レベルアップ
自己紹介が終わり、今までに得た情報を頭の中で整理する。パーティのジョブ構成を考える上で1つ嬉しい誤算があった。それは3人のジョブ構成のバランスが良く、特に軌道修正の必要が無いことだ。さらに都合よくその3人の中に俺ら2人が入ってもバランスが崩れないどころか寧ろ1つのパーティとして綺麗に完成されている。タンクは俺、アタッカーはジーク、ケージ、ミナの3人。ヒーラーはスミレとサブとしてジーク。うーん、完璧だ。1つ懸念点があるとするのならば、そのチアリーダーっぽいジョブの回復スキルがどれだけあるかということだが…まあ、僧侶派生のジョブだし全く回復出来ないということは無いだろう。また無理にジョブを変えるように言って、反感を買わなくて済むのはありがたい。そもそも説得できる気がしないが…
「どうしたの?急に黙っちゃって」
ミナが話しかけてきた。
「ああ、悪い。今後のパーティのジョブ構成について考えてた」
「へー、そんな乗り気じゃなさそうに見えたんだけどちゃんと考えてくれているのね」
「当たり前だろ。やるからには本気で勝ちに行く」
「さすがだな!兄弟!お前のそういうところ俺は好きだぜ!」
ジークが笑っている。結局兄弟なのか…?何でも良いけどさ…
「誰かジョブを変えてほしいとかありますか?僕は変えてもらっても大丈夫ですけど…」
「いいや、構成は変えなくていい。お前らが今目指しているものそのままで良いぞ」
「良かったわ。私変える気無かったし」
「私も!」
女子2人がそう言っている。無駄な労力を使わずに済んで良かったと思いながら、今後の方針について話す。
「とりあえずお前らのレベルアップから始めるぞ。まずは今の下級職をレベル30まで上げて、中級職になってもらう。そこで将来なりたい上級職を調べて、その上級職に繋がる中級職になるんだ」
「しつもーん、上級職ってどれぐらいでなれるの?」
「対応した中級職のレベル70だな」
「うへー、結構大変だね…」
「いや、そうでもないぞ?俺らがいるしな」
「そうなの?楽できそうで助かるわ~」
「まあ、楽だな。1ダメージでも与えたらいいし」
「シャーーー!!」
「「「うわああああああ!!!」」」
3人が巨大な蛇に追われている。
「攻撃を1発でも当てないと経験値入らないぞー」
俺はおいかっけっこをしているそばで言う。
「いや、あんなの無理ーー!」
ミナが叫びながら走っている。なんだ、まだまだ元気そうじゃないか。
「あのーロジャー?」
「ん?どうした?」
ジークが若干困惑した顔で喋る。
「あいつらだけでやらせようとしているけど、お前がターゲット取ればいい話じゃないのか?その方が安全に戦えるし。それにあいつらのレベル差だと何発か攻撃しないとダメージ入らないだろ?」
その通りである。しかし俺は分かっていてやっていた。
「まずはこのゲームの厳しさを教えてあげないとな。俺らが全力キャリーしたら確かにレベルは上げは早く上がるが、プレイスキルがついていかない。PVPで出てくる相手は全員レベル100だ。レベルなんかよりプレイスキルの方が絶対的に必要なんだよ」
「いや、そうなんだが…」
ジークが続ける。
「それならさっさとレベル上げてから、プレイスキルを磨けばいいだけじゃないか?」
「・・・」
「・・・」
「なあ、ジーク」
「ん?どうした?」
「俺らも低レベルの時はでかいモンスターに追われていただろう?そしてレベルが上がってそのモンスターを倒した時の達成感はすごかったよな!俺はやっぱりこんな感じでゲームを楽しむことが大事だと思っている。楽してレベルが上がってもありがたみがなく、ゲームも面白くなくなってしまうぞ?時には苦労することも大事だよな!うん、そうに違いない」
「よく今の間で考えたな…それに間違ってはいない…ただ…」
ジークは呆れながら続ける。
「お前がこの状況を楽しんでいるようにしか見えないのは気のせいか?」
