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6/6

恐れられた教頭 (6/6)【完結】

6


 二人は再び聞き込みを開始し、用務員室へと再び訪れる。


 「刑事さん、用というのは何でしょうか。」ドアを少し開けて山辺は飯島の方を見上げる。


 「山辺さん。実は山辺さんを心配してくださっている方がいらっしゃいまして、お呼びしたのですが、会って頂けますか?」


 「はあ。」


 飯島と加野、それに利根崎先生が用務員室の中へと入って行く。


 「山辺さん。あなたのことを良く思ってくれている利根崎先生です。」


 「ああ、利根崎先生。」


 「山辺さん。今回の件は本当に心配していまして。思わず山辺さんの下に来ずにはいられなくなったんです。」利根崎は山辺に対して神妙な面持ちで言葉をかける。


 「はあ、そうでしたか。」


 「利根崎先生は先ほども山辺さんのことを心配して、こちらの部屋に訪れていたんです。」


 「ああ、それはそれは。利根崎先生、わざわざありがとうございます。」


 「山辺さん、あの紙袋はなんですか?」飯島は雑然としている部屋の隅に置かれている大きな買い物袋を指さす。


 「あれ?あんなものあったかな・・・なんだっけ?」


 「ご存知ないですか?ちょっと拝見してもよろしいですか?」


 「ええ・・・」


 飯島が紙袋を手に取り、中身を確認すると、上下の作業着と帽子、黒髪のかつらと紺のベストが入っていた。


 「このかつらは・・・見覚えがありますか?利根崎先生。」


 「これは・・・教頭先生のと同じもののように思えます。」


 「教頭先生のと同じ、ね。利根崎先生、どういうことですか?」


 「いえ、私にもよくわかりませんが・・・山辺さんが教頭先生と同じものを持っていた、ということですか?」


 「いえ!ち、違います!そんな!私ではありません。」手を必死に振って、違うとアピールする山辺。


 「でも、作業着と一緒に入っているじゃないですか。それに紺のベストも。・・・もしかして、これで変装して職員室に入ったんじゃあ・・・」目を見開いて山辺を見つめる利根崎。


 「違います!どうして私がそんなことを?」


 「利根崎先生、違いますよ。山辺さんはそんなことはしていないですよ。」


 「へ?」


 「利根崎先生、私がどういうことですかと言ったのは、なぜ罪を山辺さんになすりつけようとしたのですか、ということですよ。」


 攻め入るような態度を見せていた利根崎の表情が驚きと困惑へと変わっていく。


 「山辺さんが教頭先生の格好をして、職員室、給湯室に入り、元の用務員の服装で出てくる。まるで容疑を自分に向けさせようとしているじゃありませんか。それに3時間目に中庭いる用務員さんを見たという証言もありました。山辺さんは犯人ではありません。」


 「何を急に。それで、なぜ私が犯人になるんですか?」


 「あなたは3時間目の授業中に、予定通り薬品をこぼして、着替えてくると言って職員室の隣の更衣室に行き、白衣を脱ぎ捨て、かつらを被り、あらかじめ着替えてあった教頭先生の格好で、この袋を持って職員室に入った。教頭先生は常日頃から恐れられていて、まじまじと見る人はいない。それに、富村先生は目があまり良くなくて、遠くからでは別人だと気がつかなかったのでしょう。そのまま給湯室に入り、眠らせておいた教頭先生を背後から襲った。そのあと、用意しておいた用務員さんの作業服を着て外に出ようとした。しかし、用務員さんを装うには自信のなかったあなたは、小窓から富村先生と河下先生の様子を伺いながら、こっそりとドアを開けて腰棚に隠れた。腰棚の角で姿を現し、わざと音を立てて二人に気づかせ、用務員さんだという薄い認識程度の判別をさせて外に出た、ということです。

 そのあとは職員室に出て更衣室に入り、着替えて授業に戻った。残してあったこの教頭先生と用務員さんの服装は、事件後、用務員さんがいない時間を見計らって、あなたがここに置いたのでしょう。その時に私たちと会ったのです。この服にはあなたのことを示す毛が無数についているはずです。」


 無言のまま下向き、呆然として立ち尽くす利根崎。


 「あなたが犯人だと思った理由は帽子です。あなたは用務員さんの容姿について、帽子と作業服と答えました。しかし、これを見てください。パンダのアプリコットがこんなに大きくつけられております。」

 飯島は紙袋から帽子を取りだし、利根崎に見せる。


 「なんだ?これは?」


 「これはおそらくは、あなたの娘さんが付けたものなのでしょう。富村先生にも再度聞き込みをしたところ、やはりパンダっぽい帽子をつけていたと証言していました。3時間目のとき、3人のうちで、もっとも用務員さんを間近に見たあなたが、気がつかないはずがありません。」


 飯島の話が終わると、膝から崩れるように利根崎は倒れ込む。


 「なぜ教頭先生を?」


 「教頭先生は、駄目な生徒を叱るには、殴ってでも教えてあげることも必要だとおっしゃっていました。私は実際に校則を破った生徒を、殴って叱ってやったところ、その親が教育委員会に訴えると言い出して、教頭先生は私はそんな指導の仕方は指示していないと言い出したんです。ですから、わからないこと駄目なことを殴ってでも教えてあげたのです。」


 「そうでしたか。・・・先生、何も殴って復讐することなんてないでしょう。手を挙げた方が負けなんです。もっと家族や周りの人たちを大切にしてください。」



 利根崎が警察に連行されたあと、加野のもとに連絡が入る。


 「先輩、病院から情報が入りました。」加野が飯島に近づいて報告をする。


 「教頭先生の容態か?」


 「はい、教頭先生は命に別状はないそうです。一時的にショックを受けて気を失っていた模様です。」


 「寝ているところを背後から襲われたというのに、か。」


 「はい。かつらに2センチ程度のシリコンが入っていて、どうやらそれが致命傷を防いだと・・・」


 「かつらにシリコンが入っていた・・・。まあいいだろう。それは本当に良かった。」

 飯島は紙袋に入っているかつらを手に取って確かめる。


 「教頭先生は今回の件で、とげとげしさが収まるといいんだがな。それと、加野。教頭先生には、かつらの件について、誰もシリコンでいませんでしたと伝えておけ。」


 「それは嫌ですよ、先輩。先輩から伝えてあげてくださいよ。」


 「そうか、仕方がないな。じゃあ、俺の心の中で伝えておいたとするか。」


 こうしてタンクトップ第一高校の密室事件は幕を閉じるのであった。

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