告白って
第5章 告白って
優希の『不器用な笑顔から』との出会いから、約3ヶ月が過ぎようとしてた。
師走から年始への忙しい端境期でも、優希との同伴は月1ペースで継続していた。
最初は一緒に居られて、多少手が触れる程度のコミュニケーションでも、
本当に嬉しかった。
但し、50歳を過ぎても煩悩の欲求は増加するばかりなのだから、
人間の欲求とは恐ろしいものだ。
俺自身の『字本を磨く計画』は紆余曲折はあるものの、実施しているが効果は
期待値には程遠いものだった。
ファッション関係だけは、富山の唯一のデパートでセンスの良い店員さんと出会えたので
一番変化した部分だろう。
服だけではなく、靴や小物類、眼鏡、アクセサリーにも投資して、その甲斐あって周辺からも好評だったった。
当然、優希との同伴時にも取り入れた。
新潟にか基本仕事で出張すので、スーツで優希のお店に通ったが、プライベートファッションでの同伴も試みたりして、仕事とプライベートのギャップの演出計算もした。
優希から「楽しい。尊敬します。」なんて言う言葉を聞く機会が多くなった。
俺はこの3ヶつ間で冗談ぽく「優希が好きだよ。」と、何度も伝えていた。
優希も「ありがとう。優も好き!」と冗談ぽく返答がきていた。
自分磨きも道半ばなのに、優希の営業トークを真に受けてその気になった。
それにこのままの客とスナックのママの関係だけでは、不満が募ってしまったのだ。
2023年1月16日木曜日の優希との同伴した。
上越にある駅前の焼肉屋だった。 魚が好きな優希との同伴では、珍しいチョイスだった。
お店の前の交差点付近で、立って優希を待っていた。
上越の1月は流石に寒いが、早く優希に会いたかったし、待つ時間も嫌いじゃなかった。
暖かそうな黒いコートを纏い、息を白くさせて優希は現れた。
お店では派手な『スナックのママ』って感じのドレスを着ているが、
同伴時は『可愛い女の子』って感じの普段着に近い恰好だった。
富山や石川では同伴時も派手な格好をする女の子が多かったので、
この地味な服装は、普通のデート感覚で、今でも新鮮だった。
「お待たせ!」素敵な笑顔だった。
「久しぶり、髪の色変えたんだね、似合っているよ。」
「ありがとう。」
会話しながら、焼き肉屋のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」と女性店員が予約席へと案内してくれた。
「ビールでいい?」と、いつも通りに優希に尋ねた。
「ビールで!」楽しい同伴が始まった。
牛タン、ロース、カルビ、ハラミを順番にオーダーした・・・
優はホルモン関係は嫌いだった。
「優のことが好きだよ。手をつなぎたい。」
「ありがとう。いいですよ。」と手をつないだ。
「もう一度、優が好きだよ。」と告げた。
不細工な中年男性が同伴の席で、不様な姿を曝け出していることは、
飲酒していても判断できていたのだが、どうにもできなかった。
「ありがとう。」本当に嬉しそうに笑った。
「客ではなくて、男して優に好きになってもらいたいんだ。」
「優の家族環境をつもりはないし、俺も離婚するつもりはないんだ。」
「優と恋人同士の関係になりたいんだ。」
「恋愛は20年以上前のことだから、自分のこと上手く制御できないんだ。」
「それくらい優が好きなんだ。」
「・・・」優は、黙って俺の話を聞いていた。
「都合のいい女になれって言っていることは分かっているんだ。」
「純粋に優と恋愛がしたいんだ。」と、付け加えた。
優希が口を開いた。
「私も好きですよ。ただ、恋愛の好きではなくて...」
「人間として好きだし、尊敬しています。」
「お店を開店させて、今は、何とか経営するだけで精一杯で...」
「恋愛を考えられるほど余裕がないよ。」
少し、困惑したような感じだった。
俺を傷つけないように、言葉を選択しながらの模範解答だった。
まぁ、こうなることは予想できたが、自分の気持ちの落ち込みは予想外だった。
それでも、俺の真剣さは伝えることができたと思うので、
俺の恋愛は、これからが勝負だった。
この告白を機に、毎日のLINEのやり取りは止めた。
優希にフラれたことが、ショックだったことを認識してもらうためだ。
要するに、『それだけ俺は優希に真剣に恋している。』ことを、
毎日認識してもらうことが目的だ。
それだけ、接待などで優希のお店を使うときは、LINEで予約連絡した。
LINEのやり取りは素気無い物に変化して、俺の近況は伝えないようにした。
優に『俺の事を気にして欲しい。』戦略だった。
沢山のお客様の中の1人で、面倒なヤツと思われる可能性もあったが、
どうしても優希を入手したいと思えば、こちらから仕掛けるしかなかった。
富山を含む北信越地方の冬は、悪天候も続くためインドアが多い。
俺はその環境を利用して、ジムでの筋トレや読書などの自分磨きに注力した。
その甲斐あって、身体は筋肉が目立つ位になったし、本も月1冊ペースで読んだ。
有酸素運動が出来なかったから、ダイエットは計画通りに進まなかった。
優希の同伴は少し時間が空いて、2023年3月1日水曜日だった。
この日は、優希と初めて同伴した鮨屋でする事にした。
新たな優希との関係を築くには、『最適なチョイスだ』と思った。
今日はもっと踏み込んで、優希にアタックする。
お店前で優希を待つ光景は変わらなかった。
「お待たせ!」と、優希の変わらない笑顔。
「久しぶり。」片手を挙げながら、優希に答えた。
お店に入った。
「いらっしゃいませ!」店員の声と共に、掘り炬燵形式の席に通された。
「ビールでいい?」
「ビールで!」と、変わらないやり取りから始まった。
他愛もない会話を経て、核心に触れた。
「優が好きなんだ。フラれてもやっぱり好きなんだ。」
静かに伝えた。
優希は『やっぱりきたか!』って感じの雰囲気を醸し出していた。
「優とキスしたい!!!」
より具体的に、優希を求めた。
「やっぱり、恋愛を考えられるほど余裕がないよ。」
予想通りの返答だった。
何故いきなり『キス』かと言うと、優と俺は『抱擁はしあう関係』だった。
勿論、服を着ての行為だった。
帰る際に誰も居ないことを互いに確認して、抱擁しあって2人の秘密だった。
しかも、優希から抱擁してくれたことを、今でも覚えている。
「お客様で俺としかこういうことはしていないから秘密ね。」って、
言われはことはとてつもなく嬉しかった。
俺はキスしてから、抱擁しあうことが普通だった。
抱擁できるのなら、キスだってできるとと思っていた。
逆に、優希の顧客確保戦略に嵌ったのかもしれない。
疑似恋愛もスナックの武器なのだから...
この同伴は優希にとって、苦痛な時間だったかもしれないが、
『好き』って気持ちを伝えたことは、後悔していない。
俺と優希は、新しい関係を築かなければならない環境を俺は作った。
持論だが『喧嘩と仲直りができる関係』これが一番絆が深まると思っている。
この後は、優希に如何に『俺を失いたくない。』と、思わせるとこができるかが、
優希を入手できるか?の鍵になるのだ。
『俺は本当の勝負処に立った。』