「気のせいだ」
人のことを何だと思ってるんだ。失礼な筋肉め。
「ちょっと、あんたたち!話してないで早く助けてよ!」
ミナが叫んでいる。まだまだ元気だなーと思っていると、
「もうそろそろいいだろ。行くぞ」
ジークが助けに向かった。そろそろいいか。
「了解」
俺らは装備を取り出し戦闘態勢に入った。
あれから3日経って、3人のレベルが30まで上がった。結局レベル上げ方法としては、俺がモンスターを引き寄せてその間に3人が何回も攻撃を当ててダメージを入れたらジークがとどめを刺すというやり方で落ち着いた。俺としてはあまり好きではないレベル上げだが、後でプレイヤースキル向上という名目でしごいてやればいいだろう。
「よし中々のペースで30までいけたな」
「最初のでかい蛇に追われてたのは何だったのかしら…」
ミナがこちらを見ながら言っている。後からそういう経験が活きていくんだぞ…多分。
「まあまあ、それで全員中級職は決めたのか?」
ミナの発言を適当に流して俺は3人に問う。
「僕は予定通り魔法剣士ですね」
「ふむ」
魔法剣士はその名の通り剣と魔法で戦うことができる近距離も遠距離も戦うことができるアタッカーだ。中級職では1番人気職である。人気の理由は色々あるが、1番大きいものとして…
「上級職は勇者でも取るのか?」
上級職に大人気ジョブの勇者があることだ。「自分が物語の主人公になる=勇者になる」という考えを持っているプレイヤーも多く、またビジュアルもカッコいいのでかなり人気だ。しかし1つ大きな穴がある。それは器用貧乏になりやすいジョブであり、スキルの割り振り等が最も難しいといわれていることだ。勇者といって特に優遇されていることはなく、ただ色々なスキルが使えすぎて扱いが難しいジョブなのだ。一部では勇者の地雷率は異常とアンチになるやつがいるほどである。
「いいえ勇者はやめようと思っています。僕には難しそうで…後似合わないですよ」
「そうか?似合っていると思ったんだがな」
ってか絶対に似合っていると思うが、本人がやらないと言っているのならそれで良いだろう。ケージが若干照れくさそうにしていると、
「私はもう決めたわ!」
ミナがどや顔で話し始めた。
「ん?何にするんだ?」
「中級職は黒魔道士で、上級職はダークマジックキャスターよ!」
うん、まあ知ってた。
「そうか。じゃあ、スミレは…」
「ちょっと!終わり!?」
「え?逆に聞くけど何かあるのか?」
「アンタね…」
ミナが怒っている。こいつは一体何にキレているのだ。
「ぼ、僕はミナに似合っていて良いジョブ選択だと思うよ」
「!!…本当!?ケージ!」
ケージがフォローを入れてきた。なんだそんなことを言ってほしかったのか。
「流石ケージ、よく分かってるわ!」
何か俺を見ながら大声で話しているが、これを華麗にスルーする。1人で花を見ながら楽しんでいるスミレの方へ向かって話かける。
「スミレはチアリーダーはあったのか?」
話しかけられたスミレがスッと立ち上がる。
「えっと、中級職にはなくて上級職にチアガールってジョブがあるらしいの!だから私はそれね!」
「ああ、あったのか。それでチアガールになるために必要な中級職は?」
「えーと…何だっけ?」
「おい」
ちゃんと把握しとけよ…
「はあ…エンハンサーだろ?」
俺は続けて言った。実は事前に調べていたのだ。
「そうそう!それだ!」
スミレが嬉しそうにピョンピョン跳ねている。
「自分のジョブぐらいしっかり把握しとけよ」
「はーい」
こいつ本当に分かってんのか。そんなことを思いながら俺は3人のなりたいジョブが大体予想通りであったことを少し安堵しつつ、まだログインしていないジークが来たら今日のレベリングを始めようと思うのであった。
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