『聖女』と『天才魔術師』は信じ合う 4
アシェルの言葉に、ハインリは「そういえば……!」と目と口を大きく開けた。
「ええ。ご推察通り、ファティアのおかげで『呪い』が解けました」
そして、ライオネルのその発言に、ハインリはこの世の危機が救われたというくらいに歓喜した。
「よがっだぁぁぁ!! ライオネルよがっだぁぁ……!!」
「ちょ、泣かないでよ、というか抱き着かないでくれない?」
大粒の涙に、顎にまで届きそうな大量の鼻水を垂らしながら、ハインリは思い切りライオネルに抱き着く。
ライオネルは鬱陶しいと言わんばかりの発言でハインリを拒絶するが、されるがままに抱き着かれているし、何より表情は柔らかかった。
(ふふ、ライオネルさんって、なんだかんだハインリさんのこと大好きだから、こんなふうに喜ばれたら無碍にできないのね)
そんな二人の光景に、ついファティアももらい泣きしてしまい、人差し指で涙を拭った。
「……まったく、心配かけて悪かったよ、ハインリ」
「うぉぉぉん!! うぉぉぉん!! 本当に良かったですねライオネルゥゥ!! ファティアありがとうございますぅぅ……!!」
「いえ、本当に良かったです……!」
ライオネルはハインリからファティアに視線を移し、ハッと目を見開いた。
「……ハインリお前、ファティアが泣いてる。なに泣かせてるの?」
「私のせいですかぁぁぁ!?」
それからしばらく、ライオネルとハインリの明るい? やり取りが続いた。
それを遮ったのは、アシェルのファティアに対する質問だった。
「……ということは、ファティア嬢は聖女の力を取り戻したのかい?」
「そ、それは……ですね……」
アシェルの疑問はご尤もだ。
通常なら、ファティアの聖女の力が復活し、それによってライオネルの『呪い』を解くのが順序である。
しかし、レオンにペンダントを奪われていたり、ファティアが魔法を使えなかったり、ライオネルに命の危機が迫っていたりで、まずはファティアの余分な魔力を吸収するためにキスをした……と説明するのは些か、いや、かなり恥ずかしかった。
「えっと、それは……ですね……」
どこからどう説明すればいいのか。そもそもキスのことは言わなければいけないだろうか。
ファティアが顔を真っ赤にしながら、頭を抱えて悩んでいると、ハインリを引き剥がしたライオネルが助け舟を出した。
「アシェル殿下、そのとおりですよ。レオン殿下がペンダントを持っていたので、それを取り返してファティアが俺にかけられた『呪い』を浄化してくれたんです」
「そうか。……兄上がペンダントを……」
ライオネルの手には、ファティアの母の形見である赤い魔石が付いたペンダントがある。
(え!? ライオネルさんいつの間に取ったの!? というか嘘をついても良いの……!?)
レオンの頭頂部の毛髪を刈り取った時だろうか。それとも土魔法で拘束した時だろうか。
なんにせよ、もろもろ困惑しているファティアに代わってライオネルがペンダントを取り返してくれていたらしい。
ライオネルの嘘については、ペンダントがあった上で浄化しようと、魔力吸収をしてもらってから浄化しようと、結論はどちらも同じなので、まあ良いかとファティアは一人自答した。
「はい、ファティア。ペンダント」
その後、ライオネルにペンダントを手渡してもらったファティアは、取り戻したくて仕方がなかったそれを両手で受け取る。
幸運なことにペンダントは壊れることは疎か傷も付いておらず、ペンダントを握り締めた両手をぎゅっと胸に引き寄せた。
(お母さん……っ)
こう手に取ると、過去の出来事が思い出される。
ロレッタにペンダントを奪われて家まで追い出されて、絶望した日のこと。
ライオネルと一緒にパーティーに潜入し、ロレッタがペンダントを着けていた姿に、目を背けたくなるほど辛くなった時のこと。
レオンにペンダントが壊すと脅され、追い込まれた時のこと。
なかなかペンダントを取り戻すことが叶わず、ファティアは何度も辛い思いをした。
──けれど、今やっとこうして、自分の手の中にペンダントが戻ってきた。
「……っ、ありがとう、ござい、ます……っ、ペンダント、取り戻せて、良かった……っ、良かったよぉ……っ」
「ファティア……」
止めどなく涙が流れてくる。止めようと思っても止まらない。
そんなファティアを、ライオネルは優しく抱きしめて、彼女の背中を優しく撫でた。
ファティアが泣き止むまで、ずっと、ずっと──。




