『元天才魔術師』は気付かされる 3
ライオネルが自身の変化に初めて気が付いたのは、ファティアと暮らし始めて直ぐだった。
(何だか最近……魔力が増えている気がする)
ライオネルは呪いによって、魔力が本来の十分の一まで少なくなっている。
魔力を回復するような薬や魔法などがないこの世界では、体を休めるか、眠ることで魔力を回復するしかなかった。
しかしライオネルの魔力はどれだけ休もうが、眠ろうが、本来の十分の一までしか回復しないため、それが現在の最大量であることを示していた。
だというのに、ファティアと修行に付き合った次の日、呪いの苦しみから耐えて目を覚ますと、何故か魔力が増えているのだ。
当初はファティアの魔力を吸収することで、一時的に魔力が補われているのかと思っていたが、それは理に反している。
魔力吸収はライオネルの魔力に空きがあったときに初めて回復するもので、それも自身の最大値を超えて回復することはないのである。
つまり、ライオネルの現時点での魔力の最大値を一とするならば、いくら魔力吸収をしても一以上になるはずはないのだ。
(どういう原理で……まさか聖女の力が関係してる?)
普通ならば有りえないことも、ファティアなら起こり得るのか。だとしたら聖女の力しか考えられない。
ライオネルは再び頭を捻る。何かを見過ごしていないだろうかと考えると、もう一つの変化に気が付いた。
──魔法を使用したあとに発動する『呪い』による痛みが、少しずつ和らいでいるのだ。
ファティアが触れてくれることで痛みが和らぐのは、彼女の溢れ出す魔力にも聖女の力が含まれているから、というのはほぼ間違いない。
だから痛みが和らぐのは不思議ではないのだが、一度目よりも二度目、二度目よりも三度目の方が明らかに痛みが軽く、そして短くなっているということについては、説明がつかない。
ファティアの漏れ出す魔力が多くなったわけではないことはライオネルの目で確認済みなので、そうではないとなると、残った可能性は──。
◆◆◆
ライオネルの仮説を聞いたハインリは、ゴクリと固唾を呑んだ。
そんなハインリの瞳に光が宿ったのは、幼馴染であり、同じ魔術師であるライオネルの呪いが解ける兆しが見えたからだった。
「つまり、呪い発動時のファティアとの接触。若しくは魔力吸収によるファティアの魔力が、ライオネルの『呪い』に直接作用して、『呪い』が弱まっていると」
「うん。『呪い』による明らかな痛みの減少、魔力の減少の回復は、ファティアの聖女の力──『浄化』が大きく作用している。多分、間違いない。……それで詳しく検証したかったんだけど……まさかここで魔導具が邪魔になるとは思わなかった」
「と、言いますと?」
「ファティアが魔導具を使うことで修行が出来るようになると、俺がファティアの魔力を吸収する必要ないでしょ。つまり魔法を使わないから呪いも発動しない」
「あ」
当初は検証をしたいから、魔力吸収をさせてほしいことと、痛みがある間は手を握ってほしいとファティアに伝えようかと思ったが、それは言うのを留めた。
というのも、ファティアはライオネルが痛みで苦しむたびに、とんでもなく辛そうな顔をするからである。
出会って直ぐにわざと魔法を使い、呪いの痛みについて検証したとき、泣きそうな顔で『いくら検証のためでもわざと呪いを発動するような真似はやめてください……っ!』と懇願されたことも、一つの要因だった。
だからライオネルは、絶対にファティアにはバレないように検証しなければならなかった。
「ここ一ヶ月くらいは、毎日ファティアが寝静まってからこっそり魔力吸収をしてる。それで呪いが発動したら外に出て耐える。その繰り返し」
「だから目の下に隈が!? 寝不足かもという私の予想は当たっていたわけですね!?」
「……ファティアには本に夢中で夜更かししてるってどうにか嘘を通してるんだから、余計なことを言わないでね」
ハインリだって、ファティアに心配をかけたいわけではない。
ライオネルの気持ちは理解できる部分はあるのでコクリと頷くが、そこまでしなくても、という気持ちがないわけではなかった。
「せめて家の中で耐えては?」
「痛みで声が出て、ファティアが起きたらどうするの。心配するでしょ」
「まあ、そうかもしれませんが……」
最近のファティアは、ライオネルに負担をかけずに修行ができることを心から喜んでいる。
今だってそうだ。寒い中でも庭で修行する瞳はキラキラと輝いていて、ライオネルはその瞳を曇らせたくなかった。
じいっと見てくるハインリの視線を感じたライオネルは、窓越しに捉えていたファティアからそっと目線を逸らした。
「話を戻すけど、ここ一ヶ月の検証の結果を話すよ」
「え、ええ。お願いします」
「端的に言えば、ファティアの魔力を吸収することで、俺の呪いが弱まり、痛みの軽減と魔力の増加が見られた」
「……! それならば…………!!」
おそらく呪い発動時、ファティアの溢れ出した魔力のおかげで痛みが楽になったのは一時的なものだ。
根本的に『呪い』に作用しているのは魔力吸収の方だろう。
今思えば、ライオネルが自身の魔力量の変化に気が付いたのも、魔力吸収ありきで修行を始めた次の日だった。
「魔力吸収の反動で呪いが発動するのは苦しいかもしれませんが、これを続ければ呪いは解けるのでは!?」
まるで自分のことのように嬉しく話すハインリに、ライオネルは何とも言えない顔を見せる。
事はそう単純ではなかったのだ。
「もうかれこれ二週間くらいかな、魔力が増加してない。呪いの痛みも同時期から変わらない。……多分この方法では、頭打ちなんだと思う」
「……! では、完全に呪いを解くにはファティアが聖女の力を完全に取り戻すしかないということでしょうか……」
「それなら高確率で呪いは解けると思うよ。……それともう一つ、方法は考えられるけど……」
何だか言いづらそうにするライオネルに、ハインリは前のめりになって問いただす。
ライオネルの『呪い』が解ける可能性があるのならば、全て試してみるべきだと思ったからだ。ハインリは協力を惜しまないつもりだった。
けれど、ライオネルの口から放たれる言葉に、ハインリはピキッと身体を硬直させることになった。
「魔力吸収の量と質を向上させる方法、ハインリも知ってるよね」
「…………!?」
「呪いを解きたいから、俺と額をくっつけてって言うの? それでだめならキスさせてって? ファティアの気持ち無視して、そんなこと言えるはずない。……だってあの子、物凄く俺に感謝してるんだよ。…………多分、嫌だろうがなんだろうが、その身を差し出すに決まってる」
──だからこそ、絶対に言えない。言いたくない。
やや言葉尻を強めて言うライオネルに、ハインリはそれでも『呪い』を解くために頼んでみましょう、とは言えなかった。
ただ、咄嗟に口から溢れてしまったのは。
「ライオネル──貴方は、ファティアのことを──」
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