出会い
3つ目の街の南にある森へ入り、1時間も掛からない頃には開けた場所へと辿り着いた。いつもドラゴンナイトがいる場所だ。
「お、いた……あれ?」
「どうした?」
ジークが首を傾げながら指をさした方向にドラゴンナイトがいた。緑色のドラゴンに銀の西洋甲冑を装備した騎士が乗っている。今までに何回も倒したてきたドラゴンナイトで間違いないのだが、既に戦闘態勢を取っている。
「先客か?珍しいな。」
「いや、それにしてはプレイヤーが戦っている様子はない。」
ドラゴンナイトが一方的に何かを攻撃しているように見える。もしかすると…
「レベルの低いプレイヤーが迷ってここまで来たとか?」
「えー、ここら辺の結構モンスター強いって有名だろ?」
「ガチ初心者ならあり得なくはない」
「相当方向音痴なやつだなそれ…まあ、死んじまったら回収もきついだろうし助けてやるか」
「どのみちドラゴンナイトを狩りに来たんだ。行くぞ!」
俺は大剣を背中から取り出し構えてスキルを発動する。
「ファーストブレイド!」
大剣を思い切り振って、斬撃波を飛ばす。すると…
「グルル……!!」
ドラゴンがこちらに気付き、背中に騎士を乗せたままこちらへ向かってくる。ちゃんとターゲットロック状態になっているようだ。
ターゲットロックというのは、この状態異常をかけた者にしか攻撃が出来なくなるという特殊な状態異常だ。すぐにこの状態異常を解くことは出来なく、また予防もすることはできない。タンク職には欠かせない存在である。
「あれ…?」
「助かった…?」
「正義のヒーローが来た!!」
襲われていたプレイヤーは3人のようだ。1人だけやけに声がでかい。
「そこで大人しく待っていろよ!」
下手に攻撃させるとターゲットロックが外れてしまうことがある。初心者プレイヤーの攻撃なら大丈夫だと思うが、念のためだ。
「さあ、来い!」
俺は大剣を地面に刺し、スキル「エリアプロテクト・焔」を発動させる。自分の周り一定範囲内の炎耐性を高める技だ。これでドラゴンナイトの唯一の範囲攻撃である炎のブレスのダメージを軽減させる。単体攻撃は自分が引き受けるので問題ない。
「ジーク!いいぞ!」
「待ってました!」
ジークはそういうとドラゴンナイトに向かって走り出しスキルを発動する。
「聖魔爆烈弾!」
ドラゴンに向かって飛び掛かり、そこから渾身の右ストレートを放つ。技の名前に若干のダサさを感じるが、技自体は手に聖属性の力を込めて殴るというシンプルな技だ。そして威力はかなり高い。
「ガ……」
ドラゴンナイトが吹っ飛び、乗っていた騎士がドラゴンから落ちていた。するとドラゴンはジークを睨みつけていたので、俺は透かさず、
「お前の相手は俺だろ?」
「……!!」
スキル「挑発」を発動させて攻撃対象を再び俺へと移し替える。ドラゴンがこちらに向かって来て爪を振りかざしてきた。俺は大剣を使ってガードして攻撃を受ける。そしてそのまま…
「カウンターブレイド!」
カウンター技でドラゴンを叩き斬った。ドラゴンは俺の正面でドスンと音を鳴らして倒れた。
「ふう…あれ?そういや乗ってた騎士は…」
「もう片付けておいたぜ。」
奥からジークが声をかけてきた。見ると傍にはバラバラになった西洋甲冑があった。
「にしてもお前のカウンター技いつ見てもすげえな!ドラゴンを一撃とか!」
「お前がその前に殴っていただろうが…そんなことより結構痛いから回復頼む」
「あいよ。『ヒール』」
ジークの回復魔法で俺の傷が治っていく。仮想空間内と思われるのだが、痛みは感じる。最近は少し慣れてきたが、最初は痛みによくおびえていたものだ。
「あ、あの!」
ふと声をかけられる。さっきの3人組だ。男1人と女2人のパーティであり、見た感じ男が剣士で1人の女は魔法使い。もう1人は…武器を持ってないので分からない。
「ありがとうございます!」
男が俺らに向かって礼を言う。それに続けて、
「ありがとう…ございます…」
「ありがとうございます!すっごくかっこよかったです!!」
剣士と魔法使いは丁寧にお辞儀をして礼を言ってもらった。もう一人のよく分からない女はすごく喜んでその場をピョンピョン跳んでいる。
「まあ、気にすんな。俺らはドラゴンナイトの討伐クエストを受けてたんだしその次いでみたいなもんさ」
俺がそう言うと、
「礼ぐらい素直に受け取っておけよ!」
「痛っ!」
ジークが俺の背中を叩いてそう言った。痛い。お前の馬鹿力で叩くんじゃない。
「てめえ、少しは加減しやがれ…!」
「別にそんな力は込めてないけどな!」
ガハハ!とジークは高笑いする。
「仲が良いのね、あなたたち…」
魔法使いの女がそう言ってきた。
「まあな!俺とこいつはもう兄弟みたいなもんよ。なあ、兄弟!」
「誰が兄弟じゃ…俺らまだ会ってから3ヶ月ぐらいだろうが。いやそんなことより…」
俺は3人に向き直って問う。
「お前ら何でこんなところにいるんだ?迷ったのか?」
「それは…」
「ん?」
よく見たら1人いない。あの武器を持ってない女だ。そう思っていたら…
「けー君とみーちゃん!すごいよ!ここにも見たことない花が!!」
「「「・・・」」」
アホの子が白い花に指さしながら、もう片方の手をこちらに振っている。
「あいつのせいか…」
「はい…」
剣士の男が呆れながら答えた。
「改めまして、助けていただいてありがとうございました。僕はケージと言います。」
「私はミナ…です。そしてこちらが…」
「スミレでーす!よろしくお願いします!!」
3人からの自己紹介を受け取り、俺らも応える。
「俺はロジャーだ。よろしくな。でこいつが…」
「俺がこいつの相棒のジークだ。よろしくな!」
さっきは兄弟って言ってなかったか?と思ったが、スルーすることにした。面倒くさいし。
「ロジャーさんにジークさん…お二人ともとても強かったです!」
ケージが少し興奮気味に喋っている。
「良いってことよ。困ったときはお互い様だろ?」
「はい!でも私たちお礼とか…」
「あー、気にすんな。そんなものはいらん。」
「しかし…」
「気にしなくて良いぞ!お礼が目当てで助けたわけでもないしな!そうだろうロジャー?」
「まあ、そういうことだ。」
「ありがとうございます!!」
ケージがまた頭を下げてお礼を言った。まじめな奴だ。助けてもらえてラッキーぐらいの感覚で思ってくれればいいのに。
「あの…」
「ん?」
ケージが何かを言おうとしているが、どうも言いにくそうな感じを出していた。
「何か頼みたいことでもあんのか?俺らに出来る範囲なら手伝ってやるぜ?」
ジークが言い出した。
「あの…助けてもらった身で恩着せがましいのですが…」
ケージは申し訳なさそうに喋りだしたが、次の言葉はハッキリと大きな声で語られた。
「私たちを弟子にしてください!お願いします!」
ジークがまた頭を下げてきた。それに対する俺の言葉は…
「え、嫌だけど…」
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