女勇者
(どうしたもんかな…)
俺はクエスト案内所の中で考えていた。パーティになってから(ちゃんと全員が戦闘していたという意味で)の初クエストを達成してから数日経っていた。あれからもクエストを受けて順調にあいつらのレベルが上がっているが、そろそろPVPの練習をしないといけない時期となってくる。しかしここで1つ大きな問題がある。今まで先輩ズラしていた俺とジークだが、PVPの経験は全然無いと言っていいほどである。つまりパーティメンバー全員がPVPに関しては素人ということだ。
(動画とか見たけどあんなこと全員がやってるだろうしな…)
今まで何もしなかったわけではない。スターリベルにログインしていない時もネットにある「超初心者から始めるPVP講座」などの動画を一通り見たが、それは他の参加者もそうだろう。だから俺はあまり知られていない戦法等がないか探してみたが、全然そんな情報は無かった。そもそも今までPVPをやってきた人間がそう安々と情報を流すわけがないのだ。
(俺みたいな素人が戦法を考えてもね…)
などと頭を悩ませていると…
「よっ、ロジャー」
ジークがやってきた。
「あいつらは…ああ、今日は来ないんだっけ?」
「ああ」
昨日のログアウト前にケージが俺らに言ってきたのだ。3人でどこかへ行くのだろうか。ちなみにパーティになってから集合場所はこのクエスト案内所となった。理由は特にない。自然とそうなった。
「3人で出かけてるのかねぇ、仲が良いことだ」
ジークが俺が思っていたことと同じことを言いながら更に俺に問いかける。
「今日は久しぶりに2人でクエストに行くか?」
良い笑顔を向けながら言ってくるが、
「いいや、今日は作戦会議だ」
俺はそれを一蹴する。
「作戦会議?」
「PVPのだよ。ずっとクエストでレベル上げをしているわけにもいかない。そろそろ練習しないとな」
「あー、そうだよな…」
ジークがばつの悪い顔をしている。多分俺と同じことを思っているのだろう。
「何か良い戦法あんのか?何かとびきりすげーの!」
「あったらこんなところで頭を抱えてねーよ」
「だよなー」
ジークは苦笑いをする。こいつなりにも考えていたようだが、結果は俺と変わらずと言ったところだろう。
(どうすっかなー…)
一番手っ取り早い方法として挙げられるのは、先人から指導してもらうことだろう。しかしこの方法には大きな欠陥があった。それは俺とジークにこのゲームの知り合いプレイヤーがいないことである。…欠陥というか今まで俺らが交友関係を広げなかったのが悪いのだが。
友達がいない俺らの次の手はインターネット。実際ネット上ではPVPのコーチング業として生徒を募集している人もいる。ある程度の対価を払えばコーチを雇えてPVPの練習を出来ると思うが、このコーチング業非常に詐欺まがいなものが多い。というか実際に詐欺があったらしく運営に通報されていた。どういう人がコーチングをしてくれるか会ってみないと分からないし、そもそもコーチ側もこのゲームのPVP指導なんてやったことない人がほとんどだろうから、コーチング業として成立しているかも怪しいのだ。
このように第三者から教えてもらおうとしても中々難しく今の現状に至っている。今から交友関係を広げてもPVPに詳しい人に会うなど、どのくらい時間がかかるか分かったもんじゃない。
「おーい」
ジークが話しかけてきた。
「ここで悩んでも解決するわけでもないし、やっぱクエスト行かね?」
「…確かにそうだな」
ジークが言った通りここで悩んでも仕方がない。腕がなまらないようにするかと思っていたら、
「あの~あなた達ちょっと良いかしら?」
聴き馴染みに無い声が聞こえた。振り返るとそこにはピンクの髪をした綺麗な女性が立っていた。見た目からして年齢は俺らより上だろう。
「何すかお姉さん?」
ジークが不思議そうな顔をしながら、お姉さんに問いかける。
「あなたたちがロジャーさんとジークさんね」
「…何で俺らの名前知っているんですか…?」
俺は少し身構えながらそう問いかけた。
「あら、あなた達結構有名プレイヤーなのよ?名前ぐらい知っててもおかしくないわよ」
お姉さんがそう言ってきた。俺は首を傾げながら、
「そうなのか?」
とジークに聞いた。
「さあ?」
ジークも頭に疑問符を浮かべているようだ。
「自覚無いのね…まあ、良いわ。あなた達、PVP大会に出るのでしょう?」
別に言いふらめているわけでもないのだが、一部では伝わっているらしい。
「そうだが…」
「でもPVPの経験が無いから困っているのでしょう?」
「そうだな」
「なら…」
お姉さんは続ける
「私があなた達にPVPの指導をしてあげるわ!」
「「えっ、嫌ですけど…」」
「そう!喜びなさい!ってええええええ!!??」
「どうしてですの!」
お姉さんが涙目になりながら訴えてきた。
「いやどうしても何も…」
「いきなり変なおばさんが名乗りもせずにコーチングしてやるとか意味分からないだろ」
俺は冷たくあしらう。
「おば…おばさんって何よ!見た感じお姉さんぐらいでしょうが!!」
「うわ、声でかい…」
ここ一番でおばさんが大きな声を出してきた。少し沈黙が流れておばさんがハッと我に返った。どうやら少し頭を冷やしたようだ。それからわざとらしい咳払いをして話し始めた。
「失礼、少々取り乱しました…」
(少々…?)
