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第4話 この世界の女子、とってもお盛んなのね♡

 昼休み。


 俺はいつも、後ろに座っている親友の藤崎ふじさき晴人はるとと一緒に昼食を摂っている。

 晴人とは中学時代からの仲で、「平川」と「藤崎」なので出席番号が隣になることが多い。

 同じクラスになるのも通算三回目ということで、新学期が始まると俺の後ろに晴人がいるというのはお約束になりつつあった。


 この日もチャイムが鳴るなり机をくっつけて、のんびりとしたランチタイムが始まった。

 話題はもちろん、なぜ俺が遅刻ギリギリで学校に来たかということだ。


「――というわけで遅刻寸前になったんだよ」

「ええっ!? 大変じゃん。朝陽それ、先生に報告した?」

「い、いや別に……だって大したことじゃないし」

「何言ってるのさ、痴女は立派な犯罪なんだからちゃんと言わないとダメだよ」

「そ、そうなのか……?」

「そうだよ。前からちょっと危なっかしいと思ってたけど、朝陽はもう少しガードを固くしたほうがいいって絶対」

「ガードねぇ……」


 そう言われたものの、電車でアラサー女性に痴女行為をされたこと自体に俺はあまり恐怖を感じていない。

 力なら女性に負ける気はしないし、ちょっと触られるくらいなら別に問題はないかなと思ってしまうのだ。

 とはいえ、親友の忠告なので無下にせずとりあえずちゃんと受け止めることにする。


「まあでも、晴人ならそんなこと考えなくても良さそうだよな」

「どういうこと?」

「だって晴人、身長百八十五センチあるだろ? バスケやって腕っぷしも鍛えてるし、フィジカル面が強いカラそう簡単に――」

「ちょ、ちょっと朝陽! そんなにべらべらと僕の身体のこと喋らないでよ!」


 身長や身体の鍛え具合などを言葉にした途端、晴人は急に恥ずかしがる。

 俺にはそんな晴人の姿が不思議に見えた。


「……ふぅ、よかった。誰も聞いてなかったみたい」

「そんなに気にすることか?」

「気にするよ! 朝陽だから良かったけど、これが女子の発言だったらセクハラで一発アウトだよ? もうちょっと気をつけてよお願いだから。ただでさえ身長高いのコンプレックスなのに……」

「あっ、そ、そうだよな、ごめんごめん……」


 そんな晴人の言葉を聞いて、なんとなく俺はこの世界の常識というのがわかってきた。

 今みたいに男子の身長や筋肉の鍛え具合などをべらべらと話すのは、性的な話題と捉えられるということだ。


 元の世界て言うならば、女子のスリーサイズについて話すようなものだ。


 もともと晴人はのんびり屋であまり目立ちたがる方ではなく、元の世界でも身長が高いことを気にしていた節がある。

 貞操逆転世界ではそのコンプレックスがより強まるということは、想像に易い。


「とにかく朝陽は放課後に先生に報告に行くこと!」

「わ、わかったよ……」


 割と強めの口調で晴人に諭されてしまった。

 放課後は寄り道しながらのんびり帰ろうかと思ったけれども、こう言われてしまっては職員室に行って先生に報告するしかない。

 俺は生返事をしつつ、面倒だなと思いながら弁当の唐揚げを口に運んだ。


 貞操逆転世界でも唐揚げは美味しいままだ。良かった良かった。


 ふと俺は教室を見回すと、視界に外ヶ浜さんの姿が入ってきた。

 彼女はクラスの一軍女子グループでお昼ごはんを食べているようだ。陽キャラの集まりだけあって、会話の声もでかい。

 

