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コミカライズ1巻発売記念SS

 

「ゴホゴホッ……」


 連日寒さが続いていたからか、ファティアが風邪を引いた。

 熱はそれほど高くないが、咳がひどく、かなりつらそうだ。


「ファティア、大丈夫?」


 ファティアがこんなに弱っている姿を見るのは、彼女と初めて出会った時以来だ。


「ライオネルさ……すみませ……ゴホゴホッ」


 薬とお水、不格好ながら小さくカットしたフルーツを載せたトレーを彼女の傍に持っていけば、ファティアは申し訳なさそうに眉尻を下げる。


 ライオネルはファティアの乱れた前髪を手櫛で治しながら、穏やかに微笑んだ。


「ああ、喋っちゃだめだよ。喉痛いでしょ?」

「でも……ゴホッ、ご迷惑を……」

「これで迷惑なんて言ったらさ、俺は今までどれだけファティアに迷惑かけてるの? 数え切れないほど看病してもらってるよ?」

「それ、は……」


 ファティアに触れられると呪いによる痛みが軽減することから、寝込むたびに彼女はずっと傍にいてくれた。

 それも、まるで当然と言わんばかりに。


(まあ……ファティアらしいけどね)


 けれど、それが当たり前ではないことをライオネルは知っている。


 多くの人間は、結局は自分が一番だから。


 別にそれが悪いことだとは思わないけれど、だからこそ自分よりも他者を思いやれるファティアのような存在は異質だった。


 異質で、それでいて愛おしい。


 そんなファティアだから、ライオネルも彼女が心配でたまらなくて、こんな時くらいは精一杯甘えてほしいと願ってしまう。


(でもファティアは、素直に甘えてくれないだろうな)


 きっとこのままだとファティアは、「ここまで準備していただいたら、あとは一人で大丈夫ですから」と言うに決まっている。


 手に取るように分かるからこそ、ライオネルは少し強引な手に出るしかないと考えた。


「ファティア、喉がつらそうだから、今から喋るの禁止ね。俺からの質問にはいだったら首を縦に、いいえだったら首を横に振って?」


 ファティアは少し考える素振りを見せたが喉が痛かったからなのか、それともライオネルの心配でたまらないという表情に根負けしたのか、首をコクリと縦に振った。


「ん、いい子だね。じゃあ質問ね。今食欲ある? 少しなら果物食べられそう?」


 ファティアがコクリと縦に首を振る。

 ライオネルはニッコリと微笑むと、あーんと言いながら果物をフォークに刺して彼女の口元に差し出した。


「!?」

「あ、喋っちゃだめだよ? 喉休めてあげないとね。ほら、あーん」


 ぶんぶんぶんと、ファティアは激しく首を横に振る。

 けれど体が偉いのだろう。

 直ぐに息を乱した彼女にライオネルは優しく「こーら、無茶しちゃだめ」と注意してから、ファティアの唇にピタッと果物を押しつけた。


「っ」

「冷たくて美味しいよ。ほら、口開けて?」

「〜〜っ」


 恥ずかしいのか、ファティアは目をギュッと瞑りながら口も固く閉ざす。


(はは、その顔も可愛い。……甘やかすつもりだったんだけどな)


 赤くなった頬も、汗ばんだ首筋も、額に張り付いた前髪も、熱のせいで潤んだ瞳も、ライオネルの加虐心を煽るには十分だった。


「食べないと薬も飲めないよ? 風邪……治らなくてもいいの?」


 そうじゃない! と言いたげにファティアが首を横に振る。


(うん。そんなこと、分かってるよ。けど)


 分かっていないふりをして、ライオネルはこう問いかけた。


「じゃあ、方法を変えるね。口移しなら、食べてくれる?」

「!?」

「いや、言い方変えようか。今すぐ食べないなら、口移しで食べさせてあげる」

「……っ」


 すると、ファティアはすぐさま口を開いて目の前の果物をパクリと食べる。

 こちらを伺いながら、両手で自分の口元を隠しながらしゃりしゃりと咀嚼している姿が小動物みたいで本当に、本当に──。


「何でそんなに可愛いかな、ファティアは」

「!? ゴホッ」

「ああ、ごめん。噎せちゃったね」


 いくら加虐心が昂ったからって、ファティアの体調を悪化させるのは問題だ。

 ライオネルはやりすぎた……と反省してから、当初の目的だった彼女の看病に集中した。


 ライオネルの甘い意地悪に、ファティアの熱が少し上がったのはまた別の話だ。

読了ありがとうございました٩(♡ε♡ )۶


ぜひ、コミカライズ、書籍版もよろしくお願いします(*^^*)

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