表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/71

『元聖女』は『元天才魔術師』に拾われる 2

 

「……? 漏れ出してる……?」


 言っている意味が理解できないファティアはオウム返しになってしまうと同時に、直ぐそこにあるライオネルの顔に咄嗟に息を止めた。

 何だか、自分の息が目の前の端正な顔立ちのライオネルの顔にかかってしまうのが申し訳なかったから。


「こら、息は止めなくて良いから答えて」

「ふぎっ」


 筋張った大きな右手で、両頬をふに、と挟まれたファティアの口からはなんとも言えない声が漏れる。 


 気恥ずかしくて視線をそろりと逸らすファティアに、なにか後ろ暗いことでもあるのかと、ライオネルはより一層顔を近付けた。


「ねぇ、ファティアは何者?」

「〜〜っ、とりあえず! 顔! 近い! ので! 離れてください!!」

「! …………ああ、ごめん」


 目を覚ましてから一番張り上げられたファティアの声に、ライオネルは、すす……と顔を離すと、元々座っていた椅子へと腰を下ろす。

 ファティアは心臓に悪い……と内心思いながらも、離れてくれたライオネルのおかげで冷静さを取り戻した。


「あの、魔力が漏れ出していると言われても、何が何だか……」

「……自覚ないの?」

「全く無いです。そもそも私は聖女の力が使えなくなった元聖女なので魔力なんてあるはず…………あ」

()()()…………?」


(あああ!! つい……!)


 明らかに狼狽するファティアに、ライオネルは目を見開いた。



 ファティアが聖女の力に目覚めたのがおよそ一年前。院長にその治癒魔法を使っているところを見られて「ファティアは聖女だったのか!」と自身が聖女だと自覚したのもほぼ同時期だ。


 しかしファティアは養女になるまで、六歳以降ずっと孤児院で暮らしており、あまり外の話が入ってこないので『聖女』の重要性を理解していなかった。


 ただ、ザヤード子爵に引き取られるとき。


『院長、聖女が現れたことはここだけの話だ』

『ええ、ええ。分かっております。これだけの身請け金を頂いたのですから、約束は守ります。国に知られたら、孤児のファティアなんて無償で引き渡せという話になるやもしれませんし。こちらとしてもありがたい話です』


 ──そんな会話を聞いたファティアは、自身が聖女、厳密には『元聖女』だということも、言わない方が良いのかもしれないと思っていたのだ。


 いくらファティアでも、治癒魔法が稀有な能力だということは分かる。

 国の中枢が手に入れたいと思うのも想像に容易かった。力が無くなってからも、ザヤード子爵は力が回復するかもしれないと、しばらくファティアを家においていたことからも、裏付けされている。


 ともすれば、もしかしたら丁重な扱いを受けられるかもしれないが、一様にそうとは限らない。

 孤児のファティアには頼れる人も家柄という盾もないので、力を搾取される可能性だって十分に考えられたのだ。


『元聖女』になった今、搾取される力も無いわけだが、何か実験のようなものに付き合わされる可能性だって無いわけじゃない。


 ──だというのに。



「ファティアが元聖女……なるほど……」


 気を抜いていたからか、つい口が滑ってしまったファティアが後悔しても時すでに遅し。

 元聖女であることはしっかりとライオネルの耳に届いてしまったようだった。


「えっと、あの、その……!」

「体内から漏れ出すほど魔力量が多い子は見たことがないけど、元聖女なら合点がいく」

「多いなんて……そんなはずは……」


 赤子でさえほんの少しの魔力を宿していることは、この世界の常識だ。


 しかしその魔力を感じ取れないものが人口の約九十九パーセントで、残った一パーセントだけが魔力が体内にあることを感じ取ることができる。

 その中から魔力を練り上げ、魔法に変換することで様々な魔法が扱えるようになるのだ。


 因みに魔術師には、その一パーセントの中でも上位の魔力量や才能を持った人間しかなることは出来ない。


 そんな魔術師のライオネル(厳密には元、だが)曰く、ファティアの魔力量は漏れ出すほどに多いのだという。

 治癒魔法が使えなくなったので、魔力が無くなってしまったのかと思っていたファティアは耳を疑った。


「凄い魔力量だよ。もしかしたら()()()の俺も負けるかも」

「けれど私はもう……聖女の力は使えないんです。魔力とか聖属性魔法とか、そもそも聖女が何なのか、そういうことも全然分からなくて……多いと言われても……」

「…………」


 うーんと考える素振りをするライオネル。

 ファティアは気まずい空気の中でライオネルの言葉を待つと、ライオネルが「それなら」と呟いた。


「俺が教えてあげる。魔力とか魔法について。聖女についても知ってることは教えるよ」

「良いんですか……っ?」

「うん。基本的にはこの家で暇してるし。……ってなわけで、これからよろしく」

「よろしく……?」


 何に対してのよろしくかが分からず、ファティアは小首を傾げる。

 ライオネルはそんなファティアの様子に気がつくと「ごめん説明が足りなかった」と抑揚のない声で言う。


「ファティアは観光に来たんでしょ? 宿代もいるだろうからしばらくここに泊まったら良いよ。宿代は浮くし」

読了ありがとうございました。

少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価【★★★★★】でぜひ応援お願いします。感想もお待ちしております。執筆の励みになります……!


↓同作者の別作品(書籍化決定含む)がありますので、良ければそちらもよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
♦棄てられた元聖女が幸せになるまで〜呪われた元天才魔術師様との同居生活は甘甘すぎて身が持ちません!!〜 ♦

コミックシーモア様にて配信がスタートしました!
↓画像をクリックするとコミックシーモア様に飛びます!
作画を担当してくださったのはうさりすヲ先生!(キャラクター原案 ジン.先生) 原作は私、櫻田りんでございます……!! 何卒よろしくお願いいたします〜(*^^*)♡ 元聖女
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