「この間の南高の男子との合コン、めちゃくちゃ良かったよー。外ヶガハマも来ればよかったのに」

「まじ? うわー、バイトのシフトとか入れずに行けばよかったー」

「もうね、高身長マッチョのオンパレード。あのバレー部の上腕二頭筋ヤバいよ、バッキバキ」

「アンタ上腕二頭筋好き過ぎだって。腹筋のほうが良くない?」

「いーや、外ヶガハマは全然わかってない。上腕二頭筋が至高ね。あれだけで十分クチュれる」

「それで? 釣果はどうなの?」

「そりゃもう余裕余裕。運動部の男子って結構簡単に食えちゃうよ」

「ほほう……やるわね……羨ましいわあ……」


 一軍女子たちが、何やら先日合コンで出会った他校の男子のことで盛り上がっていたらしい。

 バイトで行けなかったことがよっぽど悔しかったのか、外ヶ浜さんはなんだか羨ましそうな表情をしていた。


 それにしても、「クチュれる」ってなんだ……? 「シコれる」ってのと同義か……?

 白昼堂々大きな声で話すことではないとは思うが、女子の性癖を聞けるというのはなんだか新鮮である。


 しかしそう思っているのはどうやら元の世界の住人である俺だけのようで、晴人はあからさまに嫌悪感を示していた。

 

「……ああいうのは、大声で話さないでほしいよね」

「えっ? あっ……そ、そうだな。ちょっとうるさいよな」


 俺は不自然にならないよう、無理矢理晴人に話を合わせる。

 本心は女子の性癖話をもうちょっと聞いていたいところだが、晴人が不快感を示しているのでここは同調しておくことにした。

 すると一軍女子たちも周りが引いていることに気づいたのか、声のボリュームを少し落とした。


「晴人はああいう話、苦手?」

「うん、どっちかと言うと苦手かな……がっついてくる女子を見ると、びっくりする」

「そうなのか……なるほどな

「なるほどなって、そういう朝陽も苦手そうに見えるけど?」

「ま、まあ、デリカシーのないやつはダメだよな。ははは……」

 

 晴人と話が噛み合わなくなると気まずくなりそうだったので、俺は唐揚げをもう一つ口に放り込んで会話の流れをぶった切った。


 一瞬、外ヶ浜さんがこちらへ目をやる。誰かを見つめているようだ。

 もしかして彼女は自分を見ているのか? と、考えたりもしたが、今朝の一件ごときで親交が深まるかというとそうではない。多分、なんとなくこちらを見ただけだろう。


 


 放課後になって俺は晴人に言われた通り、今朝の事件について担任の先生に報告に行くことにした。


 先生に伝えるなり「なぜ朝言わなかったんだ!」と軽くお叱りを受ける。一応被害者なのに怒られるのはなんとなく理不尽だなとは思いつつ、俺はことの顛末を話した。


 思っていたより「痴女の被害にあう」というのは重大なことのようで、担任だけでなく学年主任とか生徒指導も出てきた。そうして事後処理を色々やっているうちに、気づいたら下校時刻を迎えてしまっていた。


 帰りがすっかり遅くなってしまった。俺は早く帰らなければと思い教室にカバンを取りに帰ることにした。


 この時間帯は部活をやっている生徒はいるものの、さすがに教室に残っている人はいない。

 しかし俺が教室に近づくにつれ、何やら人の気配と怪しい物音がすることに気がついた。


 まだ誰か教室にいるのだろうか?

 もしかして泥棒ではないだろうな?


 俺は警戒を強めた。

 そっと教室の入口から中を覗き込む。夕日が差していて、逆光で少し見えにくい。

 

 教室の中には女子生徒が一人立っていた。

 それも、ただ突っ立っているだけではない。

 その生徒はスカートをたくし上げ、自分の一番熱っぽいところを誰かの机の角に擦り付けていた。


 光に目が慣れてきて全貌が明らかになる。

 俺の目に映ってきたのは、見覚えのある女子生徒だった。


 えっ……? あれって……


 誰もいない教室。夕日が差し込む黄昏時。

 外ヶ浜凛々亜がそこにいて、とある生徒の机の角で、ひとりこそこそとしていたのだ。

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