『元聖女』は成長する 2
ハインリが転移魔法で送ってくれた魔導具の効果は、言わずもがな魔力を吸収してくれるものだ。
少量ではあるが、それなりに繰り返して使えるらしい。
「昨日も修行したばかりだけど、今日もできそう?」
「もちろんです! やれます! 頑張ります! 精一杯やります!!!! ライオネルさんが痛い思いをせずに済むんだったら、毎日だってやりたいです!」
「……手を握ってもらえなくなるのはちょっと悲しいな」
「え? なにか言いました?」
「いや、何も」
魔力を練るのは集中力はいるし、疲労することは確かだが、この魔導具があればライオネルに魔力吸収をさせずに済む。
つまり、ライオネルが呪いで苦しむことがなく、ファティアは修行に励むことが出来るのだ。
そりゃあもうファティアは、今までの修行と比べて断然前のめりだった。
「この魔石に触れれば良いんですか?」
「そう。そうすれば微量だけど勝手に魔力を吸収してくれるから……ああ、うん、その程度で大丈夫だよ」
魔導具についている魔石に数秒触れたところで、ライオネルからそう言われたファティアは、そっと手を離す。
魔導具はテーブルに置いたまま、ファティアはお腹に意識を集中して魔力を練り上げ始めた。すると。
「ライオネルさん……! 魔導具のお陰で、魔力を練れました!!」
「うん、出来てる。大体俺の魔力吸収と同じくらいの吸収量だから、まだ漏れ出してるけど、かなり上手に練れてる。……ファティアの努力の賜物だね」
「ありがとうございます……っ! じゃあ早速、治癒魔法を使えるか試してみます!」
ファティアの修行の最初は、まずは聖女の力が使えるようになったかの確認から始まる。
「…………すみません……まだ無理なようです……」
しかし今回も淡い光の粒が現れることはなかった。
しかしお腹がかあっと熱くなる感覚は、聖女の力が使えていた当時とかなり似てきているので、落胆ばかりではない。
ファティアはまた明日も試してみます! と前向きな姿勢を見せたところで、四属性の魔法の修行に入った。
「あ、凄い」
珍しく僅かに目を見開いて、そう言ったのはライオネルだ。
ファティアの手からゆらゆらと揺れる火に、魔法を使っている本人のファティアでさえも「うわ〜」と声を漏らした。
「昨日はろうそくぐらいの火しか出ませんでしたが、今日は手のひら大の大きさになってます!」
「うん。魔力の吸収量はほぼ一緒だから、日に日にファティアの魔力の練り方が上手になってきてるってことだね」
「嬉しいです……!」
今のファティアの状態は、溢れ出してしまうほど魔力が多いために、魔力が練られない状態だ。
そのためにライオネルに魔力を吸収してもらうか、魔導具に魔力を吸収してもらうことで、多少魔力量を減らして魔力を練られるようになっている。
とはいえ、練られていると言っても、吸収しきれていない膨大な魔力を全て練られている訳では無い。
この練ることができる魔力量を徐々に増やしていくことが当面の目標だ。
「レベル一からレベル二になったってところだね」
「……因みに最大は……?」
「……未知数だね。少なくとも、ファティアが魔力吸収をせずに、魔力を練ることが出来るようになって、かつ全ての魔力を完璧に練られるようになるには一年や二年じゃ難しいんじゃないかな」
つまり、それまで聖女の力が復活しない可能性があるということだ。
「…………頑張ります」
魔法の大天才であるライオネルがこういうのだから、相当難しいことなのだろう。
ファティアは、ガーンという効果音が付きそうなほどに眉尻を下げたが、そんな姿にライオネルは手をそっと伸ばす。
頭を優しく撫でれば、ファティアの表情は段々と悲しいものから気持ち良さそうなものへ変わっていった。
「……撫でられるの、気持ち良いの?」
「はい…………って、え!? 口に出してました!?」
「うん。良いこと聞いた。俺もファティアの頭撫でるの好きだからいい事尽くしだね」
「……っ、口め……この口めぇ……」
後悔先に立たず。自身の口を片手で塞ぐ素振りを見せるファティアに、ライオネルは薄っすらと目を細めて微笑を浮かべると、「あ」と声を上げた。
「ごめん言い忘れてた」
「何でしょう?」
「ファティアが強力な魔法を使えるようになったら、その分の魔力が勝手に消費される。そしたら魔力量が一時的に減るから、そのときなら聖女の力が使えるようになるかもね」
「……! なるほど……!」
つまりライオネルが何を言いたいかというと。
ファティアの魔力を練る技術では、溢れ出すほど魔力が多いことが仇になっている。
が、強力な魔法なら魔力消費が多いので、溢れ出す魔力分を消費することができるようになり、それに伴って完璧に魔力を練り上げられるようになれば、聖女の力が復活するのでは? ということだ。
とにかく、今は強力な魔法を使うための修行──魔導具で魔力を少しでも吸収してもらい、魔力を練る精度を高めていくのを繰り返すしかない。
「因みに、今のレベルで魔法を連発すれば魔力の消費って……」
「一日中やっててもほぼ無意味」
「なるほど……」
やはり地道に頑張るしかなさそうだ。
ファティアは聖女の力を復活させるべく、今日も修行に励む。
◆◆◆
一方その頃、『聖女』と名乗るロレッタといえば。
「ハァ……ハァ……。やっ、と、治った、わ……っ、前はもっと早かったのにぃ!!」
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