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『元聖女』は『元天才魔術師』に打ち明ける 1

 

 ──もしかして、好き、だと言われるのだろうか。


 あとに続くライオネルの言葉を都合良く想像したファティアは、恥ずかしさで顔を赤く染めた。


 好きだと言われたらどうしよう、という意味ではなく、何を都合の良い想像をしているのだろうと、自身に対して羞恥が襲ってきたからだった。


「あ、あの! ライオネルさん……! お買い物……! 何か良いものは見つかりましたか……!?」

「え、──ああ、うん」


 だからファティアは、何でも良いからとライオネルの言葉を遮ったのだ。


 後に続く言葉が望むものでは無かったときに、傷付くのが嫌だったから。助けてもらった立場だというのに、ライオネルの言葉に勝手に傷付くなんて、迷惑な話だろう。


 突然勢いよく話し始めたファティアに対してライオネルは驚いていたが、「これを買ってた」と話が切り替わったことにファティアが安堵したのは言うまでもない。


 ローブのポケットに手を忍ばせたライオネルは、片手で持てるくらいのサイズの白い箱を取り出すと、ファティアにずいっと差し出した。


「……? えっと」

「一緒に買いに行ったらファティアが遠慮するだろうと思って。開けて良いよ」

「えっ!?」


 あんなふうに危険な目に合わせるくらいならば、一人になんてしなかったけれど。

 ライオネルはそう思ったが、言ったところで後の祭りだ。

 結果的にファティアに怪我はなかったので、ライオネルはとりあえず、今日の件は一旦頭の端に追いやった。


 ファティアに話を遮られたことには思うところはあるものの、それもとりあえず良いか、と飲み込んだのだった。


「でも私、ライオネルさんにこんなにお世話になってるのに……まだ何か頂くなんてそんなこと……」

「じゃあ、いつも修行頑張ってるから、そのご褒美ね。これで受け取る理由出来たでしょ?」

「ライオネルさんったら……っ、ありがとうございます……!」


 そこまで言ってもらえるならばと、ファティアは少しの罪悪感を抱えながらも、白い箱に結ばれている赤いリボンをシュルリと解いた。


 そして中身を見て、「どう……して」と声を震わせる。


 そんなファティアの頭に、ライオネルはぽんと手を置いた。


「前に魔導具店に行ったとき、すごい見てたから、欲しいのかと思って。何か思い入れがあるのかなと思って似たようなデザインのペンダントを買ったんだ。この前の魔導具は魔力を増加させるものだったから、ファティアにはあまり向かないと思ったから、これにしたんだけど」


 赤い宝石が付いたペンダントのチェーンの部分を手に取ったファティアは、ギュッと両手で胸元辺りで握り締める。


 ──ありがとうございます、嬉しいです、大切にします。


 伝えなければいけない言葉は分かっているのに、どうしても言葉が出てこないのは、ライオネルに渡されたそれが、亡き母の形見と酷似しているものだったからだった。形容しがたい感情が、胸に渦巻いた。


「………………っ」

「ファティア……? どうして泣いて──」

「……っ、ちが、っ……ちがっ、います……泣いて、なんて……あれ……何で、私…………ない、て……っ」


 先程ロレッタと接触したこともあってか、ザヤード家にいた頃の忌々しい記憶が、ファティアの脳内を支配する。

 肉体的に痛くて辛かったことや、いきなり聖女の力が使えなくなって絶望したことや、ロレッタから母の形見を奪われて、悔しさと悲しみに苛まれたこと。──それらが、涙に形を変えて溢れ出していく。


「おかしい、ですね……っ、嬉しい、のに……なみだが、とまら……い……っ」

「………………」


 ファティアは、ライオネルに自身の境遇について詳しく話していない。

 ボロを出してしまったため、もちろん訳ありなのだろうということはライオネルにバレてしまっているだろう。


 それでも深く聞いてこないライオネルに甘えて、そして優しい彼を傷付けたくなくて、ファティアは詳細を話そうとしなかった。

 初めは心配をかけてしまうからという思いからだったけれど、今は少し違う。


 話してしまえば、優しい優しいライオネルは、力になってくれるかもしれないからだ。

 弟子のためだからと、師匠の務めだからとそう言って、ライオネルは喜んで手を貸してくれるだろう。


 しかしだ。一時的に退いているにせよ、ライオネルは魔術師団師団長だ。

 わざわざ貴族──しかも今や聖女となり、王太子の婚約者となったロレッタとのことに首を突っ込むのは、いくらライオネルでも、立場が危うくなるのではとファティアは考えたのだ。


 ファティアはペンダントを右手に収めると、空いている方の手で力強く目を擦った。

 真っ赤になった瞳でライオネルを見つめて、必死に笑顔を繕って見せる。


「目にごみが入ってしまったみたい、です。ご心配をおかけしました」

「──何で」

「……え? あ、あの、ペンダントとても嬉しかったです。大切にします……! ありがとうございます……! そ、そうだ! 今日はお礼に、ご馳走を沢山作りますね……! 今から準備を──」


 そう、ファティアがくるりと身体をライオネルから後ろ側にあるキッチンへと向けようとしたときだった。

 そんなファティアにライオネルは、ぐしゃ、と表情を歪めて、細くて白い手首を力強く握り締める。


「何で、あんなふうに泣いたの。目にごみが入ったなんて嘘、つかないでよ」

「……………ライオネル、さん」

「嬉し泣きでも、泣くほど嫌いなものだったわけでもないことは見れば分かる。俺が渡したペンダントは、──いや、これに似たペンダントは、ファティアにとって泣くほどのものだった?」

「……そ、それは」


 黒目を左右に行ったり来たりしながら口籠るファティアに、ライオネルは言葉を止めない。


「それに、今日殿下と一緒にいたのって、婚約者のロレッタ嬢で間違いない……何で彼女が、ファティアのこと呼んでたの? あの様子だと知り合い──だよね?」

「……! あっ、あれはっ、その……!」

「そもそも、ファティアが殿下やその婚約者に対して、何か問題を起こすとも思えない。……どうしてあんな状況に?」


 立て続けに質問され、ファティアは額に汗が滲んだ。


 はぐらかそうにも上手い言葉は見つからず、何よりライオネルの声色からは、本当のことを言わなければ納得しないからねと、という強い意志を感じられたのだ。


 それでも未だに言わずに済む方法を模索するファティアに、ライオネルは「もう」といつもよりやや大きな声が耳に響いた。


「待てない。ファティアが何かを隠してることは初めから気付いてたから、いつか言ってくれるかなって待ってたけど、もう無理」

「け、けれど、迷惑を……」

「いくらでも掛ければ良い。ファティアが少しでも泣かずに済むなら、笑顔になれるなら、俺はどんなことだってする。──だからファティア」


「全部、隠さず話してよ」と、そう言って掴んだ細い手首を引き、ライオネルはファティアを抱き締める。

 すっぽりとライオネルの腕の中に収まったファティアは、ここまで言われて隠すなんてことは出来ないと、キュッと引き締めた唇をゆるりと開いた。



「私……私は……聖女の力を求められて、一時的にザヤード家に引き取られていたんです」

「……!」

「そして聖女の力が使えなくなってからしばらくして、……家を、追い出されました」

読了ありがとうございました。

少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価【★★★★★】でぜひ応援お願いします。感想もお待ちしております。執筆の励みになります……!


↓同作者の別作品(書籍化決定含む)がありますので、良ければそちらもよろしくお願いいたします!

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