焔
それは突如起きた事だった。
いつも通り平和で穏やかな日常を送っていた時、突如警報が鳴った。
テロ組織が活発的に活動してきたのもあって、嫌というほど警報を聞くのがほぼ当たり前と化していた。
学校は地震や津波などの災害が起こったことを想定してかなり頑丈に設計されている為、大地震が起きてもビクともしないし、校舎全体の隅々までシャッターが取り付けられている。
何故ここまで徹底した構造になっているかと言うと、ゾハールが世界中のあちこちで様々な被害をもたらしてきたこともあって、「安全な場所」がなくなってきたから。
防護設備はテストと兼ねて実験台にされてるけど、ジパングはシャスタ連邦国の同盟関係だからここまで徹底的に造ることができる。
「――いやっ.....」
突如鳴った警報に私は怯えた。
死ぬのは怖いけど、私にとって一番恐ろしいのは「身近な人の死」。
それだけは絶対に見たくないし、起きても欲しくない。
小さい頃からたまに悪夢として散々見てきたけど、あの悪夢で見た光景が本当にあったんじゃないかと実感する程に恐ろしくて仕方なかった。
「……やらなくちゃ」
「どうしたんだ晴香!」
「ごめんみんな。先に避難してて、私もすぐに避難するから」
本当はみんなと一緒に避難したいけど、友達や見知った人たちが死ぬことはさせたくない。
自分が“ウィッチ″であることは自覚している。
『魔力』という万能の力を生まれ持って行使できる特殊な存在で、女性しか持つことができない。
今もウィッチに対する偏見や恐れはあるものの、ジパングは|ウィッチも受け入れる国だから気にせずに平穏な日々を送ることができた。
「エアスト!
早く入って」
体育の授業でグラウンドにいた人達を守る為、私は魔術を使って体育倉庫の扉を破壊した。
倉庫の地下にはシェルターが造られていて、そこに辿り着けば安全だから。
魔術を許可なく使ったのは魔術法違反となるけど、今は緊急事態だから仕方がない。
「あかい…翼!?」
赤い翼とスーツを身にまとった少女が、赤い光と共に残骸を切り裂いて現れた。
赤い長髪に赤い眼をした女性で、背中に装着されている赤い翼が雄々しくて美しい。
「――くっ?!」
突如頭痛が起きて脳内に知らないビジョンが浮かんだ。
私たちを助けてくれたこの人と身に着けているものを、私は知っている。
顔と身に着けていたスーツの名前と特徴を。
「大丈夫? 頭打っちゃった?」
「近づくなテロリスト!」
ゆっくり降下して私の身を案じてくれる人を先生が横から入った。
助けてくれたとはいえ、彼女が世界中で有名なテロ組織の一人である以上警戒するのは当然のこと。
『ホムラさん! 今すぐそちらへ向かって生意気な口を言う奴を成敗しに』
「落ち着いてシナ、いつものことだから」
耳に装着されているインカムで何か話しているみたいだけど、私たちの耳には届いておらず、私たちはただジッと注目していた。
「大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」
「それならよかった。早く避難を――くっ!」
女性に向けて強力な一撃が放たれたけど、即座に盾を手に持って攻撃を防いだ。
攻撃は強力なビーム放みたいで、女性はすぐさま私たちの前に立った。私たちを守るように。
「お前が噂に聞くフリューゲルとその魔武装者だな? 流石は新型兵器の一撃を防いだだけある」
「いくら私を撃つ為とはいえ、無関係な人まで巻き込んだのは許せないわね」
「そんなことは些細な犠牲だ。警報が鳴ったにもかかわらずさっさと避難できなかった奴らが悪い」
上空に合身魔武装を着用した魔武装者がいたけど、魔武装隊の人でもないことは雰囲気で分かった。
「それが新型の合身魔武装ね?」
「ええ。対あなた達用にUUEが開発した次世代型新兵器よ。
そしてゾハール最強である貴方を実験として相手になってもらうは!」
ウィルドの主な武装はライフルにミサイルに、ナイフや剣などの実弾実剣。そして魔術だけだった。
スペル系の武器はあったものの、魔力を余分に消費する上に従来のウィッチたちには使いこなすことができなかった。
だが、ゾハールのウィッチたちが殆どスペル系統の武器を主に使用していた事に伴って、
武器完成とウィッチたちの訓練によってカリキュラムが完成して誰にも扱えるようになってしまった。
「火炎刃!」
「―ふんっ!」
刀剣から放たれた刃の形状をした火炎を女性は避けたけど、少女はすぐさまに女性に斬りかかったけどスペルサーベルに防がれてしまった。
左手に持っていた拳銃で撃とうとした途端に少女は即座に左足で蹴って防いだ直後に追撃したけど、咄嗟にかわされて距離をとられた。
直後に拳銃とスペルライフルによる射撃戦となって、避けたり防いだりしながらお互い距離を縮めながら再び剣をぶつけ合った。
少しの間激しい攻防戦が続いて、剣と剣の衝突音とスラスター音が鳴り響いた。
「――もらった!」
「流石はゾハール最強の赤き天使。次世代合身魔武装をもってしてもまだまだね」
女性は刀剣でゴリ押しして勝った。
魔武装者同士の戦いに見とれていた私たちはシェルターへ避難することを完全に忘れていた。
「……え!?」
背後から一筋の閃光が二人を貫いた。
スナイパーライフルによるビーム砲撃なのは分かったけど問題は。大量に現れた大量のウィザードたち。
女性が戦った人と同じ合身魔武装を全員身に着けていて完全に包囲された。
『ご苦労様です、南八大尉。最後にいい働きをしてくれてありがとうございます』
「きっ、きさまぁ! よくも私を!」
「…そういうことね」
通信機能を通して一人の女性より発せられた言葉で、自分が使い捨ての実験台にされたことに激怒して、我を忘れた叫び声が響いた途端、数多のビームライフルが一斉に射撃された。
少女はすぐに突き刺したままの刀剣を抜いて私たちの真上に移動してバリアを張った。
「早く避難して! 私の魔力が尽きる前に…早く!」
少女は持ちこたえながら私たちに向かって必死に非難を促した。
私を除いた人たちはすぐに地下のシェルターに向かった。
「お前、なんで残った! 私のことは構ずに早く!」
「それはできません。あなたと、せっかく再会できたんですから!」
「……何ですって!?」
私は両手を上げて、少女が張ったバリアに魔力を送った。
バリアの耐久は魔力に左右されて、多ければ多い程頑丈と化す。
「今思い出したんだけど、私は昔! 貴方に助けられたんです!
恩返しとは言えませんが、私は貴方を死なせたくないんです....だから!」
「....そうか。 なら、世界中を敵に回す覚悟はある?」
「え?」
「アイツらと戦う勇気があるのって聞いてるの」
「あります」
「そう。なら、これを使って。
それは私の相棒であるフリューゲルよ。貴方の翼と力にとなってくれるは」
そうして、私はホムラさんからフリューゲルを受け取って戦い抜いた。
地上からホムラさんの援護もあっての勝利だけど、戦いが終わった後にホムラさんは何処かに消えていた。
地下にも、校舎の地下シェルターにもいなかった。