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恐れられた教頭 (2/6)

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 「河下先生がお見えになりました。」


 加野は紺のスーツに、ポニーテールをサイドに纏った、すらりとしたスタイルの女性を飯島のもとに案内する。


 「社会科の河下詩帆です。」


 「いやあ、お綺麗な方ですね。どうぞこちらへ。」


 「なんでしょうか。」


 給湯室で立ったままの状態で、飯島は事情を聴き始める。


 「河下先生は午前中のスケジュールはどのような感じでしたか?」


 「午前中は・・・1,2時間目に2年生と3年生の授業がありまして、3時間目は職員室にいました。4時間目も3年生の他のクラスの授業をしておりました。」


 「そうですか。午後のスケジュールは?」


 「午後ですか?5時間目に2年生の授業がありますけど?」


 「そうですか。では放課後の予定は?」


 「は?放課後ですか?放課後は・・・」


 「先輩、今後の予定は関係ないじゃないですか。午前中の行動を確認しましょう。」


 「違うよ加野君。事件後のスケジュールを確認することも大切なことなんだ。全体を把握して推理することも事件解決に必要なんだよ。まあ、放課後はいいとして、まずは3時間目のことについて聞かせてもらいましょう。

 教頭先生が3時間目に給湯室に入っていったと富村先生がおっしゃっていたのですが、河下先生もそのときに教頭先生が入るところを見ましたか?」


 「ええ、見ました。教頭先生はあの給湯室の横の職員室のドアから入って来て、そのまま給湯室に入って行きました。」


 「それは3時間目のいつ頃ですか?」


 「3時間目が始まって間もない頃だと思いますよ。教頭先生の日課ですから。」


 「いつもと変わったところはありませんか?」


 「ええ、無いと思いますが。」


 「そうですか。例えば、服装がいつもと違うとか、何か悩んでいることがありそうとかなかったですか?」


 「服装は、いつもと同じだったと思います。紺のベストに茶色のボトムス、それに黒々とした七三の髪形でした。」


 「黒々とした七三の髪形、ですか。様子の方は変わったことはなかったですか?」


 「ええと、実は、あまり見ていないんです。」


 「あまり見ていない?」


 「はい。以前になんとなく教頭先生を見ていたら、何をじろじろ見ているんだと怒られたことがありまして。パッとしか見ていないんです。ドアの開け閉めにも特徴があるので、すぐにわかります。」


 「どんな感じでドアを開けるんですか?」


 「とにかく音が大きいんです。バーンって感じですね。」


 「俺がロックンローラーだ!みたいな感じですか?」


 「いえ、違います。」


 「違いましたか。ええ、では得に変わった様子もなく、いつも通りだったということですね?」


 「ええ、・・・ただ、3時間目が始まった時も給湯室にいらっしゃったような気がするんですよね。そこまでよく見ていなかったので、わからないのですが、3時間目が始まってから再び入っていったようにも思えたのですが・・・」


 「声をかけなかったのですか?」


 「声をかける?そんな人はいないでしょう。」


 「そんな人はいない?どういうことですか?」


 「教頭先生はとても厳しい方です。気軽に話しかけられるような方ではありません。」


 「そうですか。教頭先生が給湯室に入ってから、出入りをした人はいますか?」


 「いえ、存じ上げません。ただ、用務員さんがウロウロしていたのは覚えています。」


 「用務員さんですか。用務員さんも3時間目が始まった時から職員室にいたんですか?」


 「いえ、それはわかりません。私は給湯室に背を向けて座っているので、そこまで見ていないんです。」


 「でも、教頭先生が3時間目のときにいたとか、用務員さんがウロウロしていたのは目撃しているんですよね?」


 「はい、物音がしましたから。」


 「物音?」


 「はい、教頭先生が職員室のドアを開けるときの音や、用務員さんが壁か何かにぶつかる音を聞いて振り向きました。」


 「ああ、なるほど。ちなみに、用務員さんはどのような格好をしていましたか?」


 「格好ですか?いつものように灰色の作業服だったと思いますが。あと掃除道具を持っていたと思います。それと・・・パンダっぽい感じがしました。」


 「パンダっぽい感じ?何ですかそれは?」


 「よく思い出せないんですが、見た瞬間、なんか頭がパンダっぽかった感じがしたんですよね。」


 「はあ、そうですか。まあ、あとで用務員さんに会えばわかるでしょう。それで、3時間目に入った時に教頭先生が給湯室にいたというのは?」


 「私が2時間目の授業から帰ってきたときに給湯室をちらっと見たら、教頭先生がなかにいらっしゃったんです。」


 「ああ、そうですか。でもなぜ給湯室の方を振り向いたのですか?気配でもあったのですか?」


 「いえ、別に理由はありません。」


 「そうですか?職員室に入って、給湯室は横にありますが、振り返らないと見えないでしょう。先生は毎回職員室に入るたびに給湯室の方を見ていたのですか?」


 「いえ、そうではありません。実を言うと、職員室に入って、教頭先生がご自身の席に座っていなかったので、ひょっとしたら給湯室にいらっしゃるのかなと思って。」


 「ああ、なるほど。それで実際にいたと。」


 「はい。」


 「河下先生、4時間目はどうされていましたか?」


 「私は授業に出ていたので知りません。」


 「4時間目が始まるときにも、教頭先生は給湯室の中にいらっしゃいましたか?」


 「はい、後ろ姿を確認しました。」


 「わかりました。ところで、河下先生。教頭先生は誰かに恨まれたりしていたことはありませんでしたか?」


 「わたしにはわかりません。」


 「そうですか。河下先生自身は教頭先生に何か嫌がらせなどは受けていませんでしたか?」


 「・・・いえ。」


 「何か嫌なことを言われたとか、あるいはセクハラ的なことをされたとか?」


 「・・・」


 「スカートが短いとか、胸が大きいとか、あるいは私が大人の社会を教えようと言ったとか。」


 「あなたが一番のセクハラです。」


 「ああ、これは失礼。」


 「私はこの高校が初めての赴任なんですけど、周りから応援や励ましの声をいただいていたんですが、教頭先生からはちやほやされて、いい教師になれると思うなよと言われました。そのあとも、女はすぐ辞めるとか、君を見ているといい教師になれそうになくて残念だと、苦言をいただいておりました。」


 「そうですか。では今回の件で少しすっきりしたところはあったのですか?」


 「いえ、とんでもない!ただ・・・私だけじゃないんです。教頭先生に嫌がらせを受けていない先生の方が少ないと思います。」


 「そうでしたか。わかりました。お聞かせいただきまして、ありがとうございました。」

 

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