『元聖女』は『元天才魔術師』の弟子になる 3
──話を戻そう。
ファティアは自身を落ち着かせるため、平常心、平常心と無言で唱えた。
「二つ方法が思いついたけど、今は片方しかできないから、まずその修行をやってみようかなと思うんだけど、良い?」
「はい! ライオネルさんにお任せします」
ファティアが魔法に関して無知なことは知っているのに、こうやって尋ねてくれるところがライオネルらしい。
こくりと頷いてから話し始めるライオネルの言葉に、ファティアは耳を傾けた。
「俺は魔力の流れが見える体質だから、今ファティアの体から有り余って漏れ出してる魔力が見えてる。仮にこの漏れ出してる魔力量を十とするね」
「はい」
「おそらくだけど、今のファティアの魔力を練る技術では、この十が余分なんだと思う。前は治癒魔法が使えていたことから考えて、何かしらの影響でファティアの魔力を練る技術が退化したか、突然、扱えきれないくらいに魔力が増えた、っていう説が有力かな」
「なるほど……」とファティアはぼそりと呟く。
解決方法はおろか、原因も分かっていなかったファティアは流石魔術師(元、らしいが)だなぁと思いつつ、そこでふと、聖女の力が使えなくなったタイミングに頭を悩ませた。
ザヤード邸に引き取られて五日目のこと、突然ファティアは聖女の力が使えなくなった。
と、同時にロレッタは聖女の力に目覚め、その直後にペンダントがないことに気が付いた。
最初はどこかに無くしたのかと探していたファティアだったが、偶然ロレッタが身に着けているのを発見したのはその数日後のことだ。
その場を見たわけではないが、ロレッタの口ぶりからするとペンダントは彼女によって盗まれたのは間違いないだろう。
(ここまでタイミングが揃うって偶然……? それとも……)
何かがあるのかもしれないと考えるファティアだったが、これを話すには、ライオネルに自身の境遇を話さなければならない。
優しいライオネルに余計な心配を掛けたくなかったファティアは、確信がないのだからと、そっと口を噤んだのだった。
「──ファティア? 大丈夫? ボーっとしてるけど」
「……あ、はい! 大丈夫です。すみません。説明を続けてください」
「そう? 休みたいときはいつでも言って。……じゃあ、具体的な修行の方法の話に移るけど」
そう言って隣に座るライオネルは、人一人分を空けて座った位置を少しずらすと、ファティアとの距離を詰め、そっと手を伸ばす。
膝の上にちょこんと置かれたファティアの手の上に、ライオネルはそっと自身の手を重ね合わせた。
「俺が直接ファティアの余分な魔力を吸収する」
「吸収……ですか?」
「そう。どれぐらい吸収出来るか分からないけど、少しは魔力を練りやすくなるかもしれないし」
「その方法は……」と口を開きかけたファティアだったが、ライオネルに手を重ねられたことで大体の予想がついた。
「因みにこれも、直接触れないとだめ」
「…………今回は読めました」
「本当? ファティアは優秀だね」
──ライオネル曰く。
ファティアの漏れ出す魔力に聖女の力が含まれているかどうかの検証では、手を握ることで魔力に干渉しただけで吸収はしていないらしい。もちろん、ライオネルの呪いの痛みは軽くなるのだが。
しかし今回の目的はファティアの聖女の力を復活させることなので、ただ干渉するだけでは意味がなかった。
そこでライオネルがまず考えたのが魔力吸収だった。
「吸収された魔力はどこに行くんですか?」
「俺の魔力が満タンだった場合は、行く宛がない魔力は勝手に消失する。俺の魔力に空きがあったら、ファティアの魔力で俺の魔力が補われる。回復って言ったら分かりやすいかな。理解できた?」
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ、やってみるから」
「ファティアは楽にしてて」と言われたので、ファティアは無意識に力んでいた肩の力をふっと抜いた。
すると、自身の魔力の流れを何となく感じるのである。
魔力を練るときのお腹がかあっと熱くなる感覚は知っていたが、自身の中に魔力が流れているという感覚は初めてだった。
意識を研ぎ澄ませると、その魔力の流れの一部が触れた手からライオネルに吸収されていくのが分かる。
それから数秒後、ライオネルの手はゆっくりと離れた。
「ん、おしまい」
「なんか……凄かったです」
「魔力を吸収された感覚分かった?」
「はい。何となく分かりました」
感動しているファティアに対して、ライオネルは少し口角を上げてから、ファティアの漏れ出した魔力がどの程度になったかを確認する。
「さっきまで漏れ出してた魔力を仮に十だとしたら、吸収後の今は八から九ってところかな」
「…………つまり」
「ほとんど吸収出来てない。分かってはいたけど、魔力量多いね」
苦笑気味のライオネルの発言により、あまり大きな効果は望めなさそうだということは分かる。
──しかし、百聞は一見にしかず。
実際に魔力を練ってみないことには、効果の程は分からないので、ファティアはお腹あたりに意識を集中する。
「お腹辺りで魔力を練り上げるイメージをもってやってみて。イメージって結構大切だから」
「はい! 見ていてください」
「うん」
(魔力を、練り上げる……!)
以前は感覚的にしていたが、意図的に魔力を練り上げるイメージを持って集中する。
──すると、ほんの少し。ほんの少しだけ、お腹がほんわかと温かくなる気がしたので、ファティアは「この感じ……!」と、ライオネルに視線を寄越した。
「──凄い。少しだけ魔力が練れてる」
「本当ですか!?」
「魔力量が多ければ多い人ほど練るのが難しいと言われてるから、この状態で少しでも魔力が練れてるならファティアは才能ある」
「ありがとうございます……!」
聖女の力が復活するかもしれないという希望が見えてきたファティアは、頬を綻ばせる。
褒められたことが嬉しかったからというのもあるが、いち早くライオネルの役に立ちたかったからだ。
「じゃあちょっと魔力が練れてるうちに、聖女の力が扱えるか試してみよう」
「はい…………!!」
読了ありがとうございました。
少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価【★★★★★】でぜひ応援お願いします。感想もお待ちしております。執筆の励みになります……!
↓同作者の別作品(書籍化決定含む)がありますので、良ければそちらもよろしくお願いいたします!




