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『元聖女』と『元天才魔術師』は婚約披露パーティーに潜入する 3

 

 アシェルとリーシェルの前に、先に会場に足を踏み入れたファティアとライオネル。


 想像していたよりも豪華な会場に、ファティアは小さく息を呑んだ。


(す、凄い……!)


 平民では一生見ることができないような綺羅びやかなシャンデリア。 

 流行を取り入れられたドレスを身に纏う貴婦人たちに、エスコートする紳士たち。聞こえてくる話し声や笑い声からは様々な思惑を感じられる。


 そんな中で、給仕のために忙しくなく動き回るメイドや執事たちを見て、ファティアはこんなことを思う。


(もしも私がこういう場にいるとしたら、絶対に彼ら彼女らの立場でしか有り得なかっただろうに)


 メイドや執事からドリンクを受け取る立場でパーティーに参加するなんて、不思議な気分だ。とはいえ、惚けている場合ではない。

 せっかくアシェルが諸々手を回してくれたのだから頑張らなければと、ファティアはエスコートしてくれているライオネルに話しかけた。


「お兄様、主賓が入場されるまでもう少し時間がかかるでしょうから、少し会場を見て回りませんか?」

「ああ、そうしようか、ファミナ」


 吊り上げられた琥珀色の瞳に見つめられ、ファティアは少しドキッとする。

 いつものライオネルと顔は全く違うのだが、彼がライオネルなのだと意識すると、ときめいてしまうのだ。


(兄妹としてこの場に来ているんだから、ドキドキしてる場合じゃない! しっかりしなさいファティア! いや、ファミナ!)


 それからファティアとライオネルは、あまりキョロキョロしないように注意しながら、会場内を把握するために歩き始めた。


「えっ!? ライオ──ぐおっ!?」

「ハインリ、黙ろうか」


 途中、ハインリを見かけたので挨拶した際は、驚いたハインリがライオネルの本名を呼びそうになった。

 ライオネルがサッとハインリの口を手で塞いだことで事なきを得たが、あれはかなりピンチだった。


 ハインリはどうやら、アシェルからライオネルとファティアの偽名については聞いていたらしいが、変化した後の顔は確認していなかったらしい。

 それならば驚くのは無理もないのだが、もう一度言おう。あれはかなりピンチだった。


「あ、アシェル殿下たちが入場してきたから、おそらく次にレオン殿下たちだよ」


 会場を見て回った後、やや遠い位置にある入場扉の方を見つめたライオネルはそう言った。

 ファティアはアシェルたちの入場に際し、怪しまれないように周りを真似て拍手をしながら、次に入場するだろう人物たちを待つ。


 すると、その瞬間はすぐさま訪れた。 


「レオン・メルキア第一王子殿下、ロレッタ・ザヤード子爵令嬢のご入場です!」


 堂々とした出で立ちで、パーティー参加者たちに手を振るレオンとピンクの美しいドレスを身に纏い、レオンに腕を絡ませるロレッタ。


 主役たちの登場に、会場からは今日一番の拍手が沸き起こる。


(……っ、あれは、もしかして……)


 そんな中、ファティアは拍手することを忘れて、ロレッタの胸元を見入った。


(お母さんのペンダント……?)


 ロレッタの胸にキラリと光る、赤い宝石。

 遠目のため色は識別できても、形までは分からなかったが、母の形見によく似ている。


(そうだとしたら、人から奪ったものを……こんな大勢の前で我が物顔で身に付けるなんて……! 一体どんな神経をしているの……っ)


 ペンダントを取り戻すためには、在り処が分かったほうがいい。

 そのため、ロレッタが身に着けていること自体はファティアからしたら幸運なことだ。


 だが、憎しみや怒りの前では、冷静な判断ができないことがある。


 ──今すぐにロレッタに駆け寄って、母の形見を取り返したい。


 そんな考えがファティアの頭を支配し、瞳には負の感情が滲んだ、その時だった。


「……ファミナ、辛いね」


 ファティアの異変に気付いたのだろうか。

 ライオネルはファティアの手をそっと握りながら、耳元でそう呟いた。


「……っ、おにい、さま……」

「だけど、今は我慢の時だよ」


 ライオネルの声がけにより、ファティアはハッと我に返る。


 もしもこの場でロレッタに駆け寄っていたら、どうなっていただろう。

 ライオネルにもアシェルにも迷惑をかけるのはもちろん、母の形見を取り戻すチャンスはもう二度となかったかもしれない。


「お兄様、すみません……。もう、大丈夫です」


 ファティアはできるだけロレッタたちに笑顔を向ける。


 ファティアが望むのは、母の形見を取り戻すことと、アシェルが無事にパーティーを終えることだ。

 それをしっかりと胸に刻んだファティアは、ライオネルに掴まれた手を優しく握り返した。


「ありがとうございます、兄様」

「……ううん。後で、あの女の着けているペンダントがファティアのお母さんの形見かどうか、近付いて確認しよう。本物だったら、一緒に取り戻そう」

「……っ、はい」


 二人はそれから手を離して、レオンとロレッタに対して拍手を送った。


 片や、母の形見を奪った女。

 片や、『呪い』をかけた男。


 ファティアとライオネルにとって、今日の主役たちは憎い相手に違いなかったけれど、今はまだ、その時ではないのだから。

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