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『元聖女』は『第一魔術師団副団長』に驚かれる 2

 

「『聖女』って、数十年に一度生まれるというあの!? 『治癒』と『浄化』の魔法が唯一使えるあの!? 本当に!?」

「合ってる。……ってどうしたの、ファティアまで驚いた顔をして」

「いえその、聖女については詳しく聞いていなかったので、驚いてしまって……」

「そうだっけ? ごめんね?」


 ついうっかりといった感じのライオネル。

 これがトマトを買い忘れた程度のことならばその反応で良いのだが、如何せんハインリが口にする『聖女』の情報は、ファティアの想像を遥かに超えているものだった。


(聖女ってそんなに稀なものなのね……だからザヤード子爵は大金を支払ってでも私を引き取ったんだ)


 引き取られて五日間は、丁寧な扱いに豪華な食事、広い部屋を与えられ、専属のメイドをつけられたことにようやく納得がいった。

 孤児院院長が、国の役人が引き取りに来ると言っていたことも、それだけ『聖女』が稀な存在なのであればそのとおりなのだろう。


 ファティアはようやく自分の力が、そして存在がどれだけ稀有なものなのかを知り、ほんの少しだけ心臓がざわつき、けれど残りの殆どが他人事のように感じていた。


(まあ、何にしても、私は『元聖女』だし……)


 先程ライオネルはハインリに、聖女として紹介していたが、現時点でファティアは間違いなく『元聖女』なのである。


 そして今の聖女は──と考えていたところで、ライオネルがハインリに座るよう促す。


 ファティアは急いでテーブルの上の食べかけの食事を片付けると、ライオネルに「ごめん。途中なのに」と謝られたが、正直今は食事どころではなかった。

 少し前までならば生きるために必死に食べている感じだったが、安心して後でゆっくりと食べられる環境というのは、余裕を持たせてくれるらしい。



「けれど待ってください! 私が今日ここに来たのは──」


 座ったので落ち着いて話せるかと思いきや、ハインリは落ち着かない様子で口早に話し始める。

 ハインリの口から出る名前に、ファティアの心臓は針にさされたようにズキズキと痛み始めた。


「ロレッタ・ザヤード子爵令嬢が、つい先日王太子殿下に求婚され、婚約者になったそうなのです。──それも、理由が聖女だから、だと」

「は?」

「………………」


 ロレッタの名前を久々に聞いたファティアは、あの頃の記憶が蘇ってきて無意識に俯いた。

 心も体も傷付けられ、母の形見は奪われたまま、けれど、どうにもすることが出来ない現実。


「ファティア……? どうかした……?」

「……あ……いえ、大丈夫です」


 俯いていたのでどうやら不思議に思ったらしいライオネルに、ファティアは作り笑いを浮かべてその場を流す。

 何やら勘ぐっている表情だったが、ライオネルは「…………そう」と言って引き下がると、ハインリに視線を戻した。


「それで、どうしてそのロレッタって子が聖女だなんて言われてるの? ──聖女は膨大な魔力を持ってると言われてるけど、ここにいるファティアはまさにそれだよ。全盛期の俺と同じくらいかそれ以上。それに──」


 そこからライオネルは、ここ数日間で検証したファティアの魔力に治癒魔法の効果が含まれていて、呪いにも効果があることや、過去に治癒魔法を使えていたこと、魔力が漏れ出すほどに膨大なことに、全属性持ちだということを淡々と話す。


 ハインリは素っ頓狂な声を漏らしながら、肩をふるふると震わせた。


「ライオネルと同等かそれ以上の魔力量? ライオネルに続いての全属性持ち? 治癒魔法が使えてて、魔力にも含まれている? ライオネルが言うのであれば、間違っているはずはない……つまり──」

「だから言ってるでしょ。ファティアが聖女だよ。そのロレッタって子、嘘吐いてるんじゃない」

「な、なんですってえええぇ!?」


(全属性持ちのもう一人ってライオネルさんだったのね……って耳が……)


 向かい合って大きな声を出されては、流石にファティアも咄嗟に耳を塞ぐ。

 ライオネルは何度目かの「うるさい」を口にすると、ハインリはハーハーと肩で息をしながら「しかし!」と声を荒らげた。


「数日前、王城に出向いた際、そのロレッタ嬢の聖女の力を、私はこの目で見たのです! ()()()()()()()()()()()()()()()と治っていくところを!」

「…………ファティアは? ファティアは治癒魔法が使()()()()()、どんな感じだった?」

「…………それは……」


 何か確信を持った聞き方のような気がしたけれど、ファティアは当時のことを詳細に話し始める。

 ザヤード子爵家に引き取られていたことや、ロレッタのことを知っていると話せば、ライオネルに境遇を勘ぐられてしまうかもしれないが、別に聖女の力に関しては大丈夫だろうと思ったからだ。


「私の場合は、骨折や内臓の病気に対しても効果がありました。……淡い光の粒が現れて、一瞬で治癒することが出来ました」

「!?」

「だろうね」


 驚くハインリとは反対に、納得の様子のライオネル。

 漏れ出す魔力だけで呪いの痛みを和らげるほどの効果があるのならば、ファティアの治癒魔法がロレッタの能力と同程度だとは、どうにも考えられなかったのだ。


 しかしここで、ハインリが、はたと気付いた。


使()()()()()とは、どういうことです?」

「厳密にはファティアは『元聖女』なんだよ。何らかの影響で発動しなくなってるんだ。理由は分からないけど対処法はいくつかあるから、今修行してるわけ。……そんなわけだからさ、ハインリ。お前に頼みがあるんだけど」

読了ありがとうございました。

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↓同作者の別作品(書籍化決定含む)がありますので、良ければそちらもよろしくお願いいたします!

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♦棄てられた元聖女が幸せになるまで〜呪われた元天才魔術師様との同居生活は甘甘すぎて身が持ちません!!〜 ♦

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作画を担当してくださったのはうさりすヲ先生!(キャラクター原案 ジン.先生) 原作は私、櫻田りんでございます……!! 何卒よろしくお願いいたします〜(*^^*)♡ 元聖女
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