被っていた猫がどこかへ逃げていった勢いだったが、俺は口に出さなかった。絶対面倒くさいし。
「私、セイラと申します。戦闘職は勇者をやっていますわ。レベルはもちろん100です」
「女性で勇者…珍しいっすね」
ジークの言う通り勇者のジョブは男が多い。このゲームのほとんどジョブは性別で制限されることは無いのだが、ジョブによって男女比の偏りは結構ある。
「そうですね…このゲームで勇者を選んでいる女性は全体で約1%いないと公式が言っていましたわ」
「へー」
そんな情報あったのか。公式ホームページとかは前に結構見尽くしたと思っていたが…最近発表されたのか。
「そんなレア物女性勇者であるセイラさんがどうしてあんなことを?」
俺は問いかける。
「ロジャーさんは少し私に失礼な気がします…」
「・・・」
「まあ、いいですわ。私はあなた達に勝ってほしいのです」
「なぜ?」
「優勝した後に私のお願いを聞いていただこうと…」
「お願い?」
俺らは首を傾げる。
「ええ、そうです…」
セイラの言葉はそこで止まる。
「そのお願いっていうのは?そもそも何で大会優勝者なんだ?そしてなぜ俺達なんだ?」
俺は続けざまに質問する。
「え?ええっと…」
セイラはあたふたしている。
「まあまあ、ロジャー。一つずつ聞いてやらないか?」
「…じゃあ、まずあなたのお願いというのは?」
俺がそう聞くと、
「答えられません」
と言ってきた。
「じゃあ、何で大会優勝者なんだ?」
「強い人が良いからです」
「…でなぜ俺たちに声をかけた?」
「私から見て優勝しそうだったからです」
「・・・」
なるほど。
「ジーク、俺はもう落ちるわ。テキトーにその人あしらっといて」
「待ってええええええええええ!!」
セイラが涙目になりながら俺にしがみついてきた。キャラがコロコロ変わるな…
「どうしてそんなに冷たいのですか!?」
と言ってきたので言い返す。
「あんたが怪しすぎるからだよ!」
「えええええええ!?この私が!?」
こいつの自己評価どうなってるんだ。
「いいか、まずいきなり話しかけてきて私がコーチになってあげると一方的に言い放って、そして対価と思われるそちらの願いは言わない。俺らを選んだ理由も雑。どこに信用出来る要素があるんだよ!」
「そ、それは…」
セイラが涙を浮かべてこちらを見ている。少しは自分が怪しいと自覚したようだ。
「まあまあ、ロジャー。落ち着けって」
ジークが再び俺を宥める。
「あんな泣きついてくる人が俺らを騙そうとしているなんて俺は思わないぞ?」
「お前は少しは疑う気持ちを持て…」
「いやぁ、俺も最初は怪しい奴だと思ったけど、こんな面白い人が人を騙せるなんて思えなくなってきたというか…」
ジークが笑いながらそう言ってきた。確かに詐欺師にしては感情が豊か過ぎるというか人を騙すということが一番下手な人種には見える。だからといって
「こういう演技をしているかもしれないだろ?」
「それはそうかもしれないが…」
「分かりましたわ!」
セイラがいきなり大きな声を出してきた。いつの間に復活してたんだ。
「あなた達、私と戦いなさい!」
「は?」
セイラがよく分からないことを言い出した。
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