻る。
手にフライパンと錆びたナタを握り、足元でチャプチャプと水音を立て、フライパンと錆びたナタを打ち鳴らす。じわりじわり歩き魚を追い込む。
ーーゴロッ、ドボンッ。
途中の石をひとつずつ持ち上げては、隠れていた魚をあぶり出す。
ーーピチピチッ!
魚が飛び跳ねる。
けれど、川下には土手。逃げ場はない。
「追い詰めたぞ…」
土手の手前で小魚や中くらいの魚が、グルグルと窪地で泳ぎ回っている。
──多分、魚。そう思いたい。若干背びれがオコゼみたいにシャキンってしてて、歯もギザギザで鮫みたいだけど。きっと魚だと思う事にした。
掴み取りを何度も失敗しつつも、手をゆっくり伸ばして、ついに。
ーーバシャッ!
魚を川岸に投げ飛ばす
「…よっっっしゃぁぁぁッ!!!」
魚がジタバタと暴れる、足元にしぶきがかかる。静かな勝利、ひとりの川漁。
静けさと自然との対話、ハイタッチがしたかった。
次は楽できるように、土手の一部だけを足で崩し、川が溢れないようにしてから、来た道をひとりで帰る。世界は夕暮れ。
家に着いて、すぐに暖炉に火をつけて、魚を串焼きにしてみる。腹が減ってしょうがない。魚を焼く匂いだけで腹の虫が暴れ狂う。
ーージュゥゥ…
「あっつ……うっまっ!塩がほしくなるけど!食える!」
ーーピコンッ!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
《…瘴気を感知しました》
《スキル:理性発動中》
《オートモード稼働中》
┊︎
┊︎
《瘴気:吸収》
《瘴気+1》《魔素+1》《魔力+1》
┊︎
《条件を満たしました》
《スキルが進化します》
《スキル:理性から理の理に進化》
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ーーゴウッ…パチパチ…
火に照らされたリクの真顔になり、目の前に現れたステータス画面を眺める
「ん?オート?ふぁ?へ?理の?ん??」
【理の理です】
「◎△$♪×¥●&%#?!」
静かに無機質に淡々と頭に声が響く。
どこかの誰かは喜び。どこかの誰かは怒り。どこかの誰かは涙し。どこかの誰かは笑う。
世界は回る。夜空は黒い。
【理の理です】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
《ステータス》
名前:浅葱リク
種族:異世界人
瘴気:06→19(+13)
魔素:00→04(+4)
魔力:00→04(+4)
《スキル》
理性→理の理
《装備》
錆びた包丁
錆びたナタ
フライパン
布ローブ
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
読んでいただきありがとうございまス!!