恐れられた教頭 (5/6)
5
二人は再び給湯室に入って状況を整理していく。
「まるで誰が犯人でもおかしくないみたいだな。」
「そうですね。全員に動機があるというか。」
「ただ、事件のカギは3時間目の用務員さんの件にあるだろうな。」
「はい、先輩。3人の先生が職員室にいたと証言しているのに、本人は一度もいっていないと否定しています。どちらかが嘘をついていると考えると・・・」
「しかしだなあ。教頭先生が3時間目に給湯室に入って行って、実はそこに用務員さんが潜んでいて、隙をついて教頭を殴り、何食わぬ顔で職員室側へ出ていく。そのまんま過ぎるんだよな。職員室で用務員さんだって先生方を見たはずだ。さらには職員室を出たところでも他の先生と鉢合わせている。それでいてあんなにシラを切ることなんてできるものだろうか。」
「確かに。」
「それに富村先生のドアの件についても気になる。」
「富村先生のドアの件ってなんでしたっけ?」
「富村先生が、自信をもってドアは空いていないと言った件だよ。その証言がこの事件を密室にしているんだ。いくらこのドアに向かって座っているからって、ドアが開いていないと断言できるものかね?」
「どの先生もよっぽど教頭先生の動きを気にしていますよね。教頭先生はどこにいるのか、常に把握しようとしていました。」
「教頭先生は明らかに恐れられている。教頭先生の入っている部屋のドアならどこでも開けば気がつくと言わんばかりだな。」
飯島はドアノブをゆっくり回して、静かに開けてみる。
「教頭先生はこんな風にゆっくりドアノブを回すような人ではないと思うかね?」
「いや、わかりませんよ?ゆっくりとドアを開けて、隙をついて”コラー!”とか言いそうじゃないですか?」
「まるで宿題をやっていない子供を見つけて叱っているみたいじゃないか。そんなバカな真似はさすがにしないだろう。加野、給湯室の上の部屋の件は報告が上がっているか?」
「はい。上の階は美術室で3時間目も4時間目も授業があったそうです。まだ、窓にロープ等の跡はありませんでした。」
「そうか。」
「はい。それと、給湯室にあったコーヒーカップの件ですが、教頭先生がいつも使っているインスタントコーヒーの瓶の中から睡眠薬が検出されたと鑑識より報告がありました。」
「何?そうか!これで内部犯であることは確実だな。よし!」
飯島はバンと机を叩き、壁に向かって仁王立ちをする。
「加野、事件の関係者を全員集めろ!」
「え?どうしたんですか?急に。」
「決まっているだろ!真犯人公開ショーを始めるんだ!」
「真犯人公開ショー?なんですかそれは?」
「馬鹿だなあお前は。“犯人はこの中にいる”っていうセリフを聞いたことがないのか?」
「まあ、そりゃあ某アニメで聞いたことはありますけど…」
「聞いたことがあるだろ?俺はなあ、“犯人はこの中にいる”っていうセリフを言ってみたいんだよ。」
「え?それじゃあ先輩、犯人が分かったんですか?」
「ああもちろん。犯人は河下詩帆だ。」
「え?!河下先生?あの美人の河下先生が犯人?」
「お前は気がつかなかったのか。カワシタシホ。並べ替えると、「わたし、ホシか」になる。犯人は私だと自供しているのだ。」
「飯島さん、今日で刑事を辞めるつもりなんですか?」
「いや、そんなことはない。ただ、気がついてしまったので、言いたくなっただけだよ。な?この気持ちわかるだろ?さ、もう一度事件を調べ直そう。」